セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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来週から新しいエピソードですので、今週はキリを良くするため一回だけ更新です。


可憐に、凛々しく⑦

 

 晴天に増える色鮮やかな旗と飛行船。

 大地に増える露店と草食竜車、そして人々。

 狂気にも近い熱気が、市場の空間を満たし溢れていく。

 少女たちは、日に日に華やかになっていくこの太陽の集落を毎日駆け回った。

 

 今日も元教官からの情報を受け、隠れ家の一つを制圧しているところである。

 狩人たちがうさぎたちよりも一足早く現場の砂上船に着き、船内で白い集団と乱闘を起こしていた。

 何かを割ったり壊したりする音が絶え間なく聞こえてくる。

 うさぎたちは全員揃って野次馬に混じり、闘いの行方を見守っていた。

 

 やがて騒ぎが収まり、中から逞しい狩人や守護兵たちが汗を拭いつつ出てくる。彼らは気絶させた白い集団を縄に繋いでいた。

 全員が無事であると分かったうさぎは、ふぅ、と大きなため息をついて胸を撫で下ろした。

 

「よぉし、ここは片付いたな。次も行くぞ!」

 

「後のことは、今日もお嬢ちゃんたちに任せるぜ!」

 

 リノプロ男とハイメタ男はうさぎたちに白い集団を差し出すと、親指をぐっと立ててその場を去っていった。それにうさぎは手を大きく振って見送る。

 

「ありがと、みんなー!」

 

 白い集団のギルドへの引き渡しはうさぎたちが行っていた。洗脳が解けていると確認されれば、人々は今まで通りの生活に戻ることができる。

 無論、自分たちの正体は隠したままだ。引き渡す前に浄化を行うことで、正体がバレるのを防いでいた。

 

 観客になっていた商人たちもことが終わると、やがて興味を失って離れていく。彼らも祭典を間近に控え、何かと準備に追われているのだった。

 レイは縄で縛られた昏睡中の白い集団に視線を戻し、ため息をついた。

 

「筆頭ハンターさんたち、今日も忙しくなるわね」

 

 彼らは専ら集会所でギルドの仕事に追われている。ミメット勢力への対抗と祭典の準備、両方を成功に導かねばならない。その心労は察するに余りあった。

 

「あたしたちも、またお仕事手伝わなくっちゃね」

 

 亜美の言葉に皆が頷くところ、誰かが彼女らの姿を認めてざっと立ち止まった。

 

 

「吾輩だ!!教官だ!!!!報告に来たぞ!!!!」

 

 

 はっと振り向いたうさぎは、さっそく新たに仲間となったその男に走り寄った。

 

「教官!()()の守備はどう?」

 

 日に焼けた髭面の男は、にいっと笑顔でピースサインを見せてくる。

 

「超、超、絶好調!奴らも全く気づいておらん。……フッ、吾輩にこういうシノビの才能もあったとはな」

 

「そ、そりゃあよかったわね」

 

 うさぎはなんとも言えない顔で苦笑した。

 それに乗っかるようにまことは、髪をかき上げ自惚れ顔の教官に迫った。

 

「よーし。じゃあまたカルトに忍び込んで、次の集会場所聞きだしてきてよ。そこに総攻撃仕掛けるから」

 

 すると、教官は表情をたちまち憔悴に変えて手で差し止めた。

 

「ちょっ、ちょっと待てぇい!そう簡単に言うけどな、吾輩だって演技するの大変なんだぞ!昨日なんか洗脳されたギルドナイトにめちゃくちゃ睨まれ……」

 

「才能あるんでしょ?言っとくけどあなたのしでかしたこと、まだ清算できてないから」

 

 レイは腕組みをして圧迫感たっぷりに睨む。

 元教官は苦い顔をして顔を背け、小さくぼやく。

 

「まったくこのおなごたちと来たら、顔は可愛くてもそれ以外が可愛く……」

 

 

 レイ、まこと、美奈子の3人は一斉に顔をすごませた。

 

 

「あっ、すみません何にもないです……」

 

