セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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可憐に、凛々しく①

 

 深夜、篝火の焚かれたテントの間を2つの影が疾駆する。

 両者が見据えるは、集会所に次いで大きな砂上船。

 表向きは何の変哲もない商船で、今はある商店の倉庫として機能しているのだが。

 

「よし、ここは正面突破しよう!」

 

 まことが商人の荷物の陰に隠れ、強い眼差しで呟いた。

 その視線の先で、白い羽衣を着た集団が7人ほど船の前にて監視を行っている。

 

「まこちゃん、そっちは人が多いわ。なるべく気づかれないように、こっちの回り道を……」

 

 隣に控える亜美は、スパコンのキーボードを叩きながら周囲の状況を確認していた。

 

「気づかれないうちにぶちのめせばいいじゃないか」

 

 当たり前だろ、とばかりにそう言ってのけたまことに、亜美は驚いた顔をした。

 

「……その辺りはランサーさんを見ても変わらないのね」

 

「いや、変わったよ」

 

 まことの翡翠色の瞳が、暗闇のなか光った。

 

「よーするにこの力を、先を見通した上で賢く使えりゃいいってことだよ。何たって、あたしの隣にはIQ300が付いてるからさ」

 

 笑顔で肩を叩かれた亜美は苦笑を返した。

 

「……なるほど。役割分担しようというわけね」

 

「大正解」

 

「それなら、計算を少し変えましょうか」

 

 一方何も知らず、時節あくびをしながら眠そうに見張りを続ける男たち。

 そこに足元から泡でできた冷たい霧が立ち込めてくる。

 ふと気づいた1人が隣の男に声をかける。

 

「お……おい、霧が出てるぞ」

 

「嘘つけ。ここは砂漠だぞ」

 

 まともに相手にしようとしない相方に、男はいやいや、と食い下がった。

 

「だ、だがよ。これって、この前のモーラン襲撃でもあったっていう……」

 

 まことが背後に駆けつけ、話していた1人の後頭部に一撃。気絶させた。

 霧は今や周囲を覆いつくし、彼らの視界をほぼ完全に塞いでいた。

 彼女は迅雷のごとく駆け、ボウガンを構えようとした男たちを確実に気絶させていく。

 顔を布で覆い隠した少女たちは砂上船の入り口へと足をかける。

 

「第一関門、クリア!」

 

 2人の見張りが急いで身体で壁を作るが、まことはそれを跳び膝蹴りで突っ切って強行突破する。

 

「情報の通り中の見張りの数は少ないわ!団長さんには感謝しなくちゃね!」

 

 後からついてくる亜美が、船内の地図を見ながら言った。

 団長からもらった知り合いを頼りに、度重なる聞き込みと潜入の末に手に入れた成果である。

 

「にしても美奈子ちゃんとレイちゃん、なに油売ってんだか」

 

 まことがいくら見渡しても彼女たちが出てくる気配はなかった。

 やがて彼女たちは()()()()()()()()のお頭がいるとされる大広間に入った。

 直後、数十人の武装した男女が警備用のボウガンを番え2人を取り囲む。

 

「やべっ!」

 

「お頭はとっくに逃げたあとだわ!」

 

 いくつもの銃口が一斉に彼女たちを狙う。

 白い羽衣を纏った彼らの瞳は赤い煌めきを潜ませていた。

 その後方にいる、格上らしき年配の男が叫んだ。

 

「動くな!一歩でも踏み出したらその面を撃ち抜くぞ、この狼藉者め!」

 

 扉が閉められ閂がかけられた。どこにも逃げ場所はない。

 

「ここは、もう……」

 

「仕方なさそうね?」

 

 2人の少女が苦笑し合って、背中合わせで変身スティックに手を伸ばした時だった。

 

 

「とりゃあああっっ!!」

 

 

 天井に開いた穴から後頭部にタルをぶつけられた1人の団員は、目を回して後ろに倒れた。

 

「あーごめん、ごめんっスよっ」

 

 亜美は目を見開いた。

 身軽に飛び降り、申し訳なさそうに男の身体を乗り越えてきたのは──

 

