セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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猿蟹合戦⑤

 

 上方にツタでできた地形が、2層構造となって天井と床を同時に成すエリア2。

 

 ババコンガは座り込むと、尻尾に巻き付けていた毒キノコをかじった。

 口からの臭気は自家製の毒ガスへと変貌し、前方を紫の霧で覆う。

 

「くそっ……なんて多芸なやつだっ!」

 

 頭を攻撃しようとしていたまことは、急いで後退した。

 それに伴い、槌に込めていた力も分散してしまう。

 ババコンガは後脚をばねのようにして跳躍し、彼女を押しつぶさんとした。彼女は横に走りこんで攻撃を避けた。

 

 妖魔化したババコンガは特にまことを集中的に狙っている。そのせいで、攻撃になかなか転じられない。 

 

(やっぱりあたしって、ただリーダーさんの背中を追いかけてるだけなのかな)

 

 そう思って、唇を噛んだときだった。

 

「迷うな、キノ君!」

 

 ランサーが駆け寄り、突進しようとしたババコンガの頭を横から盾でぶん殴った。

 視界を遮られて混乱した相手の顔を、続いての槍の一撃が薙ぐ。

 さっとまことの隣に跳び退くと、ランサーはきっぱりと言い放った。

 

「まず、助けられることを恥じてはいけない。狩人とは互いに助け、助けられるものだ」

 

 ババコンガは、負けじと突っ込んでくる。

 ランサーはすべての攻撃をある時は受け止め、ある時は受け流し、そして確実に突いた。

 まるで、ババコンガがランサーに合わせて舞を踊っているかのようだった。

 

(──そうだ。あたしは今回、こんなすごい人と出会えたんじゃないか)

 

 リーダーに対するものとはまた違う種類の憧れを、まことは感じ取った。

 彼女は、槌を構え直した。

 

「はいっ、了解です!」

 

 2人の狩人が、再び並び立った。

 そこに、1匹のアイルーがエリア5方面から駆けてきた。

 

「お二方ともー!あちらからの伝言ですニャー!」

 

「あ、あんたは!?」

 

 まことが聞いたが、アイルーは取り合わなかった。

 

「細かいことはとにかく、あとのお二人が苦戦との伝言ですニャ!狩猟が終わり次第すぐ来てほしいってちっちゃなレディーが言ってましたニャー!」

 

 そう言ったきり、アイルーは何かを急ぐようにさっさとエリア5へ戻っていってしまった。

 まことは衝撃を受けて目を見開いた。

 

「ち、ちびうさちゃん……!?」

 

「あれは、彼女の差し金か。だがどうやって……?」

 

 そこにババコンガが爪を振りかざし、ランサーはそれをガードした。

 

「いや、あれこれ言っている場合ではないか。早く倒すに越したことはない」

 

 まことは少し考えると、ババコンガを挟んで向こう側にいるランサーに呼び掛けた。

 

「……あたしが、ランサーさんが作った隙に攻撃するって作戦はどうでしょうか!?それなら効率的に動けるかも!」

 

 それを聞くと、ランサーは彫りの深い顔に微笑みを浮かべた。

 

「ふむ。それでは、やってみようか!」

 

 ランサーは、盾を構えながらババコンガにさっと近づいた。

 以後、2人にははっきりと分けられた役割が設けられた。

 

 まことは常に中距離を保ち、ランサーは近距離で相手の注意を引き付ける。

 ランサーがババコンガを怯ませ、その隙間を縫うようにまことが強烈な一打を加える。

 

 作戦としては、大成功した。

 

 迷いがなくなった彼女の攻撃は、鋭く相手の体を穿った。

 相手が反撃するにしても、必ずランサーが前に出て出鼻を挫かれる。

 ババコンガは自慢の爪も根本から割れ、脚の腱も切られ、まさに手も足も出なくなった。

 

「もうすぐ狩れるぞ!」

 

「よっしゃあ、もっと来やがれっ!」

 

 まことは亜麻色の髪を振り乱しながら、興奮した表情で叫んだ。

 

 目の前の獲物を狩れない怒りに、獣は狂ったように吠えた。

 生命の危機に瀕し、この獣の奥に潜む闇の気配が遂に暴れ出した。

 ババコンガは突如立ち上がって、聞いたこともないような声で、長くいななき始める。

 たちまち、周囲の草木は枯れ、光がその身体へと導かれていく。

 

「ぐっ……こいつが『吸収』か」

 

 もはや、やぶれかぶれといったところだろう。腹に、黒い星模様が浮かび始めていた。

 ランサーは盾を構えたが、妖力はそれを貫き彼の体力を奪っていく。

 まことも、槌を持つ手ががくんと下がった。

 

