セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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憎まれっ子世に憚る③

 

 場所は再び原生林『エリア5』。

 盾蟹ダイミョウザザミは、物思いに耽るように佇んでいた。

 彼もしくは彼女は、以前亜美やルーキーが狩った個体ではない。その証拠に妖魔化の痕跡はなく、何も知らない小鳥が飛んできてはヤドの角に止まる。巨大蟹からは全く意に介されることなく、それはチュンチュンとさえずったあと羽根を広げどこかへ飛んでいった。

 ふいに、細長い黒目がぴくりと動いた。

 じっと瞳のない目でそれは自分の頭から伸びる長い触覚を見上げる。

 

 盾蟹は触覚の先を鋏で掴み、自分の方に寄せるようにたわませる。そこにもう一方の鋏を使い、触覚の先へと滑らせるように、細かく刻むように挟むのを繰り返す。

 それはまるで、女性が髪を漉いているようにも見える行為だった。

 

「ああやって触覚をお手入れしてるんだって!綺麗好きよね!」

 

 そう言ったのは、前回と同じ物陰に隠れて観察していたちびうさだった。

 少女は満面の笑みだったが、左隣のうさぎは心ここにあらずの状態だった。

 彼女が沼地で狩った鎌蟹ショウグンギザミとはまるで正反対だった。同じ『甲殻種』に属するとは思えないほど、ここには平穏だけが広がっていた。

 

「ちょっとうさぎ?聞いてんの?」

 

 ちびうさが不機嫌な顔で振り返ると、やっとそこで彼女は我に返る。

 

「あっ、ああ聞いてたわよ!ちょっと可愛いわよね、あれ!」

 

「ほんとーに?」

 

 訝し気に返したちびうさに、今度は右隣に伏せていた衛が呼びかける。

 

「こら、仮にもあれはモンスターなんだから静かにしとけよ。ほら、言ってる間に何か来たぞ」

 

 衛が指さした先、こちら目掛けて滑空してくる白い物体が見えた。

 華麗に着地したのは、蛇の頭に獣の四本脚、その間にモモンガのごとき皮膜を持ち、背中から大きな尻尾にかけてふさふさとした白い毛に覆われた生き物だった。

 

「あ、トビカガチだ!」

 

「いま来た子のこと?」

 

 ちびうさはうん!とそれに頷き、ますます興味深げに目を見開いた。

 

「『がりゅうしゅ』って種類の中でも、最近発見されたモンスターなんだって!こんなところにも来るんだ」

 

 牙竜種とは、やや乱暴に言えば『獣の如き四肢を有する竜』である。その背に翼はないが代わりに身体は硬い鱗に覆われ、地を四本脚で踏みしめることができる。特に前脚が発達傾向にあり、これで険しい地形も容易く乗り越えることができるのだ。

 

 トビカガチはのそのそと辺りを窺うように歩いてくると、ダイミョウザザミからそれほど離れていない場所に座り、あくびをしたあと毛づくろいを始めた。

 ダイミョウザザミはちらりとそちらの方を見ただけで、特に気にせず触覚のお手入れに勤しんでいた。

 巨大生物が隣合いながらくつろぐ光景を見て、うさぎは穏やかに目を細めた。しばらく狩りという形でしかモンスターと関われなかった彼女にとって、この光景は半ば救いそのものであった。

 うさぎの視線は、自然にトビカガチの風にそよぐ体毛に注がれた。

 

「あんなモフモフに包まれたら気持ちよさそうね!間に入ってマフラーにしてもらいたーい!」

 

「バカねー、うさぎ。あれには静電気を溜められて、いざとなった時はばちばちーって放電してくるんだから。迂闊にでも触ったらうさぎなんて黒焦げよ!」

 

 せっかくの夢に自慢げにケチをつけられたうさぎは、思わずちびうさのお団子を鷲掴みにした。

 

「バ、バカってなによ!そういうノリだなって思ったから付き合ってあげたのよ!」

 

