セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

73 / 189
告知通り連日投稿。
うさぎsideで、前回より少し前の話になります。


可憐に、凛々しく②

 

 東京。

 

 この地では、空の代わりに地上に星空がある。

 人々は寝静まる時刻でもネオンは休みを知らない。

 ビルの間を敷き詰めるように走る光が、これでもかとヒトの繁栄を知らしめる。

 月夜のもとに東京タワーが天にその背を高く伸ばし、爛々と橙色に光り輝く。

 神秘の戦士、セーラームーンはそこに立っていた。

 飛び去っていくあの黒いマントが上空にひらめくのを見送りながら。

 

「……そうよ、この空を……」

 

 夜闇を淡く染める浅葱色が彼女の碧眼に映る。

 建物の形が分かるほど明るいのに、深いまどろみにとろけるような夜空の色。

 

「この空を求めて、あたしは……」

 

 少女は、うっとりとした心地で目を閉じた。

 

 次に目を開けると、ピンク色の天井がそこにあった。

 鳴る目覚ましの音。

 

「むにゃ……」

 

 乙女色のパジャマが、淡い紫の生地に月とうさぎ柄の布団の中に動いた。

 

「起きなさい、うさぎ!!」

 

 そう言われて目を開けると、ピンクのお団子ツインテールの幼女が自身の腹にまたがっていた。

 ある事件をきっかけに家に居候している少女、ちびうさだ。

 

「あたし、確か東京タワーに立って……ていうかあんた、今頃バルバレにいるはずじゃ」

 

 そこまで言ってから、うさぎは唇の動きを止めた。

 

「……あれ、バルバレって……なに?」

 

「はー、前から子どもっぽいとは思ってたけど、まさか次は一気におばあさんに飛んじゃうなんてね!」

 

「は、はぁー!?あたしがボケてるって言いたいわけ!?」

 

 一気に目が覚めた思いで、呆れかえっているちびうさを睨む。

 

「それは冗談よ、冗談。うさぎちゃん、まだ夢と現実の境がはっきりしてないのね」

 

「ルナ……」

 

 もう一匹、生活を共にする彼女の相棒が顔を覗き込んできた。

 

「なんかやたらうなされてたわよ、やたら衛さんの名前呼んで。もうデス・バスターズもいない平和な世の中なんだから、安心して寝てりゃあいいのに」

 

 同じ部屋で寝る彼女をよく見ると、目の下にくまができていた。かなり自分の寝言はうるさかったらしい。

 

「夢……」

 

 どんな夢だったのか、思い出せない。

 とにかく、何か巨大で冷たいものに抗っているような感じだけが胸に残っている。

 

「そうよ。どんな夢見てたか知らないけど、もうここは現実。早く切り替えて、学校行きなさい!」

 

「え、学校……?」

 

「ああもうイラつく!!今日はへ・い・じ・つ・で・しょ・う・が!!」

 

 ルナは、目覚まし時計をがしりと掴まえてうさぎの目の前に持ってきた。

 8時過ぎ。始業時刻まであと10分ほど。

 茫然としていたうさぎの顔に光が差した。

 

「そっか……全部夢だったんだ!!」

 

 うさぎはなぜか自分でも分からないほど無償に嬉しくなって、ベッドから跳び起きた。

 そのままの勢いで制服に着替え、ジャムを塗りたくったパンを咥え、ぼさぼさの髪の毛のまま家を取り出した。

 絶体絶命、危機的状況のはずなのに、いつもの数倍は足取りが軽かった。

 

「あれ?なんで?泣いてる場合じゃないのにな。ゴミでも目に入ったのかな」

 

 意味の分からない涙までが溢れだして戸惑うが、それでもその名が表すごとく跳ねるような疾走は止まらなかった。

 

──

 

「うさぎ、寝坊したの?そろそろ中三なのに」

 

 始業数十秒前にぎりぎり席につくと、既に後方に座っている親友の大阪なるが呆れ気味に聞いてくる。

 

「えへへ、ちょっとドジっちゃったぁ。でも、これでも中一の時よりはマシになったのよ?」

 

 苦笑いしつつも明るく返したうさぎに、丸眼鏡をかけた少年、海野ぐりおがしたり顔で顎に手をやる。

 

「流石はうさぎさん。ドジが多けりゃ立ち直りも子慣れてるってわけですね!」

 

「海野、あんたは黙ってなさいっ!」

 

 拳を振り上げ威嚇するように怒鳴ると、そこにばぁんと教卓から音がした。

 担任の桜田春菜が出席簿を叩きつけた音だった。

 