「筆頭ルーキーさんっ!!」

 

 オレンジ色の短髪が特徴の若者を見て、団体のメンバーたちは思わず怯んだ。

 彼らの顔にある恐れの色は、まだその後ろにいる人物の姿を認めた瞬間更に色濃くなった。

 次は、まことが叫んだ。

 

「リーダーさんまで!!」

 

 筆頭ハンターの2人は、今回は狩猟用の武器を背負っていない。

 その代わり、目にも止まらぬ素早さで間近の相手のボウガンを蹴り飛ばし、丸腰になった相手を容赦なく投げ飛ばす。

 相手方に、大混乱が起きた。

 ミメットに洗脳されているとはいえ、高名な筆頭ハンターに迷いなくボウガンを撃てるほど理性が失われているわけではなさそうだ。

 

「説明は後でする!今はこいつらを片付けるぞ!」

 

「はいっ!」

 

 まこととリーダーは、次々に団体のメンバーを蹴り、投げ飛ばし、瞬く間に気絶させていく。

 亜美は武器になりそうな椅子を手渡し、ルーキーはそれを武器に戦う。

 不意に人々の瞳の色が変わった。

 目が紅く光り、その態度から迷いと恐怖が消えた。

 彼らのうちの1人がリーダーにボウガンを真っ直ぐ正確に向け、引き金に手をかけた。

 

「っ!」

 

 引き金が引かれた。

 リーダーにびゅん、と迫った矢をまことは素手で掴み取り、次弾を装填しようとした相手の顎をハイキックで蹴り飛ばした。

 その後、数人にまで減った相手を彼女は鬼神かと見紛う速度でぶちのめし、悉くをその場に伸びさせた。

 それ以降はルーキーや亜美が手を下すまでもなかった。

 

「キノ君……」

 

「リーダーさん、大丈夫ですか?」

 

 跪いてリーダーの身を気遣うまことを、ルーキーは口をあんぐり開けたまま驚きの表情で見つめていた。

 

「……すっげぇ……」

 

 まことから差し伸べられた手を、リーダーはしっかりと握り締めて立ち上がる。

 

「心より感謝する。だがどうも、頭領は外に逃げたらしい」

 

「それなら、すぐ追いましょう!」

 

 亜美の言葉に3人は同意し、来た道を戻る。

 

「先ほどの様子、確かに未知の方法で操られていたな。ガンナーですら予見できなかったというのに、アイノ君は本当によく気づいたものだ」

 

 階段を駆け下りながら感心したように呟くリーダーの横顔を、平行して走るまことが見つめた。

 

「リーダーさんたち、まだギルドの共同調査だったはずじゃ」

 

「書記官殿とソフィア女史から、君たちによる報告を知らされてな。私の友である我らの団ハンター、そしてガンナーとランサーが、今の調査は任せろと背中を押してくれた」

 

「書記官殿?」

 

 亜美が疑問に眉を歪めると、前を行くルーキーがきょとんとした顔で彼女に振り向いた。

 

「ん、知らなかった?団長さんのことっスよ!こうして無茶が聞いたのも、あの人が王立学術院のチョーゼツ偉い人だからっス!」

 

「え、ええーーっ!?」

 

 まことはいまいちピンと来なかった一方、亜美は信じられないという顔で素っ頓狂な声を上げた。

 王立学術院と言えば、このバルバレより遥か北西にある大国『西シュレイド王国』直属の研究機関のことで、所属する書士たちのもとあらゆることを調査し、資料や書籍を収集し保管する──いわば、世界最大の国立図書館のようなものである。

 学術院には貴族階級か一部のハンターしか出入りできない。あの奔放で豪快な人物と学術院の知的なイメージは、中々結びつきそうもなかった。

 

「……ますますあの人のことが分からなくなったわ……」

 

 亜美はますます悩みを増した顔で呟いた。

 

──

 

 商船から出てすぐ、御供を連れて黒い布を被って夜闇に紛れようとする後ろ姿を見つけた。

 

「逃がすかーっ!!」

 

 まことは全速力を上げ、立ちはだかった2人の護衛ごと目標の人物を蹴っ飛ばす。

 

