セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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赤き大地に鳴らす甲冑⑤

 

 バルバレに帰ってきてからというもの、レイ、まこと、美奈子は人が変わったように勉学に打ち込み始めた。

 今では、本がテントの天井に届くかと思えるほど棚積みされている。

 

「ひゃー、まるで塾ねこりゃ!」

 

 うさぎは机に肘をつき、本の山を見上げて感心していた。

 

「すごいわね、目標がある人の勢いって……」

 

 亜美もこの熱気には驚いているようだった。

 その膝に乗っているちびうさが、頭を亜美の胸に預けて彼女の顔を逆さに見つめた。

 

「ねーねー亜美ちゃん!昨日の続き、あたしにも読んでー!」

 

「ええ、いいわよ」

 

 亜美はしおりを取り出すと本の続きを読み聞かせる。

 ちびうさにもわかるように、平易な単語に置き換えつつ話した。

 

「この前からちびうさまで3人にかぶれちゃって、どうしたもんかしら」

 

 うさぎは深くため息を吐き出した。

 こうしてみると、うさぎだけがサボっているようにも見えてしまう。

 

「だって、読んだぶんうさぎより賢くなれるもーん!」

 

 彼女はその状況を見透かしたように、得意げににやつく。

 それを見せつけられたうさぎは、小さく歯ぎしりした。

 

「何度でも言うけど、お子さまが行っていいとこじゃないってことだけははっきりと言っとくわよ!」

 

「動機はともかく、情報に触れてみるのはいいことよ。うさぎちゃんも読んでみたら?」

 

 亜美が見せてきた本のタイトルは、『諸地域の地理とバイオームとの関連性についての共同研究報告18』。報告書なのに、図鑑ほどの厚さである。

 

「……今は遠慮しとくー」

 

 うさぎは断ると、退屈そうにジュースをすすり始めた。

 一方、まことと美奈子は調合書をめくりまくっている。

 

「あれ?秘薬の調合って栄養剤グレートと何だっけ?」

 

「それは古いやり方よ!確か増強剤とニトロダケ……」

 

「ちょっと、それじゃ爆発しちまうよ!えーっとえーっと……」

 

 まことと美奈子の脳内で回路が暴走し始め、ぐちゃぐちゃに絡み合って──

 遂に爆発した。

 

「……だー---!!」

 

 2人は、床に仰向けに伸びた。

 

「あーもう頭がこんがらがるー!」

 

「筆頭ハンターさんってこれ全部覚えてんのー!?」

 

「いや……最近のハンターさんはみんなやってるらしいよ……」

 

「ますます意味わかんなーい!!」

 

 寝転がりながら唸っている2人をよそに、レイは涼しい顔をしている。

 

「ほら2人とも、もたもたしてるとレイちゃんが抜け駆けしちゃうわよ?」

 

「ちくしょーそういうわけにいくかー!」

 

「よーしやるぞー!」

 

 まことと美奈子が奮起すると、再び3人は熟読し始めた。

 

「……3人もこの前みたいに褒められたいのね」

 

 アルテミスと並んで丸まっていたルナが小さく呟いた。

 突然、美奈子が立ち上がった。

 

「褒められるだけじゃないわ!」

 

「鍛錬して、あの人にたくさん貢献して、認められて!」

 

「敵を蹴散らしたら、あの人と素敵な思い出たくさん作るのよー!」

 

 まこととレイは拳を振り上げ夢を意気揚々と語る。

 

「ほんっと、この先の不安とかそういうものが一切なくて羨ましいよ……敵が何をしてくるか全く読めないってのにさ」

 

 アルテミスが呆れたように言った。

 うさぎは、先日のミメットの言葉を思い出しながら物思いに耽った。

 

「ミメット……一体なに企んでるのかな」

 

 

 数日後、少女たちに団長からある一報が届いた。

 もう1人の筆頭ハンターが是非とも話し合いたいのだという。

 彼はかつてリーダーや団長とともに行動したことがあるベテランで、ギルドからの信頼も厚いらしい。

 あちら側からの要望で、実際に先日調査に赴いたうさぎ、衛、亜美が団長の立ち合いの元で彼と会うことになった。

 

「あいつと会うのも久しぶりだなあ!どんな土産話を持ってくるんだか」

 

 街道を歩く団長はそう言って期待を顔で分かるほど膨らませていた。

 待ち合わせは、狩人たちの集会所となっている竜頭船の入り口だった。

 

「やあ、君たちかね。最近ジュリアスを悩ませている姫君たちは」

 

 狩人が行きかうなか、にこにこと笑いながら彼は出迎えた。

 黄色の塔のような巨大槍を背負う、筋肉質で顔が四角い中年男性だった。

 頑健な見た目に反し、口調と表情は至って紳士的である。

 

「この度はご迷惑をおかけしてすみません」

 