「月野うさぎさん!出席の時は静かになさいっ!」

 

「は、はーい……」

 

──

 

「あたし……何か忘れてる気がするんだ」

 

 なる、亜美、まこと、美奈子と共に弁当を囲んでいた時、ふっと頭に浮かんだことを口に出した。

 亜美はサンドイッチを持ったまま首を傾げた。

 

「そんなに思い出したいことなの?」

 

「結構重要な気もするんだけど……できるなら、思い出したくはない感じもするかも」

 

「なぁにそれ。結局どうしたいのよ」

 

 うさぎに対し、なるは卵焼きを箸で掴みながら聞いた。

 その答えを聞かないうちに、美奈子はわかったという顔で人差し指を立てる。

 

「あっ、あるある~!お出かけした直後、不安になるヤツよねー!」

 

「多分違うと思うよ……」

 

 まことはそうツッコミつつも、

 

「でも、嫌なことなら思い出さなくていいんじゃないかい?」

 

「そうよ!せっかくこんな平和な世の中なんだから、呑気に食って寝ーすりゃいいのよ!そうすりゃ大抵の悩みは解決するわ!」

 

「美奈子ちゃん、前回のテストの結果を見てそんなことが言えるのかしら?」

 

 亜美の指摘に、美奈子は天井にガンと頭をぶつけたようにうなだれた。

 

「うっ……言葉もございません」

 

 うららかな陽気に包まれた学校の敷地内に、少女たちの笑い声が木霊した。

 

 一緒に笑っていたうさぎの視界の隅を、大きな影が横切った気がした。

 見上げてみると──

 ただの小鳥だった。

 

──

 

 放課後。

 なると一緒にゲームセンター『クラウン』に行くと、オーナーの元基が奥のレジから顔を出して出迎えた。

 

「あっ、元基お兄さーん!」

 

 手をぶんぶんと振ったうさぎに対し、元基はいつも通りの爽やかな笑顔を返した。

 

「おっ、うさぎちゃん久しぶりだね。元気?」

 

「元気も何も、今日は寝坊して突っ走ってきたんですようさぎったら!」

 

「ちょっとなるちゃぁん!」

 

「あはは、それならいつも通りだな」

 

 くすくすと笑う2人を前に、うさぎはしゅんと肩を落とす。

 

「元基お兄さんまで……今日はみーんなイジワル、くすん」

 

 その後、うさぎたちは遊びに遊びまくった。

 アクションゲーム、レースゲーム、パンチングマシーン、クレーンゲーム。

 

「あーん、これ全然取れなーい!」

 

「お小遣い足りるかしら……」

 

 クレーンゲームが最大の鬼門だった。

 中々お目当てのぬいぐるみが手に入らない。

 少ない財産をはたいて懸命に筐体に向かう少女たちに、元基は優しく笑いかけながらケースを開けた。

 

「よし、じゃあこれでどうだ?」

 

 少しぬいぐるみの位置を入れ替えると、さっきまでの苦闘が嘘のようにぬいぐるみがアームに掴まれた。

 

「やったぁ、取れたぁ!」

 

「いぇーい!」

 

 うさぎとなるはハイタッチを交わし、すぐ元基に向かいなおる。

 

「ありがとうございます、元基おにーさん!」

 

「うさぎちゃんたちはお得意様だからね。特別大サービスだよ」

 

 勢いづいたようにうさぎは思いっきり伸びをした。

 

「あーあ、楽しー!こんなの、ほんっと久しぶり!」

 

 その一言に、元基が不思議そうな目を向けた。

 

「おいおいうさぎちゃん、昨日も来たじゃないか」

 

「え?」

 

「あはは。うさぎったら涙なんか浮かべちゃって。そんなにぬいぐるみ狙ってたの?」

 

 なるの声でようやくうさぎは自分の状況に気づいた。

 目元がほんのりと湿っている。

 

「あれ?なんでかな、嬉しいはずなのに、なんで」

 

 ハンカチで涙を拭ううさぎに、元基が優しく話しかけた。

 

「泣くことなんかないよ。ここはうさぎちゃんにとっていつも通りの、日常の景色じゃないか」

 

「日常?」

 

 うさぎは3人以外誰もいないクラウンの景色を見渡した。

 彼女の胸中にある疑念が浮かぶ。

 

「……ねえ、元基お兄さん」

 

「なあに?」

 

「あたし、なにか大切なこと忘れてる気がするの。元基お兄さんは何か知らない?」

 

 彼は、いつも見ていたように明るくあははと笑った。

 

