セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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想定BGM:旧沼地戦闘BGM『毒霞』


切り裂かれた誇り⑥

 

 『エリア9』に着いた。

 

 生命の気配はなく、美奈子とガンナーがかつて見た枯れ木の群れは炭になっている。

 草のひとつすら生えない、土と霧だけがある死の大地。

 

「うわー、もう沼地じゃないわよこれ……」

 

 水分が失われ硬くなった灰色の地面を、美奈子は確かめるように踏みしめていた。

 それだけでなく、前に来た時は生きていた木もすっかり萎びている。

 

「まさに環境破壊の権化ね」

 

 レイが呟く横、ガンナーは抜け目のない様子で、ライトボウガンを構えながら周囲を見渡していた。

 

「よく周りを観察しなさい。これも教練の一環よ」

 

 ふと、うさぎが立ち止まった。

 ぐおおお、と、地の底から来たような低い音が鳴った。

 

「……い、いま、鳴き声が……」

 

 その時、霧の奥で何かが光った。

 うさぎは、レイと美奈子にばっと振り返った。

 ガンナーが叫んだ。

 

「熱線よ!」

 

 直後、光の束が霧を切り裂いた。

 レイと美奈子を押し倒したうさぎの頭上を、灼熱が掠める。

 後方に辛うじて残っていた枯れ木が一瞬で灰になり、伐採されたように綺麗に吹き飛ばされた。

 

 うさぎが前を見ると、再び立ち込める霧の中に黒く巨大な影がちらついた。

 それは太い脚を踏み出し、大きな翼を広げ、身体を低く構えると長くうめくように鳴いた。

 

「こっちに来る!!」

 

 簡潔な忠告が飛び、少女たちは離れて横に走った。

 霧をかき、灰色の山が蠢いてこちらに迫ってくる。

 全身を岩石かと見まがうほど重厚な外殻に包んでいるのに、その動きは予想以上に早い。

 幾層にも重なった突起付きの甲殻は、人が身に着ける甲冑にも見える。

 

「……やばすぎでしょ」

 

 美奈子が、呆気に取られて呟いた。

 狩人たちの間を通り過ぎると、グラビモスは太い脚で踏ん張ってブレーキをかけた。

 重量のあまりすぐには止まれず、脚に掘り返された土がめくり上がった。

 

 誇張でなく、山そのものだった。

 近寄られると、胸を反らせなければてっぺんが見えないほどの巨体だった。

 それが、ゆっくりとこちらに振り返った。

 

「こんなの、相手できるんですか!?」

 

 レイでさえも、太刀に手を伸ばすのも忘れてそう言わざるを得なかった。

 兜のように角を伸ばした頑強な頭が、しっかりと少女たちを捉えていた。

 

「さっきも言った通り、これは時間稼ぎよ。貴女たちは攻撃しなくていいから、よく相手を見て」

 

「……流石に、これ……」

 

 ガンナーは冷静に諭したが、目の前の威容にうさぎは思わず後退りしていた。

 妖魔化の通例に漏れず、目は赤く黒い霧を吐き、莫大な熱量のせいか外殻の所々が黒ずんでいる。

 グラビモスは、こちらから見て右側に胸を仰け反らせた。

 

「今すぐ伏せなさい、薙ぎ払ってくる!うかうかしてると全滅よ!」

 

 それを聞いた瞬間、うさぎの顔にさっと恐怖が浮かんだ。レイと美奈子の背中も強張った。

 

「……全滅!?」

 

 再び熱線が放たれた。

 忠告通り、次は剣のように横薙ぎにしてくる。

 枯れ木を蒸発させながら灼熱の火柱が迫ってくる。

 少女たちは地面に伏した。

 上方からじりじりと焦げ付く熱気が鎧を焼いた。

 

 熱線をやり過ごしたあと、素早く態勢を立て直したガンナーは、未だにグラビモスの口に燻る炎を確認した。

 

「まだ来るわ!!」

 

 下にうつむくと、グラビモスは地面に向かって、太く青白い熱線を開放する。

 湿っていた大地が蒸気を発し、溶けた。

 先ほどと比べ物にならない熱量と威力を持つそれは、莫大な質量を持つ使い手すらも後退りさせた。

 だが、その視線は確かにうさぎたちを見据えている。

 

「散開っ!!」

 

 叫びとともに散り散りに跳んだ。

 直後、巨体は首を振り上げた。

 足元から彼女たちの地点、そして天に至るまでを、白い熱線がぶった切った。

 霧までもが溶かされ、風景が一瞬晴れた。

 

