セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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砂漠に咲く真紅①

 南側にある天然岩のアーチが、ベースキャンプと日に焼けた大地を区切っている。

 辛うじて洞窟の入り口にあるテントは日光を避けているが、空気は乾き、それを吸った者の胸を内側から炙る。

 

 少女は、そこで青いボックスから支給品を取り出していた。

 

「砂漠は初めてねぇ。うさぎちゃん、マップは持った?応急薬は?携帯食料は?小っちゃい砥石なんか絶対忘れてそうね。あとクーラードリンク……」

 

「あーーーーーーもう!!それ以上喋ったら、初めて会った時みたいに額に絆創膏貼って黙らすわよ!?」

 

 うさぎは久々に頭にカチンときて、自身の額を何回も指さしながら怒鳴った。

 ルナは肩をそびやかして言った。

 

「おーこわ。後で後悔しても知らないわよ?」

 

「言われなくも、ありがたーく全部使わせて頂きます!」

 

 シビレ罠、閃光玉、音爆弾、秘薬など、彼女の手持ちと合わせると余りまくる量の支給品があった。

 それら全てをリヤカーにつぎ込み、うさぎはキャンプを出発する。

 

──

 

 炎天下、『エリア2』のなだらかな砂丘の斜面を下り、うさぎとルナは砂漠に足跡をつけていく。

 本来なら体力が奪われるほどの熱なのだが、冷却効果があるクーラードリンクを飲むことでそれを抑えている。

 うさぎはゴトンゴトンと鳴らしながらリヤカーを引き、ルナは足跡などはないかとあちこちを見て回る。

 ルナは、やがて駆け足でうさぎの元に戻ってきた。

 

「歌姫御一行の痕跡は見つからないわ」

 

「てなると、もっと北かなぁ」

 

 推測しながら、彼女たちは北西に足を向ける。

 少しでも手がかりはないかと抜け目なく視線を巡らすも、やがてルナが一言呟いた。

 

「こうして一緒に歩いてると、ダークキングダムと戦ってた時のこと思い出すわ」

 

 うさぎは彼女に振り向き微笑んだ。

 

「そういや、亜美ちゃんが来るまではあたしとルナだけだったよね」

 

 タキシード仮面の正体も分からず、自身が月の王国のプリンセスであることすら知らず、ひたすら街のネオンの間を駆け巡っていたあの時。

 ルナは、やや皮肉っぽい顔でじろりと主人を見つめた。

 

「最初、肝心のうさぎちゃんはずっと泣いて逃げてばっかりで、こんなんで戦士が務まるかって心配だったわ!」

 

「もう、二人きりだからって言いたい放題しちゃって!」

 

「それがもう、今では1人でジャングルに突っ込んでいくくらいだものね」

 

 口を尖らせていたうさぎは、そこで言葉を噤んだ。

 

「本当に成長したわね、うさぎちゃん」

 

 少女は前に向き直ると、ふっと笑ってリヤカーの取っ手を引く手に力を込めた。

 

「うーん、それほどでもぉ……あるかなっ!」

 

「そこは謙遜するとこでしょ。そこら辺まだまだお子ちゃまね」

 

「いーでしょ、ちょっとくらい調子に乗らせてくれても」

 

 駄弁りあいながら、彼女たちは坂を下った先にある『エリア7』へ走っていく。

 

──

 

「あっ、あれは?」

 

 岩地を背景にした広大な盆地型の地形が見えて来たとき、ルナは何かに気づいて声を上げた。

 

「ん、どれどれ?」

 

 うさぎは双眼鏡を取り出し、覗いた。

 ルナが指さした先、エリア南にいるこちらから見て西の遠方に砂上船が止まっていた。

 

「あれが、歌姫様の乗ってきた船かしら?早速調べて……」

 

「……ちょっと待って」

 

 ルナを一旦制止したうさぎは、それとは別の方向に双眼鏡を向けていた。

 旧砂漠でも最も広大な砂漠地帯であるこのエリアには、あらゆるモンスターが集まりやすい。

 そのうちの代表的な一種──

 

 

「ガレオスがいる!」

 

 

 双眼鏡を覗きながらうさぎが呟いた。

 丸い視界の中、刃物のような形の背びれが砂から突き出て、うねりながら泳いでいる。

 うさぎは、亜美とソフィアから彼女らが集めた多くの書籍をもらった。

 ここに来るまでに、ルナが『あのうさぎちゃんが信じられない』と言うほどに読み漁り、この土地の地理と生物について学んだ。

 