「いきなり変なこと聞くなあ」

 

「だって、なんか今日はおかしいのよ。帰り道も、ここにも、あたしの友達以外誰もいなかったわ。なんだかまるで……作り物みたい」

 

 それを聞いた元基の瞳の色が変わった。

 

「やっぱり上手く行かないな。さっさとかたをつけるか」

 

「……え?」

 

 直後、床が割れ青い鎌が飛び出す。

 背中から斬られた元基は笑ったまま霧になって消えた。

 鎌の後ろから覗いたのは感情なき黒目。辺りを探るようにぴくぴくと左右に動かしている。

 

「あ、あぁっ……!」

 

 毒湿地の鎌将軍、ショウグンギザミ。

 切り裂いたコンクリートの瓦礫から這い出すと、それは口器からぐぎぎぎぎ、と泡を立てるような音を鳴らした。

 ショウグンギザミは四本脚を巧みに使い、素早い横歩きでうさぎの背後に回り込む。

 

「なるちゃ……」

 

 鎌で一閃。

 後ろで手を繋いでいたなるの姿も煙と化して消えた。

 

「あはは。偽物って分かってるのに名前で呼ぶなんて、おかしい子」

 

 その姿がなくなってからも、そこにいる『誰か』は親友の声で嘲笑う。

 うさぎは涙を振り切って、クラウンの入り口へ走る。

 

「嘘よ、こんなこと」

 

 命からがら外に出ると、何者かが真正面に居座っていた。

 蠍のような形をした巨体。武者の甲冑か戦車の装甲のように全身を護る緑の甲殻。

 その上に乗っかる、鎌と翅を備えた巨大甲虫。

 重甲虫ゲネル・セルタスと徹甲虫アルセルタスである。

 

 重量級の女帝はうさぎの姿を認めるや否や、背中に乗っていたアルセルタスを尻尾にある鋏で掴まえ、投げ飛ばした。

 命の弾丸は咄嗟にしゃがんだうさぎの頭上を通過してクラウンに激突し、ガラス片を撒き散らす。

 

 そこからあらゆるものが壊れていく。

 街も、地面も、空も、あるべき姿を失って歪んでいく。

 うさぎは足場を失い、地の底の底に落ちた。

 

「──────────ッッッ!!!!」

 

 闇の底から甲高く嗤うような鳴き声が響く。

 真っ直ぐ飛んでくるのは、全身に戦傷を負った隻眼の烏。

 狂気を孕んだ瞳に映るのは殺意と高揚のみ。

 黒狼鳥イャンガルルガ。

 飛んできたそれの嘴が突如膨れ上がり、落ちて来た彼女を丸呑みにする。

 

 髭面の2人の男の顔が少女の瞳を覗く。

 

「なんだ?人や竜は助けてやって、虫や蟹は救ってやらねえのかよ!?そりゃそうか、どー見たって仲良くお茶囲んでお話できる面してねぇしなあ!?」

 

「本当に自分に都合がいいオンナだな!!愛と正義の美少女戦士が聞いて呆れるぜ!!バハハハハハ!!」

 

 すべてを思い出した。

 うさぎは耳を塞ぎ込みながら真っ逆さまに落ちてゆく。

 

「嬢ちゃんはただ、戦士の頃からいい子ちゃんぶりたかっただけじゃねえか!」

 

「この世界を護るだなんて全部嘘っぱちだったんだな!!」

 

 嘘なわけがない。

 うさぎは涙目をぎゅっと瞑る。

 彼女は、元の世界と同じくらいこの世界を護りたいと確かに思っている。それは、この世界にも尊ぶべきものがたくさんあると知ったからだ。

 だが、聞こえてくる声に抗えない自分がいるのもまた事実だった。

 

 心のどこかに、この世界を恐れる自分がいる。

 

 その気持ちに気づいた途端、目に見えないものに締め付けられるような感覚が彼女の身体を縛っていく。

 

「たす、けて」

 

 見えないものが喉に絡みつき、うさぎは掠れた声しか出すことができない。

 このまま闇に呑まれるかと思ったその時だった。

 

「……き……ろ……お……きろ……!」 

 

 目の前の2人組とは別の声が耳に届いた。

 一筋の光が差し込み、男たちの顔がぼやける。それを見てうさぎは気づく。

 彼らがうさぎの戦士としての姿を知っているはずがないのだ。

 

「そうよ、これこそが夢なんだわ!」

 

 闇が揺らいだ。

 うさぎはその変化に背中を押され、自身の胸にあるコンパクトを握りしめた。

 

