セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて 作:Misma
太陽のもと、集う①
雲一つない大
そこを砂塵巻き上げ一隻の帆船が征く。
竜が描かれた白い旗が風を捉え、流砂を海のように航行している。
骨と木を組み合わせて建造されたその船は、原始的ながら力強く砂を掻き分けて進む。
「うむ、快晴、快晴!」
船首には、螺旋を描く巨大な槍と正面を護る巨大な骨の盾。
そのすぐ後ろで1人の壮年の男が満足げに腕を組み、仁王立ちしていた。
ウェスタン風のオレンジのジャケットとハット。
マハイと違い、遠方を望む顔には少年のような冒険心溢れる笑みが浮かべられていた。
「団長さーん!」
彼は後方に木板を踏む音と元気な挨拶の声を聞いて「おっ」と振り向く。
ちょうど5人の少女が、船内部から甲板に出てきたところだった。
彼女らセーラー戦士一行は竜人商人と料理長の協力で、昨日からこの船で寝泊まりしている。
目指すは砂漠の市場『バルバレ』。
あと30分足らずで到着する予定である。
衛、ちびうさと猫2匹は、まだ船の中で横になっている。
団長は、気さくな表情で片手を高く振り上げ挨拶を返した。
「どうだ嬢ちゃんたち、撃龍船で行く砂漠の旅は!」
「はい、お陰様で快適です」
答えた亜美は船の縁に肘を置くと、後ろへ流れていく砂の波模様を見て感嘆するような笑みを浮かべた。
「凄い技術ですね。砂の上をこんなに素早く動けるなんて」
「ここらの地域の流砂と季節風を上手く使ってるんだ。嬢ちゃんたちもこんなの見たことないだろう?」
団長が振り向くと、うさぎが飛び跳ね床をギシギシと言わせていた。
「うんうん、ほんっとーに別世界って感じ!砂漠なのに、まるで海賊になったみたーい!」
「うさぎ、危ないわよ!」
レイがうさぎに注意する横で、まことは手を腰に当てて笑った。
「ここまで手配してくれて、『我らの団』の人たちには頭が上がらないね」
「いやぁ、うちのキャラバンはちと、世話を焼きたがる連中が多いだけさ。こうしてると思い出すなあ。パンツ一丁のハンターと出会ったあの日を」
「パンツ一丁!?」
「ああ、そうさ。武器もない下着一枚で街を救った英雄だ!」
戦士たちは驚き、一気に顔を赤くする。
中でも亜美の赤面具合は飛びぬけていて、手すりに肘を置いて背を向けたまま湯気を出している始末だった。
「は、破廉恥……」
「あたしたちの恰好もなんやかんや言われたけど、流石に真っ裸はねー……」
美奈子が眉をひそめるレイに耳打ちする。
ハンターはみな重武装であるという共通のイメージがあっただけに、衝撃はかなり大きかった。
「ひぇ~、こっちの世界ってやっぱりすごいわ~……あっ」
「『世界』?」
5人の心臓が跳ね上がり、うさぎの口が4戦士の手によって一斉に抑えられた。
彼女たちは団長に背を向け、うさぎを押しくら饅頭のようになって押し倒す。
美奈子が、形相を変えてうさぎに顔を近づけた。
「ちょっとうさぎちゃん、今の発言絶対まずかったわよ!」
「ごめんっ、口滑らしちった……!」
「おーい、どうしたんだ?」
「いえいえ何でもございませーん。あたしたちはそんくらい田舎者ってことですわ、おほほほほ~……」
美奈子は高笑いで何とか誤魔化すと、ふと空に見つけた鳥のような形の影を慌てて指さす。
「そういえば今日も良い天気ですよねぇ~。ほら、あの子たちも空飛んで気持ちよさそ~。ほら、ほら!」
彼女の言葉通り、2匹の小さい飛竜が並んで船の上空を飛行していた。
その頭は蛇のようであり、時折キシャアと鳴きながら翼をはためかせていた。
「……なんだって?」
団長もそのモンスターを視界に捉えると、ゆっくりと前方に進んだ。
いきなり彼は焦った顔で振り向いた。
「みんな、早く船の中に入れ!」
直後、船の右方の砂面が突如へこみ、それから大きく盛り上がった。
破裂する大地。