 ──が、決して取り下ろすことはない。

 ランサーは、彼女の根性に目を見張った。

 まことは脚を震わせながらも、その長身を起こし上げた。

 

「今度は……あたしに、助けさせてください!」

 

 叫んだ少女の背中は、苦しさのあまり屈みこんでいるランサーからすればかなり高く見える。

 

「キノ君……!」

 

 歯を食いしばり、叫び、全力を振り絞り、恐れず突っ込む。

 無骨な骨の塊は、真っすぐババコンガの脳天めがけて飛んで行った。

 

──

 

 亜美とルーキーは、まさにどん詰まりの状態にあった。

 ルーキーは、脚に斬りかかったが敢えなく弾かれ、痺れる左手を振った。

 

「くそっ、もう少しだっていうのに……!」

 

 ダイミョウザザミとしても音爆弾が飛んでこないのを察したのであろう、一転して鋏を密着させた防御態勢に勤しみ始めた。どこを斬れど撃てど、それは要塞のように頑として攻撃を受け付けない。

 このまま、こちらが諦めて帰るのを待とうという寸法である。

 

 膠着状態。

 その言葉が浮かび始めた時であった。

 

 火のついた大樽が、宙を舞って飛んできた。

 

 それはヤドにぶち当たって、大爆発を起こした。

 爆発音は、音爆弾の炸裂と同等の衝撃をもたらす。

 不意をつかれたダイミョウザザミは倒れ伏した。

 

「誰!?」

 

 亜美が叫ぶと、ダイミョウザザミの陰から3匹のアイルーが現れた。

 彼らは紐を括り付けた簡素な荷車を引いている。あれで爆弾を運んできたのであろう。

 

「よし、これで契約は成立ニャ?」

 

 数本のマタタビを掴み上げ、アイルーのうちの1匹が言った。

 向こう、柱の陰から親指を立てた小さな腕が出て、彼らが去っていくのを見送った。

 

「まさかちびうさちゃんなの!?」

 

 がさりと草を撥ね退けると、ちびうさは顔を現わして叫んだ。

 

「2人とも、今がチャンスよ!」

 

 さらに、エリア2に続く洞窟からまこととランサーが共に走ってきた。

 

「いま、助けに上がったよ!」

 

 まことが、槌を構える。

 彼女は振りかぶると、ヤドの一本角を吹き飛ばした。

 ランサーはまことが作ったヒビ目掛けて盾を構えながら突進し、そのまま重量と勢いに任せ体当たりをぶちかました。

 ぼきっと音がするとヤドが一部砕け散り、その衝撃でダイミョウザザミは前につんのめって倒れた。

 

「ランサーさんのガードダッシュ、相変わらずすげぇや!」

 

 思わずルーキーは感嘆した。

 

「さあ、行くぞ!あともう少しだ!」

 

 ランサーの言葉を以て、全員が真剣な顔つきになった。

 このチャンスは、ぜひとも生かさねばならない。

 全員が総力を挙げて狩猟に当たった。

 ひたすら、斬り、突き、撃ち、殴る。

 防御する間も与えず、攻めの姿勢を崩さない。

 

 ──やがて、時は来た。

 それに真っ先に気づいたのは、亜美だった。

 

「口から青い泡を吹いてます!」

 

 それは、瀕死のサインだった。

 

「よし、シビレ罠を設置するっス!」

 

 ルーキーが円錐状の装置を地面に植え付けた。その場を離れると、強力な電流が周囲に展開される。

 亜美は盾蟹と罠を挟む位置に移動すると、手早く捕獲用麻酔弾を装填した。

 こちらの意図を悟られぬよう、3人で少しずつ立ち位置を変え、亜美の方向に押すように攻撃を加える。

 傷だらけのダイミョウザザミは、戦意をほぼ喪失しおろおろと後ずさる。

 

「よし、その調子だ!押し切れ!」

 

 ダイミョウザザミは身を翻して3人に背を向け、逃げ出した。

 ちょうど亜美と目が合ったが、構わず向かってくる。このまま轢いても構わないと言わんばかりの速さだ。

 だが、目の前の少女がそこにいる意図を、その生物は知らなかった。

 

 脚がシビレ罠の近くに降ろされると、目に見えるほど激しい電流が盾蟹の身体を駆け巡った。

 それは硬直して身体を震わせ、無防備な姿を晒した。

 

「かかったよ!」

 

 まことの声を聴いたと同時に、亜美は麻酔弾を装填した弩の引き金を引いた。

 数発が頭に直撃し、桃色がかった煙が上がる。

 

