セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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可憐に、凛々しく⑥

 

「ヌハハハハハ、貴様ら!歌姫様のご来光まで今日でいよいよ1週間を切った!このバルバレも、かの方が来られた暁には永遠なるラブ&ピースがもたらされることだろう!!」

 

 小さな酒場に人々が集まっていた。

 一段高い壇上で意気揚々と演説するのは、白い羽衣を着た教祖。

 ここはバルバレの中心から少し外れた地域であり、50名は軽く超える白い軍団が、他には誰もいないその砂上船内の酒場を占拠していた。

 赤色を秘めた彼らの瞳は、狂気ともとれるほど熱狂的な笑みを浮かべる。

 

「しかし!我らが主ミメット様が仰るには、魔女どもは我らの団、筆頭ハンターと結託して抵抗している模様。残念ながら、集会所前のエリアは未だに奴らの天下!」

 

 同意を示す憎悪に染まった叫びが次々に飛び、酒場を揺るがす。

 教祖はそれを聞き届けてからジョッキを取り出す。そこには泡を盛ったビールがなみなみと注がれていた。

 

「それでも、我々は決してネバー・ギブ・アップ!!妨害に屈せず、必ずや祭を成功させるぞ!すべては歌姫様とミメット様の御心のままに!!」

 

 ジョッキを天高く持ち上げ男が叫ぶと、周りの団員たちも「御心のままに!」と続けそれぞれの盃を掲げる。

 高揚感に乗せて彼らが杯を傾けようとしたとき──

 

 

 雷が落ちる。

 

 

 数多の悲鳴と共にジョッキが落ち、テーブルや椅子が倒れ、ビールの池が出来上がった。

 

「な、なんだ!?」

 

「この雷鳴は、まさか……!!」

 

 騒いでいるうちに、船上から続く階段の上で激しい物音がした。

 

「とおりゃーーっ!!」

 

 投げ飛ばされた見張りの団員たちが階段を転がり落ち、部屋の隅に積み上がっていく。

 陽の差す上から酒場に駆け下りてきたるは、木星を守護に持つ保護の戦士、セーラージュピター。

 教祖の髭面が真っ青になった。

 

「ま、魔女どもだ!」

 

「裏口から逃げろ!」

 

 団員たちは大騒ぎで入口とは真反対側にある下側への通路へ集う。

 そのうちの1人がしゃがみこみ、床にある蓋の取っ手を掴もうとすると、蓋の隙間から火花が散り、蓋全体が急速に焼けて溶けていく。

 彼が怯えて飛び下がった瞬間、火柱が噴火のように床を天めがけて貫いた。

 蓋の無くなった通路から、黒髪を振り乱して年端も行かない少女が飛び出す。

 その名は、火星を守護に持つ戦いの戦士、セーラーマーズ。

 

「マーキュリー、周りに人は!?」

 

 彼女の言葉に集団を挟んで向こう、ジュピターの隣に姿を現した水星を守護に持つ知の戦士、セーラーマーキュリーがバイザーを確認した。

 

「大丈夫、いないわ!」

 

「じゃあ、好き放題暴れていいってわけね!?」

 

 金星を守護に持つ愛と美の戦士、セーラーヴィーナスがマーズに続いて飛び出し、戸惑う彼らの前に降り立った。

 

「……酒場は他の人のだから、なるべく壊さないようにね」

 

 マーキュリーは、闘志盛んな仲間たちに心配げに忠告をした。

 一番最後に梯子を上って穴からそっと顔を出したのは、月を守護に持つ神秘の戦士、セーラームーン。

 

「は、はわわ……すっごいかずぅ……」

 

「ちょっとセーラームーン、驚いてる暇ないでしょ!」

 

 彼女に肩車してもらっているのは、未来の戦士見習いセーラーちびムーンである。

 ここに、6人の美少女戦士が集結した。

 教祖は憔悴しきった顔をしていたが、勇気を振り出すように叫んだ。

 

