セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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赤き大地に鳴らす甲冑②

 

 苔生した遺跡の合間から太陽が覗いている。

 かつて室内であったであろうそこは既に朽ち、僅かに壁と天井の残骸を遺すのみ。

 テントの側から小川のせせらぎが湧き出、斜面を伝っている。

 その先、古びたアーチ状の遺跡が金色の絨毯へと来訪者を導いていく。

 

 そこが遺跡平原のキャンプ地であった。

 うさぎたちは、ここから新たな地の第一歩を踏み出そうとしている。

 

 アーチを抜けると、黄金が視界を覆い尽くした。

 向こうの山脈が、飛行船から見た時より大きく見える。

 

「わあぁ……!」

 

 うさぎは斜面を一気に駆け下りる。

 煉瓦の段差から下の草原に飛んだ。

 大地の女王から成る脚が、ガシャリと鳴って黄金の地を踏みしめる。

 風が吹いた。草が飛び、頬の横を舞っていく。

 

「すっごーい!!」

 

 振り返って手を広げ飛び跳ねながら、無邪気な顔で喜ぶうさぎ。

 衛と亜美もつられたように似た表情を浮かべていると、リーダーが後ろから二人の肩を叩いた。

 

「……ほら、いくぞ」

 

 亜美は慌てて表情を引き締めた。

 

「あ、すみません!それで、今回の調査対象は?」

 

「現在最も『霧』への感染が疑われるのは、『徹甲虫アルセルタス』だ」

 

 リーダーは、前を向いたまま答えた。

 

「げっ、む、虫ー!?」

 

 うさぎは露骨に顔を歪ませる。

 リーダーが段差を下り、うさぎの横までやってくる。

 

「空を飛んで突撃してくる中型の甲虫種だ。それほど強靭な種ではないが、動きが素早いから用心しろ」

 

 彼はうさぎを追いこして先に進むが、あとの三人は戸惑っている。

 

「……大きさは?」

 

 亜美が背中越しに恐る恐る聞く。

 リーダーは振り向いた。

 

「個体差にもよるが、およそ6mほどだ」

 

「ろろろ6m!?」

 

 うさぎは卒倒しかけた。

 下手をすれば、単純な強さ()()()()()()で飛竜より手強いかもしれない。

 異邦人3人はこれからそれを相手にする事実に、揃って呆然としている。

 

「さあ、早く行かねば狩場から逃げられるかもしれないぞ」

 

 リーダーは表情を変えず、再び前を向いて足早に歩き出す。

 

「あっ、待ってー!」

 

 うさぎは追って駆け出した。

 あとの2人もため息をついて覚悟を決め、彼女に続いた。

 彼が生息している山脈に着くまで、うさぎたちは歩くその足で講義を受けた。

 

 アルセルタスの主な武器は、頭の角と鎌状に進化した前脚の爪である。

 空中では機敏だが地上に落とせば動きは読みやすい。

 弱点は腹であり、正面を避ければ容易に接近可能である。

 尾部より発射される腐食液には気をつけよ。

 

「余談だが」

 

 調査開始から約30分。

 リーダーがそう言って立ち止まったとき、彼らは山脈の麓にある平原地帯『エリア3』に来ていた。

 右方に山脈を登る坂道が伸びている。

 

「かの種には番がいる。出現報告はされていないが、万一の場合に備え常に周囲に気を配るように」

 

「えっ、番?それって夫婦って意味よね!」

 

 気分の切り替えは早いようで、うさぎは笑顔で隣で歩く衛の腕をひったくる。

 

「きっと仲がいいのよ、あたしとまもちゃんみたいに!」

 

 うさぎは衛に臆面もなくひっつき、頬をその肩に押し付けた。

 

「おい、ちょっと人前で……」

 

 衛は慌ててうさぎの肩を揺さぶるが、彼女の身体はぴくりともしない。

 亜美は「もう、うさぎちゃんったら」と気忙しく横に視線をずらす。

 それを見た筆頭リーダーは視線を外し、空を眺めた。

 