 地面が、白い灰でできた道となって荒く煙を吐いている。

 一撃でももらえば、影ごと消えただろう。

 

「はあっ、はあっ、はあっ……」

 

 間一髪で避けたが、少女たちは呼吸するのだけで精一杯だった。

 ふと、うさぎは尻の下の地面が盛り上がるような感覚がした。

 彼女が思わず身を引くと、乾いた隆起した地面からこぽこぽと、紫色の臭気が噴出し始めた。

 

「えっ、なにこれ!?」

 

 ガンナーははっとして、鼻をつまんで叫んだ。

 

「地下の毒ガスよ!さっきの熱線の高熱で刺激されたんだわ」

 

 地面は続々と膨れ上がり、毒の間欠泉は際限なく湧き出してくる。

 霧に毒ガスが混ざり、辺りの空気に充満しようとしていた。

 

「私がここで引き止める!後で信号弾を上げるから、その時に合流!」

 

 ガンナーは3人の背中を次々に強く押し出した。

 流されるまま、うさぎたちは靄に紛れて逃げていく。

 うさぎが振り返ると、ガンナーはライトボウガンを構えて横目でこちらを見送っていた。

 その姿も、すぐに見えなくなった。

 

 

 

 どこだか分からない枯れ木の林中、3人の少女は膝をついて息を何とか休めた。

 まだ、地響きと凄まじい発射音が聞こえてくる。

 

「全滅なんて言葉……あの人から聞くだなんて」

 

「予想以上にヤバいわ、あの化け物」

 

 美奈子とレイが、息を切らしながら言った。

 うさぎは、ぐっと顔を引き締めた。

 

「2人とも、変身よ!ガンナーさんを絶対助けなくちゃ!」

 

 あとの2人はそれまで下げていた視線を上げた。

 既に、うさぎは覚悟の決まった顔でコンパクトを取り出していた。

 2人も頷いて、変身スティックを取り出した。

 

「……ええ!」

 

「あたしの師匠を死なせてたまるもんですか!」

 

 眩い光が少女たちの身体を包んだ。

 

 

 

 エリア9の霧の色は、毒々しい紫へと変貌を遂げつつあった。

 ガンナーは、毒霧に顔を歪めながら引き金に手を添える。

 鎧竜グラビモスの腹の甲殻は貫通弾によって穴が開き、わずかながら皮膚が露出しかけていた。

 頭の角も翼も、別名『鎧竜』が象徴する頑強な甲殻は、彼女が撃った弾丸によってボロボロにされている。

 

(ここまで漕ぎつけたはいいけど……)

 

 彼女はライトボウガンを構えたまま激しく咳をした。

 毒ガスの勢いは弱まったが、未だやまない。時間を稼ごうとしすぎたのが仇になった。

 その間も相手の攻撃は止まない。

 普通ならば疲れ果てる頃合いなのに元気なのは、それだけ吸収した生命力が莫大である何よりの証拠であった。

 

「ああ、私らしくないわ」

 

 ガンナーは愚痴りながら、手元から『漢方薬』と呼ばれる丸薬を素早く取り出し口内に放り投げた。

 この薬には即効性の解毒作用があり、彼女はそれでこの場をやりくりしていた。

 だが、その数にも限りがある。今彼女が飲んだので最後だった。

 

「もうそろそろ限界ね……」

 

 彼女がボウガンを背負ってよたよたと退避しようとするが、グラビモスはその背中を逃そうとはしない。

 火炎を走らせたその口元を見て、ガンナーはちっと舌打ちをした。

 

 ひゅっと風を切る音がした。

 色とりどりの襟付きのレオタードにスカートを身にまとった少女たちがその身で霧を切って現れ、グラビモスを囲んだ。

 ガンナーは思わず、口に出して呟いた。

 

「あれは、魔女……!?」

 

 黄色い服を着た一人が叫んだ。

 

「少しでも、あいつをガンナーさんから引き離すのよ!」

 

 赤い服を着た少女が巨大な火炎を、青の襟とスカートの少女がティアラを回転させて手から放った。

 高熱を扱うグラビモスに傷は付かなかったが、イラつかせるには十分な威力だった。

 その中、黄色の少女が先鋒を切った。

 

「セーラーヴィーナス、活躍させていただきます!」

 

 巨山が、熱線を吐こうと首をもたげた。

 

「クレッセント・ビーム!!」

 