「ま、魔女め、やはり姿を現したか!追い詰めたつもりだろうが、こちらとて準備はしているんだぞ!」

 

 団員たちはみなボウガンを取り出し、鎧を着た守護兵が槍を番えて団員の前に出る。

 守護兵たちは団員と教祖を護るように盾を構えながら槍を突き放ったが、ジュピターは軽々とそれをかわす。

 

「なんだい、その攻撃!?ランサーさんに比べたら全然まだまだだね!!」

 

 彼女は大男の懐に入ると、裏拳で相手の腹を殴った。

 

「ぐはっ……」

 

 崩れ落ちる相手に構わず、少女は次々に守護兵の盾を徒手空拳で打ち破っていく。

 咄嗟に内側の団員たちが彼女めがけて一斉にボウガンを番えた。

 

「えっ、ホントに撃っちゃうの!?」

 

 それに驚いたのは戦士ではなく──教祖だった。

 

「撃ちますとも!手加減すれば、狩られるのはこっちです!」

 

 迷いのない動作で引き金に手をかける団員に、教祖は慌てて呼びかける。

 

「あーっ、ちょっとストップストップ!流石にワガハイ、おなごを傷つけるのは趣味じゃ……」

 

「クレッセント・ビーム!!」

 

 ヴィーナスが手から発した光線が精密にボウガンのみを撃ち抜き、次々とガラクタへ分解した。

 教祖はあんぐりと口を開けていた。

 

「あたしたちが近接格闘しかできないと思ったら、大間違いよ!」

 

「ちくしょうっ、なんて精密速度だ!」

 

「怯むな!数はこちらの方が多いぞ!」

 

 団員たちはなおも抵抗しようと武器を取り出す。教祖は呆気に取られて戦いを見守るしかない。

 マーキュリーが手元に冷気を生成し、それを床目がけて放った。

 

「シャボン・スプレー・フリージング!!」

 

 ボウガンを構えて階段側の前線に出ようとした団員たちの足元が凍り、脚を取られてすっ転んだ。

 後に続いていた者たちは突然前が倒れ込んできたので混乱に陥る。

 マーキュリーは氷の床を張り巡らすことで団員たちの機動力を奪うだけでなく、行動範囲をも制限したのだ。

 

「数の少なさなら、既に織り込み済みよ」

 

 弱り切った表情を見せた団員の1人は、裏口側にいるセーラームーンを睨んだ。

 近くにいるマーズとヴィーナスが、すぐに彼女を護るように立ちはだかった。

 

「そのたんこぶ娘が最優先だ!そいつが放つ光が、一番厄介と聞く!」

 

「たんこぶじゃない、お団子ですぅーっ!!」

 

 ムーンは思わず、自身の頭についたふさふさとしたお団子を掴んで叫んだ。

 

「ちょっとー!ワガハイのことは無視ですかー!?」

 

 残った守護兵たちがセーラームーンたちを包囲し、槍を構える。

 

「わ、わーっ!やめるのだ貴様らー!!」

 

 教祖が思わず眼を背けて叫ぶも虚しく、守護兵たちはセーラー戦士たちを突き刺さんと一気に槍を中心に向けて、放つ。

 

「はっ!」

 

 薔薇が数本、男たちの行く先に突き刺さった。

 彼らが振り向いた先で、タキシード姿の男が酒場のカウンターに座って脚を組んでいた。

 

「タキシード仮面様!」

 

 彼はこちらに振り向くと、腕をばっと広げてマントを翻した。

 

「セーラームーン、セーラーちびムーン、隙は作った!人々の憩う酒場を悪事に使う不届き者を、成敗してやれ!」

 

 ムーンは「はい!」と頷き、スパイラルハートムーンロッドを取り出す。

 慌てて男たちが槍を構え直そうとすると、ちびムーンが咄嗟にセーラームーンの肩から離れ、ピンクムーンスティックを光らせた。

 