「ぎゃーーーーっ!!」

 

 倒れたその人物から頭にかけていた布が剥がれた。

 中から出て来たのは、日焼けした白髪の男の顔だった。

 

「こいつ、ミメットじゃない……!?」

 

 あとから駆けつけた亜美たちは、まったく知らない顔に驚いた。

 だが、彼女たちはこの男にどこか見覚えがある。

 目の前の顔と記憶はすぐに結びついた。最初にこの団体を見かけた時、群衆の前で慇懃な態度で指示を呼び掛けていた男だった。

 

「あんた、さては……」

 

「まさかここでご拝謁するとはな……」

 

 そしてなぜか、ルーキーとリーダーまでも驚き呆れた様子である。

 

「そっちは表向きの教祖!本当のアジトはこっちよ!」

 

 そこに聞きなれた少女の声が聞こえた。

 朝陽に白み始めた薄明の空、金と黒の長髪が揺れてこっちに駆けてくるのがじんわりと見えた。

 足元には黒猫と白猫の姿もある。

 

「美奈子ちゃん!レイちゃん!ルナにアルテミスも!」

 

 教祖を捕らえたまままことが叫んだ。

 駆けてきたアルテミスは足元まで来ると息を切らしながらその顔を見上げた。

 

「ごめん、待たせた!」

 

「あとはあたしたちが見張るわ!」

 

 ルナの言葉にまことは頷くと、男の腕を掴んで立たせる。

 

「さあ、しばらくじっとしてもらうよ!」

 

 立った男は、その場を動かずじっとしている。

 やがて、口元に不敵な笑みを浮かべた。

 

「ヌフフ……美少女に捕らえられるのも悪い心地ではないが、ワガハイはあいにくゴーイング・マイ・ウェイを信条にする男でな……」

 

 まこと含む少女たちは呆気に取られてその男を見つけた。

 

「は?」

 

 

 

「必殺、イャンクックの真似!キェーーーーッッ!!!!」

 

 男は突然両手を上げ、足踏みして飛び跳ね奇声を発した。

 

 

 

「うわっ、なに!?」

 

 驚きでまことの拘束が緩んだその隙に、男は全速力でダッシュする。

 

「ヌハハハハハ、引っかかったなー!せっかく手に入れた飯のタネ、逃してたまるかー!!」

 

「あっ、ちょっと!」

 

 男の逃げ足は異常に早く、あっという間に市の闇の中に消えていった。

 まことはぐっとその背中を睨んで悔し紛れに拳を握る。

 

「くそっ、こんなことでしくじるなんて……」

 

「所詮は表向きの教祖だ。今は本当の親分を優先しよう」

 

 追おうとした少女たちとルーキーを、筆頭リーダーはそう言って引き止めた。

 

──

 

 惜しくも教祖は逃したが、ルナとアルテミスが捕縛した白の集団を見張り、筆頭2人と少女4人は本当のアジトへと急ぐ。

 その後、二手に分かれて挟撃作戦を敢行することになった。

 1チームはルーキー、亜美、レイ。もう1チームはリーダー、まこと、美奈子。

 亜美とリーダーがそれぞれのチームの参謀役であり、残りは実行役である。

 

「美奈子ちゃん、よくこんな僻地にアジト見つけたね。最近調子いいじゃん」

 

 まことが感心すると、美奈子は得意げに鼻の下を擦った。

 

「へへーん、ガンナーさん直伝の『第六感』ってヤツよ!」

 

「でたらめを言うな。彼女の勘は他人が一朝一夕で習得できるものではない」

 

 リーダーにばっさりと切られ、美奈子はつまずきかけた。

 後から追いかけた彼女の目には涙が浮かんでいた。

 

「ちょ、ちょっと褒めてくれたってぇ~」

 

 リーダーは、ちらと後ろに顔だけを振り向けた。

 

「だが、最初の頃から雰囲気が変わってきたのは事実だ。キノさんも含めてな」

 

 2人の少女は少しだけ照れたように顔を赤くした。

 十字路に差し掛かり、3人は商隊のテントに一旦隠れた。

 美奈子からの情報通り、白い集団の姿がちらほらと見える。

 

