セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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BGM:真紅の角


砂漠に咲く真紅③

 旧砂漠のエリア4。

 岩地地帯の北東にある赤茶けた大地にはサボテンが力強く聳えている。

 戦闘開始から4時間ほどは経っただろうか。陽は橙色に染まりつつあり、大地が闇に包まれる時が近いことを教える。

 辺りには砂塵が舞い上がり、大穴や削って抉られた跡が岩に刻まれ、凄まじい戦闘を物語っていた。

 

 少女は、ひたすらに剣を振るっていた。

 プリンセスレイピアに含まれた毒も回っているはずなのに、モノブロスの闘志は未だに衰えない。

 何度も爆音を聞き、目つぶしをされ、腹や脚に切り傷を抱えながら、それはうさぎと一進一退の攻防を繰り広げる。

 その頭を飾る一本角が示すように、その竜の正面に陣取るのは死を意味する。よってうさぎたちは腹や脚を狙うのだが、彼がそう易々と殴らせるわけがなかった。

 

 もはや体力も限界に近い。

 乱れる剣戟のなか攻撃に対して咄嗟に盾を構えたうさぎだったが、弾き飛ばされる。

 

「流石は伝説の飛竜!すごい力だわ!」

 

 ルナはがら空きの脚に背後から駆け寄り、ハンターナイフを振りかざした。

 だが、モノブロスは既にその狙いに気づいていた。

 モノブロスは突如横を向くと、腰を低く構えて力を溜め、肩を突き出すようにタックルをしかけた。

 角に劣らぬ全体重をかけた一撃に、小さな身体は大きく撥ね飛ばされた。

 彼女は北西の、泉がある辺りに転がった。

 

「ルナ!」

 

 うさぎは慌てて剣をしまい、ルナに駆け寄って助け起こした。

 モノブロスは両者をまとめて葬り去らんと突進をしかけた。

 少女は相棒を抱いて転がり、横にそれてぎりぎり難を逃れる。

 彼女が振り返ったときには、通り過ぎたモノブロスもこちらに向き直っていた。

 何を思ったか、モノブロスは頭を大きく振りかぶり、天を見上げ、喉を震わせて絶叫した。

 

「ギィャアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァッッッ!!!!」

 

 空気が再び爆発した。

 一本角が空に傾いた陽光に反射し、てらてらと真紅の光沢を放った。

 そこにあったのは傷による苦しみでもなく、相手の弱さへの嘲りでもない。

 ただ燃え盛る猛りに任せた、腹の底からの雄叫びである。

 彼の肉体は浅黒く、逞しく、巨大だった。

 自分の肉体は白く、細く、小さかった。

 

「あの子は、独りで生きていけるほど強いんだ」

 

 抱きかかえられながら薄目を開けたルナが見たのは、複雑な眼差しで相手を見る主人の顔だった。

 彼女は、戦士の宿命をもたらした黒い相棒の顔を見下ろした。

 

「でもあたしは違う」

「……うさぎちゃん」

「ねえ、ルナ」

 

 咆哮を終えたモノブロスは、角を低く構えて唸る。

 

「もう、あたし、狩る相手を可哀想がったりも恨んだりもしない。彼らには彼らの生き方があるもの」

 

 うさぎは動かない。剣を持ったまましゃがみ、モノブロスの猛々しい顔を真正面から見つめた。

 塵を巻き上げ、凄まじい勢いで一本角が迫る。

 

「あたしの方が変わるしかないんだ」

 

 うさぎはルナを抱えたままその場にうずくまり、ある一時を境に剣を上に突き立てた。

 角が頭上を通り過ぎ、剣が胸、腹を縦に切り裂く。

 弱点を突かれたモノブロスはもつれ倒れ込み、よたよたと立ち上がる。

 ルナはうさぎの腕から抜け出すとその身を奮い立たせ、モノブロスの前に立った。

 

「よく言ったわ、うさぎちゃん!そろそろ、アレを使ってみましょう!」

「分かった、あの『奥の手』ね!」

 

 うさぎは東側にある階段状の地形を駆けあがっていった。

 その先には南のエリアへ続く通路があるのだが、その付近にはハンターたちからもらった物資が合わせて置いてある。

 彼女はぎっしりと爆薬の詰め込まれた大タル爆弾を引きずって運び、上段から下段に降ろすようにして置いていく。3つほど設置したところで、うさぎは円錐状の機械を爆弾の近くに取りつけた。

 

「ルナ、準備できたわ!」

「よっしゃあ!さあ、こちらへいらっしゃい!」

 