「へーん、口だけなら何とでも言えるじゃないっ!」

 

 それにちびうさも腕を掴んで抵抗する。

 原生林の件以降これまで何回かこの3人で狩猟なしの調査に赴いたのだが、やはりそこは前の世界から続く宿命か、彼女たち2人はどうでもいいことでしばしば喧嘩をしだすのであった。そしてそれを、衛が毎回仲裁する。ほぼ役割が兄か父親も同然だった。

 このいつでもまったく変わらない恒例行事に、衛がとほほ顔になりかけていた時だった。

 

 トビカガチの白く乾燥した毛が擦れ合い、ぱちん、と音がなった。

 ダイミョウザザミの甲殻に電流が走った。

 

 驚いたダイミョウザザミは即座に大げさなほど身体を退け、万歳するように鋏を振り上げた。

 

「ーーーーッ!!」

 

「ーーーーーーッ!!」

 

 それを見たトビカガチも驚いたように飛びのくと、細かく体を震わせて静電気を纏い、毛を立たせて吠えた。

 

「うわっ」

 

 衛が思わず驚きの声を上げ、2人も喧嘩を中断した。

 両者は睨み合い、一歩も引かない。

 ちびうさとうさぎは、はらはらした表情でその経過を見守る。

 彫像のように動かないかと思えば、一方が身じろぎしたのにもう一方が素早く足を踏み出して動きを止める。

 そんなことが、何分も続く。

 

「……いつまでああしてんだろ?」

 

 しびれを切らしたようにうさぎが小声で呟いた。

 そこに、ちびうさが2人に囁いた。

 

「ソフィアさんが言ってたんだけど、モンスターたちって住処や餌の奪い合いとか以外、無駄な争いはしないんだって。あれも多分、出来るだけ争いたくないんじゃないかな」

 

「ああ、なるほど……ていうか、あんたいつの間にソフィアさんと話してたの!?」

 

「へへん、うさぎたちがあたしを酒場に連れてかない間にね!」

 

 驚きを隠しきれないうさぎに、ちびうさは得意げな顔をした。

 衛は、純粋に納得したように顎に手をやった。

 

「確かに、わざわざお互いが傷つくメリットは滅多にない。2人とも、あいつらを見習った方がいいな」

 

「いや、それはうさぎがだいたい悪いから……」

 

「そーいう無駄な発言が無駄な争いを生んでんじゃないんのっ!?」

 

「その発言が無駄なんじゃないんですかっ!?」

 

「なんですって!?」

 

 小声ながら、衛の背中を通して乱闘に近い口喧嘩が始まった。もちろん、これも毎回の恒例行事である。

 ダイミョウザザミが諦めたように腕を下ろして背を向けると、目の前にあった雑草をつまみ始めた。

 一方のトビカガチは素早くそこにあった骨を物色し、その中から肉片のついた骨を咥えて足早に去っていった。

 それを見た衛は胸を撫でおろし、明るい顔で頭上に視線を持ち上げた。

 

「どうやらもう何事もなさそうだ。そろそろ2人とも出てきて……」

 

 2人の少女は、未だに傍から聞くには訳の分からない早口でまくしたてながら、腕同士でがっぷりと組み合っていた。

 

「……あいつらの方がずっと利口だな」

 

 エリア5には、ただ風の唸りと鳥のさえずりのみが聞こえていた。

 

 

 日の暮れ、うさぎは衛とちびうさを見送るため、草食竜に引かせた飛行船行きの幌付き荷車に乗っていた。

 斜陽は荷車前方を赤く照らし、それは後方へ長く影の尾を引かせている。

 荷車の奥に敷かれた毛布の上で、ちびうさが指を咥えてやすらかな寝息を立てていた。

 その身体に、うさぎはそっと毛布をかけてやった。

 

「ちびうさも今回の調査兼観察、満足だったみたいね」

 

「どっちかっていうと、うさこと一緒に騒いでる印象だったけどな」

 

「もー、なにそれー」

 

 茶化した衛に、うさぎは思わず含み笑いした。

 

