セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて 作:Misma
「亜美ちゃんとまこちゃん、まだみたいね」
レイが、額を伝って落ちてきた汗を拭った。
『我らの団』の緑のテント前。
クエストの依頼書を張り出す太陽型のボードにもたれ、少女たちは待ちぼうけを喰らっている。
雲がない分日差しはきつく、砂漠に近い地域ともなればその暑さは尋常ではない。
受付嬢ソフィアの日傘の下は安全地帯だったが、数分前彼女たちの間で熾烈な縄張り争いが繰り広げられたため、現在は交代制でその下に入る権利を得る。
今、うさぎとちびうさがソフィアの足元で涼んでいる真っ最中である。
「ったくどこで油売ってんのかしら~?もうかれこれ30分くらい経ってるわよ?」
美奈子は、いらいらした様子で水筒の最後の一滴を飲み干した。
「もしかして、バッタリ運命の出会いとかしちゃってたりして!?ひゅーひゅー!」
うさぎが妄想を膨らませ、脚をばたつかせる。
その横で、ちびうさがルナを肩に乗せ水筒入りのジュースを啜っていた。
彼女はじとっとした目つきで、うさぎを捉える。
「……うさぎ、あんた中3よね?」
「ん、そだけど?」
「じゃあ、少しは分かるわよね?あたしたちがここでそんなことにかまけてる場合じゃないってことくらい。ねー、ルナ」
「ね、うさぎちゃんの色ボケなとこ、いつになったら成長するのかしらねえ~」
顔を見合わせた二人は次は一緒にうさぎを哀れみの目で見、呟く。
「「……
たちまち、うさぎは怒りと羞恥で顔を赤くした。
「今は学校通ってないからいいのよっ!!モラトリアムッ!!」
彼女の無茶苦茶な理屈を苦笑いしながら見守っていた衛は、眼前の雑踏の中、見覚えのある人影を見つけた。
「お、ほら見ろ、亜美ちゃんが戻って来たぞ。まこちゃんも一緒だ……」
「ええ!?ちょっと今そんなところじゃ……」
ちびうさと掴み合っていたうさぎは、衛と一緒に言葉を失った。
「あー、いつ帰ってくんだか……」
一方、美奈子とレイはそれに気づかず炎天下の中、手をうちわにして顔を扇いでいた。
「あれ、なんかうさぎちゃんたち馬鹿でっかーく口開けてるけど何してんの?」
美奈子は、彼女らが喧嘩の態勢のまま動きが完全停止しているのを怪訝そうに見つめた。
うさぎたちは、口を開けたまま激しく美奈子たちの後方を人差し指で示している。
レイも、その行為の意図を量りかねた。
「なによ、そんな面白いものでも……」
亜美とまことの後ろに、若いオレンジ髪の男がいた。
骨か甲殻でできた軽そうな防具を身につけ、当然のように2人のすぐ近くで歩いていた。
男は楽しげに身振り手振りを交えて話し、2人はそれに同調したり驚いたりして会話を楽しんでいる。
そのまま、三人はうさぎたちの前を目も暮れず通り過ぎていく。
「…………ナンパーーーーー!?!?」
美奈子の大きな金切り声で、周囲の視線が彼女に集まった。
「まこちゃんはともかく奥手な亜美ちゃんまで……!親友として見過ごせないわっ!!奴は女の敵よ!!」
「それ、結構まこちゃんにしつれ……って美奈子ちゃん!?」
レイの制止も無視し、美奈子は怒り肩で拳を握ったまま突撃する。
「ちと待ちなさいそこのぉっ!!」
「えっ……俺?」
鼻息荒くしてずかずか歩いてくる金髪の少女に、男はきょとんとしていた。
亜美も、その存在に気づいた。
「あら、美奈子ちゃ……」
スパァンッ、と音が鳴った。
目にもとまらぬ平手打ち。
男の小柄な身体の姿勢が、難なく崩れる。
続いて強烈なローキック。
男の身体が打ちあがり、地面と平行に急速回転。
