セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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太陽のもと、集う③

「いやぁしかし、今回の災難を聞いたらうちのハンターもさぞかし驚くだろうなぁ!」

 

 そう笑いながら歩く団長の後に少女たちがついていく。

 

 黄金色に輝く地面。

 原色色とりどりの三角旗に区切られた、青い空。

 太陽の集落バルバレに、大仰な城や要塞はない。

 一番目立つ、頭に竜を戴いた巨大船──ハンターたちが集う『集会所』──が移動するのと同時に周りのキャラバンも動くため、何かと手間がかかる建築物は必要ないのだ。

 代わりに、砂に咲いた花畑のようにテントが地面を埋め尽くしている。

 

 よりにもよって商人が集まるところに先ほどの騒ぎで、路端には骨董品やら食品やらが散らかっている。

 それを拾い直す人々の動きは、この状況に手慣れたようにてきぱきとしていた。

 

「これで旦那があの時のように下着一枚だったら完璧だったんだがなあ、はっはっは!」

 

 団長の後ろについていく衛は、答えに困ったように苦笑いを浮かべている。

 周りの少女たちは、勝手にその姿を思い浮かべ顔を赤くしていた。

 

「きゃーやだもう団長さん、そんな姿想像させないでよまったくぅー!」

 

 赤くなった頬に両手を添え恥ずかし気に首を振るうさぎだったが、そこであることに気づいた。

 

「ねえ、もしかしてだけどさっき言ってた、パンツ一丁のハンターって……」

 

「お、気づいたか!」

 

 彼女が指さすと、団長がふふんと得意げに振り返って指を差し返した。

 

「そう、その名も我らが優秀な『まつ毛のハンター』のことだっ!!」

 

 その頭に被った帽子に、背後から分厚い辞書が直撃する。

 

「団長さん、そのことはなるべく口外するなってあの人に言われてたんじゃないですか?」

 

「あっ、こりゃしまった」

 

 団長が潰れた帽子を直しながら、背後から飛んできた声へと振り返った。

 その正体である女性は緑の羽根飾りつきの帽子を被り、白のショートパンツに橙のブラウス、その上に緑のコートを羽織っている。

 彼女は眼鏡を片手で持ち上げながら、やれやれという風にため息をつく。

 

「いやぁ、でもあいつを語るには欠かせないところだと思うんだがなあ……」

 

「今度バレたらまたぶん投げられますよ。そろそろ団長さんの頭蓋骨が心配です」

 

 うさぎたちは、緊張した面持ちで1か所に固まっていた。

 

「ず……頭蓋骨って言った?」

 

「言った言った」

 

「あのでっかい図体で頭から投げられてんの?」

 

「あたしたちホントにここ来てよかった?」

 

 少女たちがひそひそと話し合っているところに、女性がにょきっと顔を出した。

 

「みなさん、ここは安定した信頼と実績がウリの『我らの団』!安心なさって大丈夫ですよ!」

 

「……今の情報からすると全然大丈夫じゃなさそうなんだけど」

 

 そう言ったレイの脳内には、パンイチのムキムキゴリラが事切れた団長の首根っこをつかみ、雄々しくドラミングする姿があった。

 

「さ、道の真ん中じゃいろいろお邪魔ですから話の続きはどうぞこちらへ」

 

 女性は背を向け、道の右側にある緑色のテントに向かって歩いていく。

 正面には羽根をつけた太陽をあしらった木製ボードが置いてあり、黄緑の日傘が差してある。

 陰にある机上には、先ほどの辞書のように分厚い本ばかりが積まれていた。

 近くにある椅子に、彼女は腰を下ろした。

 

「えへん、じゃあ仕切り直して紹介といこうか!」

 

 団長が咳払いすると、誇らしげに女性に向かって手をさっと広げる。

 

「うちの看板娘『ソフィア』!ここのギルドから依頼を斡旋して、ハンターに紹介してくれる我らが優秀なる受付嬢だ!」

 

 女性は改めて笑顔で深くお辞儀をし、うさぎたちもそれに答えた。

 その知的で落ち着いた雰囲気に、少女たちの表情も少し緩む。

 彼女は握手を求めて手を差し出した。少女たちは、自己紹介しながらそれに応じていく。

 