「ピンク・ハート・シュガー・アタック!!」

 

 ハート型の光線の輪が、呪いにかかった男たちを怯ませる。

 

「今よ!」

 

 セーラームーンもロッドをマゼンタ色に光らす。

 

「ムーン・スパイラル・ハート・アタック!!」

 

 浄化の力が、男たちだけでなく周囲にいた団員も、そして教祖も含めて船内を満たす。

 

「「ラーーーーブリーーーーーーーー!!!!」」

 

 彼らが叫び、仰け反って叫ぶと妖気が一気に剥され、団員たちは気を失って倒れた。

 ぽつんと残されたのは、顔が虚無と化した教祖ただ1人。

 

 

「ヌハ……ヌハハ……ワガハイ……また……無一文……」

 

 

 そこまで言うと、教祖は泡を吹いて倒れ、気絶してしまった。

 

「やった!」

 

 少女たちは変身を解き、ハイタッチし合う。

 まことは表情を緩ませると、亜美と共に人を踏まないよう気を付けながら、うさぎたちの元に駆け寄る。

 

「やっぱしうさぎちゃんが来てから一気に楽になったね」

 

「えへへー、それほどでもー」

 

 うさぎが帰ってきてから1週間ほどが経った。今はバルバレを我らの団や筆頭ハンターと協力して巡回し、目撃情報があればミメットに呪われた人々を浄化している。

 照れるうさぎをよそに、レイは酒場に横たわる人々を見やった。

 

「でも、これもまだ一部に過ぎないでしょうね」

 

「ホントよ。何度叩いても、そのたびに増えてる気がするわ」

 

 美奈子は同意して、厳しい表情のまま頷いた。

 先日の筆頭ハンターとの共同作戦の後、ミメット勢力はゲリラ化した。

 いつどこで集会や()()()()()()活動を始めるか、予想がつきづらくなったのである。

 

 やがて、洗脳から解けた人々が呻き出した。

 

「大丈夫ですか?」

 

 亜美が元団員の1人を助け起こすと、彼は赤色が抜けた目を困惑して瞬かせた。

 

「あれ……俺は一体何を……」

 

「やっぱり記憶が飛んでるわね」

 

 少女たちは介抱に向かったが、誰1人として怪我人はいなかった。

 そこに、船上から階段の下に影が落ちた。

 

「終わったか!?」

 

 駆け下りて来たのは『我らの団』団長。

 

「団長さん!」

 

 彼はかなり急いできたようで、滝のように汗が流れていた。

 

「遅れてすまん。本当にお前さんたち、駆けつけるのが早いな。これが歳の差ってヤツかな」

 

「いえ、たまたま近くにいただけです。どうぞ、これを」

 

「ああすまん、ありがとう!」

 

 衛が歩み寄って水筒を渡しているうちに、少女たちは後ろ手に持ったそれぞれの変身具を懐にしまい込んだ。

 団長はふうと一旦息をついてから、右手をさっと上げて人差し指と中指、2つの指だけを立ててみせた。

 

「新しく伝えたいことがあって、良い報せと悪い報せがある。どっちから聞きたい?」

 

 少女たちが互いに顔を見合わせてから、レイが答えた。

 

「じゃあ、悪い方から」

 

 団長は黙って頷くと、少しだけ表情を引き締めた。

 

「最近、お前さんたちの悪い噂が出回ってる」

 

 少女たちはぐっと顔を歪め、まことが恐る恐る聞く。

 

「……どういう噂ですか?」

 

 団長はちょうどそこにあった樽に腰を下ろし、水筒の水を宙から口に注いで喉を潤す。

 こくんと美味そうに喉を鳴らして一旦呑み込むと、団長は手ぶりで衛に礼を言って水筒を返し、前に向き直った。

 

「5人組の少女に1人の長身の男と小娘、2匹のオトモには気をつけろ、奴らは魔女かその使いだってさ。白い集団の中では、もはや常識みたいに扱われてる」

 

