セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて 作:Misma
煙の中からゆっくりと姿を現わしたその姿は、アルセルタスとは似ても似つかなかった。
アルセルタスより二回りは大きい体躯を誇り、その体格差はまるで大人と子どもである。
平たい身体を白いラインの入った玉虫色の装甲が覆い、正面下部には黄色の目が光り、その頭部を護るように鋭い大顎がぐわりと開いている。
甲冑のごとく甲殻が重なった4本の脚は力強く大地を踏みしめ、地鳴りさえ発生させている。
末広がりの尻尾の先は二又に分かれ、丸い鋏のようになって動いていた。
ゲネル・セルタスは、汽笛のような雄たけびを上げるとうさぎたちに向かって突進した。
道幅いっぱいに広がる巨体からは、後退するほかない。
「わああ、ちょっと!」
巨体に見合わない速度に押され、うさぎたちはリーダーの近くへ戻されてしまった。
ちょうど、アルセルタスとゲネル・セルタスによって挟まれる格好である。
「まさか、これがアルセルタスの番ですか?」
亜美がライトボウガンを構えて聞くと、リーダーは首を縦に振った。
「ああ、あいつは雌だ」
「え、あんなにごついのに!?」
うさぎは純粋に驚いていた。
アルセルタスは紫の息を漏らしながら、ゲネル・セルタスの来訪を喜ぶかのように周りを飛びまわる。
「夫のピンチに駆け付けたのね!やっぱり愛のパワーってすごいわ」
「俺たちも負けちゃいられないな」
うさぎと衛は2頭の様子を見て気を取り直し、剣を構えた。
「気を付けろ。先入観に囚われるのは狩りの場では危険だ」
リーダーはちらりと目線を後ろにやって呟いたが、その意味を彼女たちはまだ知らない。
ゲネル・セルタスが突然、全身の隙間から黄土色のガスを噴出した。
むっとするような匂いが立ち込める。
「にゃ、にゃにこれくっちゃー!」
うさぎは屈んで鼻をつまんだ。
「フェロモンガスだ。あれでアルセルタスを操る」
「操る?」
衛が思わず聞き返した。
アルセルタスは振り向き、ゲネル・セルタスの頭上に飛んでいく。
彼は背の甲殻に脚を置く。
張り切るように折り畳まれていた鎌を広げ、万歳をするように威嚇する。
その姿はまさしく『合体形態』であった。
機動力のアルセルタス、破壊力のゲネル・セルタス。
これらが組み合わさることで、この甲虫種は飛竜に匹敵するほどの脅威をもたらす。
上の雄は腐食液や長くなった鎌で亜美の射撃を牽制し、下の雌は周囲を鋏で薙ぎ払いうさぎたちを近づけない。
まさに遠近両対応の無敵要塞だ。
不意にゲネル・セルタスがミミめがけ、口元に水泡を噴き出し始めた。
「ひっ……」
咄嗟に近くにいたリーダーが庇って倒れ込むと、頭上を圧縮された水の砲弾が3連発通り過ぎた。
直後、大爆発とともに背後にあった岩石の壁が深く窪んだ。
「あ、あ、あんな奴がいるなんて、きょ、教授から聞いてないわよ!」
ロマンチズムに浸る暇すらなく、ミミはただ震えている。
だが、ゲネル・セルタスは砲撃の余波で後ずさりして隙ができた。
「今のうちにあっちから平野の方へ逃げろ!適当な物陰に隠れ、あとの救助を待ってくれ!」
先ほど通ろうとしていた『エリア2』への道を指さし、リーダーは叫んだ。
「は……はいいっ!!」
ミミはつまずきながらも坂の下へ逃げていった。
彼らは、遠方から着実にダメージを負わせてくる亜美に目標を切り替えた。
「次は何をしてくるかしら」
亜美は身構えたが、これまで至って動きは読みやすかったためそこまで警戒はしていなかった。
アルセルタスが背の甲殻のへりに脚をひっかける。
彼は翅を震わせると、なんとゲネル・セルタスを自身の力だけで持ち上げ宙に浮かせた。
「えっ……」
そのまま地面すれすれで飛んで突っ込んでくる。
雌雄の体格差からはとても予想のつかない攻撃に、亜美は度肝を抜かれた。
幸い遠くからの攻撃だったため回避が間に合った。
しかし攻撃は止まない。
着地してから振り向くと、アルセルタスが自身の角を地面に突き刺し、そのままゲネル・セルタスが発進した。
生きる重戦車が地を削りながら迫る。
『重量級』が出してよい速度ではない。
「なんてコンビネーションだ!」
「もう、なんだか悔しいくらい!」
衛とうさぎも轢かれそうになり、急いで退避する。
とても夫が『霧』に感染しているとは思えない連携だった。
攻撃を加える暇などどこにもない。
そんな中、アルセルタスを覆う『霧』はより一層濃くなりつつあった。
「みんな、一刻も早くアルセルタスだけでも倒した方がいいかも!」
なんとか攻撃を避け切った亜美が叫んだ。うさぎが傍に寄る。
「どうして?」
「『霧』の性質が狂竜ウイルスと共通するなら、ずっとあれだけ近くにいると感染する可能性があるわ」
「……どうしよう……」
うさぎは迷った。ここで浄化しようにも、リーダーの前では変身できない。
しかし、振り向いた巨大虫夫婦を見て彼女はひとつ発見をした。
「あっ、疲れてる!」
いかに強大であっても、やはりそこは生物であった。
大技を連発したせいなのか、両者とも目の光が弱くなり涎を垂らしている。
彼女はリーダーに急き立てるように手を挙げる。
「リーダーさん、ちょっと提案があるんですけど!」
「なんだ?」
