セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて 作:Misma
苔生した遺跡の合間から太陽が覗いている。
かつて室内であったであろうそこは既に朽ち、僅かに壁と天井の残骸を遺すのみ。
テントの側から小川のせせらぎが湧き出、斜面を伝っている。
その先、古びたアーチ状の遺跡が金色の絨毯へと来訪者を導いていく。
そこが遺跡平原のキャンプ地であった。
うさぎたちは、ここから新たな地の第一歩を踏み出そうとしている。
アーチを抜けると、黄金が視界を覆い尽くした。
向こうの山脈が、飛行船から見た時より大きく見える。
「わあぁ……!」
うさぎは斜面を一気に駆け下りる。
煉瓦の段差から下の草原に飛んだ。
大地の女王から成る脚が、ガシャリと鳴って黄金の地を踏みしめる。
風が吹いた。草が飛び、頬の横を舞っていく。
「すっごーい!!」
振り返って手を広げ飛び跳ねながら、無邪気な顔で喜ぶうさぎ。
衛と亜美もつられたように似た表情を浮かべていると、リーダーが後ろから二人の肩を叩いた。
「……ほら、いくぞ」
亜美は慌てて表情を引き締めた。
「あ、すみません!それで、今回の調査対象は?」
「現在最も『霧』への感染が疑われるのは、『徹甲虫アルセルタス』だ」
リーダーは、前を向いたまま答えた。
「げっ、む、虫ー!?」
うさぎは露骨に顔を歪ませる。
リーダーが段差を下り、うさぎの横までやってくる。
「空を飛んで突撃してくる中型の甲虫種だ。それほど強靭な種ではないが、動きが素早いから用心しろ」
彼はうさぎを追いこして先に進むが、あとの三人は戸惑っている。
「……大きさは?」
亜美が背中越しに恐る恐る聞く。
リーダーは振り向いた。
「個体差にもよるが、およそ6mほどだ」
「ろろろ6m!?」
うさぎは卒倒しかけた。
下手をすれば、単純な強さ
異邦人3人はこれからそれを相手にする事実に、揃って呆然としている。
「さあ、早く行かねば狩場から逃げられるかもしれないぞ」
リーダーは表情を変えず、再び前を向いて足早に歩き出す。
「あっ、待ってー!」
うさぎは追って駆け出した。
あとの2人もため息をついて覚悟を決め、彼女に続いた。
彼が生息している山脈に着くまで、うさぎたちは歩くその足で講義を受けた。
アルセルタスの主な武器は、頭の角と鎌状に進化した前脚の爪である。
空中では機敏だが地上に落とせば動きは読みやすい。
弱点は腹であり、正面を避ければ容易に接近可能である。
尾部より発射される腐食液には気をつけよ。
「余談だが」
調査開始から約30分。
リーダーがそう言って立ち止まったとき、彼らは山脈の麓にある平原地帯『エリア3』に来ていた。
右方に山脈を登る坂道が伸びている。
「かの種には番がいる。出現報告はされていないが、万一の場合に備え常に周囲に気を配るように」
「えっ、番?それって夫婦って意味よね!」
気分の切り替えは早いようで、うさぎは笑顔で隣で歩く衛の腕をひったくる。
「きっと仲がいいのよ、あたしとまもちゃんみたいに!」
うさぎは衛に臆面もなくひっつき、頬をその肩に押し付けた。
「おい、ちょっと人前で……」
衛は慌ててうさぎの肩を揺さぶるが、彼女の身体はぴくりともしない。
亜美は「もう、うさぎちゃんったら」と気忙しく横に視線をずらす。
それを見た筆頭リーダーは視線を外し、空を眺めた。
「……まあ、そうと言えば……ある意味そうかもしれない」
「?」
歯切れの悪い言葉に、うさぎが首を傾げたところだった。
「誰か、誰か助けてー!」
甲高い泣き声が木霊して飛んできた。
方角は、山脈の渓谷にある『エリア4』である。
うさぎたちは頷きあい、急行した。
赤色の岩肌が顔を見せ、真上には鮮やかな紅葉が空を覆っていた。
浅い小川を底とした巨大な谷がエリアの大半を占め、上流には山脈の壁が、下流には断崖絶壁があり小川はそこに流れ落ちている。
一番目立ったのは、小川の上に伸びるアーチ状の岩だった。もはや遺跡なのか天然の石なのか、風化のせいで見分けがつかない。
「もう、一体どこなのよここ~!」
幼くわんわんと喚く声が谷の方から聞こえた。
「あの橋の下から聞こえるわ」
耳を澄ましていた亜美が指さした先、天然の橋の下に服の裾らしきものがちらりと見える。
「大丈夫か!?」
リーダーが真っ先に谷底へ駆け付ける。