「リーダーさんもだいぶ表情が柔らかくなりましたよね」

 

 リーダーは、そう言ったまことの顔をちらりと振り返ったあと、すぐに前に視線を戻した。

 

「……どんな相手だろうと、共に狩りをしていれば慣れるものだ」

 

「ぶーぶー、相変わらずそこんところ素っ気なーい!でもそーゆーところが好きー!」

 

「相変わらず懲りないな、君たちも」

 

 ころころ顔を変える美奈子にリーダーは呆れつつも、少し遅れて僅かに口角を上げた。

 

──

 

「亜美ちゃん!あと5分ぐらいってとこっスか?」

 

 別の場所で配置についたルーキーが亜美に振り向くと、彼女は地図を開きながら頷いた。

 

「はい、ルーキーさん!後は打ち合わせたルート通りに進めば、最短で辿り着けるはずです!」

 

「いよいよ本物の魔女とご対面ってわけね」

 

 レイが両拳をぼきぼき鳴らしたところで、亜美が地図から目線を上げた。

 

「……すみません、ルーキーさんの本名、お聞きしていいですか?」

 

 突然のことにルーキーは眉を上げた。

 

「あ、ああ!そういや言ってなかったっけ。でも、なんで?」

 

「いえ、そちらはせっかく名前を覚えて下さってるのに、こちらが知らないのは何だか申し訳ない気がして」

 

 亜美の隣にいたレイは、直後、ルーキーが少し緊張するように息を呑むのに気づいた。

 

「……まーその、よかったらエイデンって呼んでくれると嬉しいかな」

 

「エイデンさん、ですね。ありがとうございます」

 

 亜美がにこやかに微笑んで感謝を述べると、ルーキー、もといエイデンは少し紅潮した頬を指で掻いたあと、努めて満面の笑みで答えた。

 

「お、おう!」

 

 レイは、何か訝しむような顔でそのやり取りを見ていた。

 

──

 

 団体の本当のアジトは、一見誰もが風景の一部として通り過ぎてしまうような小さくおんぼろな砂上船だった。

 そこから少し離れて赤い旗が2か所から同時に上がった。

 リーダーと亜美が合図し終わると、いよいよチームはアジトへの潜入を開始した。

 レイと美奈子が手に入れた地図と手がかりをもとに、本当の頭を追い詰める。

 

 アジトは地下に続いていた。常に流浪するバルバレの地にしては意外だった。

 どうやら古代の地下遺跡を改修して使っているようで、外装に比べて内側は豪奢に飾られていた。

 ルーキーとレイの前を行って状況を把握していた亜美は、その量に目を見張った。

 

「団員の資産を巻き上げているのね……」

 

 宝石、ぬいぐるみ、高級そうな絹のドレスなど、さまざまなものが置かれている。

 いかにも華やかなものが好きなミメットらしい内装で、もはや彼女の所有する豪邸と言っても違和感がなかった。

 

 作戦において最重要視されたのはスピードだった。

 敵を倒すことより、その奥に待ち構える『魔女』を捕らえることが第一目標。

 見張りを時にやり過ごし、時に静かに打ちのめし、彼女たちは奥へ、奥へと入り込んでいく。

 予定通りに両チームは合流し、まこととリーダーが力任せに閂のかけられた扉を打ち破る。

 

 部屋の中は甘ったるい香水の匂いがして薄暗かった。部屋中央、赤い絨毯に大きなソファーが置かれ、所狭しと並べられた高級家具には化粧品や食べかけの菓子が所狭しと置かれている。

 部屋の奥、シルク製の白い垂れ幕の向こうに浴槽の区画が設けられて、もくもくと湯気を垂れ流していた。

 そこから素肌の脚が1本伸びている。

 

「お前が噂の魔女か!!遂に追い詰めたっスよ!」

 

「ようこそ、あたしの家へ。ステキな飾りつけだったでしょう?」

 

