セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて 作:Misma
「よし、それではこれから『妖魔討伐取り敢えずお疲れ様パーティー』、始めるとするか!!」
その夜、我らの団の2人と少女たちが、集会所前の大通りで円卓を囲み杯を交わした。
満点の星空のもと、蝋燭で照らされた即席のテーブルの上に集会所から取り寄せた料理が所狭しと並ぶ。
熱々に炙られた巨大な肉の照り焼き、せいろの中から湯気を上げる中華風の点心セット、色とりどりの野菜と水産物を煮込んだスープ、カットされた南方の果物の盛り合わせ、その他諸々。
統一性や細やかさはないものの、今日も汗をかいて働いた身を芯から喜ばせる品々だった。
「毎日身体動かしてるから、罪悪感なくてさいこ~!」
うさぎはあちこちに手を伸ばし、むしゃむしゃと頬張る。
さっきからそれを見ていたレイはいよいよ目を吊り上げる。
「ちょっと、行儀悪いわよ、うさぎ!ほら、衛さんもドン引きしてる!」
「いや、俺はどっちかというと団長さんへの申し訳なさの方が……」
衛は、豪勢な食事を目の前にして苦笑いした。
これらの料理の出費はすべて、団長持ちだった。猫も含めると総勢10人以上であるから、その額は中々バカにならないだろう。
当の本人はビールをカッくらいながら衛の肩を叩く。
「はっはっは!飲め、食え、もっと!お前さんたちも早くせんと、お嬢ちゃんに取られちまうぞ!?」
「そ……それでは、遠慮なく」
亜美はそっとパンに手を伸ばし両手で持つと、端っこをはむ、とかじった。
隣のまことは、匙に乗せたとろとろの野菜あんかけを目の高さまで持ち上げ、物珍しそうに見つめる。
「この味つけ、珍しいな~。また料理の参考にしてみようっと」
一方美奈子は、じろじろと料理を目で物色する。
「よーし、あたしはデザートから~」
目をつけたのは、ガラスのカップに盛られたイチゴのシャーベット。
正直かなり我慢していたらしく、彼女はごくりと唾を呑みこみ、震える手で器を持ち匙で中身を掬う。
それを口に入れた途端、彼女は目を見開いて飛び上がった。
「あっ、これおいひーーーー!」
「えーっ!ちょうだいちょうだいちょーだーい!!」
うさぎは目を疑うほどの速度で、遠く離れた皿に向かって手を伸ばす。
「こんな強欲なヤツが所によっちゃ英雄扱いされてんの、未だに納得いかないわ!」
ちびうさが小さな中華まんを頬張りながら呟くと、その場に爆笑が巻き起こった。
その後は一気に賑わいが大きくなり、宴は盛り上がっていく一方だった。
受付嬢のソフィアは、テーブルから少し離れたところで椅子に腰かけホットドリンクを啜りながら宴を見守っていた。
──
賑やかな宴のあと、熱気は湯のように自然に冷め涼やかな雰囲気が漂う。
だがそこに蒼い鎧の銀髪の男が現れたことで、場は再び活気づく。
「すまない、遅れてしまった」
「あっ!!お仕事お疲れ様でーす!」
美奈子が笑顔で元気ドリンコを勧めると、彼はそれに頷いて受け取った。
続いて、後ろに付いてきたルーキーがテーブルに乗った多くの皿を残念そうに見つめた。
「あっちゃー、もうちょっと早く来たらありつけたのにな~」
「こら、はしたないわよ」
「いてっ!冗談っスよ冗談」
彼が隣のガンナーに肘でどつかれるのを見て、亜美は微笑んで席を立った。
「デザートはまだ残ってますから、どうぞ」
「よっしゃあ!団長さん、ゴチになりまぁーす!」
ルーキーは団長に向かい掌を合わせてから席に着き、いかにも美味そうにタルトを頬張り始めた。
うさぎはそこから少し離れた椅子に深く座り、机に背もたれて自身の腹をぽんぽん叩き、楊枝で歯を掃除した。
「ふぃ~、食った食ったぁ~」
「完璧にオヤジね」
隣に座ったちびうさが皮肉っぽく呟く一方、リーダーが元気ドリンコ片手にうさぎの横に歩いてきた。
「早朝に報せを聞いた時はどうなることかと思ったが、その調子なら問題ないな」
「あっ、リーダーさん、これはあの、その……」
うさぎが咄嗟に姿勢を正し、口を手で隠して答えようとすると、ちびうさがすぐ隣に顔を出して意地悪い笑みを浮かべる。
「うさぎは、食って寝て遊んでりゃ大抵の悩み吹っ飛ぶのよねー」
「ヨケーなことゆーな!」
彼女はちびうさの耳を引っ張って叱責するも、すぐに怒り顔を苦笑に変えた。