「なぁんてドンピシャ……」

 

 ミメットの取った露骨な作戦に、美奈子はげんなりとした。

 ユージアルと同じ手口を、彼女はここぞとばかりに使ってきたのである。

 そこで、うさぎはふと気になって聞いた。

 

「……でも、団長さんは何であたしたちを疑わないんですか?」

 

「ん、当たり前だろう」

 

 団長は何を今更、とおどけるように肩を竦めた。

 

「お前さんたちのやること成すこと、演技にしちゃあ全部行き当たりばったりで破茶滅茶だからな!!わっはっはっは!!」

 

 背が反るまでに大笑いする団長に、少女たちは互いに苦笑を浮かべた。

 彼はそのあと、父が子を見るような優しい顔で呟いた。

 

「詳しくは聞かんが、恐らくお前さんたちを個人的に敵視する奴らが糸を引いてるんだろう。まだ若いのに、大変だなぁ」

 

「……団長さんもすみません、あたしたちのためにギルドのごたごたに縛られて」

 

 亜美に同情的な視線を送られると、団長は帽子を深くかぶって苦々しく笑った。

 

「ま、今まで本来の仕事サボって好き放題してたツケだな。こうなったら、とことん付き合ってやるさ」

 

 妖魔化生物の出現が落ち着いたのもつかの間、団長や筆頭ハンターはバルバレギルドの派閥闘争に忙殺された。

 先日見せられたギルド職員の懐柔……もとい洗脳が象徴したがごとく、ミメットの魔の手は既にギルドに及んでいる。

 彼女は自分の団体をギルド公認の組織としたいようであり、団長たちは日々に渡る会議で何とかその攻勢を凌いでいた。

 

「公演を中止できなかったのは良かったんだか、悪かったんだか」

 

 レイが呟くと、美奈子は近くにあった丸いテーブルに腰をかけ足を組んだ。

 

「しょうがないわよ。バルバレの人たち、そのためにたくさん手間もお金もかけて準備してきたんだからそれが人情ってもんよ」

 

 公演を中止する議案は、ギルドに通そうとした時点ではねつけられた。

 歌姫は既にバルバレへ出発しており、連絡を取ることは難しい。それに世論とミメット勢力の反対が重なり、中止は不可能となったのだ。

 そんな激戦を潜り抜けている今でさえ、団長の人懐っこい笑みは絶えない。

 

「だが、お嬢も頑張ってお前さんたちの宣伝をしてくれてる。共同調査中の我らの団ハンターも、その信用に太鼓判を押してくれるって話だ。あいつの信用の高さはシャレにならんぞ?」

 

「……ほんとに、どうお礼を言ったらいいか……」

 

 まことが胸元でぎゅっと拳を握り締めて言うも、団長は何でもないかのように立ち上がって階段の方へ歩き始めた。

 

「感謝は、良い報せを聞いた後に取っておきな」

 

 団長は階段に足をかけると、少女たちに向かって酒場の上──すなわち砂上船の甲板を親指で示した。

 

「今からそれを見せる。ほら、こっちに来てみろ」

 

 少女たちが階段を上るうちに、多くの人の気配を感じるようになった。怪訝に思う彼女らの前で、団長は振り返りつつ説明した。

 

「さっき謎の集団が俺に突然押しかけて来てな。ついに奴さんも実力行使かって身構えたんだが……」

 

 船上に出ると、大勢の男女が彼女たちを出迎えた。

 唖然としながら、うさぎは一番前にいる2人を見た。

 彼らは集団の中でも、一際太く大きい図体を誇っていた。

 

「よお、久しぶり。お団子頭の嬢ちゃんにお仲間さん」

 

「貴方たちは!」

 

 一方は潜水服のようなリノプロシリーズ、もう一方は白く重厚感溢れるハイメタシリーズ。

 男たちが特徴的な兜を外すと、以前より心なしか若返ったような、若さと活気あふれる顔が現れた。

 

