セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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可憐に、凛々しく⑤

 

「うさぎさんは恐らく、『狩猟のための情報は完璧だけど、それ以外がカラッキシだよ!えーん!』て状況ですよね?」

 

「な、なんで分かったんですか!?エスパー!?」

 

「んなわけないでしょ」

 

 びっくりしたうさぎにちびうさが冷静にツッコむと、ソフィアはにっこりと微笑んだ。

 

「狩猟と関係ない専門的知識は、一般的なハンターには不要なので流通しづらいんです。貴女たちがモンスターの生態を深く知らないのはある意味当たり前なのですよ」

 

 ソフィアは懐から図鑑のように厚いメモ帳を取り出すと、赤いネクタイを締め直した。

 

「これからお話することは、学術院に行かない限りほとんどの人々は一生知る機会のないものです」

 

 うさぎとちびうさは、並んで真剣に表情を引き締める。

 彼女が眼鏡をずり上げて分厚い本を開くと、一発でゴア・マガラについて書かれたページが開かれた。

 

「フルフルの件で美奈子さんに怒られたので、今回はしっかり長めに行きますね」

 

 ソフィアは咳払いをすると、滔々とうさぎたちが求めるモンスターについて解説を始めた──

 

 

 

 黒蝕竜ゴア・マガラは、厄災の子である。

 

 彼が撒き散らす黒い鱗粉『狂竜ウイルス』は、まさに今回うさぎたちが調べている『妖魔ウイルス』と似て、それを吸い込んだ生物の体を蝕み影響を与える。

 妖魔ウイルスとの違いは、感染者が凶暴化し他者を傷つけることで感染が爆発的に広がること。彼が黒い外套を背負って道を征くたび、生命たちは狂って争い血河を築く。

 

 永い放浪ののち、彼は自身の黒き鱗を砕き内側から打ち破る。

 そこから生まれるのは、それまでの姿とは正反対に眩き光を放つ龍の姿。

 

 

 その名も天廻龍(てんかいりゅう)シャガルマガラ。

 

 

 闇から光へと転生した彼は、成長を果たすと雲上に聳える山の一角『禁足地』へ行く。

 そこが彼の放浪の終着点であり、故郷なのだ。

 天を廻ってきたその龍は、大量の狂竜ウイルスを山風に乗せ周辺一帯へ撒き散らす。

 

 風に混じるのは、新たなゴア・マガラを産む『卵』。

 いずれそれはウイルスに感染した者の身体を突き破り、新たなゴア・マガラを産む。

 

 闇から産まれた彼は、常闇に光り新たな闇を産む、死の輪廻そのものとなるのだ──

 

 

 

「伝承によって、さまざまにその惨状が語られています。山の頂に神が降りたとか、悪しき風が吹いてきたとか。そして最後には生きとし生ける者がみな争いあい、最後には死に絶え山に沈黙が訪れたのです」

 

 覚悟していたとはいえ、うさぎも、そしてちびうさも、予想以上に重くおぞましい話に顔を暗くしていた。

 ソフィアは本を閉じると苦笑いした。

 

「……すみません、ちょっとこの席には似つかわしくない話だったかもしれません」

 

「大丈夫です!こっちが言ったことですから!」

 

 慌てて、うさぎは気丈に手を横に振る。

 そこで彼女は何かを思い出し、ずいと椅子に座る身体を前に傾けた。

 

「もしかして、我らの団のハンターさんはそのシャガルマガラと戦ったんですか?」

 

「おおっ、鋭いな!」

 

 団長は感心したように目を見張った。

 

「森丘で初めて会った時に、竜人商人さんが言ってたんです。あの人は、悪意なき大厄災の化身と戦ったことがあるって」

 

 うさぎの言葉に、ソフィアは深く頷いた。

 

「そう、これまで貴女たちが戦ったモンスターと同じく、彼自身に悪意はありません。ただその生き方がたまたま、周りにとって脅威だっただけ」

 

 彼女の瞳は憐憫の色を表すも、口調ははっきりとしていた。

 

「そして我らがハンターさんは人としてそれに抗し、たった1人で死線を潜り抜け、かつてかの地に降り立った彼を討ち果たしたのです」

 

 ちびうさは呆れかえったように椅子に手をつき、天を見上げて言った。

 

「すごいなぁ!そんな物語の主人公みたいな人がこの世にいるんだ!」

 

 まだ見ぬその人物を思い浮かべていると、うさぎの脳裏に一つのことがよぎった。

 

