セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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猿蟹合戦①

 

「亜美ちゃん、前の続きのお話聞かせて―!」

 

 テントに帰ってきた途端、ちびうさはうきうきした表情で亜美の膝にぽすん、と飛び乗った。

 

「ええ、確か原生林のところからだったかしら?」

 

 そう言って彼女が分厚い本からしおりを取り出すのを、うさぎは見ていた。

 数日後に向かう次の調査予定地は、『原生林』と『沼地』だった。

 折しも、亜美がちびうさにいま語って聞かせている土地だった。

 

「そうそう、謎の巨大骨についてだったわね」

 

「わーい、楽しみー!」

 

 ちびうさは脚を揺らして講義を楽しみ始めた。

 

「まーよく飽きないこと」

 

 またしても、本を読んでいないのはうさぎだけになった。

 相変わらず、残りの戦士たちは本を前にうんうん唸っている。

 

 ここにしか生息しない美しい瑠璃蝶に、毒沼に生える超巨大キノコ、空に広がる屋根のような蜘蛛の巣。

 次々に亜美の口から飛び出す未知の世界に、幼い少女は目を輝かせていた。

 

「……でね、ここにはダイミョウザザミっていう巨大なヤドカリのような生物がいるの。雑食性だけど、主に砂の中にいる小動物や虫、植物を食べるわ」

 

「へー。ってことは、大人しい子なの?」

 

「ええ……自分から争いをしかけるようなことは稀ね。でも、いざ相手にしたら意外に大変らしいわよ」

 

「え、どんな風に?」

 

 彼女からとめどなく質問が飛び出すので、亜美もなかなか手を焼いているようだった。

 

「うさぎちゃんも読んであげりゃあいいのよ、これじゃあ亜美ちゃんがママみたいだわ」

 

 早くも山積みの本を横にくたばっている美奈子から発言が飛んできた。

 

「ダメダメ、うさぎの頭じゃあ絵本の読み聞かせでやっとよ」

 

「むーっ!」

 

 レイからのやじを聞いて膨れ上がったうさぎだったが、開き直ったように胸を張って落ち着いた。

 

「あーもうあたしはいいのよ!亜美ちゃんの方がずっと知識あって説明上手いんだし!ちびうさも、今そうやってるの楽しいんでしょ?」

 

「うん!」

 

 ちびうさの顔に浮かんだのは、屈託のない表情だった。

 

「じゃあそれでいいじゃない。せーぜー、あたしに追いつけるように頑張んなさい」

 

 亜美は、ちびうさに答えるように浮かんだうさぎの笑みを見てあれ、と思った。

 彼女の目は未来の母親らしく見守るような暖かみを帯びていたが、一方で遠くのものを見つめるような孤独さも感じられた。

 

「あたしは、今のうちにまもちゃんと一緒に訓練してくるから!じゃね!」

 

 本の山に背を向けて、彼女は近くにある訓練場へとすっ飛んで行った。

 彼女の背中に向かって、ちびうさは挑発するように片目を剥いてベロを突き出してみせた。

 

「けっ、あたしを舐めてたらひどい目に遭うわよーだ」

 

「ねえ亜美ちゃん、続き早くー!」

 

「あ、はいはい……」

 

 ちびうさに続きをせがまれたので、一瞬感じた疑問は搔き消えていった。

 

──

 

 数日後、調査を翌日に控えた日にちびうさが言ったことはみなを驚かせた。

 

 

「ねーお願い、お願いったらー!!」

 

 

 袖を引っ張るちびうさを、うさぎは何とか引き離した。

 

「だからダメつってんでしょ!それ装備なんて言い張っても無駄ですからね!」

 

 目の前の少女は紐でフライパンを胸の前に縫い付け、手にはおたまを持っている。

 指摘されて彼女は、ぐっと視線をきつくした。

 

「今まで我慢してたけど、やっぱり1人だけでお留守番なんて嫌よ!今までみたいに、あたしも一緒に戦う!」

 

 ちびうさがうさぎ相手に退かないのはいつものことだったが、今回はそれに増して頑なだった。

 

「あたしが、外の世界についてあんなに喋っちゃったからかしら……」

 

 亜美が反省したように目を伏せると、そこにまことが肩に手を置いて励ました。

 