 幼さと傲岸さが同居した甲高い声で、まるで客人をもてなすような口調だった。

 女性の影が立ち上がり、垂れ幕の向こうでバスローブに身を包む。

 ルーキーは一瞬たじろいだが、気を取り直して表情を引き締めた。

 垂れ幕がゆっくりと持ち上げられた先にあったのは、金色のウェーブヘアーの女性の妖しい微笑みだった。

 

「──貴女は!」

 

 リーダーは遺跡平原で助けた女性の顔が目の前にあることに驚いたが、少女たちは動じなかった。

 彼女こそがボランティア団体の親分でありデス・バスターズの幹部の1人、ミメット。

 前回少女たちと対峙した時と、その高慢な表情は全く変わっていない。

 

「こいつが本当の魔女です!今すぐにでもひっ捕らえないと……」

 

 まことが拳を構えて前に進み出ると、彼女は近くのテーブルに置いてあった扇子を手に取りさっと振り向けた。

 

「あら、そんなことしていいのかしら?むしろ、貴女たちの名がバルバレ中に張り出されることになると思うけど」

 

 ミメットは扇子を立てると、悪戯っ子のような笑みで人差し指を唇に艶めかしく当て、少女たちにシーッと静寂を促した。

 

「分かるわね、()()()()()使()()をお持ちのお嬢様たち?」

 

「……!」

 

 4人の少女の顔が強張ったのを見て、ミメットはいかにも楽しげに笑った。

 

「ふふ、だから言ったでしょう?いつか降参しなくちゃいけない時が来るって」

 

 一連のやり取りを見ていたリーダーが、彼女たちの方を振り向いた。

 

「どういうことだ?」

 

 それに少女たちの誰一人も答えることができない。

 ミメットは余裕の表情で手を振った。

 

「いえ、こちらの話ですのでお構いなく~♪それより、筆頭の方々だってこんなことしてたらまずいんじゃなくって?」

 

「何言ってんだ!ここでとっ捕まえれば、お前の企みなんて……」

 

「待て!あの態度、何かおかしい!」

 

 ルーキーが憤然とした様子で歩み出ようとしたのをリーダーは制した。

 

「これだから野蛮人は。知ってるわよ、あなた方はいくら筆頭だなんて大層な名前の冠頂いてても、ギルドの政に参加してるわけじゃない。所詮は上にこき使われる鉄砲玉にすぎないのよ」

 

 彼女は口元を扇子で隠し、いかにも被害者らしく眉をハの字に曲げて話した。

 

「我々は単なる善意に基づいた()()()()()()()()、迷惑行為や犯罪は一つたりとも侵してませんわ。これを潰そうとすれば、消されるのはあなた方じゃなくって?」

 

「へっ、俺たちとギルドの間には長年の信頼関係てもんがある、そう簡単に……」

 

 なおも言い返そうとしたルーキーの前に、2人の男が立ちふさがった。

 赤い制服に赤い羽根帽子が特徴的だった。

 彼らは同時に、目にも止まらぬ速さでリーダーとルーキーの喉元に細剣を突き付けた。

 抵抗する隙すら与えられなかった。

 

「……ギルドナイト……!?」

 

 ルーキーは目の前にあるものが信じられないという表情をした。彼らの瞳にためらいはない。

 ギルドナイトとはギルド専属の特殊組織の一員であり、要人の保護、依頼主との交渉、規律維持などギルドの内部業務を担う点で筆頭ハンターと異なる。裏では悪質なハンターを直接裁く任務を与えられていると噂される存在であった。

 そんな彼らの目は赤く、虚ろだった。先ほど少女たちを取り囲んだ面々と似た状態である。

 

「なるほど、こういうわけか」

 

 リーダーがミメットを睨み据えながら呟いた。

 

「かなり客引きは強引と思ったけれど、実際はそれ以上だったようね!?」

 

 レイが脅しに負けじとばかりに強気な口調で尋ねると、ミメットは恐れるどころか大笑いした。

 

「それならうちのファンメンバーみんなに聞いてごらんなさい。口揃えて自分の意思で入会したというはずだわ」

 

 美奈子が、耐え切れなくなったように怒鳴ってミメットを指さした。

 