 これまで何回か行った3人での調査の目的は、前回あった妖魔化被害の鎮静化の再確認。

 筆頭を通じてギルドに確認したところ、妖魔化による被害は今のところ確認されないとして、自己責任のもとちびうさも連れて行ってよいと許可が出た。

 そういうわけで、こうやって3人での調査が実現したのだった。

 

「……うさこ」

 

 荷車右後方に座った衛が、ここに座れという風に隣の床板を掌で軽く叩いた。

 うさぎはその通りにして、衛と同じように空に脚を放り出して座った。

 2人とも装備を外し、冷えないように布を上半身にまとっていた。

 衛は、うさぎと視線を合わせた。

 

「もう、そろそろ帰ってこいよ。ここ3週間くらい、俺もそうだけどみんなに顔合わせてないだろ?」

 

 彼の瞳には、一抹の寂しさのようなものが浮かんでいた。

 うさぎは申し訳なさそうに目線を下げた。

 

「ごめんね。この次は筆頭さんと一緒に地底洞窟に行って、その次はテロス密林でちょろっと被害の後始末する予定。多分、1週間より早く帰ってくるから」

 

「そこまでして、この世界を護りたいのか」

 

 うさぎは微かながら見える夕月を見上げた。

 

「もちろん、あたしたちの世界を忘れるつもりなんかないよ。忘れられるわけない」

 

 上に行くにつれ黄色から淡いピンク、そして水色に移り変わっていく空の色は、あの街のそれと似ていた。

 

「でもね、ここも同じなのよ」

 

「同じ?」

 

 衛が聞き返すと、うさぎは微笑みながら彼の瞳を見つめた。

 

「みんな、あたしたちと同じように笑ったり、泣いたり、怒ったりしながら生きてる。あたしはそんな景色を護りたい」

 

 彼女は、最終的には人々もモンスターも全て助けたいと思っていた。

 魔女を倒し、妖魔を浄化により救う。それでこの世界はみんな平和に暮らせるようになるし、きっと自分たちの世界も救われることになるのだ。

 

「……そうか」

 

 衛は表情に寂しさを残したまま、微笑みを返して頷いた。

 ふと、彼はうさぎの傍に置いている山積みの本に気づいた。

 

「この本、どうした?」

 

「あっ、それね。ちびうさのヤツ、一度ここに来てからなんだか一皮剥けたじゃない。だから、負けないようにたくさん調べてるのよ」

 

 衛は感心したように笑って本の山を指さした。

 

「へー、えらいじゃないか。少し、見せてもらっても?」

 

「うん、まもちゃんならぜんっぜんいいよ!」 

 

 満面の笑みで許可を受け、山積みの本の一番上を取って少しめくってみると衛は驚愕した。

 いつも通りのガタガタな字ながら、びっしりと書き込みがされている。

 彼女なりにモンスターの特徴や弱点をまとめてあり、悪戦苦闘の形跡が見て取れた。

 

「これ、亜美ちゃんの手は借りてないのか?」

 

 衛が横に振り向くと、ううん、とうさぎは首を横に振った。

 

「亜美ちゃん、今まで翻訳すごく頑張ってくれてたからさ。いつまでも手伝わせるのは申し訳ないじゃん?」

 

「俺に言ってくれればいつでも力になってやるのに。ほら、ここの綴りはこうだぞ」

 

 衛は単語の一つを腰のポーチから取り出した鉛筆で修正した。

 かあっと顔を赤くしたうさぎは、本をひったくって胸に抱いた。

 

「こ、これはあたしがやらなきゃいけないことだから!──そうよ」

 

 彼女は、独り言ちながらうつむき、本を抱きしめた。

 

「もっとこういうこと知らないと、この先、まもちゃんも、みんなも、この世界も護れないんだから!」

 

 気丈に明るい口調を保ちながらも、力が入った両手がわずかに震えたのを見て衛は眉を歪めた。

 

「どうしたのよ、まもちゃん?怖い顔しちゃって」

 

