セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて 作:Misma
「おや、君はさっきの……」
男と隣の女性は、まことを見て少し驚いていた。
まことの方はというと、顔をほんのりと紅潮させ、表情は完全に乙女のそれになっていた。
「貴方はあの時の……王子様」
「……あー、さっき慌ててたのはそういう……」
ちびうさが事情を察して呟き、周りの少女たちも納得した。
「ふむ、君たちが『霧』と『魔女』を追うハンターか。よろしく、私が筆頭ハンターのリーダーを務める者だ」
まことの様子にも気づかず、リーダーと名乗った男は軽く頭を下げた。
少女たちは唖然としながら彼を見つめ続けている。
数秒経っても答えない彼女たちに、リーダーは怪訝な顔をした。
「……イ……」
「イ……?」
「「イッケメーーン!!」」
うさぎ、美奈子とレイの高い声が響いた。
しかも目をハートにして。
周りの人々の関心がこちらに向く。
亜美が必死に何でもないと、身振り手振りで弁解する。
その努力も虚しく、美奈子が内股でもじもじしながら前に出てきた。
「あ、あのぉー……もし良かったらお名前を……」
「ああ……ジュリアスだが……」
亜美以外の少女4人は、キュンッと竦みあがったような声を上げる。
「名前までかっこいい!」
「は……はぁ?」
「困った声すらかっこいーー!!」
黄色い声で盛り上がる少女たちに筆頭リーダー、ジュリアスは絶句する他ない。
「はっはっは!まさか一斉に惚れられちまうとはなあ!」
彼の気も知らず大笑いする団長。
リーダーは青ざめ、たじたじしながら救いを求めるように団長へ振り向いた。
「しょ、書記官殿!何ですか彼女たちは!?」
「フフ……初対面で女の子に気に入られちゃうなんて中々じゃない、リーダー」
「ひゅーっ!流石我が師匠ッス!」
彼を庇おうとする者はどこにもいなかった。
隣にいる女性も、どこか楽しげに微笑んでいるだけだった。
ずっと後方ではにかみながら縮こまっていた亜美が、慌てて割り込む。
「ほら、みんな隣の方にもご挨拶しないと」
「隣?」
四人は振り返るとやっと女性の存在に気づき「あっ」と声を漏らす。
「まさかこの人ってもう……」
うさぎが隣の美奈子の腕を引っ張る。
「あっちゃー!お姉さん、すみません!まさかそんなこととは露知らず!」
手を合わせて慈悲を乞う美奈子に女性はきょとんとしていた。
が、まもなくその意図を理解し口元に手を当てくすくすと笑う。
「そんなの、謝らなくていいのよお嬢さんたち。リーダーのこんな顔見れたの、何年ぶりかしら?」
彼女は笑いながら、リーダーの胸をノックする。
彼は生真面目そうな顔を真っ赤にしてひたすら羞恥に耐えている。
「私は筆頭ガンナーのナディア。よろしくね、期待の新人さん」
彼女は自己紹介の後、いたずらっぽく口角を上げた。
「あと、別に私と彼とはそういう関係じゃないから安心していいわ」
「安心してもらっては困る!」
ガンナー、ナディアの一言を聞いて突っかかるリーダー。
「あ、なーんだそうだったのね!」
「てっきり彼女さんかと思っちゃった!よかったじゃん、まこちゃん!」
美奈子とうさぎはともに胸を撫でおろし、うさぎはまことの肩をポンと叩く。
当の本人は、いじらしくうつむいて肩を狭めている。
「えー、それはともかく!」
リーダーは咳払いし、無理やり話を断ち切る。
「……本来はもう1人メンバーがいるんだが、これからしばらくこの三人で君たちと協力していくことになる。
後半の言葉を聞いて、うさぎの後ろにいる衛が眉を上げた。
「一緒に調査までして下さるのですか?気持ちはありがたいですが、我々にも我々でやるべきことが……」
「はいはいはーーーい!!あたしたち期待の新人ですーー!!」
「ですーー!」
