セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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ちょっと今回は長いです。


猿蟹合戦②

 

 今回の調査方法はこうだった。

 亜美とルーキーがエリア1、2、3、4の調査を担当し、まこととランサーがエリア6、7、8、9を担当する。

 腕っぷしと経験のバランスを考慮したうえでの配分だった。

 現在確認されているモンスターはいずれも危険度は低いが、油断はあってはならないというランサーの判断によるものだ。

 霧と魔女に関わる何か重要な手がかりが見つかれば、信号弾を撃って合流する。

 霧に侵されたモンスターを発見、または危険を感じた場合も、同様に信号弾を撃つ。

 何もなかった場合は、落日直前には合流するという手筈だ。

 

 エリア1で、彼らは予定通り二手に分かれた。

 まこととランサーがエリア2経由で奥地に向かう一方、亜美とルーキーは比較的温和なエリアを探索する。

 この狩場の地理に明るいルーキーは先頭を行き、エリア4へ続く水辺を揚々と歩いていた。

 

「最近、どう?慣れてきた?」

 

 じゃぶ、じゃぶと足元に浸かる水をかき分けながら、ルーキーが振り向いた。

 亜美ははにかんで答えた。

 

「ええ、少しは」

 

「リーダーが言ってたっスよ、仲間との連携や武器の扱いが初心者とは思えないって。武術とかやってたの?」

 

「……えっと、まあ身体を動かすくらいは」

 

 亜美は答えを濁した。

 まさか戦士をやっているとは言えない。

 

「でも、やっぱり武器の扱いは遠く及ばないです」

 

「はは、俺も先輩ハンターとして、少しはいいとこ見せなきゃな~!」

 

 そう言った途端、彼の足元でべちょっと嫌な音がした。

 

「ルーキーさん、あの、足元……」

 

「あっ」

 

 いつのまにか彼は道をそれ、ぬかるみに片足を突っ込んでいた。

 

「……あっはは!失敗失敗!」

 

 頭を掻いて高らかに笑うルーキーを見て、亜美は少しこの先が不安になった。

 

 

 エリア3と5から流れる川の合流地点であり、森林への入り口とも言えるエリア4に来ると、せせらぎの中に黄色い生物が何匹かたむろしていた。

 緑と橙の縞模様に一対のトサカ、そして口外に飛び出た鋭い牙。

 ランポスに似た肉食竜特有の身体つきだが、眼光はよりきつく、狡猾な印象が増している。

 

 ゲネポスと呼ばれる鳥竜種だ。

 彼らは、2人を見つけるとけたたましく喚き始めた。

 

「どうやら、迎え撃った方がよさそうだな!」

 

 ルーキーが、背中に背負った片手剣を引き抜いた。

 重厚な刀身に、鋼独特の鈍い質感が光る。

 亜美はハンターライフルを構え、引き金を引く。

 

 まず通常弾が1頭の脚に命中した。続いて、腹に。

 だが倒れない。どうやら、ランポスよりは耐久性があるらしい。

 彼女は続けて撃つが、素早い動きの相手にはなかなか思うようには弾が当たらなかった。

 そのうちの1匹が弾幕をかいくぐり、亜美へと光る牙を差し向けた。

 

「っ……!」

 

「無理は禁物!ここは先輩の俺に任せるっス!」

 

 亜美の肩が叩かれた直後、彼女を襲おうとしたゲネポスが吹っ飛ぶのが見えた。

 

 ルーキーは手早くゲネポスたちに斬り込む。

 何の苦もなく、1頭1頭をほぼ一撃で切り裂いていく。

 一発で喉や頭を深く穿っているからだ。これを素早く動く相手にやっている。

 気のせいだろうか、斬った傍から体を凍て刺すような冷気が伝わってきた。

 むろん、武器性能もあるだろう。だが、彼の動きにはうさぎや衛とは全く違う、無駄のない軽やかさの両立が見て取れた。

 

 徒党のうちの1頭が高く吠えて増援が来たが、彼はまったく動じない。

 ゲネポスたちが飛び掛かった端から吹き飛ばされる様子はまるで、意思を持った嵐が過ぎ去るよう。

 森丘でのランポスたちの相手では、4人でやっとだったというのに。

 先ほど不安を感じていた自分を、彼女は内心軽蔑した。

 

「どうやら、ドスゲネポスはいないみたいっスね!」

 