そして落下。
「どぅわはっっ!!」
断末魔の後、気絶。
「え、どういうこと?」
気を失い白くなった男の横で、まことと亜美は一部始終の傍観者として立ち尽くすほかなかった。
──
「すんません!ほんっとーにすんませんっすんませんっ!!」
レイに背中をどつかれた美奈子は、涙目で何度も頭を下げていた。
それに負けじと言わんばかりに、男も土下座して頭を地面に擦り付ける。
「いやいやいや、こちらこそ誤解させて申し訳ないッス!!ほんと、やましい気分なんて1ミリも無かったっス!!」
「あたしたちも、話に熱中しすぎて通り過ぎたのに気付かなかったわ……」
両者の様子を同情の目で見ていた亜美が言った。
一方ソフィアはそんな様子はなく、少しこの状況を楽しんでいるような雰囲気さえあった。
「あらあら、ナンパと間違われてのご登場なんてインパクト最強ですね」
「よっ、ルーキーさん。新大陸に行って以来か?ほら顔上げな」
団長がしゃがんで肩に手を置くと、彼はばっと顔を上げ表情を明るくした。
「あ、ソフィアちゃん、団長さん、お久しぶりッス!」
「『お久しぶりッス』……?この人、知り合いなの?」
「ああ。この人、筆頭ハンターっていう集団の1人なんだって。他の人ももうすぐここに来るって話だよ」
うさぎが首を傾げたのに、まことが答えた。
「ひっとー?何それ?」
だが、ちびうさも併せて2人は一緒に疑問符を大きくするばかりだった。
「筆頭ハンター、それははしょって言えばどっひゃ~なハンターさんですよ」
横からソフィアが補足を入れると、うさぎとちびうさは「なるほど」と深く頷き納得した。
「はしょりすぎよ。もうちょっと説明お願いできない?」
レイは流石に納得できず、更に詳細を求めた。
「厳密には、一般に公開されないギルドの特殊任務を請け負ってる感じッスね。この人たちとは、5年くらい前にいろいろと縁があるんス」
ルーキーが左頬をさすりながら立ち上がり、もう片手で亜美を示した。
「ちょうどそこの子がソフィアちゃんのメモ帳を拾ってるのに出くわして、一緒に帰ってたら途中でもう1人の子に会ったんスよ」
「亜美ちゃんにしては時間にルーズと思ってたら、こういうことだったのね」
そう言った美奈子も一方で、赤くなった背中を苦い顔でさすっていた。
「あれ、そういえばまこちゃんは何してたの?」
話が振られた瞬間、まことは首が折れそうな勢いで後ろに顔を向けた。
「えっ、あっ、えっと~……別に何にもこれといって……」
「……怪しい……」
周りから視線を感じた彼女は、赤くなりながら誤魔化そうと懸命に口走る。
「ほ、ほら、みんな集まったことだしさ、そろそろ本題に入らないか!?」
「言われてみればそうね」
レイがそう言って、まことはやっと胸を撫でおろした。
「そうですね、まずお伝えしておくと……みなさんが情報を集めてる『霧』。ギルドでは、ある一頭のモンスターが原因ではないかと推測がされています」
虚を突かれたのは、他でもないうさぎたちだった。
「え、『魔女』が自分で生み出してるんじゃないの?」
うさぎが首を傾げる。
本当の『魔女』たるウィッチーズ5幹部ユージアルは、ライゼクスを『ダイモーンの卵』を植え付けることで操作していた。
それはかつてうさぎたちの世界で、彼女たちが敵を生み出す際の常套手段であった。
マッカォたちを操った『霧』もまた、彼女たちの道具であるはずだったのだ。
「でもそうじゃないってことはつまり……前も似たようなことがあったってことかしら?」
「亜美さん、話が早くて助かります」
ソフィアは、眼鏡をくいっと上げた。