「しかたないよ。どちらにしろ、いずれこうなってたさ」

 

 ちびうさも他の戦士より力が弱いとはいえ、これまでの戦いでは常に行動を共にしてきた。

 彼女からすれば、いきなり戦線から外されたことに、当然納得はできないだろう。

 うさぎは一旦ため息を吐き、屈んでちびうさと同じ高さに目線を合わせた。

 

「ちびうさ、あの時も言ったでしょ?元の世界とここでは戦いのやり方も意味も違うって」

 

「そのくらい分かってるわ!でっかい武器で怪物たちを倒して、ここの人たちとあたしたちの世界を護るんでしょ!」

 

 ちびうさは即答すると、おたまを剣に見立ててきりっとした顔で構えてみせた。

 レイがうさぎの隣に屈み、優しく語りかけた。

 

「……ちびうさちゃんが思ってるのとは全然違うわ」

 

「どういう風によ!」

 

 ちびうさが強気な口調で噛みつくと、少女たちは困ったように互いの顔を見合わせた。

 うさぎは肩をひっつかんでこちら側に向かせた。

 

「まずあんた、どうやってあんな重い武器持つのよ。あたしたちはセーラースーツで何とかなってるけど、あんたはどう見たって無理でしょうが!」

 

「そ、それはうさぎが使ってるような片手剣なら……」

 

「それにね、今戦ってるのはそんな善悪で区切れるような相手じゃないわ。妖魔とは全然違う、あたしたちと同じ生き物よ」

 

「でも、ビリビリしたやつがあの竜の子を襲おうとしたとき、うさぎたちはあいつと戦ったじゃない!その子が生まれた卵だって、うさぎたちが助けたんでしょ?」

 

 はっとしてうさぎは目を見開いた。

 ココット村にいたとき、うさぎたちは飛竜の夫婦を実質的に助け、その幼子を捕食者の手から保護した。あのことを言っているのである。

 うさぎの瞳に一瞬浮かんだ迷いの色を察してか、ちびうさは調子づいたように続けた。

 

「確かに、あたしは弱いかもしれないわ。だけど、平和を護るためならどんなことだって……」

 

「妖魔相手なら、それでよかったわ」

 

 うさぎはちびうさの両肩を掴みよせて言葉を遮った。

 さっきよりいくらか優しく、必死に言い聞かせるような口調になっていた。

 

「でもね、今は分からないかも知れないけど、みんなあんたのことを思って……」

 

「うさぎのばかっ!」

 

 ちびうさはうさぎの手を振り払い、自分のベッドに飛び込んだ。

 

「あら、拗ねちゃった……」

 

 美奈子がつぶやくと、ルナがちびうさの隣に寄った。

 

「ちびうさちゃん、言っちゃ悪いけど流石に今回はうさぎちゃんの言う通りにしましょ」

 

「そうだよちびうさ、君だって一度見たんだろう?狩りはちびうさには早すぎる」

 

 アルテミスの言葉を背に聞きながらちびうさは布団に潜り込み、いよいよ誰とも口を利かなくなってしまった。

 

──

 

 その夜、うさぎは衛の寝泊りするテントに行き今日起こったことを話した。

 彼は少し宙を見つめた後、うさぎに振り向いた。

 

「うさこ……やっぱり、マハイさんの言う通りかもしれない」

 

 うさぎはうつむいて黙っている。

 一人用のテーブルに置かれたランプが、その横顔を照らしていた。

 

「俺たちは、ちびうさをとにかく外の世界から遠ざけようとしてる。でも、それが本当にあの子のためになるのかな」

 

「でも、それをどうやって伝えればいいの?」

 

 彼女は視線を上げて衛の青い瞳を見つめた。

 

「あたしに会いに行く前、狩りの光景を見てひどく怯えてたんでしょう?あの子、あたしたちが思ってる以上に繊細なのよ」

 

 衛は眉をひそめ、むつかしい顔をした。

 リオレイアを追う途中で見た、ゲリョスの狩猟の話だ。

 1頭の生物を、4人が寄ってたかって叩きのめす。

 ちびうさはこれを「悪の怪物を成敗する行為」として理解し、心の傷を慰めようとしている──。

 恐らく、ちびうさにとってうさぎ──セーラームーンは、この世界における強力な心の拠り所なのだろう。

 

