セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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猿蟹合戦④

 

「もう、始まってるわ!」

 

 既にそこは、戦場になっていた。

 毒沼のなか、ババコンガが、薄く紫の息を吐きながらダイミョウザザミの殻に掴みかかっている。

 流石にダイミョウザザミは無視できなかったのか、ヤドの角を振り回して跳ね除けようとしていた。

 コンガたちは争いに恐れを成したのか、既にどこかへ消え去っていた。

 

「まこちゃん、ランサーさん!」

 

 エリア7から降りてきた2人は、手前にある柱のような岩に、武器を構えて隠れていた。

 呼びかけられた彼らは振り向くと、すぐもう一人いる幼女に気づいた。

 

「亜美ちゃん、ルーキーさん!……え、ちびうさちゃん!?」

 

「これは、どういうことかね?」

 

 亜美とルーキーは、こうなった経緯を手短に話した。

 事情を知るにつれ、まことは同情的な視線をちびうさに送るようになった。

 

「そうか……確かにちびうさちゃん、閉じこもってるような質じゃなかったもんな」

 

 やがて、彼女は頷いた。

 

「いいよ。でも、少しでも怖い、危ないって思ったらすぐ逃げな」

 

 ランサーは黙ってルーキーを険しい表情で見つめた。

 

「……万一のことがあれば、俺は筆頭を降りるっス」

 

「君どころじゃない、筆頭ハンターそのものの権威も失墜するだろう。これは、明らかな危険行為だ」

 

 あくまで冷静で、ぴしゃりと鞭打つような言葉遣いだった。

 一方、ランサーは真剣な表情のちびうさとルーキーをちらりと見比べた。

 両者とも、譲る気配は微塵もなかった。

 それを確かめるように見つめたあと、ランサーは別の方向を見てため息をついた。

 

「だが、人の好奇心というのはどうも理屈では抑えがたい……いくら抑えつけても、指の合間合間から抜け出そうとする」

 

 しばし考えるように目をつむったあと、再び開けた。

 

「君は、偶然乗る船を間違えてここに迷い込み、彷徨ううちにモンスターたちの縄張り争いに巻き込まれた。命からがら、何とかそこの穴ぼこに逃げ込み、そこを我々が保護した。そうだったね?」

 

 ぱっと、ちびうさの顔が輝いた。

 彼女はすぐに、ルーキーが指し示した位置に向かった。

 苦笑を浮かべたあと、彼は話を仕切りなおした。

 

「いま、我々は縄張り争いの行方を見守っているところだ」

 

 ここで両者を消耗させ、時を見て1頭ずつ分けて相手取るという寸法だった。

 また、興味深い事実も教えられた。

 ランサーたちがババコンガを最初に発見したとき、異常がなかったという。

 

「狂竜症と性質が似ているのなら、時間差での発症も考えられる。ダイミョウザザミについても感染の可能性が捨てきれない以上、狩猟か捕獲をした方がよいだろう」

 

 そしてそのチャンスは意外に早く訪れた。

 

 ババコンガはヤドに片手をかけ前方にぶら下がると、素早くダイミョウザザミの頭に飛び移り、鋭い爪で滅多殴りにした。

 ダイミョウザザミは口元に泡を含ませると、水を大量に噴射した。

 激流とでもいうべきそれにババコンガは吹き飛ばされ、地面に堕ちた。

 ダイミョウザザミは背を向けると、びしょ濡れになった相手に突進をしかけた。

 迫り来た一本角をすんでのところで避けると、ババコンガは背を向けエリア2へと駆けていった。

 

「我々は先ほど相手取ったババコンガを引き受ける。ルーキー、ミズノ君、ダイミョウザザミを頼めるか?」

 

 それを見送ったランサーは、2人に呼び掛けた。

 

「は……はいっ!」

 

 亜美は緊張気味に答えた。

 書籍を読んである程度知識はあり、相手に有効な『音爆弾』も手元にある。

 しかしただひとつ、実戦の経験がないという一つの事実が彼女の心に重くのしかかっていた。

 

「ミズノさん!サポート頼めるっスか!?」

 

「……!」

 

 ルーキーが、ばっと振り向いて亜美に聞いた。

 

「サポートだって、立派な狩りの役割っス!君なら絶対やれるっス!」

 

「亜美ちゃん!」

 

 弾かれるように、亜美は次に声がした方を見た。

 まことが、片方の拳を握りながら口角を上げていた。

 彼女は、亜美の胸当てに拳をこん、と当てて笑った。

 

「頼むよ!」

 

 そう言われて、亜美は覚悟を決めた。

 

「……ええ!」

 

 ハンターライフルを構え、弾を滑らせ装填する。

 

「よし、一狩り行くか!」

 

 ダイミョウザザミが狩人たちに気づいた。鋏を振り上げ、威嚇の態勢を取る。

 まこととランサーの背を見送り、亜美とルーキーは獲物と相対した。

 

──

 

 およそ、30分後。

 

 地を抉る鋏をルーキーがかわし、脚に片手剣を突き立てる。

 筋繊維の方向を理解したうえでの一太刀が、そこに真っすぐ白い亀裂を作った。

 亜美は、通常弾を頭に撃っていく。

 ルーキーは、一切彼女の射線上に立つことがなかった。後ろを振り返る素振りも見せず、彼は大きく叫んだ。

 

「ミズノさん、遠慮しないでどんどん撃っていいっス!」

 

 亜美は「はい!」と頷いて、現地調達した麻痺弾を装填した。

 頭に数発の麻痺弾を受けると、盾蟹は身体を硬直させ苦し気にうめく。

 

「ナイスっ!」

 