「かつてこの地域一帯で『狂竜症』という病が流行したことがありました」
「狂竜症?」
聞きなれない言葉に、少女たちは反応する。
「実際に見た方がわかりやすいですね」
ソフィアは、本の中から何枚か写真を取り出した。
それを見た直後、驚きの声が上がった。
「なによ、これ……」
そこに映っていたのは、目が赤く染まり、紫の息を吐く生物たちの姿だった。
ある一枚は、イャンクックとゲリョスがピントがブレてしまうほど激しく揉み合っている。
またある一枚はランポスの群れが互いに首に噛みつき傷つけあっている。
離れた物陰から撮ったためかやや映りが小さいものの、そのいずれもが必ず何かしらの形で争っていた。
そしてそのモンスターたちの姿は、彼女たちが見た『霧』に侵された生物と瓜二つだった。
「彼が生み出す黒い霧状の鱗粉を吸った生物はこの通り凶暴化、周りの生物を無差別攻撃して感染を広げます。その連鎖の末、そこの生態系や付近の集落を崩壊させてしまうんです」
思わず、亜美が手で口を抑える。
「現地の被害状況は……凄まじいものでした」
ソフィアは、写真を本にしまいながらじっと目を閉じた。
「ですが……そこに砂風とともに颯爽と現る一つの影が!」
かっと見開かれるソフィアの目。
待っていたとばかりに団長が帽子をくいっと上げる。
「そう、それこそが……優秀なる『我らの団』ハンター!!下着一枚で現れた奴は、強大なモンスターたちをばったばったと薙ぎ倒し!!」
「あっ、ちなみに俺も頑張ったッスよ!ドジっちゃったけど!」
筆頭ルーキーが自身を指さし茶々を入れる。
「そして彼は見つけ出したのです!厄災の元凶を!!」
ソフィアは一枚のメモをリングメモから取り外し、誇らしげに見せてきた。
「おー、これが!」
「すっごく怖いわね!こんなの相手にしたくないわ!」
うさぎとちびうさはともに純粋に感心するが、後ろの衛は半信半疑な表情で見ている。
「……中々変わってるなこいつ……」
小さな四本脚が生えた箱のような胴体の横から、その10倍は誇張された巨大な腕がにょきっと生えている。
その間に丸っこいタッチで描かれた目のない頭が、ギザギザの口を半開きにしている。
「さっき集めてたときもちょっと思ったけどさあ……」
「すごく、独創的なデザイン、よね……ええ、すごく個性的」
まことのもの言いたげな雰囲気を見て、亜美が慌ててポジティブに言葉を継ぐ。
「ありがとうございます!この子、今だから言えますけど独特の魅力があるんです!なんたってミステリアスな顔とこの逞しいおててのギャップが……♡」
掌を顔に当てポッと頬を赤らめるソフィアに、美奈子は喉元まで出かかった言葉を抑えつけるようにはにかんでいた。
「うん、いろいろツッコミたいけどあまりに瞳がキラキラしてるから言えない!」
「ほ、ほら、こいつの名前なんて言うのよ!?」
レイが話を無理やり本題に戻し、文字を指で辿る。
すると、左上に大きな文字が目立つように書いてあった。
美奈子の肩からアルテミスが顔を出し、その名を口にする。
「『ゴア・マガラ』……か」
「ふーん、調味料みたいな名前ね」
「……こんなとこにまでボケ挟まなくていいから」
隣の主の神妙な顔での呟きに、アルテミスはげんなりした表情で肩を落とした。
「『霧』の性質は前回とは違うみたいだが、かなりの共通点もある……というわけで今、真実を突き止めようとこいつの人気が急上昇ってわけだ」
団長が、ゴア・マガラの絵をトン、トンと指の背で叩いて示した。
「あたしたちも、是非ともマークしておくべきね!」
ルナの言葉に、少女たちが頷く。
