セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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そこは、乙女の知らない世界⑦

「ふわあー、もうだいぶ夜も更けてきたわねぇ」

 

 ルナは、そう言って大きな欠伸をした。

 月が天高く上った夜、変身を解いたうさぎたちを乗せた荷車は森の中休憩のために停泊していた。うさぎ以外の2人も、変身を解いて元の姿に戻っていた。

 亜美は、ちろちろと小さな光が走るランプを見てため息をついた。

 

「本当に今日はいろんなことがあったわね」

 

「ええ。恐竜どもの親玉に、謎の狩人に……ほんと、一生分驚いた気分よ」

 

 レイが藁の上にどさっと身体を下ろして呟く。

 その横で、うさぎは心ここにあらずといった様子で膝を抱えて座っていた。彼女の見つめるロッドの球の部分に、彼女の顔が歪んで映っていた。

 

「やっぱりうさぎちゃん、あの戦いを思い出してるのね」

 

 痛ましそうな表情で聞いた亜美に、聞こえているのか聞こえていないのか、うさぎは首を僅かに動かしただけで、はっきりと答えることはなかった。

 

「……もっといい方法があったんじゃないかな、あの子たちを傷つけなくて済む方法があったんじゃないかなって、どうしてもそう思っちゃうの」

 

「あれは何も間違ってなんかないわ。紛れもない正当防衛ってやつじゃない。ただ、とんでもなく運が悪かっただけよ」

 

 毅然と答えるレイだが、それとは反して、うさぎの顔は段々と悲しみの感情に支配されていく。

 

「でも、あの子たちは何も悪いことなんかしてないのに……あたし、あんなこと……」

 

 言っているうちに顔を涙と鼻水で濡らし始めたうさぎに、ずっと隣で見ていたルナが声をかける。

 

「うさぎちゃんって、ほんとこういう時繊細すぎるほど繊細よね」

 

 彼女の口調はぞんざいなものだったが、それを言っている目つきは子をあやす親のように優しかった。

 

「うさぎちゃんは優しすぎるのよ。悪意がない相手なら、誰とでも分かり合おうとしちゃうのよね。そういうところが私たちはむしろ大好きなんだけど」

 

 亜美がうさぎに柔らかく笑いかけ、彼女は迷うような表情を見せた。

 それでも中々踏ん切りをつけられないうさぎの顔を、レイが両手で押さえて無理やり彼女の方に向かせ、真っ直ぐ見つめた。

 

「あいつらはうさぎの優しさが通じる相手じゃなかった。ただそれだけのお話。一々気に病む必要なんかないわ」

 

「ほら、今日はみんなで身体を休めましょう。私もどこかの誰かさんみたいに、夜更かししちゃうと必ず翌朝寝坊しちゃうタイプなのよねー」

 

 そう言ったのは、既にランプのすぐ横で丸くなって眠そうな顔をしたルナだった。うさぎはそこで、やっと安心した笑みを僅かながら浮かべた。

 

「……もう、ルナったら」

 

 ルナと落ち着いた様子で話すうさぎを見て、亜美とレイはほっと胸を撫でおろした。

 

────

 

 翌朝。

 陽が次第に昇り、彼女たちの横顔を隙間から漏れた陽光が照らした。

 

「うーん……よくねた……」

 

 うさぎは目をこすりながら起き上がり、差し込んだ光に照らされた自分の髪を束にして手に取った。

 寝返りを打たないよう気をつけてはいたはずだが、自慢の金髪はかなりばらけてパサついていた。

 昨日から、相も変わらず木々の葉っぱが風に吹かれる音が聞こえる。

 だが、いま、その音の中に人の賑わいの声が混じっていた。

 

「もう何よ、やけに騒がしいわねえ……」

 

 今しがた目を覚ましたルナが気に掛けるが、ここからむやみに動くことは出来ない。

 前方で子どもたちの歓声が上がり、それに続いて大人の声も多く聞こえてきた。

 やがて、そんな明るい声が彼女たちの四方八方から、荷車の壁越しに飛んできた。人だかりの中に入ったようだ。

 

「いろんな人の声が聞こえるわ。男や女、子どもから老人まで」

 

「ということは、あの狩人が所属する集落ね」

 

 いつの間にか、レイと亜美が目を覚ましていた。

 その荷車を包み込んでいた喧騒も後方に行って静まり、荷車はそのまましばらく進んでから停止した。

 後ろの幕が上がり、男が顔を覗かせると彼は戸惑うように3人の顔を凝視する。

 

「あっ……私たち、変身を解いたから別人に見えてるんだわ!」

 

 亜美が言うと、うさぎは布を被ったまま荷車を降りて狩人の前に立ち、布の間からロッドを見えるように差し出した。

 それを見た狩人は、ロッドと布にくるまれたうさぎの顔を見合わせた。亜美とレイが視線を合わせて黙って頷くと、まだ驚きを隠せないながらも彼は背を向けて先導を続けた。

 うさぎたちは狩人を追う途中でさっと頭の布を持ち上げて周りの様子を確かめたが、正に森にある中世ヨーロッパ風の素朴な村、という印象が強く残った。人々の集まりも見えるが、ここからは遠すぎてその表情までは見えない。

 

 狩人が案内したのは、茅葺屋根で小さな木製の、素朴な小屋だった。

 玄関に入ると、25平方メートルほどの石造りの床と白い漆喰で塗られた壁の景色が広がった。壁には木製の雨戸付の窓、部屋の中心にはかまどとテーブル、部屋の端っこには3つのベッドがあった。そして、そのいずれもが綺麗に掃除されている。

 

「なんだ、案外普通の家じゃない」

 

 荷車を出てから気を張り詰めていたレイが、やっと警戒の表情を解いた。

 亜美は玄関の外に立っている狩人をちらりと見た。

 

「あの人があらかじめ話を付けてくれたのかしら?」

 

「何にせよ、うさぎの言葉に間違いはなかったってことね。あの人、一応信用は出来るみたいだわ」

 

「でも……彼は一体、何のためにここに連れてきたのかしら。今でもそれがいまいち分からないわよね」

 

「ま、危害を加えてくる意図はないみたいだし、しばらくここでゆっくりさせてもらいましょ」

 

 ルナはベッドの上に飛び乗ると、思いっきり伸びをしてからくつろいで丸くなった。

 

「ああっ、ルナったら先にずるいー!!」

 

 うさぎは口をとがらせると、ルナの隣に勢いよくダイブする。

 

「……しあわせ……ふかふか……」

 

 久々の感覚に、毛布を頬にすりすりしてにんまりとしているうさぎを他所に、亜美とレイは並んでベッドに腰を落ち着けた。

 

「……で、これからどうするわけ?まさかここにいつまでも観光気分でいるわけないわよね?」

 

「そうね。いつかはあの森と丘が広がる地域を調査し、この世界からの脱出方法を探さなくてはならないわ。そのためには、まずこの世界がどういう仕組みで成り立ち、人々はどのような価値体系で生きているかを知り、次にコミュニケーションの方法を探らなくては……」

 

「あーもう始まった。亜美ちゃんの特別講義」

 

やっと落ち着いたと思ったところなのにと、うさぎはぶすっと不満げな顔をしながら毛布に顔を埋めていた。

 


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