セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて 作:Misma
歌姫の公演まで1か月を切ったころ、少女たちはまた幾多の狩りを経て再びバルバレに帰ってきた。
今回も獲物は変わり映えはしなかったが、妖魔化生物による被害はほぼ収まった。それ以上の感染拡大も見られず、まずは一安心、といったところであった。
通りはいつも以上に人が活気に溢れ、とんてんかんと金槌の音があちこちから聞こえる。歌姫祭の話を聞きつけたキャラバンが新たにやってきたのか、通行人も倍以上に増え、もはや以前に見た景色とは別物だ。
華やかな旗飾りがテントの間に繋がれ始めており、どこもかしこもが祝賀ムードに湧いていた。
「見てー、飾り付けが進んでるわ!」
ルナは、少女たちの足元を歩きながら一歩ごとにめくるめく景色に目を奪われていた。
隣を、職人たちと大量の石、木材を積んだ荷車が通っていく。その先は集会所の左奥、元々は荒漠の平野が広がっていたところだ。現在ではそこに円形の仮設アリーナが急ピッチで建造されており、工具を背負う職人たちの顔も心なしか気合が入っている。
アルテミスは、美奈子の肩の上から鼻の高さも肌の色も違う男たちの顔を見送った。
「こんなにいろんな地域から人が来てるっていうことは、歌姫ってかなり広く知られた存在なんだな」
「まさしく世界的アイドルってとこね!あたしもいつか、こんな総出で迎えられたーい!」
果てしない夢を見て瞳を輝かせる美奈子に、その場の全員が「無理、無理」と首を振った。
「それにしても、衛さんとちびうさちゃんとも久しぶりに再会かぁ。うさぎちゃん、もう2人に会ったのかな」
まことがまだ出会えていないうさぎを探して周りを見渡したが、レイは興味なさげに呟いた。
「うさぎなら、またどこぞで道草食って迷子になってるかもよ?」
「……普通にあり得るから怖いわ……」
亜美は頬に手を添えてため息をついたが、そこで大きな背中にぶち当たった。
「あっ、ごめんなさ……っ!?」
謝りかけた彼女の目に入ったのは白い羽衣だった。歌姫と少し似た透き通る衣を纏っている。
そんな人々が20人ほど雑踏の中固まるように集まっており、通行人は奇異の目でその集団をじろじろと見ている。バルバレは世界中の民族が入り乱れるので服装に点で統一感がない。そのため、同じ色の服装の彼らは余計に目立っていた。
「……というわけで貴様ら、祭りの日も近い!今こそ、歌姫様が来られる時のために力を合わせる時だ!」
「うおおおおおお!!」
日焼けした白髪の男が壇上に立ち、教祖のように慇懃な物言いで叫ぶと、彼らは一斉に歓声を上げた。
「まずゴミ拾いだ!歌姫様を迎えるのに路端に汚物の一つでもあれば話にならん!その次は公演記念ビールの入荷、その次はうちわ販売!やることは山積みだぞー!ヌハハハハハーー!!」
ちょうど集会は解散し、2人の男が少女たちの横を通り過ぎる。彼らの目つきはどこかぎらついていた。
「歌姫様が来るなんて夢のようだ……!生で間近で観れるんだよなぁ。サインもらえるかなぁ」
「お、俺は握手してもらうぞ!ああ、あのお方の笑顔が顔に浮かぶ……」
男衆の脇では、勧誘役らしき女性ハンターが年若い青年の腕を掴んでいる。痩せっぽちの青年の身なりは貧しく、出稼ぎ労働者のようだ。
「ほらそこのお兄さん、歌姫親衛隊に入りましょ?今なら入会料半額の50ゼニーで、入会記念にコラボビールつけて無料食べ放題よぉ」
「た、食べ放題!?ほ、ほんとですか!?」
青年の問いに、女性ハンターは甘ったるい声で答える。
「ええ!このボランティアは、貧者救済も兼ねてるの。歌姫様の加護を共に分かち合いましょう?」
「じゃ、じゃあ、ちょっとだけ……」
男はかなり腹を空かせていたようだ。白い集団が使っているテントの中に入っていった。
「何あれ」
正直なにか気持ち悪い、という顔でレイが呟く。ルナが亜美の顔を見上げた。
「なんか、変な人増えてない?」
「ええ……」
というより、姿だけ見ればカルト組織のようである。
まことは取るに足らないよ、と笑った。
「たかが歌姫様のファンだろ?過激派みたいなのも多少は出てくるよ」
だが、美奈子は白い集団をじっと見つめていた。
彼女の脳裏に、沼地でガンナーから言われた言葉がよぎった。
(この世にあるものすべてが、求める真実に繋がる手がかり……)
彼女はレイに振り向くとその両肩を鷲掴みにし、睨むように顔を近づけた。
「ねえレイちゃん、あの人たちをよぉーーーーく調べてくれない?」
「えっ、ええ……嫌よそんなの」
傍目でも分かるほど不機嫌な顔をしたレイの肩を美奈子は持って回し、白い集団へと向ける。
「いーからちゃっちゃと調べてみてよっ!」
「美奈子ちゃん、いったいどうしちゃったのよ……まったくしょうがないんだから」
