セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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切り裂かれた誇り⑤

 

 エリア7まで急ぎ走ってきたリーダーは、驚愕した。

 おびただしいイーオスたちの死骸の中、地に伏したショウグンギザミの前でうさぎが膝をついて項垂れ、肩を上下させていた。

 リーダーは駆け寄ると、息を整えている彼女に呼びかけた。

 

「ケガは……ないか?」

 

 剣も盾も手元から離れ、地面に転がっていた。

 リーダーは迷うように視線を彷徨わせたあと、そっと呟いた。

 

「……よくやった」

 

 うさぎは、外目ではほとんど分からないほどだが、微かに頷いた。

 その様子を見て、リーダーはようやく緊張した表情を少し解いた。

 

「ヒノ君は大事なかった。安心しろ」

 

 うさぎは小さく吐き出すように「よかった……」と言ったあと、ゆっくりとリーダーに顔を向けて口を開いた。

 

「なんで……この子はバサルモスやイーオスを襲ったんですか?」

 

「恐らく、過度のストレスによるものだろう。もともと外敵に容赦のない種というのもあるが」

 

 鎌蟹の身体を見上げたリーダーは、固い甲殻を触りながら答えた。

 その中でも、目の横にある真っ黒に炭化した部分を指さしてみせる。

 

「身体が不自然に黒ずんでいるだろう。高熱で炙られた証拠だ」

 

 うさぎが戦っていたときは気づかなかったところだった。

 初めてそれを見つけた彼女は、目元を歪めた。

 

「この子も被害者だったってこと?」

 

「何にせよ危険な個体だったことは確かだ。君がやったことは間違いではない」

 

 その言葉を受けても、うさぎの顔は浮かなかった。

 リーダーは剣を拾い上げ、柄をうさぎに差し出した。

 

「旧沼地にいるアイノ君とガンナーが、黒幕を見つけたと支援を求めている。君はどうする?」

 

「美奈子ちゃんと……ガンナーさんが!」

 

 目を見開いたうさぎはいきなり立とうとして、身体をふらつかせた。

 リーダーは慌てて支えようとするが、うさぎはそれを手で押し返して断った。

 

「大丈夫です!ちょっと疲れただけですから」

 

 彼女は笑顔で答えたが、それを見たリーダーは耐え難そうに眉間にしわを寄せた。

 

「……身体だけはしっかりと休めるように。ヒノ君も心配していたからな」

 

「あ、そうだった!早くレイちゃんに会って安心させてあげなきゃ!」

 

 うさぎは盾も拾うと、西側にある洞窟の出口に向けて走り出した。

 

「ツキノ君」

 

 一言呼びかけられ、彼女は歩を止めた。

 リーダーはしばらく黙っていたが、やがて静かに口を開いた。 

 

「この世は理不尽とも言える理が支配しているが、それでも我々狩人は前に進まねばならん。特に何かを護りたいなら、それ相応の覚悟をしたまえ」

 

「……はい」

 

 振り向かずに頷いて答えると、うさぎは背を向けたまま走り去っていった。

 

──

 

「わーん、本当に助かったわよ2人ともー!!」

 

 濃霧に囲まれた旧沼地のキャンプで、美奈子はレイとうさぎに同時に抱きついた。

 骨が折れるかと思うほどの勢いだったので、2人はうめき声をあげる。

 

「いででででででで!」

 

「きつすぎるわよ、美奈子ちゃん!」

 

 美奈子は腕を離すと、次は驚いたような顔でレイの両手を握った。

 

「──で、レイちゃん本当なの!?リーダーさんから手を引くって!?」

 

「ちょっと……あんまり大きな声で言わないでよ」

 

 レイは、ガンナーが武器の整備をしているテントを横目に見ながら、シーッと指を立てて美奈子にささやいた。

 

「これからもいつも通り、リーダーさんと協力するわ。ただ、あたしはやっぱり、あくまであたしたち自身のためにものを学ぶべきって思っただけ」

 

「はーやっぱり雄一郎さんのこと思い出しちゃったのねー、このマージーメー」

 

「美奈子ちゃん!!」

 

 美奈子がにやつきながらレイの頬をつつくと、レイはすぐ顔を赤くしてその腕を払いのけた。

 

「で、うさぎちゃん凄いわねぇ!ショウグンギザミを1人で狩っちゃったんだって!?こっちゃーフルフル1匹で大騒ぎだったってのに!」

 

 きらきらとした目で話を振られたうさぎは、一瞬どきっとしたがすぐ自慢げに胸を張ってみせた。

 

「え、えへへ、凄いでしょ!もう向かうところ敵なしってとこかなっ!」

 

「……あんた、本当に行けるの?ここに来るまで上の空だったけど」

 

「えっ、そうだったっけ?」

 

 レイは、うさぎを睨むようにぐいっと顔を近づけた。

 