 できた隙をつき、ルーキーは刺突と斬撃を連ねる。

 確実に狩猟に貢献できているという事実が、亜美の顔に喜色を浮かべさせた。

 

 しかし、麻痺が解けた盾蟹は突如、自身の頭を鋏をぴったりと閉じて覆ってしまった。

 

 ダイミョウザザミは、本来の温厚な性格もあるのか防御に徹した身体の作りをしている。

 こうなってしまえば、どんな鋭い刃もなかなか通らない。

 

 それを解決するのが、亜美が取り出した球状の物体──『音爆弾』である。

 

 亜美の投げた音爆弾は、盾の目前で爆音を発した。

 鋏と頭の間にある密閉空間に音が反響し、恐ろしい衝撃となった。

 ダイミョウザザミはたまらず構えを解き放ち、そのまま地面に倒れ伏して昏倒する。

 

「よっしゃあ!どんどん行くっスよー!」

 

 基本的には、狩猟は狩人側に優勢で進んだ。

 亜美の抜かりないサポートに護られたルーキーの強烈極まりない斬撃が、獲物を確実に追い詰めていった。

 

 だが、獲物も次第に、防御の姿勢を捨て始めた。

 地面に潜り地中からの数度に渡る角の突き上げ、天高く跳びあがってからの踏みつぶし。

 いずれも、こちらに攻撃を許さない行動ばかりである。

 

「学習し始めてる…!」

 

 亜美は、攻撃を避けるためにせわしなく走り回っていた。こうなると、攻撃する隙もなかなかできない。

 突如、ダイミョウザザミがルーキーを無視して亜美に向かって背を向けた。がらんどうの竜の眼窩がこちらを見つめた。

 ルーキーははっとして叫んだ。

 

「横に回避!突っ込んでくるっス!」

 

 盾蟹はヤドの角を差し向けながら素早く後退りし、締めに一本角を跳ね上げるようにぶっ飛んできた。

 

「くっ……!」

 

 あれに当たれば、下に着ているセーラースーツも貫通したかもしれない。

 彼女が事前に読んだ本に、こんなことをしてくるとは書かれていなかった。

 

(あたしも知ったかぶりをしてたってことね)

 

 亜美は気を抜かず、ダイミョウザザミから距離を離した。

 毒弾や電撃弾を撃つが、焦りで手がぶれたのか鋏やヤドに当たってしまい、弱点である頭にはなかなか当たらなかった。

 変化はそれだけではない。少しずつ身体が紫がかり、息も黒くなりかけていた。

 

「さっきのババコンガの攻撃で感染したのか」

 

 ルーキーは悔しげに臍をかんだ。

 そのうち、またしても防御態勢を取ったので音爆弾を投げた。──が、効かない。

 よく見れば、僅かに鋏の間を開けてちらりとこちらの様子を見ている。

 

「こいつ……本当に下位の個体っスか!?」

 

 ルーキーでさえ、その行動に舌を巻いた。

 構えを解くとほぼ同時に、盾蟹はため込んだ水を先より太く解き放った。

 激流の余波を受けて亜美は転がった。ルーキーは盾を構えたが、片手だけで構えるそれでは衝撃を吸収しきれず、彼は胸から大きく体を仰け反らせた。

 

──

 

 ちびうさは、戦場の隅にある柱の陰──しかも、巨大なシダの群生地の奥に隠れていた。

 その効果たるや抜群で、流れ弾すら飛んでこない。

 たとえ飛んできたとしても、周囲の柱や厚い葉が護ってくれる。

 ルーキーの言葉は本当だった。

 

 景色は、ゲリョスを見知らぬ4人が取り囲んでいた時とは違って見えた。

 今の彼女に分かるのは──ダイミョウザザミも、亜美もルーキーも互いに真剣に向き合っている──その事実だけだった。

 ちびうさは、両手を組んで必死に祈っていた。

 

「亜美ちゃん、ルーキーさん、頑張って……!」

 

 だが、妖魔化するにつれ旗色が悪くなっていった。

 深手こそ負っていないが、身体の動きが鈍くなっている。音爆弾もいくらか無駄撃ちして切らしてしまったようだ。

 ちびうさの心に、2人はいつか強烈な一撃を受けてしまうのでは、という不安が広がりつつあった。

 

 そのとき、隣に誰かの気配を感じた。

 見ると、黄色い毛並みの猫が3匹、見物でもするかのような面構えで寝っ転がっている。

 

「……あなた、誰?」

 

「ああ。おいらたちは、この近くに住んでるアイルー族だニャ」

 

 そのうちの1匹が何でもないような声で答えると、もう1匹がふん、と鼻を鳴らした。

 

「あいつら、僕らの住処に乗り込んでオナラしてくるわ水をふっかけてくるわ、ホントーやりたい放題だったのニャ。だから、ここで成り行きを見守ってるのニャ」

 

 あいつら、というのはババコンガやダイミョウザザミのことを指しているのだろう。

 

「ババコンガの方はどうやら終わりが見えてきたようだけど、こっちはなんか心配なのニャー」

 

「そういうなら、協力とかしてあげないの?」

 

 なんだかバカにされたみたいに感じ、むっとして聞いてみると、先ほどぼやいたアイルーは「そうしたいのは山々だけどニャー」と答えた。

 

「おいらたちは非力だし、ギルドと何の契約もしてない限り何も出来ないニャ。ま、お嬢ちゃんがなにかイイもの持ってきてくれてたら、別だったけどニャ」

 

 それを聞いたちびうさの目が光り、手元に抱いたルナPボールを見つめた。

 彼女は決心して、アイルーたちに再び振り向いた。

 

 

「ねえ!お願いがあるんだけど──」

 

 




あと1話で原生林のお話も一区切りです!
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