「ここであたしたちがあの子たちを疲れてる間引きつけるから、リーダーさんはミミさんを連れて戻るってのはどう!?」
これならミミを救出できるし、変身して浄化、相手を調べる時間も出来る。
亜美と衛は、はっとしてうさぎの横顔を見つめた。
だが、リーダーはしばらく考えたあと渋い顔をした。
「……それはむしろ逆の役割だろう」
彼はためらいながらも、提案をはっきりとはねつけた。
「こういう場合、普通は経験者が危険を背負うものだ。一年もハンターをしていない者に任せきることはできない」
リーダーはそう言ってから怪物たちの方を指さした。
「それに、恐らくそんな悠長なことをしてる時間はない」
「?」
その時、ガッと何かを掴む音とともに絞り出すような呻きが聞こえた。
うさぎたちは、彼らから外していた視線を元に戻した。
ゲネル・セルタスが、鋏で頭上のアルセルタスを掴んでいる。
彼はもがくも、背中から引きはがされる。
ゲネル・セルタスはそのまま、彼女の番を後方の地面に叩きつけた。
「えっ」
その身が何度も打ち付けられ、破壊される。
「な、なにしてるの!?」
うさぎだけでなく、衛と亜美も困惑していた。
彼女の眼前にぽとんと落とされると、アルセルタスは転がって仰向けにひっくり返った。
動く気配はない。
既に事切れていた。
「今のうちに準備をしろ!」
リーダーの指示が飛ぶ。
うさぎたちはついさっきまで生きていた骸を前に呆然としていた。
「ぼうっと見てる暇はない!」
それを受けて、慌てて砥石を取り出し武器を研ぎにかかった。
だが、どうしても気になって上目で見てしまう。
その光景が視界に飛び込んできた時、うさぎは目を見開いた。
食べている。
ゲネル・セルタスは番の身体を引きちぎり、大顎を手のように使って口へ運んでいる。
涙を流すこともなく、黄色い目は無機質な眼差しで
うさぎは砥石を手から取り落とした。
「……あれは恐らく感染するな」
そう呟いたリーダーは、既に双剣を研ぎ終わっていた。
やがてゲネル・セルタスの身体に変化が生じた。甲羅が次第にほのかな紫色を帯び始め、口から黒い靄を吐き出し始める。
雄の身体がある程度無くなると、ゲネル・セルタスは満足したように身体を持ち上げて咆哮し、蒸気を甲殻の間から噴き出した。
予想通り、彼女も『霧』に感染した。
──
調査隊の飛行船は、低空に停泊している。
緊急時にいつでもより早く現場に駆け付けるためである。
船上では、残ったメンバーがうさぎたちが調査から戻って来るのを待つ。
ルーキーとガンナーは落ち着いた表情で武器の点検と整備をしている。
しかし、少し離れた場所で顔を突き合わせている少女たちは様子が違った。
「……やっぱり強い妖気を感じるわ。さっきより一層濃くなってる」
レイが目を閉じて正座し、妖魔の力を感じ取りながら言った。彼女が生まれ持つ特殊能力である。
「行く、べきかしら」
レイは、迷うように美奈子の顔を見つめた。
普段は元気のよい彼女でさえも、先のことを引きずっているのかややしょんぼりとしている。
「あたしたちが行ったら余計に事態が悪化しない?」
自分たちが『魔女』と呼ばれる姿であの男の前に現れれば、当然混乱をもたらすだろう。
当然、ガンナーとルーキーの目もある。
彼らの立場と後のことを考えれば、行くのは明らかに得策ではない。
「……なあ、こういう場合どうする」
まことが、うつむいて腕を組みながら言った。
「どうするって……」
「もしかしたら、またあの人の足引っ張っちゃうかもしれないわよ?」
彼女が視線を上げ、閉じていた目を開けた。
「好きになった人1人護りにいけないんじゃ、セーラー戦士の名が泣くんじゃないのかい?」
その瞳には、既にめらめらと闘志が燃え上がっていた。
レイはそれを見て静かに口角を上げた。
「さすが一目惚れ第一号ね」
「よし、そうとなれば!」
美奈子は膝を叩いて立ち上がった。
筆頭ハンターたちはそれに気づき、何事かと見つめ上げる。
「ルーキーさん、ガンナーさん!あたしたち、ちょっと中で静粛に反省会してきます」
そう言った美奈子に、ガンナーは微笑で答える。
「良いわよ。別の部屋使う?」
彼女が個室へ続く階段を親指で示したのに対し、少女たちは頷きつつ礼を言った。
「少しの間ですけど、鍵かけるんでお願いします!」
彼女たちはそう言ったきり早足で階段を下りていった。
ルーキーは特に咎めることなくりょーかーい、と返事したが、少し経ってから隣に座るガンナーに顔を近づけた。
「なに話すつもりなんスかね?」
「乙女同士の話題には顔を突っ込まないものよ、ルーキー君」
ガンナーは顔を上げないまま答え、ボウガンの動作確認を進めた。
ドアを閉じると、少女たちは1つだけある丸い窓を見据えた。
通常気圧の関係で閉じられる窓は、現在解放され風が入ってきている。
ぎりぎり少女1人がくぐれるほどの大きさだった。
「さあ、行くわよ!」
少女たちは室内の窓から跳び降り、ロッドを取り出した。
_人人人人人人人人人人人人人_
> カ ル チ ャ ー シ ョ ッ ク ! <
 ̄YYYYYYYYYYYYY ̄
(ぽかぽか村風)
(主はぽかぽか未プレイです)
あと、前回初めての感想頂いてとても嬉しかったです!
ログイン非ログイン問わず、感想いつでもお待ちしてます!どうぞお気軽に投下してください!(参考の意味合いも兼ねて)