「伝書鳩で一通りの事情は知っています。『霧』と『魔女』について情報を集めているんでしたよね?」

 

「ええ、ここでうちらと同じことを調べてる『すんごい人たち』に取り次いでくれるって話ですけど……」

 

 まことが辺りを見渡すが、まだ件の人物は来ていないようだった。

 

「はい、もうすぐその方たちが来るので、それまでここで──」

 

 その時、一際強い風が横から吹いた。

 

「あっ……」

 

 ソフィアの手元にあった、びっしりと文字や挿絵らしきものが書かれた紙が乱れ飛ぶ。

 彼女も、少女たちも、その様子をぽかんとしたまま見つめていた。

 

「あら、大変だわ!取りに行かないと……」

 

 亜美が気を取り直して言ったが、ソフィアはうつむいたままだ。

 

「わ……私の……」

 

 彼女の様子がおかしいことに、うさぎたちも気が付き始める。

 

 

「私の『超☆メモ帳(第5版)』がああああああっっ!!」

 

 

 ソフィアの顔が、鼻水と涙で渋滞を作っていた。

 そのまま膝から崩れ落ち、絶叫。

 

「あ゛あ゛ーーーー!!!!私の人生おしまいですうーーーー!!!!」

 

 彼女は絶望感溢れる顔を抱え、地面に何度も激しく叩きつける。

 

「えっ、そこまでいっちゃうの!?」

 

 その取り乱しようを見て困惑するうさぎ。

 団長は苦々しい顔で空を舞っていく紙を眺めていた。

 

「あっちゃー、やっちまったか!」

 

 レイが、夥しい負のオーラを放つソフィアを介抱しながら団長に叫んだ。

 

「彼女、一体どうしたのよ!」

 

「お嬢はモンスターが好きでなあ。その生態をメモ帳に纏めるのにここ何か月も情熱をかけてたんだが、あんなに吹き飛ぶと果たして全部帰って来るか……」

 

 ソフィアは、ぐちゃぐちゃに濡らした顔でレイの肩を掴む。

 

「あの……あのなかにはぁ……私の愛と血と涙と汗のぶえええええ!!結晶がびえああああああ!!」

 

「ひっ!」

 

「とにかく、人込みだろうと砂だろうとかき分けて探してください!!私も探しますからああああ!!」

 

 レイはソフィアの先ほどとは真反対の懇願のしように、目端を引く付かせた。

 

「す、すぐ行く、すぐ行くから肩から手を離しなさいよ!!」

 

 かくして、セーラー戦士の少女たちはドン引きしつつ、バルバレ中で『超☆メモ帳』の回収に漕ぎ出すこととなった。

 

──

 

 全員で手分けしてのメモ帳の回収は、思っていたよりは楽な作業だった。

 実際はどのメモもそれほど遠く飛んでは行かず、拾った人々はソフィアの人となりを知っているのか笑いながら返してくれた。

 そうしてことは順調に進み、百枚を超えるメモもすべて集まろうとしていた時だった。

 

 亜美は人込みのなか、宙をひらひらと舞うものを見つけた。

 最後の一枚の紙切れが、あわただしく行き交う人々の波の中に吸い込まれていく。

 せっかくの彼女の力作が踏み荒らされるかもしれない。

 そうなる前に、亜美はちょうど紙の近くにいたオレンジの髪の若者に声をかけた。

 

「すみません、そこのお兄さん!その紙取ってくれませんか!?」

 

「おっ、いいッスよー」

 

 気のよさそうな声が聞こえ、彼はひょいとその地面に落ちかけた紙を掴み取った。

 亜美はそこに駆け付け頭を下げる。

 

「ありがとうございます!あたし、その紙を探してて……」

 

 紙の内容を見た男の口から、「あれっ」と声が聞こえた。

 

「ねえキミ、もしかしてこのメモってソフィアちゃんの?」

 

「受付嬢さんのこと、御存じなんですか?」

 

 そう聞かれた男は、にっと屈託のない笑顔を見せた。

 

「ええ、古くからの付き合いッスよ!ちょうど俺も用事あってそっちに向かってたとこなんで、一緒に行きましょうッス!」

 