レイはすっと目を閉じて印を結び、妖気を感じ取る体制を整えた。
しばらくそのまま動かなかったが、ふいに彼女の肩がぴくりと動いた。
「待って……」
レイは何かを捉えたようだ。それを手繰り寄せるように彼女はぎゅっと更に目をきつく瞑って呪文を唱え、その声は次第に真剣味を増していった。
やがて彼女はあるものを見通し、かっと目を見開いた。
「よく見ないと気づかないくらい薄いけれど……妖しい力を感じる!」
「えっ!?」
一同が驚くと同時、レイは能力を解除した。彼女自身も自分で信じられないような顔だった。
「……やっぱりね。ミメットはバルバレを操ろうとしてる」
美奈子が確信したように呟いた。
レイが印を結んでいた手を下げ、悔いるような目で答えた。
「うさぎが言っていたこと、当たらずも遠からずだったのね……あいつの目的は、あたしたちをこの拠点から孤立させることだった」
それでもなお、美奈子の肩上にいるアルテミスはまだ信じられないような顔をしている。
「じゃあ、今までの妖魔たちは何だったんだ?」
「そいつらはきっと、あたしたちも含めてギルドやハンターたちの目を欺くための囮だったのよ!相変わらず、やることがせこいってゆーか!」
美奈子が憤慨するように言うと、亜美が目を細めた。
「きっと、ここまで静かにシンパを増やしてたのね。表向きは歌姫様を支援する団体として」
ミメットは今回、ユージアルがかつてココット村で取った作戦を上手く改善したというべきだろう。大衆の注目する祝典の影に隠れ、上手く溶け込みながら味方……もとい手下を増やしている。そしてそれは、ある程度成功しているようだ。ミメットはセーラー戦士たちが狩りに勤しんでいる間に、本格的に作戦を開始したのだろう。
白い集団が横並びに床をせっせと磨き、ビール販売用の屋台を組み立てている。
外から見ればやることがやや迷惑で変わってはいるが、特に目立って悪事をしているようには見えなかった。
「ギルドもまさか、このお祝いムードの裏にそんな計画が隠れてるなんて思いもよらないでしょうね」
彼らのやることがあの程度では、ギルドからの処分はよくても勧告か退去止まりであろう。ギルド職員たちも祝典の準備で忙しく、一組織のボランティアの動きに一々構ってはいられないだろう。まさに、抜け穴を上手く突いたと言える。
どこか哀れそうな亜美の表情に対し、まことは険しい顔をして腕組みをしていた。
「バルバレの人々を洗脳……まさに古典的手段ってとこか。ほんとにこういうの久々で忘れてたよ」
元の世界では敵に人間が洗脳されたり妖魔にされたりといったことは何回もあったが、それと同じことをミメットはしようとしている。
居ても立っても居られず、ルナが戦士たちの先頭に立った。
「まず我らの団に行って相談よ!」
我らの団のキャラバンは、以前と変わらぬ大通りに、そのままの場所にあった。
受付嬢ソフィアが座る椅子の前に、異様に大きい人だかりとそれを囲う野次馬が集っている。
「な……何よ、ここにも人だかり!?」
そう言った美奈子だけでなく他の少女たちも戸惑って周囲をうろつくことしかできない。
少し向こうに、ちびうさを連れた衛が見えた。
迷うような足取りの彼らも、こちらと同じくこの状況を呑み込めていないようだった。
「衛さん、ちびうさちゃん!」
そう言ったルナを先頭に少女たちが駆け寄ると、2人もはっと気づき、再会を喜ぶ暇もなく面を向かい合わせた。
「みんな!これは一体どういう状況か分かるか?」
そう聞いた衛に、亜美は首を横に振った。
「あたしたちも来たばかりで、何が何だか……」
衛はちびうさの不安げな顔を背に受け、決心したように前を向いた。
「なら、直接聞いてみるしかないな」
「おい、ここから斡旋を頼めば万事解決って本当かい?」
「間違いねえよ、俺のダチが言ってんだから」
「私の故郷でも困ってるみたいなんだ。そのお団子頭のお嬢ちゃんに頼んじゃくれないか?」
好き勝手に言い立てる男女相手にソフィアは真剣な顔で頷き、筆を素早くメモに走らせている。
「押すな押すな!話は聞くから、お嬢の負担も考慮してくれ!」
押し合いひしめき合う男女を団長が宥めて押さえてはいるが、彼らの殺気迫る空気は今にもその壁を突破するかと思える勢いだった。
その団長の肩を、衛が叩いた。
「なんだこんな時に……ってお前さんたちか、いいところに!」
団長は焦りの滲んだ顔で群衆をかき分け、急いで受付嬢への道を開いた。
一番足早な衛を先頭として、少女たちは受付嬢の元に急ぐ。
戸惑う人々の非難めいた声を受け流し、衛は中心に腰掛ける女性に声をかけた。
「ソフィアさん!」
机に視線を注いでいたソフィアは顔を上げると、来るのを待っていたと言わんばかりに立ち上がった。