「それに、こんな時に足踏みしてたらバルバレを護ることなんてできませんし」
今朝やってきた、とんがり鼻の若者の笑顔が頭に浮かんだ。
自分が迷えば、誰かが必ず犠牲になる。今度迷ったら、次に奪われるのはバルバレの人々の笑顔だ。
うさぎの碧眼に翳りが入る。
それを見てリーダーは唇をかみしめ、やや苦い顔で口を開く。
「また正義感に従って行動するのか?その前にまず自身の状態への客観的視点がなければ……」
彼の言葉は、少女がゆっくりとかぶりを振ったことで立ち消えた。
「正義とか平和とかじゃなくって、あたしは好きなもののためでしか戦えないって今回分かっちゃいました」
ちびうさが彼女の悲しさの入り混じった笑顔を見上げた。
コップを口に近づけていたリーダーの手の動きが止まった。
見開かれた目で、うさぎの瞳を覗き込む。
「君は……」
リーダーはそこまで言ってしばらく沈黙を保つと、続きを言うのを諦め背を向けた。
「……何でもない。では、私は少し食事を取ってくる」
そのままリーダーは仲間たちと筆頭ハンターの間に混じっていった。
それを見送った団長は干し肉のつまみ、モスジャーキーをかじりながら彼女たちの近くにあった椅子に座り、テーブルに肘をついた。
「いやぁ、楽しいなあ。こうやって飯を囲むのは」
「はい!」
元気な返事を聞くと、彼は集会所である竜頭船を見やった。
「後れは取ったが、必ず取り返して魔女の正体を見極めてやる。今のうちに英気養っとけ」
うさぎは頷きながら、残ったパンの欠片を口に放り込んだ。
彼は咀嚼したつまみを呑み込むと、ジョッキをテーブルに置いてうさぎに微笑んだ。
「どれ一つ、酒のあてにでも本音を寄越しちゃくれねえかい?」
えっ、とうさぎは驚いた顔をした。
「聞いたよ、何やら不安なことがあるみたいじゃないか。いらんお節介かもしれんが、何かの拍子で良い言葉が見つかるかもしれん」
団長は、頭を自身の人差し指でこんこんとつついてみせる。
少し迷ったうさぎに、ちびうさが彼女の顔を覗き込んで言った。
「うさぎ、言ってみなよ」
「ちびうさ……」
「団長さんとソフィアさん、あたしたちよりずーっといろんなこと知ってるのよ!」
「そっか、あんたよくお話聞いてるもんね」
ちびうさは原生林での一件以来、亜美だけでなく受付嬢ソフィアから様々な話を聞かせて貰っているのだ。
うさぎは団長とソフィアに向かいなおった。
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
彼女は、密林でのイャンガルルガ、ヘルブラザーズとの出会いと対決を語った。
既に話を聞いているちびうさは特に驚かず、団長とソフィアも至って真面目な表情で聞いていた。
「なるほど、あの2人組に……いかにもあいつらが言いそうなことだ」
団長は、ほとんど空になったジョッキを机に置き腕を組んだ。これで3杯目である。
しかしその瞳は確かに理性を保ち、顔も赤くない。
「氷山の一角、ねえ」
ソフィアはややむすっとした顔で立ち上がった。
「私から言わせてもらえば、その人たちが見てる世界だって氷山の一角です!この世界にはそういう残酷なこと以上に、数え切れないくらい素晴らしい生命の姿があるのに!」
木製のポットに入ったホットドリンクをコップに継ぎ足した。
「どんな経緯でその考えに至ったかは分かりませんが……。うさぎさんは恐らく、モンスターたちとできるなら分かり合いたいと思ってらっしゃるのですよね?」
「……はい」
真っすぐ頷いたうさぎは、ソフィアの緑の袖を通した腕が震えるのを見た。
「……ですよね!?そうなんですよね!?」
ソフィアは突然駆け寄ってくると、輝いた顔でうさぎと手を繋いできた。
びっくりしたうさぎをよそに、彼女は激しくその手を振りまくる。
「やっぱり!!貴女という存在が出て来たことに、私は興奮しまくりなんです!!特定のモンスターの愛好家こそあれど、あらゆるモンスターに愛を向けられる御方を見るのは、貴女が初めてで!!」
話を聞いていた時とは対照的な興奮のしようだった。
「は、は、はい!?」
「やっぱ変わってるわこの人……」
ちびうさはジュースをすすりながら、改めて納得するように呟いた。
団長はふっと笑いながら彼女たちのやり取りを眺めている。
「ただ一つ、私の立場から言わせて頂きますと」
咳払いをすると、ソフィアは表情も姿勢も正して言った。