 中学生女子とは思えない迫力に、元教官は即前言撤回する。

 そんなどこまでも情けない男の様子に、美奈子は半ば呆れていた。

 

「本当にすぐ調子乗るわねー、この人。ミメットに怪しまれたりしてない?」

 

 元教官はヌフフ、とまた得意げに笑ってみせる。

 

「あの女はとんだ面食いでな。カルトが大きくなってからというもの、男を若さと顔ばかり気にかけて、精神チョ~~イケメンな吾輩には全く見向きもせんのだ!おかげでこうやって大暗躍できるというわけよ!ヌッハハハハハ!!」

 

 確かに、前回の戦いでもミメットはイケメンの芸能人ばかりを目標にしていた。教官の言っていることはおかしくはない。

 しかし、それはそれとして。

 

「……自分で言ってて悲しくならない?」

 

 うさぎがそう問いかけるが、

 

「魔女の驚く顔が目に浮かぶぞ!!ヌ~~ッハッハッハッハッハ!!ヌ~~~~ッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!」

 

 結婚適齢期をとっくに過ぎている元教官は、話を全く聞いていなかった。

 

「ま、いいんじゃない?結果的に役に立ってくれれば」

 

 うさぎはルナの言葉を受け、呆れつつも微笑んで頷く。

 元教官は色々と変わっているが、いくら失敗してもへこたれない(学ばない)どこか憎めない男だ。今ではうさぎたちに尽くしてくれる強い味方である。

 

「あっ、ここにいた。うさぎさんたちですか?」

 

 声をかけてきたのは、見知らぬ青年だった。

 うさぎたちがそうだと答えると、男は自分はギルドから遣わされた伝令であると述べ、その証拠であるサインを見せた。

 彼の表情からして、ただごとではない。

 

 

「デデ砂漠におられる歌姫様の護衛団から、救難信号が届きました!」

 

 

 伝令の声と顔は、緊張に満ちていた。

 

「突如として敵襲を受け、現在は身を隠している状況とのこと!筆頭ハンター殿から至急集会場に集まってほしいとの伝言です!」

 

──

 

「ミメットの差し金!?」

 

 先頭のうさぎが早足で歩きながら後方の亜美を見たが、彼女は未だに信じられない様子だった。

 

「まさかこのタイミングで歌姫様に手を出すだなんて。てっきりバルバレで地盤を固めるのが先と思っていたけれど」

 

「こちとら順調に追い詰めてるってのに、よほど自信がおありらしい。一体何を企んでやがる?」

 

 通りがかった白い集団がひそひそと話し合いながらこちらを見ていたので、まことはそれに思いっきりガンを飛ばした。

 彼らは恐れを成し、散り散りに逃げていく。

 レイも、それを振り返りながら呟いた。

 

「あの元教官、ミメットに見初められて隣に置かれてたら色々とやってもらえたんだけどね」

 

 聴いた噂では、ミメットは自分の周りに若く面のいい男ばかり侍らせているらしい。教官は無論、対象外であった。

 彼女たちは、篝火が並んで集会所へ導く通りに入った。

 うさぎの隣に歩く衛が、考え深げに顎を撫でた。

 

「歌姫様が予定通りに来られるとまずい理由があるのかもしれないな」

 

「でも、ミメットは公演当日を楽しんでって言ってたんでしょ?肝心の歌姫様がいないのに……」

 

 肩車されたちびうさが衛に問いかけたところで、困り眉になっていた美奈子が顔を振り上げた。

 

「そう、公演よ!」

 

 仲間たちの視線が彼女に集中する。

 

「バルバレ中の人々がただ1人のために一堂に会する祭典……。あのミメットが、この機会を逃すわけないわ!!」

 

──

 

 集会所内の酒場で、少女たちの前に筆頭ハンターたちと我らの団団長、ソフィアが勢ぞろいしていた。

 脇には球儀が後方にあるクエストカウンターがあり、そこに腰を下ろしてパイプを吹かすギルドマスターがいた。彼は洗脳を受けておらず、団長や筆頭ハンターたちの肩を間接的ながら持ってくれている。