「そういや、ハンターさんが行ってる調査の調子はどうなんですか?すごい人たちが勢ぞろいなんですよね?」

 

 団長はにやりとしてぱちんと指を鳴らし、アイルーの給仕が持ってきたビールの泡溢れる6杯目のジョッキを受け取った。

 

「実際に行ったご本人から聞いた方が早いな。おおいガンナーさん!お団子の嬢ちゃんが、調査のこと聞かせてほしいってさ!」

 

 美奈子と話していた筆頭ガンナーが立ち上がった。大人らしい微笑みを浮かべながら、うさぎとちびうさの隣に座る。

 

「いいわよ。ネルスキュラの時の約束を果たす時ね」

 

 彼女は手元に黄金芋酒の入ったコップを置き、中の氷をカランと鳴らした。

 

 彼女らはうさぎたちに留守番を頼んでいた間様々な地域に出向いていた。

 地底火山、氷海、砂漠……中にはうさぎたちの聞いたこともないような地域の名が出て来た。

 調査で同行した『英雄』たちを語る彼女の目は、普段の冷静さと比べて興奮の色を隠せていなかった。

 

「まさに『英雄』たちの行くところ敵なしよ。彼らは次々に妖魔化した強敵を打ち破り、その中でも強豪の飛竜を軽く10頭は倒したわ」

 

「じゅ、10頭!?その人たち人間なんですか!?」

 

 ほとんどのハンターがその妖しき力を怖れ、クエストを受けようともしない妖魔化モンスター。だが、この世界にはそんな彼らを次々と屠れる者がいるのだ。

 その事実にうさぎは震える。

 だが、そこでガンナーは憂鬱そうにまつ毛を伏せた。

 

「……でもね、肝心の妖魔化したゴア・マガラの痕跡は何一つ見つからないの」

 

「えっ、英雄さんたちが集まってるのに?」

 

 ちびうさが聞くと、ガンナーは頷きながら深いため息をついた。

 

「狩るだけじゃどうにもならないこともあるものなのよ」

 

 いつの間にかうさぎの仲間たちや筆頭ハンターも顔を覗かせ、彼女の話に聞き入っていた。

 

「さて、これからどうしようかと思っていた矢先、出てきたのが──」

 

 

「──『金の竜』という言葉よ」

 

 

「……っ!?」

 

 

「ランサーが学術院経由で魔女の近くに特殊捜査員を潜り込ませていたんだけど、どうもそれが妖魔化現象と深く関わっているみたい。この言葉が魔女にとってどんな意味なのかは、まだ判然としないわ」

 

 うさぎたちが動揺したその目を団長は見つめていた。

 

「──その『金の竜』って……」

 

 うさぎはそこまで呟いたが、その先を躊躇った。

 仲間や猫たちはじっとこちらを見守り、衛はゆっくりと首を横に振った。

 やがて、彼女は苦しげにうつむいて言った。

 

「いえ、何でも」

 

 そんな彼女に、ガンナーは優しく微笑んだ。

 

「金色のモンスターってだけなら世の中にたくさんいるからね。思い浮かべたのが当たりとは限らないわよ」

 

「もし個人的に『金の竜』が気になるなら、飽きるまでとことん追ってみりゃいいのさ!」

 

 うさぎ、そしてちびうさの視線は、迷いなく言い放ちながらビール7杯目を受け取った団長へと向かった。

 

「我らの団は来る者拒まず、去る者追わずがモットーだ!いつでも抜けて、いつでも帰ってくるがいい!いつだって俺たちは全力でお嬢ちゃんたちをサポートするぞ!」

 

 自身の広い胸をどん、と叩いた彼の表情は頼もしく、うさぎたちは思わず頬を緩ませた。

 

──

 

 月が最も高く昇った頃にようやく、うさぎたちは寝床についた。

 周囲の仲間たちは既にすうすう寝息を立てている。

 その中で唯一、一緒の床に入るうさぎとちびうさだけが起きていた。

 うさぎの懐に入っているちびうさが、ふと語りかけた。

 

「……あの子を救ったこと、悩んでるの?」

 

 うさぎははっとして、胸元から呼びかけてきた彼女の赤い瞳を見た。

 

「『金の竜』……ちびうさもあの子のことだって思う?」

 

「そうと決まったわけじゃないよ。あの子、成長が早い以外に変わったところなんてなかったじゃない」

 