何か大きなものが砂を噴き上げ飛び出した。
彼女たちの視界を、赤褐色の岩肌が覆いつくす。
船の全長を遥かに超える巨大な『山』が、大地の底から雄たけびを上げ地面から生えていく。
それは
空中できしみ、うねる刺々しい岩の塊。
その表面から砂塵が落ち、彼女たちの顔に、防具に、脚に落ちてパラパラと音を立てる。
「えっ……?」
太陽を覆いつくすその影の下で、少女たちはあっけに取られる。
そのまま落ちてくるのではないかと思えるほどの時間の後、『山』はさもそれが当然であるかのように船の左方へと『着水』した。
大きく砂飛沫が上がったあと、『山』は再び砂の下へ潜っていった。
その衝撃で、船が左右に激しく揺れた。
「み……みた……今の?」
戦士たちは、残らずみんな腰を抜かしていた。
うさぎがレイに這いより、その肩を叩いて自身の頬を指し示す。
「ねえレイちゃん、あたしの頬つねって」
「え、ええ」
レイは頷き、うさぎの頬をつまんで引っ張る。
「あーわかった夢じゃない、夢じゃない!!」
レイが手を離すとぺちん、と大きな音がした。
「まさか……噂には聞いていたけど」
亜美は、再び左方に姿を現わした錆びついた山のような何かを、剣呑とした表情で眺めた。
「大地からの厄災とも祝福とも比喩される超巨大生物──」
「『ダレン・モーラン』だ!」
砂塵を払いながら立ち上がった団長が言葉の後を継いだ。
「こいつぁヤバい!この方角のまま進めば……確実にバルバレは壊滅する!」
団長が見る前方の遥か遠く、蜃気楼に覆われたテントらしき大群が見えた。
彼は懐から拳銃らしき道具を取り出し、うさぎたちに叫んだ。
「俺は救難信号を周りの船に出す、お嬢ちゃんたちは安全な船の中に逃げてろ!」
「なに言ってんのよ、あたしたちだって戦うわ!」
真っ先に反駁した美奈子に、団長は目を丸くした。
「こんな時に大人しくやられるのを待つなんて絶対に嫌!あたしたちも戦う者として、プライドの一つや二つあるのよ!」
レイがそう続けると、団長は帽子のつばを持ってふっと笑った。
「……なるほどねぇ、ただのか弱き『お嬢様』をあの爺さんが見込んだわけはないってことか」
残りの少女たちも、顔つきからして既に戦う心構えは出来ている。
団長は、その姿勢をしかと受け取った。
「よし、なら一緒に迎え撃つぞ!」
「了解っ!」
少女たちは武器を手に取り立ち上がる。
だが、そこでうさぎが何かに気づいた。
「……あれ、ダレン・モーランは?」
つい先ほど左舷後方に盛り上がっていた山は、跡形もなく消えていた。
いきなり船が右へと傾き、跳ね上がった。
ダレン・モーランは、地中から奇襲をかけたのだ。
少女たちの身体がなすすべもなく吹っ飛び、大きく弧を描く。
「嬢ちゃーーんっ!」
団長は床にしっかりと掴まっていたお陰で吹き飛ばずに済んだ。
船が再び元の位置に着地した反動で、彼の視界を砂が覆った。
そして船の後方、少女たちの眼前に地面が迫ってくる。
うさぎは反射的にコンパクトを握り、戦士たちは懐から変身スティックを取り出した。
──
「くそっ!」
砂の雨の中で団長は手すりから身を乗り出し、少女たちの消えた砂煙を覗き込む。
そこに、船の中から誰かが這い出して来た。
「一体何事ですか!?」
「衛さん!」
衛が、何とか床や船内の壁で身体を支えて団長の元にやってきた。
「あんたの相方もその友達も、みんなさっきの衝撃で吹っ飛ばされちまったんだ!」
彼はそれを聞いて動揺し、急いで団長と並んで船後方を見る。
その先には何も見えず、彼女たちがどうなったのかは分からない。
「大丈夫よ!」
2人が振り向くと、船内部からちびうさとルナ、アルテミスが甲板に出てきていた。
「あの5人組はやたらしぶといのよ!中でもうさぎのヤツはゴキブリ並みに!」
中々に失礼な例え方に衛は思わず失笑し、団長は半信半疑の表情を見せた。
不意に砂煙の中から、螺旋を描く角が左斜め後ろから船を穿たんと突っ込んでくる。