 

 

「歌姫に成り代わる?」

 

 

 驚いた顔が並ぶ筆頭ハンターと我らの団相手に、美奈子は後ろに手を組みはっきりと答えた。

 

「はい!ミメットは何もかも自分が一番でないと気の済まないヤツです!歌姫様を崇め奉る役に甘んじるワケがありません!」

 

 美奈子は元の世界で、変装したミメットと共にお互いの正体に気づかずアイドルに応募しようとしたことがあった。同志として意気投合しかけたのは良いものの、ミメットは自分が応募に落ちたと知ると腹いせに会場をぶち壊しにかかったのだ。

 ソフィアは椅子から立ち上がり、目を輝かせた。

 

「魔女の性格からの考察、それは思いつきませんでした!」

 

「じゃあヤツはこれを機に歌姫の地位を手に入れようと、一度は公に姿を現す可能性が高い……てなると、その瞬間が最大のピンチであり、チャンスってわけか!こりゃあ面白くなってきたぞ!」

 

 団長が膝を打って笑うと、筆頭リーダーも頷いて少女たちを見やった。

 

「そこばかりに目がくらんでいるとすれば、()()がバレる心配も薄い。急遽、教官たちと共同して推進すべきだな」

 

「でもその一方で、歌姫様を一刻でも早くお救いしなければね」

 

 筆頭ガンナーが、冷静に腕を組みながら言った。

 それで、一同は改めて表情を引き締める。

 

「問題は時間と、人選びね」

 

 亜美が呟き、悩み迷う視線が自然に交差し合った。

 ランサーは岩のような顔の下に手をやりながら、その場を周るように歩いた。

 

「デデ砂漠自体は近いが、歌姫様の安全な場所への護送、モンスターとの交戦も考慮に入れると……少なく見積もっても、公演当日に帰還が間に合うか間に合わないか」

 

 不安げな顔をした少女たちをルーキーがちらりと見ると、急ぐように手を挙げた。

 

「じゃあ、ぜひここは俺が……!」

 

「筆頭ハンターは絶対に必要だ。経験者たる君たちには、ギルドの柱として今なお増えるミメットの勢力を抑えてもらわねばなるまい」

 

 彼の言葉を予見したように遮ったのはギルドマスターだった。

 いつもは柔和に笑っているカウボーイ姿の小さな好々爺は、今は厳しくも思慮深い表情をその顔に滲ませていた。

 ルーキーは懇願するような目線でクエストカウンターに歩み寄り、訴える。

 

「ギルドマスター!俺らが経験者なら猶更のこと……」

 

 筆頭ガンナーが彼の肩にそっと手を置き、制して呟いた。

 

「それほどこちらの状況がひっ迫してるのよ。人選は慎重にやらないと駄目」

 

 ルーキーは、悔やんでも悔やみきれないようにその場に跪いて膝を拳で殴った。

 

「となると、あたしたちの中からね」

 

 亜美が仲間たちと視線を合わせていると、ギルドマスターはすっと人差し指を顔の横で立てた。

 

 

「無茶な願いというのは承知の上だが……出来れば()()。それも、必ず歌姫様を護り通す実力、自信と覚悟のある者を頼む」

 

 

「1人!?」

 

 一気に少女たちの間がざわめいた。

 

「何とか抑えたとはいえ、こちらは明らかにミメットの派閥に数で劣る。君たちも1人でも多く欠ければ、バルバレ全体が致命的な状況になりかねない」

 

 穏やかながら緊迫感のある調子で諭す老人に、レイは前に進み出て叫ぶように言った。

 

「歌姫様や御付きの人たちを1人だけで救う!?どう考えたって、そんなのむ……」

 

 一つだけ手が挙がった。

 その場にいる全員がその人物を見つめた。

 

 

「あたしが……行ってくる」

 

 

 衛は、真っ先に隣にいる金髪のツインテールの少女に険しい顔で振り向いた。

 レイが、彼女を睨み、ずかずかと歩いてくる。

 

「バカ!またあんた1人で英雄気取りする気!?」

 