「ミメット!貴女の仕業ね!」

 

 銀水晶から放たれた柔らかくも力強い光が、すべての空間を覆った。

 

──

 

「……あぁもう邪魔が入っちゃった。ざーんねん!」

 

 薄暗い部屋のなか、ミメットは撫でていた水晶玉から手を離した。

 そのまま、座っていたソファに背中から寝っ転がった。

 

「まーいっか。もうノルマはもう達成しちゃったし、今こちらの動きに気づいたってもう遅いんだから」

 

 彼女はソファの後方、天幕より向こうに控える白い羽衣を着た人々に呼び掛けた。

 

「あ、みんなもう帰っていいわよー。家に帰るついでに宣伝してきてねー」

 

 寝たままで黒い星型の宝石がはめ込まれた杖を光らせると、虚ろな顔をしていた幹部たちは少しだけ目の焦点が戻った。

 そのまま、互いに話し合いながらぞろぞろと出口に向かって歩いていく。

 

「えへへ、次に教授に会ったらどんな顔で迎えて下さるかしらー?今度こそ上級管理職に推薦とか?」

 

 ソファーの肘掛けに腕を乗せると、彼女は期待に満ちた輝きを瞳に宿らせた。

 長い脚をぱたぱたさせる彼女の姿はただの少女にしか見えない。

 ──だが、1枚の報告書に目を通すと彼女の瞳の色が変わった。

 

 

「あとの課題は、『金の竜』……ね」

 

 

 直後、窓の外にあった影が動いてどこかへ去っていった。

 

──

 

 目を覚ますと、真上に恋人の顔があった。

 

「うさこ、大丈夫か?」

 

「……まもちゃん」

 

「よかった。てっきり目覚めないものかと」

 

 安堵に思わず項垂れた衛の額から、汗が滴っていた。

 

「きっとミメットの仕業だ。さっきまで、コンパクトが黒い靄に覆われていた」

 

 そこは砂の波に揺れる小型帆船、その一室だった。

 はっとして起き上がり胸を見ると、そこにはいつも通り金色の枠にはめ込まれた赤いハート型のコンパクトがあった。

 今は、いつものように静かに輝きを放っている。

 

「ずっと苦しそうに唸ってるものだから、ずっと呼びかけてたんだ。そしたら先ほど銀水晶が光って靄を払った」

 

 衛の見立てはうさぎと変わりない。

 彼の声は、今は落ち着いてはいるもののかなり掠れていた。

 その懸命な叫びが彼女の危機を救ったのだ。

 

「ありがとう。まもちゃんが呼びかけてくれたおかげだよ」

 

 うさぎが感謝を述べたが、衛は「うさこが頑張ったからだ」と短く謙遜する。

 ややあってから彼は呟いた。

 

「あんな奴らの言葉、忘れていいぞ」

 

 はっとして、うさぎは目前の男の顔を見上げた。

 

「俺たちは戦うための戦いじゃなく、護るための戦いをしてきたじゃないか」

 

 彼は、懐から真紅の薔薇を出した。

 そのまま、真剣な表情でうさぎにそっと手渡す。

 

「うさこが今まで流してきた血と涙を、あいつらはお花畑なんて言い方をした。こちらの事情を知らなかろうが、あれだけは断じて許すことはできない」

 

 男の瞳とは反対の、情熱的な赤色をじっと見つめていたうさぎは、うつむいて細く呟いた。

 闇のなかで聞いたあの笑い声が蘇った。

 

「あたし……もう、何を護ればいいのか……」

 

 その声は、衛の耳に届く前にぶおおおお、と角笛の野太い雄叫びにかき消された。

 

「え?」

 

 到着の合図だった。

 船外から錨が下ろされ、少し遅れて一際大きな横揺れが来る。

 一瞬の沈黙のあと、数多のハンターたちの談笑と、木の床を踏み鳴らす音が聞こえた。

 

 荷物をまとめて船上に出ると、朝焼けに染められた色とりどりのテントが無数に並び立っているのが見える。

 衛はその景色を眺めたあと、ちらりとうさぎの横顔を見た。

 

「なあ。さっきよく聞こえなかったが、何か言いたいことがあるなら……」

 

「……ううん、なんでもないよ!」

 

 うさぎは首を振ると、荷物をまとめて足早に船を降りた。急いで衛もその後を追う。

 多くのハンターや商人がごった返すバルバレの発着場のなか、彼女の身体は一際小さく見えた。

 




ちなみにサブタイトルの由来は90アニのある主題歌から取ってます。名曲です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。