 急激に、動きが鈍くなる。

 巨体が崩れ落ち、ずぅんと鈍く地面が揺れた。

 ダイミョウザザミはうずくまって少しもがいたあと、動かなくなった。

 そのあと、安らかに寝息を立て始めた。

 

 

 

「──終わった」

 

 

 

 同時狩猟は、成功に終わった。

 ランサーを除く全員が、その場に仰向けに寝っ転がった。

 喜びは確かにあるが、それよりも疲れが真っ先に襲ってきた。

 

「これで、妖魔化直前のモンスターのサンプルも入手できた。研究がさらに進むぞ」

 

 ランサーはそれほど疲労は見せず、盾蟹の寝顔を見て満足気に頷いていた。

 

 

「みんなっ!」

 

 

 ちびうさが、穴から抜け出して一目散に駆けてくる。亜美とまことが上半身を起こし、それを受け止めた。

 

「狩り、いま終わったのね!」

 

 亜美はちびうさの背をぽんぽんと叩きながら微笑んだ。

 

「ありがとう。ちびうさちゃんの支援がなかったら、あのダイミョウザザミは狩れなかったわ」

 

 そこにルーキーもへとへとな様子ながら、横から笑ってびっと親指を立てた。

 

「ほんと、感謝しても感謝しきれねえっス!!」

 

 嬉しそうな表情をしたちびうさはふと、ダイミョウザザミに目をやった。

 さっきまで戦っていたとは思えないほど、よく寝ている。

 

「すごいなぁ、こんなでかいのが、ホントに生きてるんだ……」

 

 彼女は、その周囲を歩きながらその身体を観察し、ただただ純粋な感動に目を輝かせていた。

 ランサーは、それを懐かしそうな表情で眺めていた。

 

「あの子を見ていると、昔のルーキーを思い出すな」

 

「え……ルーキーさんもそうだったんですか!?」

 

 まことの問いに、ランサーは頷いた。

 

「ああ、そうだ。いつのことだかうちのリーダーもぼやいていたよ。この男は、何をしでかすかは予想の遥か上を行き、地平の彼方へ消えていく、とな」

 

「ちょっとランサーさん、この子たちの前でそれ言うのハズいですって!」

 

 ルーキーが頬を赤くしながら叫んでいる。

 

「さぞかし、彼女に若かりし頃を重ね合わせて肩入れしたくなった、てところだろ?違うかな?」

 

 彼が視線をそらしながらも首を横に振らないあたり、図星らしかった。

 そのまま昔を思い出すように、彼は遠くを見つめた。

 

「何も分かんない間って、自分が王様みたいなもんでさ。狭い世界の中で自分は何でも知ってるって思い込んじまう」

 

 ルーキーは、ゆっくりと顔を横に振った。

 

「でも、それは違うんだ。ちょっと見渡したら、分からないものなんていくらでもある」

 

 そこに、盾蟹の観察を終えたちびうさがとてててと走ってきた。

 

「ホンットーにその通りよ!現に今のあたし、知りたいけど分からないことばっかりだもん!ほら、例えばこの変なガイコツとか~」

 

 そのあと彼女が興奮気味にダイミョウザザミの身体のあちこちを指さし始めたのを見て、亜美は頬を緩ませた。

 そして、亜美の隣にいたまことも目を細めた。

 

「あたしも、もっと足掻いてみよっかな」

 

「まこちゃん……」

 

 亜美が視線を向けると、まことは頭の後ろに手を組んで遠くを見た。

 先ほど彼女が崖の上で見たのと、同じ景色だった。

 

「あたしも、まだまだやれることあるって思ったからさ。ある意味、亜美ちゃんがちびうさちゃんにいろいろ教えてくれたおかげだよ」

 

 振り向いて彼女が言うと、亜美は頬を赤らめて目をそらした。

 

「ま、あの堅物のセンパイに手が届くかどうかは別問題だけどな!」

 

 ルーキーが口を挟んだ途端、まことはたちまち顔を紅潮させた。

 

「だ、だからなんでそこでリーダーさんの話が!」

 

 一同は思わず吹き出してしまった。緊張状態から解けた反動もあったかもしれない。

 ひとしきり爆笑したあと、ちびうさはふと真顔になった。

 

「みんな。改めて、今回はたくさん迷惑かけてごめんなさい」

 

 うつむいてそう言った彼女に注目が集まった。

 顔をあげたちびうさの表情は真剣だった。

 

「勝手に出たこと、ちゃんとみんなに謝ろうと思う。その上でこれからあたしがやりたいこと、きちんとうさぎたちに伝えたい!」

 

 戦士たちも狩人もその言葉に頷き、見守っていた。

 

 

 うさぎたちは今、沼地にいる。

 

 




来週からうさぎ&レイ&美奈子sideのお話になります。
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