 衛はがしりとうさぎの両肩を掴み、その瞳を悲しみに暮れた表情で見つめた。

 

「……どうしてだ!1人で無理を押して狩りに行った結果、あんなに痛い想いをしたんじゃないか!!」

 

「ごめん。またわがままやっちゃった」

 

 うさぎはうつむいたが、もう一度、静かに目の前の彼を青空のような瞳で見上げた。

 

「でもあたしは、そのわがままでしか動けないんだ。今はここにいる誰にも妖魔と戦わせたくない。誰か1人でもここからいなくなるかもなんて考えるのは嫌なの」

 

「だからって!」

 

「我こそは正義とか理想のためにと叫ぶ者は信用ならんものだ。その点、お前さんの言ったことの方が1000倍信じられる」

 

 レイの反駁は、団長の一声で断ち切られた。

 つばの広いオレンジの帽子をくいと上げ、彼は片手を大きく広げた。

 

「この市場には、お団子のお嬢ちゃんのわがままに救われた奴らが山ほどいる。きっとその番が、今回は歌姫様に回ってきたのさ」

 

 しんと静まり返るなか、筆頭リーダーが少女たちの前に出る。

 

「そちらの心情が並々ならぬことは覚悟の上だが、私からも彼女の意思を尊重するようお願いしたい」

 

「……リーダーさん」

 

 衛に向かい、彼と同じくらいの背丈であるリーダーは真正面から瞳を捉えた。

 

「確かに、かつて努力する方向は少し間違えたかも知れない。だが、彼女はそれに自分で気づき修正しようとしている」

 

 衛を見つめながら、彼は熱を秘めた瞳で語った。

 

「彼女は目の前のことから逃げず這い上がってきた。たとえ妖魔が束になって襲いかかろうと、全力を総じて歌姫様を護ろうとするだろう」

 

 筆頭リーダーは衛の肩に手を置き、顔を真正面から見つめた。

 

「君が最も彼女の強さを分かっているはずだ。もう一度信じてみてもいいと、私は思うが」

 

 うつむいて渋る衛の前にちびうさが飛び出た。

 

「まもちゃん、あたしからもお願い、うさぎを行かせてあげて!今のうさぎなら、前みたいなヘマはしないわ!」

 

「あたしも同じ意見だな。亜美ちゃんは?」

 

 まことが隣に視線を送ると、亜美は眼鏡をかけてペラペラとメモ帳を開いていた。

 彼女はやがてそれを閉じ、顔を上げて眼鏡を取った。

 

「妖魔化生物と一番刃を交え、一番勝率が高いのはうさぎちゃんよ。あたしは正直不安だけれど……ここの人たちの事情を無視するわけにもいかないわ」

 

「亜美ちゃんまで賛成してきたら、完敗ねぇ」

 

 美奈子が密かに白猫アルテミスを見下ろすと、彼はこれはまずいという風に隣のルナを見た。

 

「仕方ない、ここは僕たちでなんとか食い止め……あっ、ルナ!?」

 

 黒猫ルナは、ギルドマスターの前に飛び出て叫んだ。

 

「ギルドマスターさん。あたしがうさぎちゃんについていくのは構いませんか?」

 

「ルナ!」

 

 呼びかけたうさぎに、ルナは振り向いた。

 

「主人の成長を見守るのもあたしの役目だしね」

 

 一緒にうさぎを止めるはずだったアルテミスは、出鼻を挫かれ仕方なさげにため息をついた。

 ギルドマスターはなるほど、と頷きながらパイプを咥え、しばらく思案を重ねていた。

 やがて彼はそれを外し、口を開いた。

 

「ふむ……君が彼女の良き相棒なら、存分にその使命を果たすといい。同行を許可しよう」

 

 うさぎとルナが喜色を浮かべて顔を見合わせると、ギルドマスターは続けた。

 

「ミメットの勢力による妨害が予想されるが、ありったけの物資を支給し万全のサポートを敷く。現地の護衛団と協力して歌姫様をお救いしてくれ」

 

 うさぎは頷くと改めて仲間たちに振り向き、微笑んで手を振った。

 