 黄色の少女の手元が光ると、そこから伸びた閃光が怪物の喉元に直撃した。

 巨体がぐらりと揺らいだ。

 

「理由は知らないけど……ありがたくずらからせてもらうわよ」

 

 ガンナーは息を整えると、ライトボウガンを胸に抱いて走った。

 そのまま霧の中へ立ち去ったと見せかけ、道から横にそれると枯れ木の後ろに身を隠した。

 身体を休めて口内に回復薬を掻っ込み、朦朧としながらも顔だけをちらりと戦場に向ける。

 

(年齢は10代の中くらい。使用言語は不明……強いて言えばユクモ・カムラ地域の訛りに近いかしら)

 

 グラビモスは、黒ずんだ喉を震わせるとお返しに熱線を薙ぎ払った。

 少女たちは身軽に跳ね、走ってかわしていく。

 

「うそ、あたしの必殺技こんな弱かったっけ!?」

 

 戸惑いながら走っているその少女は、長い金髪に赤いリボンを結んでいた。

 

「あたしの炎も効果ないし、浄化以外にこいつを止める方法はないわ!」

 

「分かった!」

 

 あとは、黒髪ロングと金髪のツインテール。

 遠くの彼女たちの姿を見て様々に考えを巡らせ始めた途端、ガンナーは顔を歪めた。

 

(また、これだわ)

 

 確かに、彼女たちは誰かに似ていると思った。

 が、なぜかその先はこの霧に隠されたように分からなくなってしまう。

 この辺りは、妖魔事変全体に対して勘の鈍る感覚と非常によく似ていた。

 

(やはり、魔法と通称されるような力を使うのは確かね。新大陸での事例もあるみたいだし、あり得ないことじゃない)

 

 彼女は、訝しげに魔女たちとグラビモスとの対決を見ていた。

 

「でもおかしい……明らかに妖魔化生物と敵対しているわ。実力も拮抗している?」

 

 

 

「……感づかれたかしら」

 

 マーズが、振り回された丸太のごとき尻尾をかわしながら呟いた。

 ムーンもそこに居合わせ、彼女たちは隣り合わせになった。

 

「そうだとしても、あの人が無事なのが一番よ」

 

 グラビモスが首を前に出して噛みつこうとしたのを、スパイラルハートムーンロッドで受け流した。

 

「もしもうちょっとでも遅かったら……」

 

 ムーンは、隣を通過する赤く充血した目を見つめた。その先の言葉は出なかった。

 

「熱線が来るわよ!」

 

 グラビモスは再び首をもたげた。

 セーラー戦士の機動力をもってすれば、攻撃をかわすこと自体は問題にすらならない。

 本当の問題はそこから先だ。

 

「ムーン・スパイラル・ハート・アタック!!」

 

 セーラームーンがマゼンタの光線を浴びせるも、弾かれた。

 そのままグラビモスは、熱線を大地とほぼ平行に薙ぎ払った。

 辛うじて残っていた草木が、残らず焼けて無くなっていく。

 

「浄化技も効いてない!」

 

 高く跳んで熱線をかわしたムーンが叫んだ。

 

「あの鎧のせいかもしれないわ」

 

 マーズは着地すると、ムーンに視線を合わせて叫び返した。

 

「セーラームーン、2段階変身よ!」

 

 ムーンは顔を輝かせた。

 

「そうよ、この時のための聖杯だわ!」

 

 手を空に掲げると、黄金の器に羽を広げ、紅の蓋を被った聖杯─レインボームーンカリス─が姿を現した。

 彼女はここから注がれるパワーを浴びることで、より強大な力を持つスーパーセーラームーンへと姿を変えることができる。

 

 

「クライシース・メーイク、アップ!!」

 

 

 前回の戦いで得た伝説の聖杯は、その一言を聞くことで蓋を開き持ち主に絶大な力を与える──

 はずだった。

 

 

 

 

 

 聖杯は、固くその口を閉ざしたままだった。

 

 

 

 

 

「えっ……!?」

 

 撃たれた熱線が傍を横切り、背中を飾る赤リボンが蒸発した。

 熱風に煽られ、セーラームーンは地に転がった。

 

「なんで……変身、できないの?」

 

 動揺しているムーンにマーズが近寄り、肩を揺らす。

 

「セーラームーン、しっかりして!!」

 

 ムーンは歯を食いしばると、姿勢を立て直しロッドを構えた。

 

