セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

48 / 189
赤き大地に鳴らす甲冑①

 バルバレの市中。

 女性が赤いスカーフを巻き、黄色のスーツに身を包んで歩いていた。

 ウェーブがかった金髪のショートヘアーの間から覗くのは、くりりと大きい丸い目に小さな鼻の、スタイルの割には幼い顔立ち。

 

「ねえ、きみきみー。珍しい恰好してるね。俺たちと一緒にお茶しない?」

 

 鼻の下を伸ばしきった男二人に、女性が振り向く。

 

「あら、それは嬉しいお言葉」

 

 手で口元を隠す彼女の声は、子どものように甲高くあどけない。

 

「ですけどその姿、仮面舞踏会にでも出席なさるおつもり?」

 

「……え?」

 

 女性の澄ました顔に、あざ笑う表情が浮かんだ。

 

「そのだっさーーーーーい豚さんみたいな服装改めて下されば、考えないこともありませんわ♡」

 

 2人組はしばらく突然の暴言に困惑していたが、やがてもの言いたげに女性へ一気に詰め寄った。

 

「な……何言ってんだ!?これは俺が必死こいて草食竜しばき倒した証だぞ!?」

 

 向かって右側の男が、円柱型のスリットの入った兜を指さしながら訴えた。

 脂肪でもついたかのように膨らんだ形の腹当てが、女性のすぐ前に迫る。

 

 男の装備は『リノプロシリーズ』と呼ばれる。

 全体が紫色の潜水服のごとき様相を呈しており、檻のような兜のせいで怒りの表情は見えない。

 

「俺だってこれのために何百回と鉱石叩いて血豆作りまくったんだぜ!?」

 

 左側の男の白い装備は『ハイメタシリーズ』と呼ばれる。

 こちらも太ましい図体の鎧にバケツを頭に被ったような、右に劣らず珍妙な鎧である。

 当然、顔は見えないので怒号だけが彼の感情を伝えている。

 

 身体をすべて鎧で覆った彼らの姿は、圧迫感なら他の誰にも負けていない。

 それに対し、女性は眼鏡越しでも分かるほど顔を歪めた。

 

「ださいもんはださいですわ」

 

「あぁんっ!?!?」

 

 男たちは姿を貶されたことを許さなかった。

 女性はぺろっと舌を突き出し、すたこらとその場から走り去る。

 

「てめえええ!!」

 

「ハンター舐めてっと死ぬぞ!!」

 

 金属の擦れ合う音を立て、男らは人の間を駆け抜ける。

 鎧を着こんでいるには恐ろしいほどの速度だった。

 が、人を追うにはやや重すぎる。

 彼らは息を切らしながら、テントの間の通路を縫うように走る。

 

 揺れる赤いスカーフは、やがて左手の人少ない通りに向かって逃げ込んだ。

 一瞬、彼女が男たちの視界から外れた。

 男たちは急いで通行人を押しのけ、逃げ込んだ道へと飛び込む。

 

「あ、あれ、確かそこに……」

 

 一本しかない道に、女性の姿はなかった。

 後に残されたのは、気の抜けた情けない男たちの姿のみであった。

 

──

 

 バルバレを象徴する竜頭船の穂先に、女性が腰かけ人々を見下ろしていた。

 折れ曲がった杖をつき、露出度の高い黒いドレスに黄色い裾とストッキングが映えている。

 顔は、先の女性とまったく同じだった。

 

「はー、どこ見渡しても脳筋ゴリマッチョばっかり!こんな世界で働かされるミメットったら、ホント恵まれない子!」

 

 退屈そうに身をかがめてため息をつき、脚に肘をつく。

 市場に並ぶどの人も、彼女の姿を捉えることはない。

 こんなところに人がいるなど、思いもしていないのだ。

 

「今時チラシなんて、如何にもユージアル先輩らしいやり方よねぇ」

 

 魔女ミメットは、胸元からチラシを取り出した。

 いかにも悪役顔をしたセーラー戦士らしき少女たちが描かれた紙である。

 そこには大きな見出しで「闇をもたらす魔女、懸賞金『1000000ゼニ―』」と書かれている。

 

「悪の組織ならそんなケチケチしないで、もっとパアーッていかなくっちゃ」

 

 それをミメットは後ろ手に風に乗せて捨て、膝を回して逆に組み替えた。

 

「エナジーを回収できて、しかもセーラー戦士どもを追い出せて、しかもイケメンをゲットできる方法……」

 

 彼女はしばらく悩んでいたが、やがてニコッとして不意に横手を打つ。

 

「あ、面白いこと思いついちゃった!ミメットったらてーんさーい!」

 

 惜しげもなく自画自賛する少女は、先ほどとは一転してうきうきして腰を上げた。

 

「ささ、さっそくおっしごっとおっしごっとぉ~」

 