団長が咄嗟に手を顔の前で構えたが、衛とちびうさはそのまま成り行きを見守っていた。
「ムーン・スパイラル・ハート・アタック!!」
「ファイアー・ソウル!!」
「シャイン・アクア・イリュージョン!!」
「シュープリーム・サンダー!!」
「クレッセント・ビーム!!」
ダレン・モーランの頭部で、炎が、水が、雷が、光が立て続けに炸裂する。
それは突如起こった衝撃に驚き、身体を引っ込ませた。
先ほどの爆発のおかげで砂煙が晴れ、青空が再び顔を見せた。
団長はその視界に、ダレン・モーランの背中を跳ぶ人影を認める。
「まさか……『魔女』か?」
彼の目は、少年のような純粋さを持って輝いていた。
緊急事態の最中でも、明らかにそれは喜びのような感情を宿していた。
横でそれを見ていた衛はそっと視線を外した。
「っと、感傷に浸ってる場合じゃなかったな!」
団長は腰のポケットから拳銃を取り出した。
「ここは一つ、ピンクのお嬢ちゃんの言葉を信じてみるか!」
彼はそれを空に向けて引き金を引いた。
パァン、と音が鳴ると共に赤色の煙があがり、周囲に緊急事態を知らせる。
衛は、ダレン・モーランの背を駆けるセーラー戦士たちを祈るように見つめていた。
──
セーラー戦士たちは、その目で信号弾が上がったことを知った。
「救難信号、上がったわね」
マーキュリーが赤い煙を指さして言った。
それを受け、ヴィーナスが手元から光の鎖を出現させた。
「さあ、大暴れといきますか!」
真っ先に彼女は跳び、その鎖を甲殻の突起に巻き付ける。
「ヴィーナス・ラブミー・チェーン!!」
ヴィーナスは光の鎖で相手の眼窩にぶら下がり、空いた片手の人差し指を巨大な瞳に向かって突きだす。
「クレッセント・ビーム!!」
彼女の指の先に閃光を見たダレン・モーランは、反射的に目を閉じる。
なんと、瞼の皮は彼女の光線をいとも容易く防いでしまった。
他の戦士たちも手当り次第に技を試すが、その岩石のごとき表皮は少し削れるか焦げるだけである。
「ヴィーナスちゃんのクレッセント・ビームが効かない!?」
セーラームーンは、その思わぬ結果に驚いた。
マーズが悔し紛れに自らが立つ足下の表皮を殴った。
「恐らくさっきの攻撃で怯んだのも、突然のことで驚いただけよ!」
その堅牢さ、まさしく戦艦のごとく。
今まで相手取ったモンスターたちも中々の耐久力を有していたが、この生物は遥かその上を行っていた。
「いくらなんでもおかしくないか?もうちょっとは強かった気がするよ、あたしたちの技!」
「落ち着いて、何もこのモンスターを倒す必要はないわ。ただ彼の針路を街からずらせばいいだけよ」
ジュピターも、懸命に電撃を当てながらその非力さにいらつきを募らせている。
それに答えたマーキュリーの目にも、バルバレ到達まで時間がないことは明らかだった。
そのため、少しでもここで救援が到着するまで時間稼ぎをする他に道はない。
「あれ……こいつ、あそこまで届くほど身体長かったっけ?」
いつの間にかジュピターは、撃龍船をまたいで更に向こうの右後方を見ていた。
戦士たちも続けてそこを見ると、低い唸り声のような音と共に大きな砂煙が上がった。
ダレン・モーランの全長は、110メートルほどである。
彼女たちや船と比べて遥かに巨大であることは事実だが、いくら何でも船をまたいで尻尾を出せるほどの大きさではない。
それはつまり──もう1体の巨大な何かが船を挟んで反対側にいることを示している。
高く舞い上がった砂の中から、二対の槍が地面から柱のように突き出た。
槍の正体は20メートルほどはあろう長大な牙であり、こちらは砂色の鱗に山の峰のような背ビレを備えていた。
まさしくもう一つの動く『山』である。
「『ジエン・モーラン』……だと……!?」
船上では流石の団長も、言ったきり言葉を失っていた。
要するに、彼女たちは2体の超弩級モンスターに囲まれてしまったのである。