「多分、そこからずっと信じてくれてるのよ。正義の戦士セーラームーンは悪い怪物を倒してくれてるんだって」

 

 そこまで言って、うさぎは伏目がちで自嘲気味に笑った。

 

「でも、実際のあたしはずっと迷ってばかり」

 

 先日の遺跡平原での光景がうさぎの脳裏によぎった。

 

「あれを見てからなぜか落ち着かないの。こんな情けない姿、あの子に見せられない」

 

 理由は分からない。漠然とした不安の塊が、うさぎの心を覆っているようだった。

 彼女は、両手の指を絡ませてゆすった。

 

「あの子をいま連れて行ったら……あの子やあたしたちにとって大切な何かが壊れちゃう気がするの」

 

 そんな彼女をしばらく見て、衛は慰めるようにその頭を撫でた。

 

「俺がちびうさを見といてやるよ。そこで、丁寧に説明していこうと思う。うさこたちは気兼ねなく調査に行ってくれ」

 

「……ありがと、まもちゃん」

 

 うさぎは、衛の肩から首に手をかけ、抱き寄せた。

 

──

 

 いよいよ、調査に出る。

 

 原生林には、亜美、まこと、ランサー、ルーキー。

 沼地には、うさぎ、レイ、リーダー。

 そして旧沼地に美奈子、ガンナー。

 パーティ編成はこのようになった。

 衛、ルナ、アルテミスはちびうさのお目付け役となる。

 

 出発当日、ちびうさは手を振りながらテントから出ていくうさぎたちを見送った。

 その後、彼女はルナ、アルテミスと共に衛のテントに赴いた。

 いくらかこぢんまりとしたそのテントの中は、シンプルに整頓されている。

 木板の床をぎしぎしと踏み、彼女はベッドに腰を下ろした。

 

「うさぎちゃんたちは1週間くらいは帰ってこないらしいから、衛さん独り占めし放題ね」

 

 隣に座ったルナは、そう笑った。

 

 かつてうさぎと取り合った憧れの人。

 確かにちびうさにとって、彼と一緒にいるこの時間は喜びの一時となるはずだった。

 だが、彼女の表情はいまいちうかない。

 ベッドの上に座り何かを考えている。

 

「今、帰ったぞー」

 

 衛がテントの玄関となる布をめくって現れた。

 

「ねえ、まもちゃん」

 

 その姿を認めるなり、彼女はすぐに呼びかけた。

 

「何かをたくさん知りたいって思うことって、駄目なことなのかな?」

 

「……駄目なわけないさ」

 

 衛は、最初からその質問がされるのを知っていたかのように答えた。

 

「じゃあ、なんでみんなあたしを行かせないの?」

 

「ちびうさの体と心を護りたいからだよ」

 

 彼は答えながらちびうさの隣に腰を下ろした。

 

「この世界は、俺たちの世界とは何もかも違う。俺だって連日驚かされることだらけだ」

 

 笑いかけた後、衛は真剣な目つきになった。

 

「外は、こちらの常識が通じるところじゃない。今日信じてたものが、明日裏切られるかもしれない……だからうさこも俺も、せめてちびうさの信じてるものを護りたいんだ」

 

「……そうなんだ」

 

「でも、ちびうさのそういう思いは素晴らしいと思う。だから、一緒にここでこの世界について学んでみないか?」

 

 丁寧に申し出を受けたちびうさは、しばし迷うように床を見つめた。

 

「……じゃあ、亜美ちゃんがあたしに読んでくれてた本読んで!」

 

 はにかみながら叫ぶように言うと、衛は立ち上がってちびうさの頭をぐりぐりと撫でた。

 

「そうかわかった。2匹とも、少しだけの間頼んだぞ」

 

 衛がいなくなると、アルテミスは笑いかけた。

 

「よし、じゃあ衛さんが帰ってくるまでの間、僕らと腕相撲でも……」

 

 だが、そこで猫たちは違和感を感じた。

 ちびうさの目つきが、どこか覚悟を決めたように光っていたからだ。

 彼女は手元に球状の物体を取り出した。

 そこには、にやけた猫の意匠が描かれている。

 

「……ちびうさ?」

 

「ごめん!」

 

 彼女はそのボールをゴムまりのように弾ませた。

 