 彼らはまさに、砂の海を泳ぐ魚だった。

 砂塵の間、扁平な半月状の頭に豆粒のような白目が不気味に覗く。砂中生活のため目の機能は退化しているが、その代わり鋭敏な聴覚で獲物の接近を捉える。

 

「どうする?」

 

 ルナの言葉に、うさぎはそれほど時間をかけず答えた。

 

「今あの船を調べるのは無理そうだから、一気に北の『エリア10』まで突っ切ろう!」

 

「──てなると、なるべく荷物を減らさないと駄目ね」

 

 早速、携帯食料などの必需品以外の大タル爆弾や罠など嵩張る荷物はリヤカーに乗せ、一旦近くにあった岩場の奥深くに隠した。

 そしてリュックに様々なものを詰め込み、自身よりも大きいのではと疑うほどのそれをうさぎは背負う。

 

「よし……行くわよ!」

 

 ルナのかけ声を合図に、うさぎは北にある『エリア10』目掛けて疾走する。

 ガレオスの群れは、早くも縄張りに余所者が入り込んだことを悟った。

 美しく整った陣形を取っていた彼らはすぐさま散開し、取り囲むように泳ぐ。

 

「も、もうちょっと荷物減らすんだったー!」

 

「うさぎちゃん、急いで!」

 

 あちこちで砂が舞い上がった。

 全長2mはあろう巨大魚たちが飛び出し、ヒレを拡げ鳥のように突っ込んでくる。

 特殊な体液に包まれた滑らかな鱗が砂や空気の抵抗を減らし、砂漠を泳ぎ空を滑空するなどという芸当を可能にする。

 真っ赤な口に生え揃った牙が少女たちを捕らえようとする。

 

「ひゃあああっ!!」

 

 うさぎは走りながらしゃがみ、ルナは飛び跳ねて彼らの攻撃をかわしていく。

 何とか群れから逃げ延びかけると、一際大きな砂埃が上がった。

 ガレオスたちよりも黒ずんだ背びれが、真正面から砂をかき分けてくる。

 それはある程度近づくと、突然飛び出して一際大きな口を開いた。

 

「ガアアアアアッッッッ」

 

 直線状にぶっ飛んできたそれを、うさぎとルナは間一髪で飛び込んで避ける。

 地面に伏せた後、再び起き上がり砂を振り払いつつ、うさぎはルナに確認した。

 

「……あれ、確か群れのリーダーよね!?」

 

「ええ!」

 

 砂竜ドスガレオス。

 ガレオスの中でも10mに及ぶ巨躯を誇る個体だ。

 それは砂を素早く掻き分けると、たちまちその下に潜って姿を消した。

 

「リーダーがいるのはマズイわ!早く北に急がないと!」

 

 ルナの言葉に従いうさぎは再び駆け出すが、砂漠で何世代にも渡って生き残ってきた彼らにその速度は遅すぎた。

 部下に当たるガレオスたちは一斉に動き出し、半身だけ地上に出すと一斉に砂を吐きかけてきた。

 直撃はしなかったが、足をすくわれてうさぎが転倒する。

 その隙を狙ったように真下の大地がどおんと鳴る。

 

「うさぎちゃん!」

 

 ルナが叫ぶと、うさぎは咄嗟に立ち止まり、ポーチをまさぐって音爆弾を取り出す。

 

「てぇりゃーーーっ!!」

 

 耳を塞いで足元に投げつけると、爆音が鳴り響いた。

 途端に、外部情報を専ら聴覚に頼るガレオスたちはたまらず飛び出した。

 ドスガレオスも例外なく地上に引きずり出され、吊り上げられた魚のごとく砂上にびったんびったんと跳ね回る。

 彼の目は赤く充血し、黒い蒸気を激しく吐き出していた。

 

「……妖魔化してる!」

 

「今はとにかくダッシュよ!」

 

「うん!」

 

 先鋒を行くルナにうさぎは頷くと、もがき苦しむドスガレオスの横を通り、難破船を横に見ながら岩地へ続く道を疾走した。

 

──

 

 『エリア10』は先ほどよりずっと狭く険しく、岩地の間に位置するゆえか強い砂風が吹きすさぶ。

 うさぎが今歩いている窪んだ浅い谷底を見ると、砂上に足跡のようなものが何個も重なり溝のようになっていた。

 

「見て、足跡がたくさん重なってる!」

 

「てなると、恐らくこの辺に……」

 

 ルナが周りを見渡したとき、きしゃあ、きしゃあと叫び声がした。

 奥の巣穴から、黄緑縞模様の肉食竜たちが群れて飛び出し、駆けてくる。

 

 ゲネポスとその群れの長、ドスゲネポスである。

 