「……まあ、そうと言えば……ある意味そうかもしれない」

 

「?」

 

 歯切れの悪い言葉に、うさぎが首を傾げたところだった。

 

「誰か、誰か助けてー!」

 

 甲高い泣き声が木霊して飛んできた。

 方角は、山脈の渓谷にある『エリア4』である。

 うさぎたちは頷きあい、急行した。

 

 赤色の岩肌が顔を見せ、真上には鮮やかな紅葉が空を覆っていた。

 浅い小川を底とした巨大な谷がエリアの大半を占め、上流には山脈の壁が、下流には断崖絶壁があり小川はそこに流れ落ちている。

 一番目立ったのは、小川の上に伸びるアーチ状の岩だった。もはや遺跡なのか天然の石なのか、風化のせいで見分けがつかない。

 

「もう、一体どこなのよここ~!」

 

 幼くわんわんと喚く声が谷の方から聞こえた。

 

「あの橋の下から聞こえるわ」

 

 耳を澄ましていた亜美が指さした先、天然の橋の下に服の裾らしきものがちらりと見える。

 

「大丈夫か!?」

 

 リーダーが真っ先に谷底へ駆け付ける。

 その声の主はそれに気づき、用心深く半身を橋の影から覗かせる。

 

「あっ、ハンターさん!助かったわ!」

 

 丸眼鏡をかけた女性らしき人物が、ぱっと顔を輝かせる。

 彼女は赤いスカーフに、黄色いコートを着ていた。

 声は子どものように甲高く、あどけない。

 

「それに……」

 

 女性がぽっと顔を赤らめたのに、リーダーは気づいていない。

 

「まず、君の名前を伺おうか」

 

 そう言われた彼女ははっとして、首を傾けにこりと笑った。

 

「あっ、あたし、ミミって言います」

 

「一般人がハンターも付けず、何をしている?」

 

「あたし、ちょっと仕事帰りで迷子になっちゃって……」

 

 ミミと名乗った女性は、人差し指で目端の涙を拭ってみせた。

 小川近くでしゃがんでいたせいで、彼女のコートの裾から水滴が滴っている。

 

「こんなとこに1人で来るなんて、どういうお仕事なんですか?」

 

「えーっと……フィールドワークですわ。ちょっとそれ以降はプライベートですので……」

 

 うさぎには想像がつかず聞いてみたが、ミミは少し視線を右上に向けたすえ答えた。

 

「とにかく遭難者がいるとなると、一刻も早くこのエリアから彼女を連れ出すべきでは?」

 

 衛がそう言ってリーダーと視線を合わせると、彼も頷いた。

 ミミはそれを見て衛にまでも見惚れているのだが、彼らは一向に気づかない。

 

「そうだな。調査は一時中断だ。まずは彼女の保護を最優先としよう」

 

 一行は橋の下から出ることとした。

 うさぎは亜美と並んで歩きながら大きく一息吐き出す。

 

「正直安心したわー。いきなりでっかい虫なんて相手にできる自信ないわよぉ」

 

「うさぎちゃん、いつかは通らなきゃいけない道よ?」

 

 亜美はうさぎをたしなめつつリーダーたちに続いた。

 調査隊は段差のある広い台地へと上がる。

 そのまま右手の元来た『エリア2』へ続く道を戻ろうとしたところで、ミミは密かに舌なめずりをした。

 

「あのぉ~」

 

 遠慮がちながら甘ったるさを隠さない声に、面々が振り向く。

 ミミは屈託のない笑顔で掌を重ね合わせていた。

 

「出来ればミミぃ、殿方たちにバルバレまで送ってもらいたいなぁ、なーんて」

 

 筆頭リーダーと衛の眉間に皺が一気に寄った。

 

「……なぜ?」

 