ともに手を挙げた美奈子とうさぎのコンビネーションにより、衛の言葉は帳消しにされた。
「……うさこ……まあ、前から割とあったけどな……」
「ちょっとうさぎ!衛さんに思いっきり失望されてるわよ!」
うつむいて顔に手をやる衛を見て、レイがうさぎの肩をつかみ彼へと無理矢理振り向かせる。
「そ、そういうんじゃないわよ、まもちゃん!この人たちと行動すればそれだけ情報が集まりやすいしここの人たちだって助かるし、WinWinってやつよ!」
運命の彼氏へ必死に弁解したうさぎは、レイへこっそり耳打ちする。
「ほら、レイちゃんだって妖気感じる力で活躍すれば、抜け駆けできるかもしれないじゃん?」
レイは顔をほんのり赤く染め、驚くそぶりを見せた。
「う……うさぎにしてはいいこと言うじゃない」
「こーいう時だけやたら口が達者なのねうさぎちゃんは」
「本音はみんなイケメン間近で見たいだけの癖に」
ちびうさとルナの冷めた視線は、今やここにいる少女全員に向けられていた。
「ですが、筆頭ハンターさんたちの手を煩わせるわけには……」
「その件については心配ご無用」
渋る衛に、リーダーが即答した。
「『霧』の被害はメタペ密林での一件以来ほとんど確認されてなくて、今はまだ手がかりを探すって段階なのよ」
ガンナーの言葉を受け、ルーキーは満面の笑みで手を広げた。
「こうやって時間取れたのも……ぶっちゃけやることないからッス!」
「ルーキーさん、ぶっちゃけすぎですね。私たちも人数不足で同じ状況ですが」
にこやかながらも困り眉でソフィアが答える。
「まぁせっかくの旅路だ!目的へ一直線もいいが、見知らぬ人との出会いってのもいいもんだぞ、旦那!」
団長に肩を叩かれた衛は、観念したように深いため息をついた。
「どうやら俺の意見は少数派みたいだな」
「やったー!」
少女たちは(亜美以外)跳びあがりハイタッチしあった。
「ありがとう竜人商人さん……この御恩、一生忘れません……」
まことはここにはいない紫羽織の老人に、両手を合わせて感謝を捧げた。
「で、これから調査に向かうんですか!?かばん持ちでもお掃除でも何でも致します~!」
前のめりになる美奈子に負けじと、少女たちはリーダーへ詰め寄った。
ガンナーは先頭の美奈子の額を人差し指で押さえる。
「フフ、元気は有り余ってそうねお嬢さんたち。でも、疲労ってのは知らない間に蓄積してるものよ」
彼女はそのまま頭を軽く指で突き返した。
そのまま、少女たちはぽかんとして彼らを見つめている。
「今日はひとまず休みなさい。調査は、しばらく休養してこの土地に慣れてからね」
「……ああ、そうだな。……うん、そうした方が良い。急がずとも、君たちならすぐに体力が回復するだろう」
リーダーはそう言ったが、むしろこの中で最も疲れているように見えたのは彼自身だった。
ガンナーはリーダーに目配せし、ともに人混みへと身体を向ける。
「じゃ、これで失礼するわ。団長さん、ソフィアさん、後の手配はよろしくね」
「おう、任せろ!」
「合点承知です~」
『我らの団』の2人は、一緒に親指を立てて応じた。
だが、少女たちは未練がましい表情を隠しきれない。
「そんな~もうちょっとお話したかったのにぃ~!」
「レイちゃん、いつでも準備オッケーでーす!」
「あたし……ずっと待ってますから!!」
黄色い声を背に受けながら、リーダーは足早にその場を去っていった。
──
「……すまない、助かった」
少女たちから逃れたリーダーはガンナーに礼を言いながら、やっと一息をついた。
「さっき凄かったわ。今にも卒倒しそうな顔してた」
「本当にこういう感じは……非常に頭が痛い……」
そう言いながら頭髪をわしわしとする彼は、心なしかげっそりした顔をしている。
「世の男性なら羨む状況じゃない。元気出しなさいよ」