 彼らもガレオスたちと同じく赤色に瞳を塗りつぶされ、黒い息が口から漏れ出していた。

 

「やっぱり、ミメットは妖魔たちを歌姫様に……!」

 

 うさぎがプリンセスレイピアを構えると、一際図体とトサカが大きいドスゲネポスは彼女を睨み据えながら咆えた。

 配下のゲネポスたちはあっという間にうさぎとルナの背後に入り込み、四方八方から跳びかかる。

 麻痺毒入りの牙をうさぎは盾で受け流して細剣を振り回すが、この数は流石に分が悪く何度も牙が掠りかける。

 

「たあっ!」

 

 ルナも背中に備えたブーメランで必死に応戦し、うさぎをサポートする。

 思ったより配下の働きが悪いことに耐えかねたのか、ドスゲネポスは忌々しそうに低くうなり、高く飛び跳ねた。

 

「うさぎちゃん!」

 

 ルナの呼びかけに、うさぎが真正面に盾を構えた時だった。

 

 砂が爆ぜる。

 

 ドスゲネポスの身体が天高く打ち上げられた。

 その下から、一本角が見えていた。

 

 乾いた地に強靭な脚が着地する。

 ゲネポスたちが突然の乱入者に泣き喚く中、足元の砂と似た色をしたそれは天を仰ぎ、

 

「ギィャアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァ!!!!」

 

 20mを超える巨体に見合わぬ甲高い咆哮を上げた。

 空気が爆発したかのような爆発的音量に、うさぎはしゃがみ、ルナはその場に伏せて耳を塞ぐ。

 

 数の多さを頼りに飛び出したゲネポスの1体を、後頭部を飾る襟巻から真っすぐ伸びる角が横に打ち据える。

 もう1体が背後から脚に噛みつこうとすると、棘の生えた尻尾が横からそれを吹き飛ばし、崖に叩きつける。

 大きな翼を持ちながら狭い地上で闘士の如く暴れまくるその飛竜を相手に、ゲネポスたちは逃げ惑うばかり。

 結果的に助けられた形になったうさぎとルナは、その雄々しい姿を呆然と見つめていた。

 

「モノブロス!?」

 

 一角竜モノブロス。

 ハンターの間ではとある伝説で名高き孤高の竜。

 はためかせれば空を飛べそうなほど大きい翼を持つが、実際に飛行することはほぼない。

 

 その代わりに──

 

 飛竜は威嚇するドスゲネポスに、翼を広げ角を向ける。

 頭を低く構え、猛烈な速さで獲物に迫っていく。

 ドスゲネポスが竦みあがって走り抜けたあと、直前までそれがいた地点の背後を角が貫いた。

 

 妖魔ドスゲネポスが応戦を諦め足を引きずりながら東側へ逃げると、配下もそれに続いていった。

 モノブロスは角を横に抉り抜き、頭を振って砂を払い落とした。

 さっきまで見えなかった、真紅の角が現れた。

 モノブロスは、ものも言わず身を落とし、構える。

 そのまま、少女の身体を貫かんと一直線に走り出した。

 

「うさぎちゃん、避けて!」

 

 迫力に押されかけていたうさぎが飛びのいて伏せると、彼女のすぐ横に角がどおん、と轟音立てて突き刺さった。

 

「ひ、ひぃっ!」

 

「上よ、上に逃げるのよ!」

 

 叫ぶと、ルナは人の背丈2倍ほどある崖をよじ登った。

 うさぎもそれに続き、何とかモノブロスが角を引っこ抜くまでに崖の上に上がる。

 振り向くと、彼は崖上のこちらをじっと見つめ上げていた。

 

「こっちだ!!」

 

 聞いたことのない女の声がした。

 うさぎが見てみると、エリア左奥にただの割れ目とも見紛うほど小さい穴が空いていて、そこから鎧をつけた女がしゃがんで手招きしている。

 その穴へ先ほど見た足跡が続いているのが分かった。

 

「はい!」

 

 迷う暇もなく、うさぎとルナはそちらに向かってひた走る。

 モノブロスは角と翼で砂を器用にかき分け、巨体を素早く地中に潜らせていく。

 間もなく地響きがして、砂埃が崖上のうさぎとルナに迫る。

 

「早く!」

 

 彼女たちが穴の中に飛び込んだ直後、外の大地が破裂して砂が舞い込んだ。

 その後、何度もがあん、があんと角を突き立てる音を聞きながらうさぎたちは穴の奥へ案内されていった。




モノブロス、復活してない可哀想な子……。復活の可能性については次回作の作風にかなり影響されそう。
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