そこに筆頭ルーキーが、ぴんと指を立てた。
「けど、これからギルドはゴア・マガラと同時にもう一つのものも追うと思うッス」
「それって、多分『魔女』のことよね?」
答えを述べたレイに、ルーキーは立てていた指をそのまま差し向けた。
「そ!俺も今日まで噂だけの存在って思ってたくらいだけど、あんなの見ちまったら流石に信じるしかないよな。まあ中には集団幻覚って言うやつもいるけど」
頭をぽりぽりと掻きながら、ルーキーは苦笑いを浮かべた。
「あ……貴方も見てたんですね、さっきの事件」
亜美が言うと、不意にルーキーは真剣な表情になった。
「あの天災級のモーラン種を操るうえに、人の身で飛竜に匹敵する規模のブレスを放つなんて……にわかに信じられないのも無理ないッス」
その声色も、さっきまでの軽々しさはすっかり抜けていた。
「あんなヤバい奴らがこれ以上暴れるのは、絶対に野放しにしちゃいけねえ」
少女たちは、一瞬ドキッとして息を詰まらせる。
「ありゃあ凄かったなあ。実際、『魔女』のうちの1人が泡を放ってきたら何も見聞きできなくなって、噂は本当だったのかって思ったよ」
「ええっ、団長さん本当ッスか!?」
頷く団長は先ほどのルーキーと真逆に、『魔女』に会ったことが輝かしいことのように笑っていた。
驚いたルーキーを押しのけ、ソフィアが目をキラキラさせながらメモを取る準備をする。
「団長さん、是非とも後ほど詳しく!!遂に我が超☆メモ帳にも『魔女』の項目追加の日が……!」
「まあまあお嬢、落ち着け。お客さんの前だぞ?」
ソフィアは心だけでなく身体までも熱くなってきたのか、汗をかき息を荒くしている。
少女たちには、彼女とは違う種類の汗が垂れ始めていた。
「あいつら、今も案外近くにいるのかも知れないッスねえ……ん、君たち調子悪い?」
ずっと黙りこくっていた少女たちは、ルーキーから話を振られ顔を引きつらせる。
「あっ、いえ!もーやっぱり『魔女』って怖いなーオソロシーって!!」
大袈裟に恐ろしがって手を振るうさぎに対し、後のメンバーも追従して必死に頷く。
ルーキーは特に不審に感じなかったようで「そっか」と呟いた。
「君たちも、『魔女』の暴挙が許せなくてここにはるばる来たんスね」
彼は微笑み、手の甲を差し出した。
「同じものを追うハンターとして、ともに頑張っていこうッス!」
悪意のまったくない笑顔に、少女たちは一瞬戸惑った。
だが、応えないわけにはいかない。
「……そ、そうよね!絶対『魔女』を見つけ出して、とっちめてやらないと!」
言い出しっぺのうさぎが、真っ先に応じた。
急いで他の者たちも続いて手を重ねる。
そしてその上に最後、団長とソフィアの手も来た。
「俺たちは今表立った活動はしてないが、出来る限りのことは協力させてもらおう。な、お嬢」
「はい!『魔女』の生態も知りたいですからね!新たに情報が入ったら是非こちらへ!」
その時、ルーキーがこちらに来る2人の影を見つけた。
「ん?……あの2人は!」
彼は、勢いよく腕を上げて振った。
「リーダー!姐さん!早くこっちに来てくださいッスー!」
彼らはこちらに気づき、歩いてくる。
5人の戦士たちの視線は、雑踏の中から姿を現わした1人の男へと真っ直ぐに注がれた。
青い鎧に細い双剣。
高い鼻に、きりっとした眉。後ろに銀髪が風に吹かれてたなびいていた。
実際モンハン世界の住人がセーラー戦士を前情報なしで目の前で見たら、魔法の世界との接触がある新大陸調査団の面々はともかく、結構ビビるかなと思う。
あと、最近感想増えてきてすごく嬉しい!これからもお気軽に送っていただけるとモチベ爆上がりします。