「ルナPー、変化ー!!」

 

 ぼふん、と煙が立ち込めた。

 

「ちびうさちゃん、なにを……!」

 

 ちびうさはそこからマタタビを取り出し、2匹の鼻にひっ付けてくすぐった。

 

「あ、あらアルテミス、あんた顔が2つになってるわよぉ?」

 

「そういうルナは3つになってるぞぉ~」

 

 2匹は目を回しながらその場に転がり、酔っぱらったように体をうねらせる。

 ちびうさはその光景を後ろ目に走り去っていった。

 

「なんだこの煙は!?」

 

 衛が帰ってきた時、テントがピンク色の煙に覆われていた。

 急いで中に入ると、伸びている猫2匹の姿が飛び込んできた。

 

「ルナ、アルテミス!まさか!」

 

 衛は急いで辺りを見回すが、彼女は既に人混みの中に紛れ、見えなくなっていた。

 

「ごめんなさい、まもちゃん……!」

 

 そう呟くちびうさが向かうは、飛行船の発着場だった。

 

──

 

 出発から3日後、亜美たちのチームは原生林に到着した。

 

「……すごい眺めね」

 

 亜美は、飛行船から見える景色に目を輝かせていた。

 本の記述通り、巨大な骨の化石が屋根のように、鬱蒼と茂る森に覆いかぶさっている。

 飛行船の上空を鳥の群れが飛んでいくが、それでも化石より上には届かない。

 

「よっ」

 

 いきなり背中を叩かれ、その勢いに亜美はその場に突っ伏しそうになる。

 痛そうな顔で赤くなった背中をさすり、彼女は振り向いた。

 

「まこちゃん、少しは手加減してくれないかしら?貴女、ただでさえ力が強いんだから」

 

 まことは「わるいわるい」と苦笑いで軽く詫びを入れ、そのまま亜美と同じ景色を眺めた。

 

「ほんとすごいよね。あんな馬鹿でっかいのが大昔に歩いてたのかなぁ」

 

「本来なら自重で歩けすらしないはずだけど……彼らにそんな常識は通用しないでしょうね」

 

 まことは木の柵に肘を下ろしてため息をついた。

 

「……あの人に夢中なせいで気づかなかったけど、あたしたちって何にも知らないんだな。ちょっと本読んだだけでも思い知らされたよ」

 

「まこちゃん……」

 

「なんだか今更、この世界が怖くなってきちまったよ。まるで、赤ん坊のままおっぽり出されたみたいでさ」

 

 彼女は真剣な目つきで遠くに飛んでいく竜か鳥の影を見ていた。

 亜美の反応がないので横を見ると、彼女は信じられないかのように目を丸くしていた。

 

「……まさかまこちゃんの口からそんな言葉が飛び出すなんて……」

 

「ちょっと、あたしどんな風に思われてんだよ!」

 

 まことは慌て、大声で弁解を始めた。

 亜美がそれを見てぷっと吹きだすと、笑いこけながら手すりから手を離し、まことの正面に向かいなおった。

 

「じゃあ、復習しましょうか。活力剤の調合に必要なものは?」

 

「……えーっと、確かにが虫とニトロダケ……ちょっとなんだよ、その呆れ切った顔!」

 

「……今度から本格的に勉強会開かなきゃね」

 

「ちょっと待ってくれよ、今でも十分限界なのにー!!」

 

 そんなやりとりが行われている一方、船の後方に積まれた樽の蓋がひとりでに開くと、そこから小さな手が伸びた。

 それはちょうど近くにあった干し肉を取り去ると、樽の中へと消えた。

 

 




これから前の短編のように、エピソードごとにタイトルを区切って①、②、③……てしていこうかなと思います。
毎回考えるの割と手間なんだよね…。既存の話も(しおり挟んでくれてる方もいるので手を加えにくいところはあるけど)将来的には一貫性を鑑みてタイトル変える可能性もあります。

あとそういうわけもあって、いつか書いてた「序盤の内容の改訂」については現在保留中です。読む側からしたらはよ続き書けって話だと思うので……。

あとサンブレイクたのしぃぃぃぃ!!今作で、いろいろとこれから出すキャラやモンスターの設定にも変化が生じてきそうなのが怖いけど(笑)
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