セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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切り裂かれた誇り①

 

 沼地。

 

 正式名称は、クルプティオス湿地帯。

 天には雲が、地には霧が垂れ込み、枯れ木は風に揺れ、湿気と泥濘に支配されている。

 寂しく薄暗い土地だが、ここにも確かに生命は存在する。

 

 湿った灰色の大地にばしゃり、ばしゃりと弾ける水たまりの音。

 毒々しい赤い身体が、狩人たちの間を跳びまわっていた。

 ドスイーオスと呼ばれる、猛毒を吐く鳥竜種だ。

 ずる賢そうな黄色い瞳、ぬらっとした質感の鱗と、異様に発達した鼻先の瘤が特徴的だった。

 細く身軽なその身体には、既に相当数の傷跡があった。

 口からは荒い息と共に毒液が漏れ出しており、動きもぎこちない。

 

 それを見たうさぎは、プリンセスレイピアを構えながら叫んだ。

 

「もうすぐ狩れるね!」

 

「ええ!」

 

 レイは一言返し、獲物の身体を袈裟斬りで切り結んでいく。

 連撃をお見舞いしたあと太刀を振り上げて縦に斬りつけようとしたところで、ぎょろりとドスイーオスの狡猾な黄色の目が動いた。

 ドスイーオスは後ろに飛び跳ねると同時、ひときわ大きな毒液の塊を飛ばした。

 それは、弓なりの放物線を描いてレイに飛んでいく。

 虚空を裂いたばかりで隙だらけの彼女に、逃げ場はない。

 

「レイちゃんっ!」

 

 うさぎがレイの前に出て、盾で攻撃を受けた。

 

「うさぎ……」

 

 うさぎはレイに振り返らなかった。

 ドスイーオスがうさぎに噛みつこうと迫ったところ、横から剣撃が烈風のごとく襲い掛かり、傷だらけだった脚の皮膚を切り裂いた。

 

「これで、終わりだ」

 

 筆頭リーダーは向こうの景色を見据えると、冷静な声と共に腱を斬った。

 ドスイーオスはすっ転がり、そのまま予め仕掛けていたシビレ罠にかかった。

 

「てりゃあっ!」

 

 うさぎは即座に捕獲用麻酔玉を取り出し、鼻先めがけて2つぶん投げた。

 煙が広がるとそれは一瞬痙攣し、舌を突き出しうめき声をあげながらそのまま倒れ伏した。

 やがて、寝息が聞こえてきた。

 リーダーはそれを傍に寄って確かめると、2人の少女に向かって頷いてみせた。

 

「つ……つかれたぁ~!あと蒸れる~!」

 

 数時間に渡る狩猟だった。

 うさぎは思わず、膝と手を地につけ脱力した。

 圧倒的に高い湿度により汗をかきまくり、肌がべたついている。

 その意味でも、中々に苦しい狩猟だった。

 

「ヒノさんは太刀筋がいいな。まだ粗削りだが飲み込みが早い」

 

 リーダーが感想を述べると、レイは途端に顔を赤くして頬に両手を添えた。

 

「え、やだぁ~、そうですかぁ~?」

 

「へぇーっ、良い気になっちゃってー。雄一郎さんがいるってのに、この薄情者ぉ」

 

 うさぎがにやつきながら肩を肘でつつくと、レイはむっとしてにらみ返した。

 その男の名前に、リーダーは怪訝な顔をした。

 

「ユウイチロウ?誰だ、それは」

 

「レイちゃんと修行してる、ちょっと抜けてるけどステキな男の人です!友達以上恋人未満ってところ。ねー、レイちゃん?」

 

 レイは両手をぶんぶんと振り、慌てて否定しにかかる。

 

「ちょっ、誤解されるような言い方しないでよ!あいつはあたしのただの弟子で……」

 

 そう口では言いながらも、次第に彼女の視線は下に下がっていった。

 

「あの男ったらいざという時以外頼んないし……そりゃあいざって時にはいいところだってまあないことも……ないけど……」

 

「おっ、デレ隠しきれてないですねぇ~」

 

「うるさーい!!乙女のプライベートばらしてんじゃないわよ、バカうさぎ!!」

 

 リーダーは砥石で武器を研ぎながら、やや呆れ気味に呟いた。

 

「……まったく不思議なものだ。本命がいながら私に付きまとうとは」

 

「あーあーあー違いますー!!」

 

「完全に違うってこったぁないですよね~?」

 

「うるさぁぁぁい!!」

 

 煽りを入れるうさぎに、レイは見事に乗せられている。

 武器を研ぎ終わったリーダーは、立ち上がって小さく独り言ちた。

 

「まったく、これほど騒がしい狩人を見るのは初めてだな」

 

──

 