「ムーン・スパイラル・ハート・アタック!ムーン・スパイラル・ハート・アタック!!」

 

 何度も浄化技を試すが、効果はやはりない。

 ムーンがロッドを持つ手を下ろしかけた時だった。

 

 

「クレッセント・ビーム・シャワー!!」

 

 

 ヴィーナスは、グラビモスを見据えたまま光点を集中させ、叫んだ。

 何本もの光線が白き鎧を穿ち、ガンナーが付けた甲殻のひび割れが広がっていく。

 

「適当にやったんじゃないわよ!ガンナーさんが開けてくれた風穴を、もっと広げるっ!」 

 

 マーズとムーンが見ている横で、容赦なくヴィーナスは同じ技を繰り返す。

 そのうち、ガンナーが腹の鎧に開けた風穴にひびが入った。

 

「あの腹の傷なら!」

 

 マーズは叫ぶと、両手で印を結んだ。

 

「ファイアー・ソウル!!」

 

 彼女が放った火炎が腹で爆発し、グラビモスの巨体をよろめかせた。

 腹の鎧には今や大きな風穴ができ、溶岩にも等しい熱気を吐き出す皮膚が露わになった。

 マーズは、強い眼差しでムーンに呼び掛けた。

 

「今よ、セーラームーン!ガンナーさんやヴィーナスの努力を無駄にしないで!」

 

 ムーンは頷き、腹めがけてロッドを振りかざした。

 

 

「ムーン・スパイラル・ハート・アタック!!」

 

 

 『護りたい』という強い想いを込め、技の威力を最大出力まで上げる。

 マゼンタの光線が真っすぐ皮膚に届くと、グラビモスは苦しむように低くうめいた。

 

「お願い、効いて!」

 

 ムーンは必死に叫んで、祈りながら浄化を続ける。

 グラビモスは錯乱して暴れようとするが、マーズとヴィーナスは技を放ちこれを止めた。

 生ける巨山はよじ登る浄化の波から逃げるように、首を高く持ち上げる。

 身体を痙攣させつつ、足元から腹に、腹から首へと妖気が削がれていき──

 

 目の色が黄色に戻った。

 

 瞬間、高熱ガスの煙が全身と周りの大地を覆った。

 

 慌てて戦士たちは後方へ飛びのく。

 妖魔化によって過剰に溜まった熱の排出はほぼ爆発に近く、泥が天高く舞った。

 蒸気のなか倒れてもがいていたグラビモスはゆっくり立ち上がったが、よろめいて昏倒寸前の状態だった。

 脚を引きずりながら、巨山が林の中へ消えていく。

 

「はあ、はあ……」

 

 限界まで力を振り絞ったせいか、ムーンが膝をつきかけた。

 その両腕を、マーズとヴィーナスが掬い上げる。

 

「よし、退避よ!!」

 

 セーラー戦士は、枯れ木の群れの中へと飛び込んでその姿を消した。

 木陰から出てきたガンナーはその姿を見送ると、すぐグラビモスの逃げた方へ走っていった。

 

 

 

 身体を休めた後、ガンナーが発した信号弾を追い、3人は狩人の姿に戻って歩いていた。

 

「……なんで二段階変身ができなかったのかな?」

 

 うさぎが手元のコンパクトを見つめながらうつむいて呟いた。

 美奈子が、むうっと唸りながらそれを間近に睨み、こつんと拳で軽く叩いた。

 

「もしかして故障?叩いたら治ったりしない?」

 

「冗談言わないでよ、電子レンジじゃないんだから……でも、戦士の力が使えることは使えるんでしょ?」

 

 レイが聞くとうさぎはしばらく考え、やがて閃いたように顔を明るく上げた。

 

「きっと、もっとあたしが頑張らなきゃいけないんだ!」

 

「へえ??」

 

 間の抜けた調子で返した美奈子の手を、うさぎはぱっと取った。

 

「リーダーさんから言われたんだ、何かを護るのならそれ相応の覚悟をしろって。銀水晶は想いの強さで力を増すから、きっとそういうことなのよ!」

 

「……うさぎ……」

 

「見ててよレイちゃん!これからあたし、レイちゃんよりずーっとつよーいハンターになっちゃうんだから!」

 

 複雑な表情のレイの前で拳を握ってみせたうさぎの肩に、美奈子が腕を回す。

 

「さっすが筆頭リーダーさん、言うことカッコいいー!あたしもますます頑張っちゃおーっと!」

 

「あっ、美奈子ちゃんも仲間!?やっほーい!」

 