 口ずさみながら魔女ミメットは飛び降り、何処かへ消えた。

 

──

 

 数日後。

 

「もうあの時から1週間か~。何もすることないときって時間早く感じない?」

 

「同意~」

 

 うさぎは手持ち無沙汰そうに頬を机につけ、隣の美奈子が伸びをしながら答えた。

 

「何もないのも、それはそれで困るのよねー」

 

 レイが自身の財布を逆さにし、数枚にまで減った貨幣をテーブルに落とした。

 住居は『我らの団』が提供してくれているが、衣食は自分たちで賄わなければならない。

 資金は以前のディノバルド、ライゼクスの依頼で十分に稼いだはずだった。武具を揃える分を考慮してもこの先少なくとも1ヶ月は持っただろう。

 

 だがそこはやはり、うさぎたちは女子中学生であった。

 色鮮やかなバレッタ。異国の空気に染まれる香水。涼やかながらデザイン性に富んだスカーフ。

 そして、賑わう市場のなか露店で出される魅力的な食べ物。

 この市場のあらゆるものが、彼女たちの興味を、そして──購買欲求を駆り立てたのである。

 

「もうそろそろ狩りをしないと、あたしたち路頭に迷っちゃうよなあ」

 

 まことが肘をつきながら言うと、美奈子が顔を引き締めぎゅっと拳を握りしめた。

 

「そうよ!ちゃんとリーダーさんのハートをGETして、ちゃんと調査もしなくっちゃ!」

 

「……順序が逆よ」

 

 本を読んでいた亜美が呟き、呆れたように天を仰いだ。

 その時、テントの外で翼がはためく音がした。

 

「あっ、手紙だー!」

 

 亜美の隣にいたちびうさが、入口の幕を開ける。

 伝書鳩がテントすぐ前の止まり木に止まっている。

 彼女は背伸びして鳩から手紙を手に取り、テーブルの上で開いた。

 

 

 『霧』と『魔女』を追う猟団殿

 

 遺跡平原にて『霧』に侵されたモンスターが報告された。

 調査のため、明日にはここから最も近い遺跡平原に向かう。

 詳細は調査に向かう際説明する。

 日没の鐘が鳴る時、すぐ目の前にある飛行船の発着場にて待つ。

 

 筆頭リーダー ジュリアス

 

 

 流麗な字体だった。

 内容を確認したあと、少女たちは黙りこくる。

 亜美が急いで本を盾にする。

 彼女たちはすう、と深呼吸した。

 

「キターーーーー!!!!」

 

 レイとまことと美奈子が一斉に飛び上がり、ハイタッチした。

 

「つ、遂に遂に遂に遂に!」

 

「この時が、この時がやってきたのよ!」

 

「待っててくださいジュリアスさん、あたしが迎えに行きますから……!」

 

 三人は感激のあまり涙ぐんでいる。

 

「いぇいいぇい盛り上がってるぅ~」

 

 うさぎは快哉を叫ぶが、亜美は眉を顰めていた。

 

「……果たしてこれは良い盛り上がり方なのかしら」

 

 ちびうさは、うさぎと似たような笑みを浮かべて机の下の脚をバタバタさせている。

 

「へへ、どんなところなんだろ~」

 

 遠足にでも行く雰囲気で様々に思い浮かべたちびうさだが、そこにうさぎが横から顔を突き出す。

 

「忘れてないと思うけど、ちびうさは留守番だからね。ルナとアルテミス、あと団長さんたちの言うこと、ちゃんと聞きなさいよ?」

 

「……何よ人がワクワクしてる時に!」

 

 ちびうさは勢いを削がれ、一転して不機嫌になる。

 彼女は歯を剥き出しにしてうさぎを睨むと、へそを曲げてベッドに入ってしまった。

 

「うさぎちゃん、言うタイミング……」

 

 ルナがうさぎを咎めるが、当の彼女自身ちびうさの反応に困っているようだった。

 

「だって、いつかは言わなきゃいけないことでしょ?」

 

 それを見たまことが、ちびうさが潜む布団に手を添えて宥める。

 

「しょうがないよ、ちびうさちゃん。前の世界と違って、外は本当に危ないんだから」

 

「お土産話、たくさん持ってきてあげるからね」

 

 亜美も隣に座って優しく語りかけたが、ちびうさの表情はぶすっとしたままだった。

 

──

 

 そして翌日。

 うさぎたちがココット村から旅立って以降、初めての狩りとなる。

 

 青空の下になだらかに続く金色の草原が見える。

 所々に精巧な赤い柱の瓦礫が見えているが、これが地名の由来である『遺跡』である。

 遺跡は既に風化し、自然と一体になっていた。

 遠くには壮大な山脈が鎮座し、その険しさを物語る。

 

「……さて、この地域を調査するメンバーについてだが」

 