 毒怪鳥ゲリョスを乗せた荷車が、キャンプ奥の深い霧中へと消えていった。

 それを、美奈子とガンナーは見送っている。

 

「一仕事、終わりっとぉ」

 

 美奈子は薙刀のような武器『操虫棍』を隣に置くと、テント内にあるベッドに仰向けに伸びて倒れ込んだ。

 それを見て、ガンナーはふふ、と笑みを深めた。

 

「アイノさん、今の調子はどう?」

 

「はーい、最高でーす♡」

 

 美奈子は、オッケーサインで元気よく答えた。

 

「もはや、ゲリョスなんかじゃ相手にならないって顔ね」

 

 ジオ・テラード湿地帯。

 クルプティオス湿地帯に隣接する地域だ。

 俗に『旧沼地』と呼ばれ、ここと比較して古い時期に開拓された。霧がより深いことを除いては似たような土地である。

 

「しかし前代未聞だわ、この前まで狩猟笛を使っていたと思ったら、猟虫なしの操虫棍で狩りをするなんて」

 

 猟虫は、操虫棍使いが右腕に止まらせる虫である。使い手はこれをモンスターに飛ばして攻撃したり、エキスを吸収して自分の力に変えることができる。

 だが、美奈子が手にした操虫棍──『ボーンロッド』──にはそれがなかった。これではただの骨でできた薙刀である。

 美奈子ははっきりと、笑顔のまま言った。

 

「はい、でかくて気持ち悪いんでそこに置いてきました!」

 

 テント内には、クルドローンと呼ばれるカナブン型の巨大甲虫が籠に入っている。

 一応餌はきちんと与えられているが、物言わず皿に満たした蜜を舐めている猟虫を、ガンナーは哀れそうに見つめた。

 

「……私としては、なるべく付けることをお勧めするけどね」

 

 ガンナーはボックスから応急薬の入った瓶を取り出し、美奈子に投げて渡した。

 

「次に狩る相手はフルフルよ。信用はしてるけど、油断せずきちんと万全の態勢で挑みなさい」

 

 そのモンスターの名を聞いた途端、美奈子は瓶を両手で持ったままうつむいて、憂鬱そうな表情をにじませた。

 

「うう……そっかあ、あんなキュートなモンスター狩るなんて、罪悪感半端ないわぁ……」

 

 ガンナーは小さく眉根を寄せたあと、振り向いて話しかけた。

 

「……それ、どこの情報?」

 

「ソフィアさんから聞いたんですよ!フルフルは、白くてぷよぷよしてて可愛いモンスターだって!……ああ、それを狩らなきゃいけないだなんて」

 

 美奈子は、悲しみに打ちひしがれるように額を手で押さえた。

 

 彼女は狩りに行く直前、ソフィアから軽く旧沼地にいそうなモンスターの情報を集めていた。

 なんでも、そのユニークで魅力的な姿に『多くのハンターさんが悩殺!』らしい。

 その時の身振り手振りを交えての熱っぽい語りから、それだけ彼女の期待も膨らむというものだった。

 

 感傷的に涙さえ浮かべている美奈子からガンナーは視線をずらし、支給された弾をボウガンの弾倉に入れた。

 

「……情報の出所って大事ね……」

 

 視線を向けなおすと、彼女は美奈子の肩をぽんと叩いた。

 

「まあ後でしっかり教えてあげるから、どうぞ安心して狩ってちょうだい」

 

「……へ?」

 

 そのまま、ガンナーは次の狩猟に向けて歩を進めていった。

 美奈子は言葉の意味がよくわからず首を捻っていた。

 

──

 

「ほんと、あんたってやつはいつもいつも!……」

 

「なによそういうレイちゃんだって!……」

 

 並んで口々に言い合いながら、うさぎとレイはキノコを摘んでポーチに入れていく。

 ほぼ同時に採取し終わって立ち上がると、彼女たちはつんとしてそっぽを向いた。

 

「まったく、狩りのときとは別人のようだな」

 

 半ば感心も入ったようなリーダーの言葉に、レイは涼し気に髪を手ですくった。

 

「ま、こっちが合わせてあげてますからねー。この子だけだとドジばっかで心配ですから」

 

「な、何をー!」

 

「そっちこそ何すんのよバカ!」

 

 うさぎが叫び、レイの頬をつねりにかかった。それに、レイも応酬していよいよ終わりが見えなくなったときだった。

 リーダーはそれを見て、ふと何かを思ったように口を開いた。

 

「……ツキノ君。なぜ、あそこで君はヒノ君を庇えた」

 

 レイと頬をつねりあっていたうさぎは、振り向いてつねっていた手を離した。

 

「え?単に、友達で仲間だから、じゃダメですか?」

 

 ぽつぽつと天から水滴が落ち始め、鎧に黒い斑点が付き始める。

 リーダーは首を横に振った。

 