「彼らの存在は、私たちを脅かすためにも、喜ばせるためにもいるわけじゃありません。ただ単にそこにあるだけです」
仲間と筆頭ハンターたちのざわめきが遠く聞こえた。
彼女は少し寂しそうに微笑んだ。
「あの子たちはどれだけ必死に訴えようと、貴女の優しさに共感して反省したり、感激してもくれません」
うさぎの視線が下がり、唇をきゅっと結んで拳を握り締める。
ソフィアは顔を少し近づけ、うさぎの瞳を下から覗き込んだ。
「かと言って彼らは、貴女の考えに反発もしませんし、増してや嘲笑いもしません。ただ本能にどこまでも正直に生きてるだけで、そこには何の意味もないんです」
うさぎはつらそうな色を秘めた瞳で訴えた。
「彼らの生の在り方は、そういう在り方としてあるだけです。そんな生命たちの一挙一動に、私たちニンゲンは埃のように翻弄されているだけ」
ソフィアはこちらを見ながらも、遠いものを見るような瞳をしていた。
ふと、彼女は団長に似た人懐っこい笑みを浮かべた。
「でもそんな中でも、どんな逆風の中でも真っすぐ飛んでゆく貴女の在り方はとても素敵ですよ」
もう一つの方向から声がかかった。
「俺もお嬢の言葉に賛成だ」
ソフィアの隣を見ると、団長が脚を組んでいた。
「今まで話す機会こそ少なかったが、お嬢の前に立つお前さんの宝石のような瞳には、いつでも大切なものを護ろうとする心が燃えていたよ。それこそ、腰を落ち着ける暇すらないほどにな」
鷹揚とした口調で、彼は脚を解いて腰を据え直す。
「でも、もう今は焦らなくていいんだ。やるべきことは決まってるからな。あとは、お前さんがどうしたら満足できるかだけを考えな」
彼は干し肉モスジャーキーの入った小皿を手に取り、うさぎの前に差し出す。
「どうしたら満足できるか、かぁ」
彼女はそれを手に取り、口に入れてもごもごとさせた。
それを見たちびうさが、何かを決心したかのように空のコップを置いて椅子から立ち上がった。
「ねえ、うさぎもやっと帰ってこれたんだしさ、モンスターのことソフィアさんからたくさん教えてもらおうよ。そうすれば、この先の不安が減るはずよ!」
うさぎは、ばっとちびうさの顔に振り返る。
彼女は、テーブルの向こうから視線を戻してきたソフィアを見つめながら話を続ける。
「うさぎが密林から帰ってくるちょっと前、ソフィアさんからライゼクスのこと教わったよ。ショウグンギザミとかイャンガルルガのことも」
「──ライゼクスのことまで?」
ちびうさはうさぎに振り向くと、うん、と頷いた。
「本当に生き物それぞれにいろんな生き方があるんだね。この世界って」
彼女があれほど悪者として憎んでいた、冷酷な飛竜。
そして、他を寄せ付けず孤独に生きる、どこまでも冷たい瞳を持つ者たち。
彼らのことをソフィアの口を通して知ったちびうさの瞳は、哀愁の色を帯びていた。
「あんなのばかりずっと相手にするなんて、きっと大変だったよね。ちゃんと調べる時間もろくになかったのに、うさぎは本当によくやった方だよ」
幼い少女に似つかわしくないほど、緋色の口ぶりは複雑な感情を内包していた。
「そういう辛い気持ちを全部背負って、せめてあたしたちやここの人たちを護ろうってがむしゃらになってたんでしょう?」
うさぎはしばらく、驚いた顔でちびうさの顔を見ていた。
「ちびうさ……ホントにあんた、たまにびっくりすること言うわよね」
ちびうさはにへっと得意げに笑った。
「あたしたち、どれだけの付き合いって思ってんのよ?曲がりなりに長く一緒にいるんだから」
すぐに子供らしい瞳の輝きを取り戻すと、彼女は得意げに口角を上げていた。
「それに、知らないことを知るのって単純に楽しいのよ!まぁうさぎは勉強なんか嫌いだろうだけど、ちょっとは試してみたら?」
「もう、最後の言葉で台無し!」
うさぎの嘆きに、団長とソフィアは砕けたように笑う。
だが、彼女の心は先ほどのちびうさの進言で決した。
金髪の少女は立ち上がり、ソフィアに真っすぐ向かい合った。
「……ソフィアさん。どうか、教えてください──」
すう、と息を吸い込んだ。
「──あたしたちの探してるモンスター、『ゴア・マガラ』について、もっと深く」
ソフィアは大きく頷いて、笑顔で答えた。
「はい、ぜひとも。お役に立てて嬉しいです!」
ソフィアさんもソフィアさんでモンスター相手には主観入りまくるけど、知識はちゃんとあるので生命観についてはキッチリとしてると思う。