 ルナは、うさぎの元へ直行する。

 モノブロスは、さっきまで辺りをうろちょろしていたのがすばしっこく段差の上に駆け登ったのを見て、苛立たしげに唸った。 

 そのままただ真っ直ぐ突き進む。

 自らが向かう先に何があるかも知らずに。

 

「ッ!?」

 

 一角竜の動きが止まった。

 シビレ罠である。

 機械の周囲に漲る電流は、巨大な竜でさえもその場に釘付けにし続けた。

 

「使えるものは、とことん使わせてもらうわよ!」

 

 うさぎが手に持って取り出したのは、こちらも爆薬が仕込まれた小タル爆弾。

 既に、導火線には火がついている。

 少女は大タル爆弾を見て目を細めた。歌姫の護衛たちが、船から唯一持ち出せた物資であった。

 小タル爆弾を上段から放り投げる。 

 

 それが眼下の大タル爆弾に接触した瞬間、光と炎が弾け、凄まじい大爆発が起こった。

 爆風が金髪のツインテールと黒い毛並みを後ろになびかせる。

 静まっていく轟音に反比例して、モノブロスの呻きが聞こえて来た。

 硝煙のなかから、形が変わらず黒焦げただけの頭が姿を現した。

 その実、モノブロスの頭部は爆弾数発で吹き飛ばせるほど柔なものではない。

 だが、彼を象徴する一本角だけは爆発の衝撃でひび割れていた。

 

 それをうさぎは見逃さない。

 導かれるように彼女は剣を抜き、段差の上から一歩外に踏み出す。

 

「お願い」

 

 ほとんど落ちるようにして跳んだ。

 空中で剣を振りかぶる。

 それと同時にシビレ罠の拘束が解け、モノブロスは頭上の少女を睨んだ。

 彼女は手元に力を集中させた。

 

「あたしのわがままを、通させてっ!!!!」

 

 モノブロスは自身の最大の武器を突き上げた。

 空中で身を反らし、巻き付くようにしてその小さな身を額と角の間に踊り込ませた。

 猛る一角竜は、そこで初めて目を見開いた。

 少女は、角に跨ったまま剣を大きく振りかぶり──

 最もひびの入った一点を打ち据えた。

 

 ひびは深くなったが、一発では壊れなかった。

 モノブロスは、うさぎを振り飛ばそうと頭をぶん回す。

 だが、彼女は諦めない。何発でも、角に細剣を叩きつける。そのたびに、ビキッと音がしてひび割れが深くなっていく。

 

「もう少しよ!頑張って!!」

 

 相棒の声援を背に受け、少女は何度も攻撃を加える。

 そして遂に、角の真ん中辺りのひびがくまなく行き渡ったのを見計らい、彼女は天に剣を掲げた。

 

「たりゃああああっっっ!!」

 

 ほぼ同時、モノブロスは少女を吹き飛ばそうと頭を天に大きく振りかぶった。

 一瞬、両者の動きが止まった。

 地面に角が接したのと同時に、緑の女王の細剣も角に接した。

 

 直後、ばきり、と大きな音がしたのをルナは聞き届けた。

 遂に、真紅の角が折れたのだ。

 

 うさぎは大きく仰け反ったモノブロスに後方に投げ出された。

 角の先から真ん中に至るまでの大きい欠片が宙を舞い落ちて、地面に刺さる。

 地に落ちたうさぎが何とか剣を拾い上げ、杖にして立ち上がり、頭を揺らがせふらついているモノブロスに目をやった。

 そこに、ルナが急いで駆けつけた。

 

「うさぎちゃん、怪我はない!?」

「ええ!」

 

 モノブロスは頭を振ってうさぎに振り返ると、角の折れた顔でじっと見つめてきた。

 彼女は相手を見つめ、剣を構え続ける。

 やがてふん、と息を鳴らすと、モノブロスは雄叫びを上げながら去っていった。

 向かった先はここから南にある、多くのモンスターたちが寝床にする日陰のオアシス『エリア3』であった。

 足音は遠くなっていき、やがて静寂が訪れた。

 ルナは叫んだ。

 

「うさぎちゃん!」

「……やった!!」

 

 さっきまで立ち尽くしていたうさぎは、やっと顔に喜色を浮かべた。

 モノブロスからすれば少しばかり飾りを壊されただけだ。うさぎのことは思ったより厄介なヤツだとやや鬱陶しく感じただけの話だろう。

 だが、それでも彼女は伝説の竜に──ほんの少しだったとしても──己の力を認めさせたのである。

 彼女はモノブロスが残した真紅の角を見下ろしたあと、西の方角を見据えて言った。

 