「あんた、こんなことしてるオノレが恥ずかしくないの!?本当のファンなら序列なく、みんなで一緒に推しを愛でなさいよ!!」

 

 ミメットはギルドナイトの後ろで、呆れたようにため息をついた。

 そのまま、手元に取った焼き菓子をサクサクと頬張る。

 

「はあ、歌姫様のファン兼見習いとしてあの方が通る道を整えてるだけってのに、こんなむさっくるしい連中が押しかけてきて……ほんっといいメーワク」

 

 そろそろ面倒になってきたのか、ミメットは開いた扇子で口を隠して眉根を寄せながら責め立てた。

 

「そんなにあたしを捕まえたいのでしたら、証拠の一つでもそろえてみてはいかが?」

 

 細められた目の間に宿った光が、少女と男たちを貫いた。

 彼らはすべての元凶を前に黙って睨むことしかできない。

 にらみ合いの沈黙がしばらく続いたあと、ミメットはふっと笑ってくるりと身体を翻した。

 

「歌姫様の公演、当日はどうぞ楽しんでちょうだいね~!きっとあなた方も満足するに違いないから!」

 

 扇子をひらめかせながら、ミメットは扉もない窓もない部屋の奥へ堂々と歩いていく。

 後を追おうとする少女たちを、ギルドナイトが牽制した。

 

「それじゃあ、ばーいびー!!」

 

 わざと見せつけるように、凄まじい風と共に彼女は跡形もなく消え去った。

 

「うわっ!?」

 

 ルーキーは、驚きのあまり後ろに倒れ込んだ。

 

「あれが魔女の力か」

 

 隣のリーダーがルーキーを助け起こしながら、冷静ながら悔しさの混じった表情で唇を嚙み締めた。

 

「正体を隠そうともしない、堂々としたあの態度……ここのギルドにも対抗できる段階にまで力を伸ばしているのだろう。予想以上の動きの早さだ」

 

「ちきしょうっ!俺たちが妖魔を必死こいて狩ってる間に……!」

 

 ギルドナイトは細剣を筆頭ハンターから離すと踵を返し、主を追って風のように部屋を出ていった。

 少女たちにとって、もぬけの殻の部屋にこれ以上留まる意味はもはやなかった。

 

──

 

 帰り道、美奈子が未だ光の衰えない瞳で皆に訴えかけた。

 

「あいつ、公演当日に絶対何かする気よ。そこで、バルバレ全体を乗っ取る算段に違いないわ」

 

「今はもっと協力者を探して、少しでも奴らの足を引っ張るしかないか」

 

 まことが前を見据えて真剣な表情で呟くと、うつむいていたルーキーがきっと前を向いた。

 

「俺らは、急遽このことを残りの筆頭と我らの団に知らせるっス。きっと力になってくれるっスよ」

 

 その表情の頼もしさに、少女たちの表情に少しだけ安心が戻った。

 

「みんな、うさぎちゃんが戻って来たわ!」

 

「衛さんも一緒だぞ!」

 

 いよいよ朝日が顔を見せようかという時分、それを背にしてまばらな人々の間を駆けて来たのは、黒猫のルナと白猫のアルテミスだった。

 その報せを聞いたリーダーは、思わず首を振り上げた。

 その手前で少女たちも同じような反応をして、真っ先に猫たちに駆け寄る。

 

「本当!?」

 

「怪我はないの!?」

 

 亜美に続けてレイが聞くと、アルテミスは頷きながらも複雑な表情を滲ませた。

 

 

 

「うん、もう戦えないってほどの怪我じゃない。でも……」

 

 

 

 少女たちは、その反応を覚悟していたように眉をひそめた。

 リーダーの顔の表面は岩のごとく変わらなかったが、唇に力を入れ、真横にぎゅっと縛った。

 




ちょっと今回試験的に土日で週2投稿してみようと思います。つまりは明日も連日投稿です。最初はかなりギリギリの状態で書いていて、リアルとの兼ね合いの面で負担が大きすぎるということで週1投稿だったのですが。
理由はバルバレ編の進度を早めたいのと自分に執筆の発破をかけるためです。早すぎるようならまた週1に戻すかも知れないです。
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