「じゃ、準備してくるからまた後で。大丈夫、今回はルナもついてるから!」

 

 うさぎはクエスト準備のため宿泊テントに駆けていき、ルナもそれに続いた。

 レイは、うさぎの小さくなる背を見つめたまま小さく呟いた。

 

「後で泣きついたりしてきたら、絶交だからね」

 

──

 

 デデ砂漠、通称『旧砂漠』行きの特急砂上船から、間もなく出発するという意味で短く強く、角笛が野太い音を立てる。

 集会所の出発口を出た先、砂漠を突っ切るように木製の桟橋があり、帆船が立ち並ぶ様はまさに砂上の港である。

 船の間をハンターと商人たちが行きかい、せわしなく積み荷をやり取りしている。

 そんな人々ひしめきあう海のなか──

 うさぎの仲間だけでなく筆頭ハンター、我らの団、ギルドマスターまでもが集まり、少女と黒猫の出港を見送っていた。

 

「この世の中、いろいろあるが……お前さんがどう考えどう行動するかは、どこまでも自由だ」

 

 深緑の女王の鎧と剣を纏ったうさぎに、団長が腕組みして語り掛ける。

 うさぎの足元で、鉄製の兜と毛皮の鎧が特徴の『ハントネコシリーズ』を着こんだルナが彼を見上げた。

 

「そうやって羽ばたいてると、時にどこへ行けばいいか迷うこともあるだろうが……その時は、思い出してくれ。お前さんの後ろには、見えなくても味方が確かにいるってことをな」

 

 うさぎはうん、と頷き、微笑んだ。

 船の錨が巻き上げられていく。

 衛はうさぎに歩み寄ると、そっと胸中にその小さな身体を抱いた。

 

「うさこは、本当に何処にでも飛んでいってしまうな」

 

 彼女も目を閉じ、彼の胸に自身を預けながら、その包み込むような声を聞く。

 

「いつまでも隣にいてほしいって思う俺は、ダメな男なんだろうか」

 

 うさぎは顔を上げ、静かに首を振る。

 

「そんなことないわ。あたしだって、出来るならまもちゃんの隣にずっといたい」

 

 彼女は懐からあるものを取り出した。

 薔薇の花びらを押し花にし、それを鈍く光る鉱石『ライトクリスタル』に閉じ込めたブローチだった。

 衛はそっと腕を解き、それに見とれた。

 

「それ……この前、俺が手渡した」

 

「うん。御守りにしたんだ」

 

 うさぎは顔をほんのりと赤く染めて、ブローチをしまい直した。

 

「絶対忘れないよ。ここにあるすべてが、あたしを支えてくれたこと」

 

 直後、衛を強い眼差しで見つめ上げた。

 

 

「あたし、必ず帰ってくるわ。そして、ミメットの野望を食い止める!」

 

 

 彼女はこれまで一緒に戦ってきた仲間たちを、そしてこの市場で出会った仲間たちを見据えた。

 彼らは、期待と願いを込めた眼差しで少女を見送り頷いた。

 船の甲板を背に胸をぴんと張り、並ぶ顔に身体を向けたまま甲板に上がる。

 

 角笛が長く、ぱあぷううううう、と遠くまで咆哮した。

 

 船が動き出し、砂粒を巻き上げる。

 切なげに、しかしながら強い輝きを秘めた瞳で少女は手を仲間たちへと振る。

 遠ざかる彼女を仲間たちは追いかけ、口々に叫びながら手を振り返す。

 

 団長とソフィアも、少女たちに続く。

 ルーキー、ガンナー、ランサーはじっと静かに見送る中で、リーダーだけが前に進み出て小さくなっていく船に呟いた。

 

 

「さあ、行け」

 

 

 彼は力を込めて目を細め、蜃気楼に滲んでいく船をいつまでも見つめていた。

 

 

 

 

 

 

「護りたいもののために……最高の一打を放ってくるんだ」

 

 

 

 

 

 




次回からのエピソードでバルバレにおけるミメットとの決着となります!

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