「まだやるべきことは残ってるわ。あたしたちが勝つべき相手は……ミメットよ!!」

 

──

 

 うさぎは無事護衛たちと再会し、第二関門に向けて静かになったエリア10を南に下った。

 歌姫は御付きのアイルーたちが人力車、ならぬ猫力車のような乗り物に乗せて厳重に警護を行い、雄大に広がる砂漠『エリア7』北側にある岩の陰に待機する。

 うさぎたちが妖魔たちを掃討、その後は護衛たちが船を点検し、無事に出航できると判断次第乗り込むという流れだ。操縦は、歌姫の御付きのアイルーがしてくれるとのことだった。

 

 陽が岩山ほどの高さにまで落ちている。

 地を踏みしめ、風景が岩地から砂漠に変わっていく。

 砂漠のど真ん中にうさぎとルナが立つと、さっそく黒い息の混じった砂塵が彼らの周りを回り始めた。

 こちらが動かないことを確認すると、一斉に口を開けて迫ってくる。

 

「さあ、反撃と行きますか!」 

 

 うさぎは手元にある音爆弾を振りかぶり、投げた。

 爆音が鳴り響き砂を泳ぐ魚たちは見事に吊り上がった。

 片手剣はリーチが短く、太刀のような芸当もできない。しかし、武器を出している間もアイテムを使える点で、他の武器にはない圧倒的な戦闘手段の豊富さを誇る。

 うさぎは音爆弾を遠慮なく使い、ガレオスの群れを引きずり出した。むき出しになった腹を狙い、少女たちは彼らを斬り倒していく。

 

 陽が赤くなり始めた頃、戦闘は終わった。

 

 緑の信号弾が上がると、御付きの猫たちが歌姫を後方に載せて車輪を転がし、一所懸命に砂上を駆けてきた。

 

「お疲れ様、猫ちゃんたち!」

 

 船のほとりに辿り着いてへとへとの彼らを、ルナは同じ猫のよしみか、水筒を与えて介抱した。ルナが砂漠を見渡すが、どこにも動く砂塵は見えない。

 

「結局ドスガレオス、出てこなかったね」

「昼ここに来たときはいたのに……」

「あたしたちが強すぎてビビっちゃったのよ、きっと!」

 

 うさぎは明るく言ったが、歌姫に伴ってきた女護衛の表情は浮かなかった。

 

「ここに来た時はこんなもんじゃなかった。あの時は、空にも陸にも黒が埋め尽くして……」

 

 途中で、彼女は首を振った。

 

「いや、この話はいい。何にせよ、早く行かねば歌姫様も、バルバレも危ない」

 

 エリア北側、海のようにうねる流砂の近くに乗り捨てられた船に行き、女護衛が御付き猫と共に船内の点検をした。

 砂上船は天下の歌姫が乗るにしては外装が地味だったが、護衛によると盗賊や砂漠に棲むモンスターの目につかないためだという。

 損傷はかなり酷く、舳先や甲板、手すりが一部無くなっていたが、運航に関しては問題なかった。

 

「……よし、後は帆さえ開けば……」

 

 うさぎたちは脚の怪我で踏ん張れない女護衛に代わり、帆をロープで引っ張って張った。

 帆は東寄りの夕風を受けて大きく膨らんだ。それを見上げ、女護衛は叫んだ。

 

「風速、風向、砂流、視界、全て良好!」

「歌姫様、もう少しの御辛抱です。どうかご容赦を」

 

 彼が屋根のついた猫力車の傍に歩み寄りながらささやくと、垂れ幕を除けて背の高い女性が現れた。

 うさぎはそこで初めて歌姫の姿を見た。

 漆黒の肌に青い襟と袖のついた白い衣を纏い、被り物の奥に金のポニーテールを後ろにまとめていた。

 竜人族である彼女の耳はとんがり、指はヒトより一本少なく四本指である。

 彼女は額と耳につけた水色の宝石を揺らし、凛とした表情で背を伸ばし歩いていく。

 

「……綺麗な人……」

 

 うさぎが見惚れていると、歌姫はすっと足を止め、彼女に向いた。

 目元は蒼、唇は白い化粧に飾られている。

 戸惑う少女を前に、歌姫は袖を顔の前にさっと持ち上げ、そのまま深々と頭を下げた。

 女護衛がうさぎの肩を叩き、微笑んだ。

 

「いま、歌姫様がなされたのは感謝の意を伝える仕草だ。一生の誇りにしておけ」

 

 いよいよ錨は巻き上げられ、護衛たちが背中で船体を流砂の上に押し出すと、砂上船は遭難から数日ぶりに動き出した。

 

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