「昨日まで、何を話しかけてもふん、とかあぁ、とかそればっかだったじゃない!まさか、あたしがいなくなってぴーぴー泣いてたんじゃないでしょうね?」

 

 レイは、うさぎを庇った後のことを知らない。

 茶化しながらもどこか探るような表情に、うさぎは頬を強張らせた。

 

「あはは、もう、そんなことないわよ!元気いっぱいよ、ほーらほらほら!」

 

 彼女は虚空に向かって手を振って見せると、一足先にキャンプの出口に立った。

 

「とにかく、あたしたちは妖魔を倒さないと前に進めないんだから!ガンナーさーん、準備できてますよー!!」

 

「あらあら、なんて元気なこと。でも、今回の目的は他のハンターが来るまでの時間稼ぎよ」

 

「狩猟はしないんですか?」

 

 レイが聞くと、テントから現れたガンナーは少し頬を引き締めて言った。 

 

「今のパーティーでそれをするには、あまりに荷が重い相手だわ」

 

 その実物を見ている美奈子は、神妙な顔をして頷いた。

 

──

 

 ガンナーは、獲物の元に向かいつつ説明をした。

 

「今回の事件の犯人は、妖魔化グラビモスよ」

 

 その名を聞いて、うさぎとレイは思わず唾を飲みこんだ。

 

 グラビモスは、本来火山地帯に生息する巨大生物だ。

 超高熱の溶岩に潜行するという驚きの生態を持つが、その際に熱が体内に溜めこまれていく。

 これを『排熱』するため、熱を熱線という形で吐き出すのだが。

 

「でも妖魔化したとなると、あの生命力吸収は彼の代謝を異常に活性化した可能性がある」

 

 吸収によって過剰に熱量をため込んだとなれば、必然的に熱線を吐く量は多くなる。

 

「彼は、本来の生息地である火山から離れこの旧沼地にやってきた。熱線がこの地で何度も放たれ、あらゆるものを焼き払ってしまったのよ」

 

 雨のため分かりにくくなっていたが、高熱で地面が炭化した痕跡が至るところにあったという。

 この地域の草食竜が餌とする草木も焼き払われ、彼らは移動を余儀なくされた。

 当然、これを食べる肉食のモンスターも場所を移さざるを得ない。

 そこに他の種類の植物が根付いたことで、生態系が根本から崩れてしまったのだ。

 

 その混乱のなか、火が弱点であるフルフルは隠遁を選んだ。

 比較的高温も平気なショウグンギザミは争いを選び、結果、沼地へと敗走した。

 最初は事変の原因とされたバサルモスも、旧沼地から逃げてきた一員に過ぎなかった。

 

 これが沼地の混乱の真相ではないかと、ガンナーは言う。

 

 うさぎもレイも美奈子も、あっけに取られた顔をしていた。

 

「な、なんかよく分からないけど凄い!」

 

「ねっ!うちのガンナーさん凄いでしょ!?」

 

 感心したうさぎに、美奈子が得意げに言った。

 

「美奈子ちゃんが自慢してるのは謎ですけど、なんでここに目をつけたんですか?」

 

 レイに聞かれると、ガンナーは相変わらず落ち着いた笑みを浮かべていた。

 

「一見、現在の主な狩猟地である沼地の混乱が目立ってたけど、隣の旧沼地がやけに静かだったのが目についてね。勘が当たってよかったわ」

 

 そこまで言ってから、彼女は少しうつむいて言った。

 

「……でも、今回は不思議なのよ。私のカンも全体としては役に立たないみたいでね。どうも何か薄膜を張られたように、真相に届いている感じがないのよ」

 

「ガンナーさんでも、そんなことあるんだ……」

 

 うさぎがそう言うと、美奈子が3人の前に笑顔でぱっと飛び出た。

 

「ここにあるものすべてが真実に繋がる手がかり、ですよね!」

 

 彼女の右腕に猟虫が止まっていることを目に留めたうさぎは、心底から驚いた。

 

「あれ、美奈子ちゃん、虫大丈夫なの!?」

 

「うん、へーき!いろいろ教えてもらってね!」

 

 美奈子は自信たっぷりな表情で自身の胸を叩いてみせた。

 

「あたしたちが、何としてでも魔女の尻尾引っ張り出してやりますって!安心してくださいよ、ガンナーさん!」

 

「……美奈子ちゃんが言うと不安しかないんだけど」

 

「まあまあ、泥舟に乗ったつもりで~」

 

「余計不安しかないわ!」

 

 レイと美奈子が言い合ってるのを見て、ガンナーは少し硬かった表情を崩した。

 

「もう、貴女たちを見てると悩んでるのが馬鹿らしくなるわ」

 

 ガンナーは、黄土色が張られた平地の向こうに広がる森林を見た。

 再び、濃霧地帯に入る。

 

 




次は沼地の決戦!
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