 うさぎはとっさに顔を上げて笑顔を振りまいたが、衛は構わず口を挟んだ。

 

「うさこ……やっぱり今からでもバルバレに戻った方がいい。ちょっと疲れてるんじゃないか?」

 

「えー、そうかなぁ?」

 

 うさぎは一旦衛から顔を背け、本を山に返しながら言った。

 

「まもちゃんはずっとちびうさの御守で疲れてるし、狩りなんかしたら身体に毒だよ」

 

「何言ってるんだ。忙しさじゃ、俺なんかよりうさこの方がずっと……」

 

「とぉっ!」

 

 うさぎはばっと振り向くと、言いかけていた衛の唇を人差し指で塞いだ。

 呆気にとられている衛に微笑むと、うさぎは正面に向かいなおった。

 

「今回は筆頭さんたちがいるから安心して。それにこっちの都合で約束を反故にしたら、あっちに迷惑かかっちゃう」

 

 振り返ってちびうさを母のような優しいまなざしで見た後、彼女は呟いた。

 

「大丈夫。あたし、とっくに1人でも戦う覚悟はできてるから」

 

──

 

 『地底洞窟』と呼ばれる地の上部に位置する巨大蜘蛛の巣で、巨体が仰け反って悲鳴を上げた。

 鋏角種という種族に属する生物『ネルスキュラ』だった。

 影蜘蛛とも呼ばれるそれは真っ逆さまにひっくり返ってもがくが、やがて虚空に動かしていた脚が静まり、重力に従って包まった身体が傾いていく。

 そのすぐ前で、うさぎは横に細剣を構えていた。

 

 彼女は腕を下ろすと、光を失っていく複眼をぼんやりと見つめていた。

 後ろから、筆頭リーダー、筆頭ガンナー、筆頭ルーキーが緊張した面持ちで武器を構え続けている。

 その視線に気づき、うさぎははっと我に返った。

 

 振り返ると、彼女は笑顔で両腕を振り上げた。

 

「うっひょー、やるぅっ!!」

 

 真っ先に顔に喜色を浮かべ、快哉を叫んで拳を上げ返したのはルーキーだった。

 

「お疲れ様。随分と腕を上げたわね」

 

 ガンナーが微笑みながらうさぎの肩を叩いた。うさぎは「いやー、それほどでもー?」と言いながら、満更でもなさそうに頬を搔いている。

 

「妖魔化被害もその後始末も、何とか収束の目途が立ってきたな」

 

 彼女たちの様子を見ながら、リーダーはネルスキュラの顔の前にしゃがみこんだ。

 

「捕食しようとした妖魔化ゲリョスに生命力を吸われ飢えかけるとは……。食物連鎖の理すら覆す、恐ろしいウイルスだ」

 

「魔女の奴ら、ほんとひでぇ置き土産を置いていくっスね……」

 

 ルーキーが珍しく厳しい表情をした。ガンナーが苦笑しながら答える。

 

「感染力が非常に弱かったのが幸いね。これが前の狂竜症並みなら、もっと大惨事だったわ」

 

 一方で4人のうち、一番安堵した表情だったのはうさぎだった。

 

「でも、これで近くのナグリ村ってとこも安泰ですよね!」

 

 ナグリ村は、この地域の近くにある『土竜族』と呼ばれる人型種族が住む村である。

 地中に住む彼らは、ハンター向けの武具生産を始めとするモノづくりを生業としているが、飢餓状態のネルスキュラが現れたことでそれが滞ってしまったのだ。

 リーダーは、ちらりとうさぎを横目で見た。

 

「あとは、君が行くテロス密林で終わりだな?」

 

「はい!やっとこれで妖魔化調査も一段落ですよね」

 

 リーダーがうさぎの言葉に頷くと、ルーキーがいきなり彼女に向いて話を振った。

 

「え?思ってみればキミ、めちゃくちゃクエスト参加率高くない!?素直にどうやったらそんなに身体が持つのか聞きたいぐらいっス!」

 