何とか取り巻きを静まらせると、ソフィアはこれまでの経緯を話し始めた。
「3日ほど前から、テロス密林方面の地域からの依頼が殺到しまして。妖魔化生物が急増し、甚大な被害が出ているようです」
「テロス密林……」
衛は顔を青くし、彼女の机に両掌を置いて険しい顔をソフィアに近づけた。
「うさこは、帰ってきてないんですか?この依頼の束、全部彼女に送ったんですか!?」
頷いた拍子にずり落ちた眼鏡を持ち上げるソフィアの顔も、半ばやつれかけていた。
「すみません。ギルドの規則として、こういう場合は必ず指名された本人に紹介だけはするようになっているのですが……うさぎさんは既に、数件の依頼を達成されています」
そう言うソフィア自身ですら、どこか顔が緊張で引きつっていた。
彼女のメモ帳に記された未達成の依頼は、まだ10件ほど残っている。
「もしかしたらうさぎさんは今後、すべての依頼を受注するつもりではないでしょうか」
衛は、悔やむように机上の自身の拳を握り締めた。
「やっぱりあの時、俺が無理を言ってでも傍にいてやれば……!」
それを見て、団長はぐっと口を引き締め、帽子を目に被さるほど深くかぶった。
「こちらからも時を見てすぐ帰るよう文は送ったんだが、あの子が従ってくれるかは正直なところ……」
レイは、いよいよ我慢ならないという顔で怒鳴った。
「なんでみんな、筆頭さんに頼まないんですか!?こんなの、あの子1人じゃ無理に決まってます!」
「筆頭ハンターはギルド上層部からの命を受けて動く人々です。一般人がおいそれと依頼を出せる相手ではありません。しかも今は、我らのハンターさんや他の『英雄』と共同調査の真っ最中」
「え!?」
少女たちの耳に、そんなことは伝わっていなかった。
一同の戸惑いを予想していたかのように、ソフィアは一通の文を指に挟んで取り出した。
「ちょうどその連絡も今朝、こちらに届いたところで。本当にタイミング悪すぎです」
「……信じられない」
レイは、目がくらついたかのようにしゃがみこんだ。
仲間の少女たちも、どうしようもなく悔しげに立ち尽くすことしかできない。
だが、彼女たちを見るソフィアの瞳にはまだ光が宿っていた。
「でも、理由はそれだけではないと思います」
それを聞く少女たちの視線が、彼女に集中した。
「私も、この数日でたくさんのお話を聞きました。ある時は郵便屋さんの落とした手紙を探して遺跡平原を練り歩き。またある時は、妖魔化生物を見ようと抜け出た村の子どもを連れ帰しに沼地を駆け回り。またある時は、落ちぶれた貧しい村出身の2人組を励まし、再起させたと」
ちびうさは、心底驚いた顔をしていた。
「……そんなこと、うさぎのヤツ一言も……」
「それだけ多くの人がうさぎさんに救われ、彼女を信頼しているということではないでしょうか」
いつの間にか、あれほど騒いでいた周りの人々は黙って真剣な顔で少女たちを見つめていた。懇願にも似た表情が並び立ち、無言で助けを求めていた。
それを、まことは振り返りながら受け止めた。
「あたしたちが最後の頼み綱……ってわけか」
その時、青い瞳が真っすぐにソフィアの顔を捉えた。
「俺が助けに行きます」
衛が発した一言に、群衆はざわめいた。
彼は、ソフィアの手元にある依頼書の一つを指さした。
「今から最速で行けば、少なくともこの妖魔化イャンクックの依頼には間に合いますか」
ソフィアは決心した男の表情と依頼書を見比べながら、息を呑んだ。
衛はうさぎの恋人である。我らの団の2人も、どれだけうさぎと彼が心の奥底で繋がり合ってるかを見ていた。どんな答えを出そうとも、彼は迷いなくうさぎを助けに行くだろう。
団長は苦い顔で何かを言いかけたが、男の顔を見て仕方なさげにため息をついて言うのを止めた。ソフィアはぐっと気張った表情で決意を新たにした。
「恐らくかなり、ギリギリといったところですが。急遽、特急便を手配します!」
「あたしたちも行きます!うさぎちゃんを孤立無援のまま放っておけないわ!」
もうこれ以上黙ってはいられないと、美奈子が口火を切って前に進み出た。
亜美も、仲間たちを強いまなざしで捉えながら言った。
「じゃあ、この中から2人選ばなくちゃね。もう一方は、ここに残ってあのことを……」
白い集団についてひとまず報告しようとしたところに、団長が手を挙げる。見つめられると、彼は言いにくそうながらゆっくりと首を振った。
「それが……既に受注人数制限で、クエスト参加は締め切られてる。もう空き枠はない」
「え、じゃあ後の2人って?」
ソフィアが開いた受注者リストに目を通した少女たちは、そこに載っている名に驚愕した。
「……この人たちって……!」
遂にバルバレでミメットが行おうとする作戦が明らかになりました。そして謎の2人の正体についても、後ほど分かりますので、お楽しみに。