「リーダーさんがお忙しいなか、うちの者たちが……」

 

 亜美と衛がぺこりと頭を下げた。うさぎも慌てて続く。

 だが、彼は取り立てて気にしていないようだった。

 

「はっはっは!むしろ仕事一筋な彼にはいい薬になるさ。さあ、入ろう」

 

 集会所は、真昼間から酒、食い物、喧騒に溢れかえっている。

 クエスト出発口となる奥の出口からは、太陽光が真っ白に差し込んでいた。

 広い円形のテーブルが置かれている酒場では、数人の飲んだくれのハンターが豪快にがなっている。

 彼らを避け、彼らは隅っこにあるテーブルに行った。

 

「貴方のことは、なんとお呼びすれば?」

 

 席に着いた衛が聞くと、男は微笑んだ。

 

「名乗るほどの者ではない。気軽にランサーとでも言いたまえ」

 

 大ベテランの肩書からは意外に思えるほど腰が低い人だった。彼は続けた。

 

「今回来たのは他でもない。霧と魔女について更なる情報を得たので、先鋭隊たる君たちに挨拶も兼ねて伝えにきたってわけさ」

 

 団長は大声でメイドにビールを頼んだあと、にやりとして腕を組んでみせた。

 

「こいつには今からでも媚びを売っておけよ。なんたってギルドお抱えの生物学者だからな!」

 

「買いかぶるのはよせよ、団長」

 

 ランサーは片手を振って謙遜するとテーブルに手を置き、ずいと前のめりになった。

 

「では、君たちも聞きたいだろうから本題に入ろう。まず、アルセルタスの細胞のサンプルから、狂竜ウイルスに酷似した構成要素が検出された」

 

「……ま、これは予想通りだな」

 

 団長は納得げにうなずき、うさぎたちもそれに同意した。

 

「まず説明しておくと、狂竜ウイルスは一般に言われるウイルスじゃない。症状の出方から便宜上そう言われているだけだ」

 

「確か、ゴア・マガラが発する鱗粉のことをそう呼ぶんですよね?」

 

 亜美が答えると、ランサーは嬉しそうな顔をした。

 

「お、流石よく知ってるね。そう、ゴア・マガラの鱗粉は盲目の彼が周囲を把握するためのものだ。その副産物として、それを取り込んだ生物の凶暴化がある」

 

 彼の糸目がちな瞼が開かれ、うさぎたちを真っすぐ見つめた。

 

「その意味で、今回の霧に狂竜ウイルスという呼称はふさわしくないと考えている」

 

「どういうことですか?」

 

 衛が単刀直入に聞いた。

 

「感染力が恐ろしいほどに弱く、目立った凶暴化もない。全くの別物だ」

 

 重々しい口調のまま、ランサーは答えた。

 意外な事実に、3人は戸惑いの表情を浮かべる。

 団長の目つきが剣呑としたものに変わった。

 

「本来は数日で急速に感染が広がるはずだが、今回、遺跡平原での感染拡大はない。目立った凶暴化もしないから積極的な感染がないんだ。『狂竜ウイルス』としては大きすぎる欠陥といえる」

 

「じゃあ、前と比べたら被害は少ないんですね!」

 

 うさぎはひとまず頬を緩ませたが、ランサーは難しい顔のままだった。

 

「代わりに厄介なのが、捕食を介さない生命力の吸収だ」

 

 かつてライゼクスが見せた、エナジー吸収のことだ。

 彼は、学者らしい冷静な口調を保っている。

 

「原理は解明できていないが、霧に感染したモンスターはほぼすべてこの能力を手に入れる。おそらく、遺伝子レベルから体の仕組みを書き換えているのだろう」

 

「で、その集めた生命力をどうするんだ。そのまま消化しちまうってわけじゃないよな」

 

 少女たちは、口を挟んだ団長に振り向いた。

 ビールをあおる男の瞳は、底に冷静な色を帯びている。

 ランサーは似たような目つきで見つめ返し、籠手に覆われた手の甲で顎を擦った。

 

「噂通りバルバレの破壊のみが目的なら、わざわざ威力を弱くする必要はあるまい。吸収以外にもっと別の性質をあのウイルスは隠し持っているはずだ」

 

「別の性質……ですか」

 

 亜美が目を細め、テーブルを見つめた。

 

 あれだけ派手なご入場である。ミメットは既に気づいて動き出していると考えてよい。

 だが、バルバレは人口が多いうえに人の出入りが激しい地域である。ココット村のような閉鎖空間を前提とするユージアル案の実行は難しい。

 先日の自信たっぷりな態度の意味を知る鍵があるとすれば、ランサーが話題としたウイルスの性質であった。

 

「そこでひとつ気になるのは、肝心のゴア・マガラがまったく見つからないことだ」

 

 亜美は顔を上げた。

 