 やがて一仕事終えた、という顔でルーキーは当たり前のことのように額の汗を拭った。

 その前には、幾多のゲネポスの骸が転がっている。

 残党は、反撃を諦めて去っていった。

 

「す……すごい……」

 

「へへ、どういたしまして!」

 

 自慢も謙遜もせず、ルーキーは子どものように素直に笑った。

 狩ったゲネポスは、ありがたく剥ぎ取らせてもらう。

 彼らの麻痺毒を含んだ牙は、麻痺弾の調合原料になるのだ。

 亜美が牙を剥ぐ一方、ルーキーは爪を剥ぎ取っている。

 

「すみません、さっきは足手まといになってしまいました」

 

 ルーキーは手慣れた様子でポーチに爪を入れると、笑って手を振った。

 

「気にすることなんかない、ない!初見のモンスターなんていつでもそんなもんっスよ!」

 

「……いえ、うさぎちゃんたちの助けがないとあたしは……」

 

 亜美は自分の無力さを痛感していた。

 ゲネル・セルタスとの戦いでもそうだった。

 武器の性能もあろうが、思いがけぬ敵の猛攻に彼女もその仲間も逃げ惑うばかりだった。

 

「でも、それだけ大切に思えるって良いことっスよ。あの子たちとは、幼馴染?」

 

「いえ、2年前くらいに。それまではずっと勉強ばかりで独りぼっちでした」

 

 亜美は、戦士として覚醒した時を思い出した。

 塾で勉強ばかりの日々の中、突然現れた妖魔、そしてセーラー戦士という使命。

 彼女に戦いと友が同時にもたらされた日だった。

 

「そこにうさぎちゃんは手を差し伸べてくれて、みんなもこんなあたしを受け入れてくれてとても嬉しかったんです。だから、今でもどこかで甘えてしまってるのかも……」

 

「ミズノさんったら真面目だなあ~。俺なんか、先輩に迷惑かけ通しっスよ?」

 

 亜美は、彼という人間を不思議に思った。

 なぜ、ここまでの実力を持ちながら朗らかな性格でいられるのか。

 

「……ルーキーさんは、リーダーさんといつ会われたんですか?」

 

 亜美は同じような質問を返した。

 必要分の素材を取った2人は、立ち上がってエリア3へと歩を進める。

 

「ガキの頃、ハンターの真似事して食われそうになったところを助けられたんだ。運命の出会いって奴?」

 

 ルーキーは、前を向きながら懐かしそうに頭の後ろを掻いた。

 

「それからあの人はいろんなことを教えてくれて、外の世界に連れてってくれたんだ。こーいう性格のせいで散々足引っ張ったけど、今となってはお互い笑い話って感じかな」

 

 彼は、頭上の太陽をさっと見上げた。

 

「でも、俺も全然まだまだっス。あの人の背中にいつか、追いつけるかなぁ」

 

 当時感じたであろう希望の光が、まだ彼の瞳に残って輝いているように見えた。

 その明るさに、亜美は自然に笑みを浮かんだ。

 

「……本当に素敵です、そういう純粋な心をずっと持てるだなんて」

 

 それを見たルーキーはわずかに顔を赤らめ、さっと背を向けた。

 

「ミ、ミズノさんも、迷惑かけたと思う分だけ後で恩返しすればいい話っス!」

 

 彼はそのまま早足で歩きだした。

 あまりの急ぎように亜美は不思議に思ったが、彼女は微笑んで頷いた。

 

「ええ!」

 

 2人は、樹木が作る天然のアーチを潜って突き進んでいく。

 滝が流れ落ちるエリア3は、目前に迫っていた。

 

──

 

 既にもぬけの殻となったベースキャンプ。

 青い水辺の中に置かれた樽のうち、ひとつがごそごそと動いた。

 

「ぷっはー!」

 

 そこから小さな体が飛び出し、息を大きく吐き出した。

 

「っ……すごーい……!」

 

 少女ちびうさは、視界が開けた瞬間目を輝かせた。

 彼女はずっと、飛行船の端に積まれた樽のなかに潜んでいた。そのままこのキャンプに運ばれてきたのである。

 ふと、青いボックスに止まる数匹の瑠璃蝶を見た。全長が彼女の顔ほどはある。

 

「わあ!」

 