ガンナーはリーダーの背中を発破をかけるように叩いた。
「……フフ、なかなか面白い娘たちじゃない。楽しみだわ」
彼女は、人々の間で振られる手を垣間見ながら微笑んだ。
──
太陽の集落たるバルバレにも、陽が沈む時間はやってくる。
まばらに火を灯した松明が並び、いよいよ人々が寝静まろうとしていた頃だった。
これから、バルバレでは『我らの団』が厚意で手配してくれた大テントで寝泊まりすることになる。
広めの室内を囲うように2段ベッドが3つ配置され、中央にはテーブルと椅子が置かれている。
テーブルにはランプが置かれているが、既に消されていた。
既に少女たちは就寝しているはずだったが。
「え~んまもちゃんがいない~」
うさぎはぐずりながら枕を抱きしめていた。
衛やアルテミスなどの男性陣は、別のテントで寝泊まりすることになっている。
それが彼女にとっては我慢ならないようだった。
「いやそりゃ当たり前でしょーが!まずここを貸してもらえてることに感謝しなさいよ」
「そうだけどさ、そうだけどさ~……」
下段にいるレイに突っ込まれ、敷布団をいじるうさぎ。
その背後から、ルナがひょっこりと顔を出した。
「あたしとしては、何やかんやできちんと衛さんのこと考えてて安心したわ」
「こっちもこっちでウットーシイけど」
一緒にいたちびうさも並んで口を出し、直後にうさぎによって頭を押さえつけられた。
「言ったわね~!」
「何がよー!」
「あぁあぁ、また始まった……」
乱闘に巻き込まれないようその場から離れたルナは、傍観者となり呟いた。
一方、それら一切のことを耳に入れず自分の世界に浸っている者がいた。
「はぁ……ジュリアスさん……」
「まこちゃん、いつまで感傷に浸ってんのよ」
うさぎたちの隣のベッド、その上段にいる美奈子から指摘されても、キラキラとした瞳は消え失せない。
「あの切れ長の目尻が別れた先輩に似てるんだ……」
「出たわね、まこちゃんの恒例行事」
「てゆーかそれ似てるって言う?」
レイ、美奈子がさらっと皮肉っぽく言った。
亜美はもう一つのベッドで本を読んでいたが、狼狽した表情を露わにしている。
「盛り上がってるところ申し訳ないのだけれど……」
彼女はおずおずと、手を挙げた。
「みんな、ここで恋なんかしてる場合じゃないと思「亜美ちゃん!?」」
起き上がった友人たちの視線が、すべて亜美へと注がれる。
彼女は「ひっ」と肩からすくみあがった。
「いい!?あたしたちだって華の女子中学生なのよ!ほら、うさぎちゃんだって衛さんと一日中べぇーったりしてるじゃないっ!」
美奈子はうさぎを指さして叫んだ。
未だちびうさと頬をつねり合っていた彼女は驚き、つねっていた方の手を離した。
「な、なんであたしに飛んでくんのよー!」
「勿論、本当の目的を忘れなんかしないわ。でもよりによって『恋なんか』だなんてっ……青春の1ページを疎かにする気!?」
レイは亜美の傍にまで寄ると両肩を掴み、涙を流しながら熱弁する。
「で、でも……」
「狩人だからって恋を諦めろなんて法律、どこの六法全書にだってないわ!」
「そうだ!これはあたしたちのもう一つの戦い……つまり狩りと同じなんだよ!!」
美奈子が熱く拳を握りしめ、まことまで無茶苦茶なことを言って参戦する。
「よし、明日からみんなライバルだ!!狩猟も恋も全力で競い合うぞー!」
彼女が拳を振り上げる。
「おーーーー!!!!」
レイと美奈子がそれに続き、うさぎとちびうさは拍手し、ルナは呆れ、亜美はただひたすら萎縮していた。
「こんなことしてて大丈夫なのかしら……」
亜美は頭を抱えながら、ベッドの中に包まるのだった。
セラムンのメンツ(旧アニ)は全体的にミーハーで面食い。それできゃぴきゃぴしてるのが可愛いと個人的に思ってる。
筆頭ハンターは、団長と同じくMH4出典のキャラです。