「これだけ世界中のハンターが躍起になっているのに、感染源はどこにも見えない。狂竜症の件で、かの種の特定方法は確立されているのにも関わらず、だ」

 

 ランサーは、ちらりと団長を一瞥した。

 

「そろそろ、そちらの英雄殿から連絡はないのか?単独で世界を回ってると聞いているが」

 

 少女たちの頬が引きつった。

 英雄と聞いて思い出すのは……。

 あの、パンイチでダレン・モーランから街を救い、素手で団長の頭蓋骨を割れると噂の狩人である。

 

「ま、まつ毛のハンターさんのことですか?」

 

 うさぎが聞くと、団長は微笑んで片目をつぶってみせてからランサーへと向き直った。

 

「いいやぁ。お嬢は元気に火山駆け回ってるかとか、娘ッコはそろそろ反抗期かとか、歳なんだからそろそろ酒やめろとか、そんないつものやり取りさ」

 

 団長は、空になったジョッキを顔の横におどけたように掲げて見せた。

 緊張していたはずのうさぎたちの顔がほっとして緩んだ。

 どんな人なのか想像もつかなかったが、気のいい人らしい。

 ランサーはそうか、と真面目な顔で頷くと、そのまま顔をうさぎたちの方へ向けた。

 

「君たちの立場から、何か伝えておきたいことはあるかね?」

 

 迷いを秘めた視線が3人の間で交差した。

 目の前にいる男は、狩人たちを束ねる組織、ハンターズギルドの中枢に近い人物である。あまり下手なことは言えない。

 しばらくじっと考えたのち、衛が一番に答えた。

 

「魔女は……今囁かれてるやつらとは違うかもしれません」

 

「というと?」

 

 本当の敵を教える最大のチャンスだ。

 半ば一縷の願望を込めるように、衛は慎重深く続けた。

 

「魔女たちは、もっと狡猾な可能性があります」

 

 テーブルの下、膝に置いた手に力がこもった。

 

「例えば、身代わりを立てるとか、助言者を装うとか……意外な手を使って潜伏しているかもしれません」

 

 衛が述べたのは、いずれもユージアルがかつて使った手法だった。

 ランサーは、その短い内容を興味深そうに聞いていた。

 

「なるほど。確かに、我々も最近の研究は霧のことばかりで、魔女の方がやや手薄になっている。今度の学者会議でその可能性を具申してみよう」

 

「本当ですか!」

 

 深く頷いたランサーを見て、うさぎたちは心中胸を撫でおろした。

 そこに、筋肉隆々の腕がすっと上がった。

 

「なるほど、魔女そのものにも焦点を当てる、か。俺もちょっと考えたこと、喋らせてもらっていいかな?」

 

 団長は、ジョッキを置いてからその右肘をテーブルに置いた。

 

「これは直感なんだがな、どうも問題となってる魔女……どこか奥深くに潜んでるようにみんな思ってるが、俺には案外近くにいるかもって感じるんだ」

 

 その一言に、一転して少女たちは冷や水をかけられた面持ちになった。

 蒸し暑い空気が肌にまとわりつく心地がした。

 

「彼女たちはなぜあの事件のとき、わざわざ危険を冒して他の船を挑発した?俺にはそれが、ずっと引っかかっていてね」

 

 旧き友人の言葉に耳を傾けながら、ランサーは険しく目を光らせた。

 

「この前の豪山龍と峯山龍の件か」

 

 団長は髭をいじりながら、天井のシャンデリアを考え深げに見上げた。

 円状に幾本も並べられた蝋燭は、下の喧騒に反して静かに天井を照らしている。

 

「俺たちが思ってるより、この異変……裏でいろんな考えが巡っている気がしてならないんだ。俺たちには想像もつかん次元の上での考えがな」

 

 しばらく沈黙の時間が流れた。

 うさぎが冷や汗をかきながら視線を彷徨わせると、亜美がそれをじっと見つめ制した。

 ランサーはそれを断ち切るように手をぱちん、と叩いた。

 

「なるほど、どちらの意見もしかと記憶しておこう。協力に心より感謝する」

 

 今度こそ、うさぎたちは心の底から安堵した。

 

 対談はつつがなく終わった。

 帰り際に、少女たちはランサーから次回の調査予定地を直接伝えられた。

 次は、より本格的かつ広範囲に調査の範囲を広げるらしい。

 また、ランサー自身も数年ぶりに、筆頭ハンターとして調査に協力することも合わせて伝えられることとなった。

 




今回から書き方をちょっと変えて心情の表現を入れ始めてます。完全三人称で書くのに限界を感じ始めているので。(脚本か他人事みたいな文章になってしまう)
あと、休息と、マッサージやストレッチやりまくったおかげで腱鞘炎もだいぶ治ってきました。ゲームはあまり長くやれませんが執筆はなんとかなりそう。
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