 近寄ってみると、蝶たちはばっと舞って翅を羽ばたかせた。

 幾多の翅脈に光と透けた影が混ざり合い、それが星のように煌めいた。

 想像の数倍は美しい景色だった。

 彼女は視線を上げた。恐らくこの外にはもっと驚くべきものが待っているのだろう。

 

「やっぱり本物ってすごーーい!」

 

 ちびうさは勢いこんで鼻を鳴らした。

 フライパンとおたまを装備しているちびうさは、他の戦士と同じくちびムーンの状態になっていた。これなら、多少の事故や危険は回避できる。

 何より、彼女の傍には衛たちから逃げる際に使った『ルナPボール』がある。その存在が、彼女の安心を支えていた。

 ふと後ろを見ると、口を開ける穴があった。

 

「一体何かしら?」

 

 彼女は胸を躍らせつつ穴を覗き込んだ。

 青い靄に包まれて、奥まで見えない。

 もっと中はどうなっているのかが気になって、彼女は大きく覆いかぶさるようにして覗き込んだ。

 やがてルナPボールが圧力に耐え切れなくなり、ぼよんと弾んだ。

 

「きゃあああっ!」

 

 ちびうさはボールを抱えたまま、穴に吸い込まれるように消えた。

 

──

 

 まことは、ランサーと共にエリア7の巨大蜘蛛の巣を探索していた。

 ランサーはしばし糸の張った天井に注意を巡らせていたが、やがてまことに視線を戻した。

 

「ふむ、今のところゴア・マガラと妖魔化生物の痕跡はない」

 

「妖魔化?」

 

 思わず、彼女はその言葉に反応した。

 

「ああ。この前、霧に侵されたモンスターの正式名称がギルドで決定してね。妖しき力を使う魔女の使い魔という意味で『妖魔』。一部地域で呼ばれていたそうだが、中々面白い名称だろう?」

 

 偶然の一致か、彼女らの世界でも最初の敵は『妖魔』と呼んでいた。

 妖魔たちはなかなか愉快な姿をしていたが、それでも彼女たちの日常を破壊する敵に変わりはなかった。

 妖魔化したモンスターも、同じことをここの人々にするに違いない。

 それも、元の世界よりもっとひどい方法で。

 

「……早く、あたしたちが何とかしないと」

 

 まことが戦士としての使命感に燃えていたときだった。

 

「で、どうだね、リーダーの今の調子は?」

 

「へ!?」

 

 ぼふん、と湯気が上がったように彼女の顔が紅くなった。

 

「な、なんでそのこと知ってるんですか!?」

 

 思わず声が裏返った。

 

「いや、深入りする気はなかったんだがミズノ君がぼやいていたのを聞いてね」

 

「あ、亜美ちゃんったらもぉ……」

 

「はっはっは、聞いたときはいかにも彼らしいと思ったよ」

 

 大らかに笑うランサーを見て、まことに一つの疑問が湧いた。

 

「あの……怒らないんですか?仮にも、貴方たちの足を引っ張っちゃったわけですし」

 

「その気持ちが相互理解と団結に繋がるのであれば、私はおおいに歓迎するよ。少しばかり行き過ぎたのはしっかり反省したようだしね」

 

 彼の言い方や表情に咎める気配はない。

 だが、まことの顔は浮かなかった。

 ランサーがその様子を訝し気に見ていたところ、くぐもるような唸り声が遠く聞こえた。

 

 背後だ。

 

 振り向くと、エリア6から連なる道に巨大な桃色の獣が鎮座していた。

 

「あれは!」

 

「ババコンガか……見たところ異常はないようだが、気が立っているな」

 

 カバのような頭に緑のトサカ、でっぷりと太った腹を抱えるいかにも猿といった風貌の獣は、後ろ脚で立ち上がって威嚇するように吠えた。

 

「調査のためにも、サンプルが一つ欲しいところだな」

 

 ランサーは尖塔のごとき金色のランス『バベル』を背から引き抜いた。

 

「狩るぞ、キノ君!」

 

「は、はいっ!」

 

 まことは急いでハンマー『大骨塊』を取り出した。

 

 戦い始めてすぐ、まことは相手が聞くよりも厄介であると気づいた。

 ババコンガはパワーに優れたモンスターで、剛腕から放たれる爪は岩石を割くほどに鋭い。

 さらに特徴的なのは……その尻から放たれる放屁である。

 しかも、それと同じくらい臭い息を口からも放ってくる。

 臭いだけで食欲さえ減退させるその攻撃を恐れ、まことはなかなか頭に近寄れない。

 