「お嬢ちゃんの言う通り、帰省してきたぜ。俺たちの村によ」

 

「美味かったよなぁ?故郷の味は」

 

 ハイメタ男に肩をつつかれると、リノプロ男は血色のよい頬を緩ませながら頷く。

 うさぎは思わず、顔をほころばせた。

 

「行ってきて良かったって顔してるね」

 

 リノプロ男は照れくさそうに笑って答える。

 

「……あんなボロボロで帰ったのに、村のみんなは総出で出迎えてくれてな。辛い状況のはずなのに、誰もそんな素振り一つも見せなかった」

 

 彼の語り方からは、故郷の暖かい雰囲気がそのまま伝わってくるようだった。

 少女たちと団長、そして背後の人々はしんみりとした様子で聞いている。

 

「いつものように親父は仏頂面で薪を背負って、お袋と妹は畑仕事してて……久しぶりに家族の声を聞いて飯を食ってたら、ふと、包み込まれる感じがしたんだよ」

 

 リノプロ男は、うつむいて思い出すように自身の手を見て、それを握り締めた。

 

「俺は家族を支えてると思ってたが……違った。むしろ支えられてるんだって気づいたんだ」

 

 彼は、うさぎの青い瞳を真っ直ぐ捉え直した。

 

「そしてお嬢ちゃんも、その支えてくれたうちの1人だ」

 

 そこに、横からハイメタ男が顔を出す。

 

「おいおい、俺も勘定に入れてくれよ?」

 

「ああ、勿論な。それにあの時俺たちを追い出さなかったお仲間さんも、そして彼氏さんも……思ってみれば、みんなが背中を支えてくれていた」

 

 友人だけでなく少女たちも微笑んで見据えると、リノプロ男はぐっと精悍に顔を引き締める。

 彼はさっと腕を横に広げ、後ろに控える筋肉質な男女を示した。

 

「あんたたちは、俺たちに生きる希望を与えてくれた。これからは、俺たちがお嬢ちゃんたちを支える番だ」

 

 ハンターが割合としては多いが、一般人の数も少なくない。総数にして、60人ほどといったところだろう。

 

「この通り、ミメットの野郎に対抗してくれるって言う有志を集った。いずれも、嬢ちゃんたちに借りがあったり共感してくれた連中だよ。更にこれ以上の協力者がバルバレに潜んでる」

 

 ハイメタ男がそう説明すると、彼ら彼女らは慎んで声には出さないながら、親しみのある顔で少女たちに軽く挨拶をした。

 そのうちの一人が進み出る。

 

「実は、魔女がどういう手口でバルバレ全体を洗脳するかこちらで調べてたんだ。もう、目星は付いてきてる。あとはそこをどう無力化するかって段階だ」

 

「そんなところまで!?」

 

 驚いたまことの言葉に、同志たちの態度は心なしか自慢げだった。

 

「じゃあ、なんで今頃あたしたちに?」

 

 美奈子が聞くと、腕を組んだハイメタ男は抜け目のないハンターらしい目つきになった。

 

「ただでさえ勢力を増してるあいつらに、動きを悟られると厄介だからな。対策できるギリギリのタイミングまで粘ってたってわけさ」

 

「じゃあこれから、お前さん方もいよいよ晴れて大活躍ってわけか」

 

 団長が言うと、リノプロ男は彼にニヤリとした視線を横目で寄越し、うさぎの前に進み出た。

 

「そういうことだ。だから、お嬢ちゃん。これからそちらに協力させてもらえれば嬉しいんだが?」

 

 彼は左腕に楕円形の兜を抱えたまま、右手を開いて差し出した。

 少女たちも団長も笑顔で受け入れ、うさぎは迷わずその手を握って振った。

 

「ええ!ぜひともお願いするわ!」

 

 太陽煌めく青い空に、南方の砂漠から熱風がびゅうびゅうと吹く。それが砂上船の旗をはためかすさまは、彼らの新しい決意を表しているようでもあった。

 