 彼女たちが仲良く肩を組んでいくと、レイもため息をつきながら後を追った。

 

 

 

 キャンプテント内にあるちょうどいい高さの木箱に、ガンナーはどっかりと腰を下ろした。

 

「妖魔化解除の確認が取れたわ。何はともあれ、被害はこれから収まるでしょうね」

 

 その一報を受け取り、うさぎたちの肩から力が抜けた。

 

「魔女に先を越されたのは残念だけど、まあこうやってサンプルも入手できたことだしね」

 

 ガンナーが独りごとを言いながら見た手元の瓶には、黒い霧を発する甲殻の破片が密封されている。先ほど、魔女が撒き散らしたものの一部だ。

 美奈子はうさぎと一緒に樽に座って背をもたれ合い、木製のコップに入った元気ドリンコをごくごくと一気に飲み干した。

 

「ぷっはー!ほーんと、手も足も出なかったわ……」

 

「当たり前よ。それを体感するために来てもらったんだから」

 

「えっ!?」

 

 美奈子だけでなく、うさぎとレイも思わずガンナーの顔を見た。

 

「この職業に例外は付き物。いつ何時、強大なモンスターと遭遇するか分からない……。そんな時にただ突っ立ってたり何も考えず突っ込むのでは、お話にならないからね」

 

 彼女は、苦笑して続けた。

 

「普通、初心者相手にこんなことしないわよ?生き残れる見込みのある貴女たちだからこそ、一度はあの恐怖を今後に活かしてもらいたいと思ったわけ」

 

 うさぎと美奈子は呆気に取られたままだったが、レイが眉をひそめて問う。

 

「……流石に相手が悪すぎません?リーダーさんもいれば多少は楽に……」

 

 それを見越したように、ガンナーは巻かれた紙を取り出した。

 

「そうもいかない事情があったのよ。実はショウグンギザミが狩られた直後、ババコンガ、妖魔化ガララアジャラ、ドボルベルクが沼地で同時に観測されてね」

 

「そんなにたくさん!?」

 

 うさぎが思わず身を引いた勢いで、元気ドリンコがコップから少し零れた。

 ガンナーは机にしている木箱のうえに紙を放り投げ、回復薬を入れた木製のコップをすすりながら、霧だけの空間を眺めた。

 

「そう、だから彼は放っておけなかったってわけ。全く、1人で背負おうとする癖は全然変わってないわね」

 

「彼女たちに伝書の内容を伝えていいとは言ってないが?」

 

「あら、噂をすれば。3頭同時狩猟、お疲れ様」

 

 肩をすくめたガンナーの前に、鎧にいくつか傷を作ったリーダーが整然とした足取りで歩いてきた。

 泥と血がついた跡は見えるが、鎧そのもののダメージはほとんどない。とても複数のモンスターを狩ったとは思えない姿である。

 

「3人とも、怪我は?」

 

「大丈夫です!」

 

 うさぎが笑顔で答えると、彼は心なしか表情を柔らかくした。

 

「そうか、よかった」

 

 美奈子がきゃあっと顔に喜色を浮かべる一方、レイはやや気まずそうに視線をずらした。

 リーダーは、ガンナーが引っ張り出してきた木箱に自身も腰を下ろす。

 

「それにしても、魔女は一体何を考えている。まるで目的が見えん」

 

「そうね。今のところ、妖魔を生み出しては消すことを繰り返しているように見えるけど」

 

 妖魔を消している本人たちはどきっとした。

 

「ソ、ソウデスヨネー!」

 

「ほんと何でかなーあたしには分かんなーい!」

 

(……下手くそ……)

 

 やや片言で答える美奈子とうさぎを、レイは無言で睨んだ。

 

 その時、どこからか翼がはためく音がした。

 ガンナーは立ち上がり、霧の中から飛んでくる小さな影に近付いた。

 

「あら……こんな時に」

 

 ガンナーは、伝書鳩の首を撫でてから足元の手紙を外した。

 その宛先を見ると、彼女はうさぎたちの方向に振り向いた。

 

 

 

「貴女たち、ちびうさちゃんから手紙よ」

 

 

 




一応、MHW及びMHW:IBであった他作品コラボはモンハン世界の歴史に存在した設定です。
(無論、コラボ相手作品のキャラは登場しません。会話内容や設定としてはぼかした上で登場するかも。この辺りの兼ね合いは難しい……)

今回で沼地のことは一見落着。次回は閑話です。
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