 飛行船は、船に直接気球を取りつけたような豪快な作りになっている。

 その船上に筆頭ハンターと少女たちが集っていた。

 喋っているのは、調査の総指揮を取る筆頭リーダーである。

 テーブルの真ん中にはこの地の狩場のマップが広げられている。

 

「ここは私と衛君、うさぎさん、そして亜美さんで進めさせて頂きたい」

 

「え、あたし?」

 

 うさぎは驚いて自らを指さした。

 少女たちの残りは唖然としている。

 

「あ……あの……リーダーさん?」

 

 まことが呼び止めるように手を伸ばすが、無視される。

 

「私は、物事は何事も初陣が重要と考えている」

 

 リーダーは決意した表情で、机に手を置いた。

 

「我々の目的は『霧』と『魔女』の真相を突き止めることだ。そうだろう?」

 

 やっと例の3人に視線が向く。

 彼女たちは必死に激しく頷いた。

 

「君たちが役に立たないと言っているのではない。ただ今回で、調査の方向性を決めておくべきと……思うのだ」

 

 こちらの出方を探るような目つきである。

 奇妙な沈黙が走る。

 レイが唐突に笑顔を作った。

 

「で、でもあたしたち、5人で1つって言いますかぁー」

 

 彼女は腕をうさぎの腕に絡めるついでに、リーダーへ甘ったるい声と上目遣いで急接近を図る。

 急いでまこともそれに続いた。

 うさぎが両肩から2人に挟まれ「ぎゃっ!」と叫ぶ。

 

「そうですそうです!仲間と一緒にいれないなんて、寂しいじゃないですか!」

 

 リーダーはじり、と後ろに下がる。

 

「一度に狩りに行けるのは最大4人までだ……そう決まっているのだ!」

 

 そう訴えても、彼女たちは接近を辞めない。

 ついでに美奈子も一直線に迫ってくる。

 

「で、でもあたしたちも絶対お役に立てますからっ!」

 

 リーダーの背中に壁が付いた。

 逃げ場を失った彼に、息巻いた3人の顔が迫ってくる。

 

「やめろー-っ!!!!」

 

 初めて彼は顔を真っ赤にして怒鳴り、彼女らを押し返した。

 

「君たちは調査を妨害する気かっ!!いったい何のつもりで我々と組んだ!!私はデートしにここに来たのではないぞっ!!」

 

 耳の奥まで突き刺さる、刃物のように鋭い声だった。

 思わず少女たちが仰け反る。

 うさぎまで巻き添えを喰らい目を回す。

 彼は一通り叫び終わってから、はっと我に返った。

 

 誰もがしんと静まり返っている。

 突き離された少女たちは完全に固まっている。

 

 リーダーは辺りを見回すと、やってしまったという顔で眼を背けた。

 

「他に……何か」

 

 レイ、まこと、美奈子の3人とも、灰にでもなって風の中に消えそうな顔になった。

 こんな時でもルーキーは「ドンマイ!」と明るく呼びかけ、ガンナーは必死に下を向いて噴き出すのを何とか堪えている。

 少女たちは、揃って膝から崩れ落ちた。

 

「なんで……なんでこんなことに……」

 

「いやー、誰がどう見ても分かりきってんのよねこれ……」

 

 3人の中心にいるうさぎが、泣きついてくるまことの言葉に対し小さく返した。

 

「あたしたち、そんなつもりじゃ……そんなつもりじゃなかったんです……」

 

「め゛ーわ゛ぐがげでずみ゛ま゛ぜん゛でじだぁ゛!!」

 

 目を潤ませるレイと並び、美奈子が大泣きしている。

 

「ほら、これで顔拭きなさい」

 

 そこに、ガンナーが苦笑しながら手ぬぐいを差し出す。

 彼女は美奈子の肩に手を置き、リーダーを見上げた。

 

「リーダーったら、正論は正論でもちょっと手加減してあげないと。この子たち、いくら優秀でもまだ十八もいかない女の子よ?」

 

「……うっ……」

 

 リーダーは失恋したように悲しみに暮れている少女たちを見て、ますます顔の気まずさを募らせた。

 ため息をつくと、ぎこちなく彼は背を向ける。

 

「……泣かなくていい、分かればいいんだ。さあ、今回のメンバーは準備ができ次第向かおう」

 

 彼はそううさぎたちに呼びかけ、足早に準備室へと向かっていった。

 

「じゃ、じゃあいってきま~す……」

 

 うさぎたちは、悲嘆にくれる仲間を後に残して出発した。

 




リーダーは恋愛に疎いので絶対拒否反応がすごい。
あと、今後の参考までにアンケート置いときます。

物語の展開スピードについて、どう感じますか?

  • 早すぎる
  • ちょうどいい
  • 遅すぎる
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。