「うええっ、ライゼクスの方が100倍ましだよ……」

 

 舌打ちをしつつ、まことは小さな打撃を脇腹や腕に積み重ねることを繰り返していた。着実ではあるが、大したダメージにはなっていない。

 一方、ランサーは要塞のように不動だった。

 ランサーはしっかりと城壁のごとき盾で攻撃をガードし、じりじりと近づいては的確に突いている。

 

(流石、筆頭の名を冠する人だ)

 

 まことは感心しつつも焦っていた。

 セーラーチームではいつも特攻隊長のような役割なのに、その自分が攻めあぐねているのに納得がいかない。

 だが、勝機はまだある。

 攻撃自体は大振りで、隙も大きい。特に、放屁や息を吐いた後は無防備そのものだった。

 彼女はこれをチャンスと捉えた。

 

「よし、そこだ!」

 

 担いで力を溜めながら、まことは地面を踏み込んで頭へ突っ込んだ。

 それを見たババコンガは突如背中を仰け反らせ、腹を大きく膨らませた。

 頭に当たるはずだったハンマーが、固い腹にぼんっと音を立てて弾かれる。

 

「えっ……」

 

 直後、腹が萎んだ勢いで振り下ろされた爪が彼女の右胸から左腰までを引き裂いた。

 

「ああっ!」

 

 反射的に、まことは後ろに倒れ込んだ。

 幸い、傷は鎧を覆う緑の羽を裂くのみに終わった。

 だが、追撃が来る。

 ババコンガは、今度こそ体を真っ二つにしようと右腕を大きく後ろ手に振りかぶった。

 まことはハンマーを盾にしようと反射的に前に持って行った。

 

 その時、獣の脇腹を槍が突いてずん、と押しやった。

 ランサーが、がら空きの胴めがけて突進を仕掛けたのだ。

 

「大丈夫か、キノ君!」

 

 肉厚の巨体を吹っ飛ばしたランサーは大声で呼びかけ、まことはそれに頷いて答えた。

 ババコンガは鼻を赤くし、尻を震わせて吠えながら放屁した。興奮状態に入った合図である。

 怒れる獣は、注意をランサーへと向けた。

 彼は、目の前の小さな存在を引っ搔こうと試みた。

 

「ふんっ!」

 

 今度も受け止める……と思いきや、彼は後ろに跳び下がって避ける。

 重い鎧を身に着けているのに、手品のように思えるほど軽い動きだ。

 

「さあ、来い!」

 

 わざと大声を上げ、ババコンガをまことから離れた方に引き付ける。

 苛立った獣は、不用意にもその巨体を真っ直ぐぶつけにいった。

 

 右手の盾を前に、左手の槍を後ろに構え力を溜める。

 ぶち当たり、ランサーの身体が土を巻き込みながらずり下がった。

 盾を傾けて衝撃を逃しつつ、その隙間を縫うように槍の穂先が風を切る。

 その先にあった左腕の爪が、バキッと一発で砕けた。

 バランスを崩した獣は、悲鳴を上げて転がった。

 

 「あれがカウンター……」

 

 相手の攻撃をチャンスに変える、攻防一体の技。

 

「さあ、動きは封じた!今のうちに!」

 

 まことはランサーの言葉を聞きつつ、唇を噛んだ。

 力と技巧と知識が、見事な融合を遂げていた。

 そして痛々しいまでに分かる。ランサーは、ずっとまことにペースを合わせてくれていたのだ。

 

「くっ……!」

 

 未だ、自分は狩人として助けられる側だった。

 ココット村と仲間たちに護られていた時には気づかなかった事実だった。

 苛立ちを武器に乗せて、まことは渾身の一撃を最大まで溜め、振り放った。

 

「どりゃあっ!」

 

 樹液で固められたトサカが弾け飛んだ。これにはランサーも眉を上げて驚愕した。

 桃毛獣は、腕を振り払いながら立ち上がる。

 それは崖際に跳び下がり、吠えて威嚇してから崖の下へと飛び降りていった。

 

「エリア5か。すぐに追うとしよう」

 