「ほら、貴方たちって調査?……してるんでしょ?だったら頼もしい御仲間に任せて手分けすれば、中断なんかしなくていいじゃないですかぁ」

 

 彼女は上目遣いで2人の腕をぱっと取って握る。

 うさぎはそれを見て口をあんぐりと開け、亜美は眉を顰めた。

 ミミは無理やり、男たちと指同士を絡めようとした。

 

「だから、バルバレに戻るまであたしと一緒に……」

 

 男2人は、惚れるどころか困惑の表情しか見せない。

 うさぎがミミの手を衛の腕から引きはがし、胸を押して引き離す。

 

「ちょっと!あたしのまもちゃんに触らないでくれる!?」

 

 うさぎが衛の彼女と分かると、ミミの表情は目に見えて不機嫌になった。

 

「何よあんた。小娘は引っ込んでなさいよ!」

 

「なによ、小娘じゃ悪いっての?」

 

「ひょろっちい女に護衛なんて務まるわけないじゃない!」

 

「な、なんですって!」

 

 火花を散らす2人を見て、リーダーは頭を抱えた。

 

「ああ、次々に予定が狂っていく……」

 

「まったく、よりによって気難しい人に出会ったもんだ」

 

 呆れていた衛は偶然、山脈へ続く登り坂の上空に小さな影を見た。

 

「ん?」

 

 影は、ぐんぐんとこちらに向かって迫って来る。

 近づいてくる羽音。

 予想以上に速い。

 

「伏せろ!!」

 

 ミミやうさぎたちを庇ってしゃがんだ男たちのすぐ真上を、巨大な緑色の角が通過した。

 一緒にしゃがんでいたうさぎは、恐る恐る前を確認する。

 

 上空からゆっくりと降りてきたのは、巨大な甲虫だった。

 カマキリの頭と鎌、カブトムシの角と身体を掛け合わせたような姿である。

 6mの巨体を持つそれは、薄羽を目に見えぬ速度で震わせホバリングしている。

 

「う、うえ~っ、まさかあれ……」

 

 案の定うさぎは怪物の姿に慄くが、同じものを見据えるリーダーの表情は変わらない。

 

「ああ、徹甲虫アルセルタスだ!」

 

 リーダーはミミを後ろに突き飛ばし、無理やり遠ざけた。

 彼は背負う双剣の柄に手を添える。

 

「もうっ、妖魔になったんなら空気ぐらい読みなさいよっ……!」

 

 ミミは唇を噛んで小さく毒づいたが、それは誰にも聞こえていない。

 

 怪物は紫の息を漏らしながら鎌を擦り合わせ、ちきちきちき、と威嚇するように唸る。

 衛も片手剣『アサシンカリンガ』を抜刀して叫んだ。

 

「やはり『霧』に感染してる!報告通りだ!」

 

 アルセルタスはぶぅんと翅をはためかせ、狩人たちに急接近すると空中から鎌を振りかざした。

 大袈裟に振りかぶったため、動きは読みやすい。

 最も前方にいたうさぎは咄嗟に盾を構える。

 衝撃と振動が盾から彼女の身体へと伝わり、危うく吹っ飛ばされそうになるがこらえた。

 そこでうさぎは気持ちを入れ替え、亜美に叫んだ。

 

「亜美ちゃんっ!」

 

「ええ!」

 

 亜美は既にライトボウガンに通常弾を装填し、後方にスタンバイしていた。

 『ハンターライフル』から放たれた弾はアルセルタスの角に当たり、破片とともに白い筋を残す。

 気を取られた隙を狙い、うさぎと衛が斬り込む。

 

「……ほう」

 

 その息の合いように、リーダーは背の双剣の柄に手を伸ばしながら注目していた。

 

 数ヶ月前、旅で滞在したココット村にてハンター稼業を発心。

 以降才能を開花させ、ドスランポス2頭、『霧』に侵されたドスマッカォ、リオレイアとディノバルドを討伐、そしてイャンクックとライゼクスを撃退。

 そして表立ってギルドカードに書かれてはいないが、あの金髪の娘はリオレウスを単身で相手取り、瀕死まで追い込んだと言う。

 