「君の行動は、それだけを理由にするには危険にすぎる」

 

 リーダーは、ある方向をさっと指さした。

 うさぎは、雨に濡れててかる、ドスイーオスの姿を見た。

 今も目覚める気配がないこの生物は、もうすぐギルドからの荷車に乗せて運ばれていくだろう。

 

「先ほどのドスイーオス……咬まれた傷から毒が入って死亡したケースもある。その毒液を全身に浴びれば、ただでは済まなかった」

 

 うさぎは言葉に圧力を感じ始め、身体を縮こまらせた。

 

「君はその危険性をきちんと理解したうえで、ヒノ君を庇ったのかね?」

 

「……どうしても、身体が動いちゃうっていうか」

 

 リーダーは、黙ってその言葉の続きを聞いた。

 

「みんなとは……本当にいつも一緒にいて、いろんなことしてきたから」

 

 レイは独白する友人の姿を腕を組みながら見守っていたが、少し照れ臭そうに目をそらした。

 うさぎは続けながら、リーダーの顔を見つめた。

 

「そんな景色を護るってことになったら、リーダーさんだって身体動いちゃいません?」

 

 そう尋ねられたリーダーは、何かを思い出したかのように眉をひそめ、背中を向けて歩き始めた。

 

「……とにかく、私の前で危険な行為は謹んでもらう。いいな」

 

 既に、リーダーは背中を向けて枯れ木の間の細道を通ろうとしていた。

 

「な、なんか怒られたんだけど」

 

「でも、怒る姿もなんだか素敵……」

 

「……レイちゃーん?親友の言葉も無視ですかー?」

 

 双剣を背負った群青色の鎧は、灰色の風景の中では鮮明に輝いて見えた。

 

 

 沼地の『エリア8』。

 腰より高い位置まで伸びるススキのような植物が、灰色の平野に黄土色の絨毯を敷いている。

 小雨が降る中、かしゃん、かしゃんと音を立て3人は歩んでいく。

 鎧の金具が濡れて水滴を落とし、てらてらと鈍く光った。

 

「今回、旧沼地にいるガンナーとアイノ君に『目』の役割を託しているのは説明したな。今回は、あちらからの情報を基点に調査を進める」

 

 『目』とは狩猟や異変の真相を探り、分析する役割を指す。

 

「美奈子ちゃんたら大層な名前の役職もらっちゃって、うらやましいなー!」

 

「でもその役回りに美奈子ちゃんって……ちょっと不安しかないんですけど」

 

 うさぎは目をきらきらさせていたが、レイは苦り切った表情だった。

 どちらかといえば、美奈子は先鋒を切って敵をかき乱し、仲間の士気を高める役割だ。

 そんな彼女が分析に回されたのは、レイにとっては不可解だった。

 

 分隊を組もうという提案がされたのは、現地到着の前夜だった。

 理由については、ガンナーによると『怪しい臭いが大きく広がっている』かららしい。

 彼女の確信に満ちた表情を見てレイは反論はしなかったが、今ここに来て不安は再び膨らみかけていた。

 

「彼女は、目に見えぬものを見破る天才的なまでの勘を持っている。私はそれを信頼している」

 

 リーダーは、歩きながら説明を続ける。

 やがて、マップ上の中心部にある広場『エリア4』へ続く道に入った。

 次第にススキは消え、再びぬかるんだ地面が露わになっていく。

 

「ほら、地面を見ろ」

 

「えっ?」

 

 ふいに、リーダーは地面を指さした。

 

「いくつもの足跡が重なっている。多くの生物が入り乱れた証拠だ」

 

「あっ、ほんとだ!」

 

 うさぎは目線を下げると、いくつも重なった水たまりに気づいた。

 恐らくドスイーオスのものであろう小さいものから、飛竜のものと疑われる巨大なものまで。

 

「沼地と旧沼地は隣接している。我々は別地域として区別しているが、モンスターたちは関係ない。何か理由があれば、生き物はすぐより住みやすいところへと移るものだ」

 

 残念ながら雨のせいで原形を失っており、その詳細は分からない。

 

「彼女はこれに気づいて少しでも視野を広げようと隊を分けたのだろう。アイノ君の件も、何かしらの意図があるはずだ」

 

 リーダーの目は、真剣そのものだった。

 

「やっぱ凄いなあ、筆頭さんたちって」

 

 うさぎは、素直に感心して呟いた。

 やがて、広場の形状になった『エリア4』が小道の間から見えてきた。

 




猿蟹合戦はサイドストーリー的な感じで、本筋はこっちのイメージ。
レイうさ好きなので積極的に絡む描写が前面に出てきます(百合と言っていいかは微妙レベル)
また、活動報告も見ていただければ幸いです。
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