 2人は、ババコンガを追って横並びでツタを降りていく。

 エリア7はかなりの高所なので、降り切るにはそれなりの時間がかかる。

 周囲には靄が重く立ち込めていて視界が悪い。

 どっしりと根付いた植物に足をかけながら、まことはぽつりと呟いた。

 

「やっぱり……あの人のこと、諦めた方がいいのかな」

 

「どうしたんだ、急に」

 

「……知れば知るほど、あたしって未熟だなって思って」

 

 彼女は慎重に次に手足をかける場所を探しながら、目の前で絡み合う巨大なツタを見つめていた。

 

「あたし、女の癖にでかいし喧嘩ばっかりだったし……正直、最初っから狩猟でも恋でもスタートラインにすら立ててないんじゃないかって」

 

 まことは何度も学校を転々とし、怪力のせいで周りから恐れられた孤独な日々を回想していた。

 しばらくランサーは考えていたが、やがて低く落ち着いた声で切り出した。

 

「君は、自分の性質を『悪』と考えているのか」

 

「え?」

 

「たとえば、君は今回の妖魔化現象について善いか悪いか、どう思う?」

 

 彼女には唐突な質問の意図がよくわからなかったが、答えは決まっていた。

 

「ダメじゃないですか。魔女にいいように使われるし、いろいろ吸収して自然を破壊するし」

 

 ランサーほどの人が当たり前のことを聞いてきたのに、まことは疑問を隠せなかった。

 

「そうだな。君の意見が大半だろうし、その考えが間違いだとも思わない。……だが生命全体から見れば、これは新たな進化段階に入ったといえるかもしれない」

 

 まことは黙って聞きながら次に足を下ろすところを探る。

 既に少し下に降りているランサーは、それを待ちつつ話を続けた。

 

「例えば火竜の話だ。一昔前は華奢な体型が多かったが、一方でガタイのよいものがいた。元は地域差によるものだったが、次第に元の種は世界からほぼ淘汰されていった」

 

 後者はものを掴むのに適した足の構造をしており、そのため餌の確保などで優位に立ち、生存競争に打ち勝ったのだという。

 

「また、亜種、特異個体や二つ名……元の姿を留めながら大きな変化を遂げた生物がいる」

 

「……そういえば、この前に本で読んだような」

 

 突然変異、環境や食性によって、モンスターたちはまるっきりその姿や生態を変えてしまうというのだ。

 まことは、ココット村でうさぎが連れ帰った金のリオレイアしか見たことがなかったが、あれも将来、通常種とは全く別の姿に変わるのだろうか。

 

「……みんな、競争のなかで打ち勝とうって頑張ってるんですね」

 

「いいや、これはただの結果論でしかない。たまたまその環境に合った性質を持った者が生き残っただけの話だ」

 

 お前も血が滲むほど努力しろ、という話ではないのか。

 まことは首を傾げつつちらりとランサーの顔を見ようとしたが、下にいる彼はずっと下を見ていて表情が分からない。

 

「環境が変われば、生き残れる条件が変わる。その結果がこれだけの変化を生むんだ。ならば、この妖魔化もその一連の流れに過ぎないのかもしれない」

 

 まことにとって、その考えはセーラー戦士としての立場からはにわかに信じ難いものだった。

 だが、完全に否定できるような知識も持たないし、それができる状況でもない。

 もうすぐ、次の段に降りる。心なしか、周りの靄も晴れてきた。

 

「元々、生命の形は自由だ。どんな性質も、元から善悪が決まっているわけではない。君とてその例外ではない」

 

 まことは、足に伴って降ろそうとする腕の動きを止めた。

 先にランサーが中継地点の小さな平地に着き、ツタを降りた。

 彼女も続いてツタを降り切り、ランサーの彫刻のような顔を見つめた。

 

「──とまあ、モンスターを狩る時にいろいろ悩まれていては困るのでね。こじつけと思われるかもしれないが、多少は力になれたかな?」

 

 彼は微笑しながら、エリア5を越して見える巨大骨を眺めた。

 靄はほとんど晴れ、壮大な景色がよく見えた。

 

「さて、行こうか」

 

 一通り息をつくと、彼はさらに下に続くツタに手をかけて先に降りて行った。

 まことはしばらく、同じ景色を見つめていた。

 

 




サンブレイク、ラスボスまで行ったけどほんと面白い……。幸い小説の大筋に関係しそうな設定などはなくてよかったぁ……。
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