 

 

「あのー……」

 

 

 

 清々しく盟約を終えた面々に、酒場に続く階段の下から陰々とした申し訳なさげな声が呼びかける。

 

「できればー、ワガハイもー、参加させて頂けると嬉しいというか是非そうしてもらわないとちょっと今後が超絶ヤバいのだが……?」

 

 下段から這いつくばってこちらを覗く、亡霊のように絶望感に満ちた髭面を見て亜美ははっとした。

 

「あなた、教祖だった人ね?」

 

 口調は似ているが、ココット村の教官とは全く別人の男である。

 まことが、むっとした顔で皆に呼び掛けた。

 

「このオッサン、狡いことして逃げたヤツだよ!もしかしたらまだ洗脳が解けてなくて、逃げ出すつもりかも知れない!」

 

「狡い!?ワガハイの必殺イャンクックの真似、狡い呼ばわり!?」

 

 歳の割には間抜けた発言をするその顔を見て、リノプロ男はすぐピンと来たようだった。

 

「おい、こいつ『元教官』じゃねえか?」

 

「え、みんな知ってるの?」

 

 うさぎが聞くと、団長はしゃがんで段上からその泣きっ面をしげしげと眺めながら頷いた。

 

「ハンターの間では有名さ。ビール製造や新事業で大成功したかと思ったら、大ポカやらかして素寒貧になるのを何回も繰り返してるんだよ。これでも、昔は狩人の教官してたらしいんだがなぁ」

 

「やめて!そんな的確で簡潔な説明しないで!!」

 

 耳を塞ぐ元教官に哀れそうな視線を向けたうさぎを見て、ハイメタ男が手を伸ばして制した。

 

「嬢ちゃん、安易に助けるのはやめといた方がいいぜ。こいつは金にがめついし、状況ですぐ態度を変えるろくでなしだ」

 

 元教官は、必死の形相で階段を這い上がった。船上の人間たちは思わず後退りし、彼が船上に上がるのを許してしまう。

 彼は、甲板に手をついたまま叫んだ。

 

「ワ、ワガハイは白い集団にいたから奴らの計画の内容を知ってる!より詳しい情報を提供できるぞ!」

 

「あれ、洗脳されたら記憶が無くなるんじゃ……」

 

「ウヌッッッッッ!?」

 

 亜美のその一言で、元教官のただでさえ青い顔が更に血の気を無くす。

 まことは目つきを鋭くし、ごきごきと拳を鳴らす。

 

「つまりあんた……洗脳されてないのにミメットに服従して教祖やってたってことかい?」

 

「えっ、結構ヤバくない?訴えられたら百パー負けるんじゃ……」

 

 美奈子のその一言が決め手となり、周囲の視線が一気に刺々しいものに変わった。

 人々から警戒の言葉が飛び出してくる。

 団長ははあ、とため息をついて元教官の前にしゃがんだ。

 

「元教官さん、勝手に失敗するのならともかく、今回ばかりは話が違うぞ。あんたのやったことはバルバレを破滅に向かわせてたのも同じだ。こりゃあ流石に……」

 

 突然、元教官は耐え切れなくなったように諸手を上げ、天を仰いだ。

 

「ジ・エンドオオオオオオッッッ!!!!」

 

 元教官は、その場に震えて伏せる。

 

「ここで失敗してからというもの、どこにもワガハイの働き口はなく、ただただ露店の下に落ちた小銭を漁る日々!人々からは嘲りの目で見られ、路地裏たった一人ぽっちで落ちぶれていくのみだ!」

 

 情けなくも、顔を上げた男の目には涙が浮かんでいた。

 

「そんなワガハイを拾ってくれたのはあの魔女だけだった!カルトだろうが何だろうが、明日の飯には代えられんかった!シャバに戻ろうとしたら消される雰囲気だったし……」

 