 ちびうさはそう言ったものの、うさぎの顔は未だに不安げだった。

 

「それでも、巻き込まれないとは限らないじゃん」

 

 かつて森丘で救った金のリオレイア。

 仮にあの幼体が探すべき『金の竜』としてギルドに認知されれば、実際には何の関係が無かったとしても後を追う者が出てくるかもしれない。

 それがうさぎにとってはどうしても不安だった。

 

「ほんと、心配性なんだから」

 

 ちびうさはやれやれ、と言う風にため息を吐いた。

 うさぎはむっとした顔でちびうさに訴えかけた。

 

「だって、あの子はあたしが助けたくて助けたんだもの。そのせいで不幸な目に遭ったりしたらやりきれないわ」

 

「じゃあ、もしあいつらの手先になってたらどうするつもりなの?」

 

 ちびうさが問うと、うさぎは目線を落とした。

 

「分からないよ、その時になってみないと。……でも、もしかしたら」

 

 幾多の命が脳裏に浮かぶ。

 

 父と母に護られ育つ命。

 相方を道具としてしか扱わない命。

 孤高に生き、戦いと常に共にある命。

 一つ処に集い、自分たちを取り巻く命たち。

 

 そこには常に誰の思い通りにもならず、ただありのままにある彼らの姿があった。

 うさぎはそれら全部を護ろうと言いながら、実際に護ろうとしていたのは自分が護りたいと思える命の姿だった。

 恥ずかしげもなくそれを正義だと信じていた自分への後悔が、彼女の心を沈める。

 うさぎは目に見えないものを見つめながら呟いた。

 

 

「この世界に、元々あたしなんて必要ないのかな。今までやってきたこと、全部あたしのただのわがままなのかな」

 

 

「……うさぎ」

 

 ちびうさが見つめたまま呟くと、二段ベッドの上でぎしり、と音がした。

 

「わがままでいいんじゃない?」

 

 2人がベッドから這い出して見上げると、まことが上段からこちらを見下ろしていた。

 テント内の明かりは消していたが、月光のお陰でうっすらとその顔が見えた。

 髪を傷めないためポニーテールは解いて、下ろしている。

 

「まこちゃん、聞いてたの?」

 

「へへ、ごめん。今聞いてたら原生林の時のこと思い出してさ」

 

 まことはベッドに再び寝ころぶと、天井を見たままうさぎたちに聞こえるくらいの声で話した。

 

「ランサーさんから聞いたんだ。生き物の形に元から善悪なんてなくって──モンスターの妖魔化でさえ、進化の一環でしかないかもって」

 

 ちびうさが目を見開いた。

 

「まこちゃん、ルーキーさんと同じようなこと聞いてたんだ!……でもあれ、デス・バスターズが悪巧みしてやってることだよ?」

 

「そう分かってはいるんだけどさ、ああ真面目な顔で言うとそれっぽく聞こえちゃうんだよな」

 

 まことは寝転がり、穏やかな口調で語りかけた。

 

「あのランサーさんからそういう意見もあるくらいだし。うさぎちゃんもあれが善いとか悪いとか気にしすぎない方がいいよ。少なくとも、あたしたちはうさぎちゃんが悪いとは思ってないけどね」

 

 それを聞き、ベッドの端に腰かけるうさぎはテント内に眠る仲間たちに視線を向けた。

 テント内部の外周を回るように置かれた2段ベッドに彼女たちは眠っている。

 

 内側に包まるように、行儀よくすうすうと寝息を立てる亜美。

 巫女らしく、和布団に入った時のように整然として眠るレイ。

 半ば足をベッドから出し、いびきを搔いてアルテミスの眠りを妨げながら腹を掻く美奈子。

 

「うさぎちゃんのやったことに悪意は一つだってなかったし、むしろこの世界に貢献しようと頑張ってた。それだけで十分だよ」

 

「……ありがと、まこちゃん」

 

 うさぎは出かけていた涙を拭う。自分への後悔が完全に消えたわけではなかったが、ずっと共に戦ってきた親友の言葉は身に染みるものがあった。

 

「ん。じゃあ、体力回復次第、ミメットぶっ飛ばしてやろうぜ」

 

 うん、と頷いて寝床に伏すと、少女の瞼をまどろみが覆って閉じさせた。




渾沌ゴア、ムービーが悲惨になってて涙でそうになったぜ…あとアマツマガツチ復活の可能性があると聞いて浮足立ってる
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