 年下に対するものとは思えないほど純粋な尊敬の眼差しを受け、うさぎは一瞬びっくりしつつも腰に手をやって胸を張った。

 

「ま、まーあたしって一応あのグループでは花形みたいなもんですから!こんぐらいはやんないと務まらないってゆーか!」

 

「っはー、スッゲーや!この調子なら、うさぎちゃんも上位ハンターは夢じゃないかもっスね!」

 

 上位ハンターという言葉を聞き、うさぎは威厳を保てず身じろぎした。

 

「じょ、じょーいっ!それって、一握りの人しかなれないランクですよね?」

 

「そうね……貴女たちのスピードなら、それこそ更にその上……世紀に一つの英雄クラス『G級』も夢ではないかしら?」

 

「じ……じーきゅう!」

 

 もはや、うさぎは取り残されたように呟くしかなかった。

 

「いやぁ、今でも十分、故郷に帰ったときはもう大喝采の嵐っしょ!『英雄、ここに生まれたり!』ってね」

 

 ルーキーが大げさに振りかぶって指さしながら言ったのを聞いて、うさぎはふっと目元を緩ませた。彼女は、緑の刺々しい鱗と金属に覆われた自身の身体に目を落とした。

 

「故郷かあ。ずっと帰ってないけど……みんな、この姿見て喜んでくれるかな」

 

「こんな立派になった姿を見て、喜ばない人なんかこの世界にいないわよ」

 

 ガンナーの何気ない善意の言葉に、うさぎは微妙な感情の見え隠れする笑顔で答え、少しだけうつむいた。

 

────

 

「私たち、ちょっとの間だけ貴女たちと一緒にいられなくなるわ」

 

 その言葉をうさぎが耳にしたのは、ネルスキュラを縛り付けた荷車と並んで歩いていた時、一緒に地上から差し込む光を受けたときだった。

 

「ギルドから通達が出てね。『我らの団』のハンターを含めた数人の『英雄』と、近況報告並びに共同調査を行うことが決まったの」

 

 ガンナーは荷車を引かせていた草食竜をなだめ、一旦停止させた。

 彼女は、どこか申し訳なさそうにしながらも真っすぐうさぎを見据えて伝えた。

 

「だから、場合によってはそっちに妖魔の対応を任せるかも知れないわ」

 

「……あたしたちは参加できないんですか?」

 

 うさぎが聞くと、ルーキーが頭を掻いて苦々しい表情をした。

 

「うーん、ごめんなぁ。機密保持のために、絶対人を入れ替えたり増やしたりしちゃいけないんだってさ。それに、俺たちがいない間妖魔を任せられるの今んところ君たちぐらいしかいないし」

 

 当然と言えば当然である。うさぎたちがここに来てから、たかだか数ヶ月しか経っていない。しかもココット村でハンターになってからは半年強ほど。妖魔化生物たちを数頭狩った程度ではハンターズギルドには信用されない。

 しかし『英雄』たちがこぞって繰り出す調査となると、その成果と得られる情報はとてつもない価値を持つ。何より妖魔と魔女に関する情報が欲しい彼女にとっては、目的地に続く橋を目の前で切り落とされたような思いだった。

 うさぎが悔しげに唇を噛むのを、ルーキーとガンナーは気の毒そうに見つめた。

 

「……そっかぁ」

 

 だからといって立ち止まる訳にはいかない。情報を得られる得られない以前に、彼女の肩には数多の命が乗っかっていた。

 うさぎは小さく吐き出すように呟いたあと、ガンナーたちの方に向くとむしろ勢い込んだように拳を握った。

 

「分かりました、こっちはじゃんじゃん任せちゃってください!妖魔がまた出たら、片っ端から片づけてやりますから!」

 

「ありがとう。本当に恩に着るわ」

 

 ガンナーは固く握手を交わし、強い眼差しでうさぎの瞳を見た。

 

「できる限りの情報は提供するわ。貴女たちには何度もお世話になってきたもの」

 