「何なのよあんた、言い訳するつもり!?」

 

「そうよ、人々を食い物にしてぬくぬく暮らしてたヤツがよく言うわ!」

 

 レイと美奈子が責めると、その言葉は他の者にも伝染していく。

 もはや、彼を許すような雰囲気は微塵もなかった。

 教官は吹っ切れたように立ち上がり、半ば自暴自棄に泣き笑いした。

 

「いくらでも罵れ罵れ!ワガハイは一向に構わん!この山あり谷ありの人生で築かれた高潔な精神と気高き誇りは、大衆の暴力の下にあろうと失われることはないからな!ヌーハハハハハハハ!!」

 

 むしろ挑発し始めた元教官により、場の雰囲気は一気に険悪になっていく。

 

「なんだと、今更教官気取りかよ!」

 

「こいつ、聞いてた以上に最悪だな。痛い目遭わねぇとわからないんじゃないか?」

 

 そんななか、うさぎだけは違うことを考えていた。

 目の前の男はかつての自分に固執している。それにこの逆境でも必死にしがみつき自分の心を護ろうとしているのだ。

 形は違えど、その頑固さはかつての自分と似ていた。

 

 うさぎはハイメタ男の手を潜った。

 

「おい、うさこ……」

 

 衛の制止も意味をなさず、彼女は我慢ならないという風に歩み寄り──

 元教官の顔を平手打ちした。

 唖然とした面々の前で彼女は自分よりずっと年上の男に怒鳴った。

 

「なんで、そうやって変にかっこつけようとすんのよ!いらない見栄張る前にちゃんとみんなに謝って、二度とやらないって誓えばいいじゃない!」

 

 沈黙が訪れる。

 教官は呆気にとられた顔で、うさぎの睨み顔を見つめていた。

 

「…………女神…………」

 

「へ?」

 

「女神さまあああああああああああああ!!!!」

 

 元教官は少女の前で平伏し、手を合わせながら泣き叫んだ。

 

「え、ええええ!?」

 

 これにはうさぎもさすがに驚く。元教官は何度も頭を下げ、えずきながら続ける。

 

「こんなワガハイに真剣に手を差し伸べて下さったのは貴女だけ!貴女様ならこのわたくし、どこへでもついてゆきますうううううううううううう!!!!」

 

 よっぽど嬉しかったのだろう、元教官はいつまでも泣き続けている。

 レイは呆れて腕を組んだ。

 

「はぁ、うさぎったら……」 

 

「よくこんなダメ男をねぇ」

 

「うん。ぜっったいモテないタイプ」

 

「まあ、いいじゃない。この人が見聞きしたことはかなり役に立ちそうよ」

 

 美奈子とまことが冷たく言い放つ横で、亜美はあとの3人を宥める。

 一方のリノプロ男は、ハイメタ男と視線を合わせた。

 さっきまでの殺気だった雰囲気も、平手打ちと元教官の土下座で冷めていた。

 

「……ま、この子たちに救われた者同士せいぜい仲良くしてやるか。なあ、みんな」

 

 彼らが率いて来た人々は、完全に納得というわけではないが今の元教官の姿勢を見て感じるものがあったようだ。

 元教官は、おずおずと改めて床に正座した。

 

「さっきは……すまなかった。本当に今回……ワガハイがしたことは不味かったと思ってる。だからどうか、貴様ら……じゃなくて君たちと協力してミメットを倒すということで、許してくれはせんだろうか?もちろん、出来るだけのことを全力でする」

 

 今度は素直で、真剣な懇願だった。

 仕方ないな、といった風なやり取りをして、賛成に至った。

 団長がまとめるように叫んだ。

 

「よし。改めて、俺たちの愛するバルバレを救うぞ!」

 

 少女たち、団長、狩人たち、そして涙に頬を濡らした元教官は、一斉に腕を振り上げた。

 

 




書き直してたら投稿の予定時間過ぎてしまいました、すみません!
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