「あら、そうだったんですね。それなら向かいましょうか」

 

 亜美は男に向かって流し目でくすりと笑い、先を歩いた。

 それを見た彼の脚が、一瞬止まる。

 

「……どうしました?」

 

 彼女が振り向いたところで、男はやっと自分が置かれた状態に気づいたようだった。

 

「い、いや、なんでもないッス!ささ、早く行ってくださいッス!」

 

 わたわたとする彼に、亜美は首を傾げた。

 何はともあれ、彼女は彼をソフィアの元へ導くことにした。

 

──

 

「あーーもう、ここまで来てやることが紙拾いだなんて、人生って上手く行かないもんだね!」

 

 まことは小言を言いながら、メモの束を抱え走っていた。

 そこに、不意に露店の陰から2つの人影が現れた。

 

「す、ストップストップーー!!」

 

 哀しくも制動は効かず、彼女の顔面は先頭にいた男の胸に直撃した。

 派手に尻をついてすっころび、周りの注意を引いてしまった。

 

「いったたた……」

 

 顔と尻、両方をさすっていたところに、声がかかる。

 

「君、大丈夫か!?しっかりと立てるか?」

 

 まことは腰についた砂を払いながら、差し伸べられた手をつかむ。

 

「すっ、すみません……!」

 

 まことはちらつく視界を瞬かせ、はっきりとさせた。

 そしてその手の先にある顔が分かった時、彼女ははっとして呼吸も忘れてしまった。

 

 きりっとした眉に鋭い目尻、そして高い鼻。後ろには銀髪がたなびいている。

 陽光を反射し輝く紺碧の鎧の後ろには、2本の細剣が担がれている。

 いかにも堅物の印象を与えるその男から、まことは目が離せなかった。

 

「その姿……君もハンターか」

 

「あ……はい……」

 

 息を吐くのとほぼ一体化したような、か細い声だった。

 まことの時間は、口以外ほぼ止まっていた。

 表情もふわふわと酔っているようで、完全に自分の世界に入り浸りになっていた。

 

 いつまでも立とうとしない彼女に、男は厳しく眉を顰める。

 

「お嬢さん、もしここが狩場なら今頃君は武器を構えていなくてはならない。勿論ここでそれをしてはならんがな」

 

 男は、まことの背負う槌『大骨塊』を指さした。

 

「ハンターに必要なのは、如何なる事態が起ころうと切り替えられる柔軟性だ。しかと胸に焼き付けてくれたまえ」

 

 彼はまことを立たせ、真剣な表情で指摘する。

 

「……はい、わかりました……」

 

 まことは分かっているのかいないのか、相変わらずのぼせたような表情で頷いた。

 

「リーダー。この子、いきなり説教されて戸惑ってるわよ」

 

 突然の女性の声に、一瞬でまことは現実に引き戻された。

 声の正体は、ライトボウガンを背負った褐色肌の若い女性だった。

 白を基調とした装備に身を包み、黒髪の後ろはまことと同じポニーテールに結んでいる。

 

「ごめんね。うちのリーダー、ひどく心配性でね。別に貴女に嫌がらせしたいとかじゃないから、あまり気にしないで」

 

 ミステリアスな雰囲気のあるその女性は、微笑んで優しくまことの肩を叩いた。

 

「……突然の無礼、すまなかった。だが、次からこうした人通りの多い場所では周りをよく見ることを推奨する」

 

 女性の言葉を受けてか、男の表情は少し和らいだ。

 

「では、我々も向かうところがあるのでここで失礼する」

 

 男は一礼して詫び、女性とともに雑踏の中へ消えていった。

 まことは、立ち竦んだままその背中を見つめ続ける。

 

「……まさか、こんな出会いに巡り合うなんて」

 

 彼女は何束にもなったメモ帳を胸の中で抱きしめた。

 それがきつすぎたがあまり、少しだけ紙に皺が寄った。

 




今回からこの章の方向性みたいなのは伝わるかと思います(笑)あまりに1章と違い過ぎて今まで読んできた人にとってはあれかもしれないけどずっとしみったれたのは自分が鬱々になってくるので……。
ていうかモンハン側のキャラこういう書き方であってるかな?これからも解釈違いでしたらごめんなさい。
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