「いえ、こちらこそ!」

 

 慌てて頭を下げるうさぎに、リーダーが話しかけた。

 

「すまない。ついでといっては何だがこちらからも一つ伝えさせてもらっていいだろうか」

 

 うさぎの背中に緊張が走り、次はピンと伸びた。

 

「は、はいっ!」

 

 ガンナーが草食竜の首をぽん、と叩くと彼らはのそのそと動き出し、荷車が音を立てて運ばれていく。

 そこからガンナーとルーキーは少し離れて歩き、リーダーとうさぎが隣合う形になった。

 

「前に沼地で言ったことに補足したいことがある」

 

「あっ、『何かを護りたいのならそれ相応の覚悟をしたまえ!』ですよね!」

 

 大げさなほど姿勢を正し、軍人のように拳を胸に打ち付けて暗唱してみせたうさぎに、リーダーは軽く頷いた。

 

「君が1人でショウグンギザミを相手取っていたとき、ヒノ君と少しだけ話した。その時、印象に残った言葉がある」

 

 リーダーは、うさぎの見開かれた碧眼を覗いた。 

 

「君が『みんなを護りたい』と願わなかったらここに立つことはない、と」

 

「……レイちゃんがそんなことを?」

 

「なるほど、経緯は知らないが確かに君の正義感と決意の固さはかなりのものだ。そこで一つ、気になった」

 

 頭上に日光が差してルーキーは目を腕で覆ったが、リーダーは構わずうさぎを見ていた。

 

「ハンターとして生きる上で君が護りたいものとは何だ?」

 

 何も知らない人なら慌てて土下座でもしてしまいそうなほど鋭い眼光だ。

 しかしうさぎは、ぷっと噴き出すと腹を抱えて笑った。

 

「あはは、リーダーさんったら相変わらず、怖いおかお!」

 

「……」

 

 男は『怖いおかお』をしたまま言葉を聞いている。いや、余計に怖さが増したかも知れない。

 うさぎは縛って載せられたネルスキュラの隣に腰を下ろした。

 

「あたしが護りたいのは、この世に生きるみんな、かな!今はこうやって狩るしかないけど、早く魔女を追い出して世の中が平和になったらなって」

 

 ネルスキュラを見る彼女の視線は憐れみを伴ったものだった。

 無論、彼女はモンスターという存在が人々にとって大きな脅威であることは理解している。そうでなければ、こうやって武器を手に取ることはしない。

 だが、その脳裏には最期まで互いを護りあった飛竜の番の姿があった。モンスターたちにも行動の裏には必ず理由がある。彼らに出会ってそう思ったからこそ、うさぎはモンスターたちも魔女から護るべき存在と思ったのだ。

 リーダーは困ったようにため息を吐くと、もう一度視線を戻して詰め寄った。

 

「君は、本当にその言葉の意味を理解して言っているのか?今後正しく分かっておかなければ……」

 

 そこに、ガンナーが腕を伸ばして割り込んだ。

 

「彼女は貴方の弟子じゃないわよ、ジュリアス君。それにそういうことは他人から言われるのでなく、自分で気づいていくもの」

 

 それを聞いたリーダーはどうしようもない、という風にため息をつき持ち場に戻った。

 

「ごめんね。彼なりに貴女を気遣ってるつもりなのよ」

 

 彼の後ろ姿を見送ったあと、ガンナーはうさぎに振り向いた。

 

「私は、貴女の勇気と実力を疑ったりしないわ。でもあともう一つ、狩人として必要なものがあるのは確かね。その内容は近いうちに分かるでしょう」

 

「……近いうち?」

 

「ええ、近いうちね」

 

 ガンナーが見上げた先に、キャンプが設置されている切り立った崖が見えた。

 




新大陸で発見されたトビカガチが原生林に来てるのがツッコミどころですが、ライズの水没林、サンブレイクの密林に生息という前例があるので現大陸にも生息してるという体で描いてます。(あと単純にかわいいから出したかった)
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