その声の主はそれに気づき、用心深く半身を橋の影から覗かせる。
「あっ、ハンターさん!助かったわ!」
丸眼鏡をかけた女性らしき人物が、ぱっと顔を輝かせる。
彼女は赤いスカーフに、黄色いコートを着ていた。
声は子どものように甲高く、あどけない。
「それに……」
女性がぽっと顔を赤らめたのに、リーダーは気づいていない。
「まず、君の名前を伺おうか」
そう言われた彼女ははっとして、首を傾けにこりと笑った。
「あっ、あたし、ミミって言います」
「一般人がハンターも付けず、何をしている?」
「あたし、ちょっと仕事帰りで迷子になっちゃって……」
ミミと名乗った女性は、人差し指で目端の涙を拭ってみせた。
小川近くでしゃがんでいたせいで、彼女のコートの裾から水滴が滴っている。
「こんなとこに1人で来るなんて、どういうお仕事なんですか?」
「えーっと……フィールドワークですわ。ちょっとそれ以降はプライベートですので……」
うさぎには想像がつかず聞いてみたが、ミミは少し視線を右上に向けたすえ答えた。
「とにかく遭難者がいるとなると、一刻も早くこのエリアから彼女を連れ出すべきでは?」
衛がそう言ってリーダーと視線を合わせると、彼も頷いた。
ミミはそれを見て衛にまでも見惚れているのだが、彼らは一向に気づかない。
「そうだな。調査は一時中断だ。まずは彼女の保護を最優先としよう」
一行は橋の下から出ることとした。
うさぎは亜美と並んで歩きながら大きく一息吐き出す。
「正直安心したわー。いきなりでっかい虫なんて相手にできる自信ないわよぉ」
「うさぎちゃん、いつかは通らなきゃいけない道よ?」
亜美はうさぎをたしなめつつリーダーたちに続いた。
調査隊は段差のある広い台地へと上がる。
そのまま右手の元来た『エリア2』へ続く道を戻ろうとしたところで、ミミは密かに舌なめずりをした。
「あのぉ~」
遠慮がちながら甘ったるさを隠さない声に、面々が振り向く。
ミミは屈託のない笑顔で掌を重ね合わせていた。
「出来ればミミぃ、殿方たちにバルバレまで送ってもらいたいなぁ、なーんて」
筆頭リーダーと衛の眉間に皺が一気に寄った。
「……なぜ?」
「ほら、貴方たちって調査?……してるんでしょ?だったら頼もしい御仲間に任せて手分けすれば、中断なんかしなくていいじゃないですかぁ」
彼女は上目遣いで2人の腕をぱっと取って握る。
うさぎはそれを見て口をあんぐりと開け、亜美は眉を顰めた。
ミミは無理やり、男たちと指同士を絡めようとした。
「だから、バルバレに戻るまであたしと一緒に……」
男2人は、惚れるどころか困惑の表情しか見せない。
うさぎがミミの手を衛の腕から引きはがし、胸を押して引き離す。
「ちょっと!あたしのまもちゃんに触らないでくれる!?」
うさぎが衛の彼女と分かると、ミミの表情は目に見えて不機嫌になった。
「何よあんた。小娘は引っ込んでなさいよ!」
「なによ、小娘じゃ悪いっての?」
「ひょろっちい女に護衛なんて務まるわけないじゃない!」
「な、なんですって!」
火花を散らす2人を見て、リーダーは頭を抱えた。
「ああ、次々に予定が狂っていく……」
「まったく、よりによって気難しい人に出会ったもんだ」
呆れていた衛は偶然、山脈へ続く登り坂の上空に小さな影を見た。
「ん?」
影は、ぐんぐんとこちらに向かって迫って来る。
近づいてくる羽音。
予想以上に速い。
「伏せろ!!」
ミミやうさぎたちを庇ってしゃがんだ男たちのすぐ真上を、巨大な緑色の角が通過した。
一緒にしゃがんでいたうさぎは、恐る恐る前を確認する。
上空からゆっくりと降りてきたのは、巨大な甲虫だった。
カマキリの頭と鎌、カブトムシの角と身体を掛け合わせたような姿である。
6mの巨体を持つそれは、薄羽を目に見えぬ速度で震わせホバリングしている。
「う、うえ~っ、まさかあれ……」
案の定うさぎは怪物の姿に慄くが、同じものを見据えるリーダーの表情は変わらない。
「ああ、徹甲虫アルセルタスだ!」
リーダーはミミを後ろに突き飛ばし、無理やり遠ざけた。
彼は背負う双剣の柄に手を添える。
「もうっ、妖魔になったんなら空気ぐらい読みなさいよっ……!」
ミミは唇を噛んで小さく毒づいたが、それは誰にも聞こえていない。
怪物は紫の息を漏らしながら鎌を擦り合わせ、ちきちきちき、と威嚇するように唸る。