 筆頭ハンターたちが彼女たちについて得ていた情報はそれだけだった。

 常人とは思えない出世と実績である。

 

 そしていまそれを実証するように、彼らは歴戦の戦士のごとき身の裁きを見せている。

 初期は互いの武器が当たって怪我をする初心者も多い。

 彼らのような動きは、よほど信頼が構築されていないと不可能である。

 

 リーダーは柄を引きながら小さく独り言ちた。

 

「どうやら商人殿の情報は事実のようだ」

 

 1対の鞘からまず青色が現れ、引き抜かれるにつれて鮮やかな赤紫へと色が変わっていく。

 双剣を天にかざして重ね合わせ、目を瞑る。

 刃同士が擦れ合い熱を帯びる。

 

「っ──」

 

 彼が目を見開くと同時に、剣から凄まじい気が立ち昇った。

 

 『鬼人化』。

 

 双剣使いが必ず習得する狩猟術である。

 集中と昂奮による一時的な強化状態であり、目にもとまらぬ斬撃が他の武器にない強みとなる。

 

 リーダーは獲物を見据え、柄をくるりと回して剣を逆手に持った。

 今一度、位置関係を見定める。

 獲物は、段差の向こうで仲間たちと攻防を繰り広げている。

 ならば、やることは一つ。

 男は獲物を睨み据えて駆け出した。

 

「ヤツを地面に落とす!そこから退いてくれ!」

 

 覇気のある声に、うさぎたちはただならぬ気配を感じて飛びのく。

 アルセルタスは気づかず、狩人たちを近づけまいと鎌を横ざまに回転させ振り抜いた。

 その勢いで目の前に腹部が来た。

 恰好のタイミングである。

 

「……落ちろ!」

 

 段差を蹴って跳ぶ。

 空中で身体は螺旋を描き、アルセルタスの腹にそのまま突っ込んだ。

 数秒のうちに数え切れぬほどの斬撃が獲物を抉る。

 

 人間業とは思えないその光景に、うさぎたちは目を白黒させた。

 アルセルタスはたまらず仰向けになって地に落ちた。

 脚をばたつかせる怪物をうさぎたちが見つめていると、華麗に着地したリーダーは剣を構え直し叫んだ。

 

「ここは私に任せろ!君たちはその女性を安全な場所に保護してくれ!」

 

「……あの人なら1人でも大丈夫そうだな」

 

 衛の言葉に疑いの余地はなく、うさぎと亜美は頷いて素直にリーダーの指示に従った。

 

「よし、じゃあ一緒に逃げるわよミミさん!」

 

 彼らは同じく呆然としていたミミを無理やり押し出し、『エリア2』へ続く坂へ向かう。

 

「ちょっと、小娘2人は余計って言ってるでしょ!?」

 

 ミミは睨みながら抗議するが、聞き入れる者はいない。

 その時、足元が突然激しく揺れた。

 

「地鳴り!?」

 

 うさぎたちの前方の地面がひび割れた。

 割れ目の間から、轟音とともに土煙が噴きあがった。

 

「何よもう、次から次へと!」

 

 ミミが不愉快そうに叫んだ。

 

 巨大な甲羅のようなものが、地中から這いだした。

 厚く平たい身体に4つの脚がついているのだけは辛うじて分かった。

 地中に残っていた細長い尻尾らしきものが最後に出てくる。

 少なくとも、竜や獣の類ではない。身体の構造は蠍のそれに近かった。

 重々しいブオォン、という鳴き声は、まるで機械の駆動音のようだった。

 

「ゲネル・セルタス!!」

 

 リーダーが振り返って叫んだ。

 




サンブレイク楽しみすぎ……!ガンランス強くなっててくれお願いだから。
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