衛も片手剣『アサシンカリンガ』を抜刀して叫んだ。
「やはり『霧』に感染してる!報告通りだ!」
アルセルタスはぶぅんと翅をはためかせ、狩人たちに急接近すると空中から鎌を振りかざした。
大袈裟に振りかぶったため、動きは読みやすい。
最も前方にいたうさぎは咄嗟に盾を構える。
衝撃と振動が盾から彼女の身体へと伝わり、危うく吹っ飛ばされそうになるがこらえた。
そこでうさぎは気持ちを入れ替え、亜美に叫んだ。
「亜美ちゃんっ!」
「ええ!」
亜美は既にライトボウガンに通常弾を装填し、後方にスタンバイしていた。
『ハンターライフル』から放たれた弾はアルセルタスの角に当たり、破片とともに白い筋を残す。
気を取られた隙を狙い、うさぎと衛が斬り込む。
「……ほう」
その息の合いように、リーダーは背の双剣の柄に手を伸ばしながら注目していた。
数ヶ月前、旅で滞在したココット村にてハンター稼業を発心。
以降才能を開花させ、ドスランポス2頭、『霧』に侵されたドスマッカォ、リオレイアとディノバルドを討伐、そしてイャンクックとライゼクスを撃退。
そして表立ってギルドカードに書かれてはいないが、あの金髪の娘はリオレウスを単身で相手取り、瀕死まで追い込んだと言う。
筆頭ハンターたちが彼女たちについて得ていた情報はそれだけだった。
常人とは思えない出世と実績である。
そしていまそれを実証するように、彼らは歴戦の戦士のごとき身の裁きを見せている。
初期は互いの武器が当たって怪我をする初心者も多い。
彼らのような動きは、よほど信頼が構築されていないと不可能である。
リーダーは柄を引きながら小さく独り言ちた。
「どうやら商人殿の情報は事実のようだ」
1対の鞘からまず青色が現れ、引き抜かれるにつれて鮮やかな赤紫へと色が変わっていく。
双剣を天にかざして重ね合わせ、目を瞑る。
刃同士が擦れ合い熱を帯びる。
「っ──」
彼が目を見開くと同時に、剣から凄まじい気が立ち昇った。
『鬼人化』。
双剣使いが必ず習得する狩猟術である。
集中と昂奮による一時的な強化状態であり、目にもとまらぬ斬撃が他の武器にない強みとなる。
リーダーは獲物を見据え、柄をくるりと回して剣を逆手に持った。
今一度、位置関係を見定める。
獲物は、段差の向こうで仲間たちと攻防を繰り広げている。
ならば、やることは一つ。
男は獲物を睨み据えて駆け出した。
「ヤツを地面に落とす!そこから退いてくれ!」
覇気のある声に、うさぎたちはただならぬ気配を感じて飛びのく。
アルセルタスは気づかず、狩人たちを近づけまいと鎌を横ざまに回転させ振り抜いた。
その勢いで目の前に腹部が来た。
恰好のタイミングである。
「……落ちろ!」
段差を蹴って跳ぶ。
空中で身体は螺旋を描き、アルセルタスの腹にそのまま突っ込んだ。
数秒のうちに数え切れぬほどの斬撃が獲物を抉る。
人間業とは思えないその光景に、うさぎたちは目を白黒させた。
アルセルタスはたまらず仰向けになって地に落ちた。
脚をばたつかせる怪物をうさぎたちが見つめていると、華麗に着地したリーダーは剣を構え直し叫んだ。
「ここは私に任せろ!君たちはその女性を安全な場所に保護してくれ!」
「……あの人なら1人でも大丈夫そうだな」
衛の言葉に疑いの余地はなく、うさぎと亜美は頷いて素直にリーダーの指示に従った。
「よし、じゃあ一緒に逃げるわよミミさん!」
彼らは同じく呆然としていたミミを無理やり押し出し、『エリア2』へ続く坂へ向かう。
「ちょっと、小娘2人は余計って言ってるでしょ!?」
ミミは睨みながら抗議するが、聞き入れる者はいない。
その時、足元が突然激しく揺れた。
「地鳴り!?」
うさぎたちの前方の地面がひび割れた。
割れ目の間から、轟音とともに土煙が噴きあがった。
「何よもう、次から次へと!」
ミミが不愉快そうに叫んだ。
巨大な甲羅のようなものが、地中から這いだした。
厚く平たい身体に4つの脚がついているのだけは辛うじて分かった。
地中に残っていた細長い尻尾らしきものが最後に出てくる。
少なくとも、竜や獣の類ではない。身体の構造は蠍のそれに近かった。
重々しいブオォン、という鳴き声は、まるで機械の駆動音のようだった。
「ゲネル・セルタス!!」
リーダーが振り返って叫んだ。
サンブレイク楽しみすぎ……!ガンランス強くなっててくれお願いだから。