セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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砂漠に咲く真紅⑥

 

 その胸の内にあるのは完全な勝利の予感だけだった。

 

『さあ、あたしの手足になって!ここの1万人と劇場の外にいるコたちが束になってかかれば、セーラー戦士どももペチャンコよ!』

 

 1万人以上の観客を前に、ミメットは白い衣を脱ぎ捨てた。

 ティアラ、星の首飾り、黒いサラシとミニスカート、オレンジのストッキングという、より活動的な出で立ちが現れる。

 

『ここはあたしだけの王国になる!ここをデス・バスターズの第二拠点にすれば、教授もきっとあたしを!!』

 

 晴れ晴れと陶酔しきった顔でミメットは言った。

 

「では歌わせていただきます──『あたしを愛して』」

 

 静かなイントロに始まり、ドラムが細やかなリズムを刻み始める。

 ミメットはリズムに乗り円形の舞台上を軽やかに舞い始めた。

 折しも先ほどのけむり玉の煙が地上を這い、雰囲気作りに貢献している。

 歌い始めると、観客たちは目を見開きずっとミメットを見ていた。

 楽団は外ならぬミメットのため、完全な人形となってアップテンポな伴奏を奏でていく。

 完全に自分の世界に入ったミメットは、飛び跳ねるように走り回りながら歌う。

 事あるごとに見せつけるように身体をくねらせ、身体の曲線美を見せつけていく。

 

 愛。情熱。夢。乙女心。そして、野望。

 

 己を構成するすべてを歌いあげていき、遂に2番に入る。

 たん、たん、たん、とリズムよく床が音を立てる。

 少しだけ細部を変えながら、伴奏はミメットの歌を支え続ける。

 遂に間奏に入った。

 

 観客は動かない。

 顔色もまったく変わらない。

 

『聞いてる、聞いてる。ああ、みんな、あたしの歌に聞きほれてるわ!』

 

 ミメットはほくそ笑み、叫んだ。

 

「さあ、あたしの妖魔ちゃんたち!あいつらをコテンパンにしちゃいなさい!」

 

 捕らえられた少女たちと筆頭ハンター、そして男の兄弟を指さし、高らかに宣言した。

 

「……なんだあの歌と踊り?タンゴのつもりか?」

「あの女、あんな恰好をして見習いって……歌姫様を馬鹿にしてるでしょ……」

「ここまで来て、俺たちずっと何を見せられてんだよ!?」

「今すぐやめろ、この下手くそがーーーー!!」

 

「え……?」

 

 老若男女からの罵声の嵐に、ミメットはただその場に立ち尽くしていた。

 少女たちはそれまで張りつめていた顔を緩めた。

 

「説明する!この女ミメットは、バルバレを配下に置こうとする『魔女』だ!!」

 

 兄弟が虚をついて護衛をねじ伏せ、叫びながらフードを外した。

 白髪から泥が落ち、眼鏡が投げ出された。

 兄弟の正体は、筆頭ハンターと衛。

 筆頭ハンターは傷の化粧を拭うと、大きく叫んだ。

 

「君たちもいくつもの不自然な点を見ただろう!彼女はこの歌姫祭に乗じて暗躍し、シンパを増やしてきた!遂にその勢力はギルドを押しのけ、奮闘も虚しく、この祭の運営を独占するほどになってしまったのだ!」

 

 隣の衛が続ける。

 

「そして俺たちの先ほどの質問は、奴の発言の矛盾を炙りだすものだった!」

 

 彼の発言を発端として、観客たちは戸惑ったように話しながらミメットを恐怖の目で見始めた。

 

「やはり、唄を歌うのが目的だったのね」

 

 ミメットがはっと振り向くと、亜美が捕まえられたまま鋭く呟いた。

 

「コラボビール、その他酒場の飲み物に催眠成分を混ぜてたってことは既に知ってたのよ!そして、それにとある人物のビール製造ラインを利用してたってこともね……!」

「とある、人物……?」

「そう、すり替えておいたのだ!!ワガハイの看板商品、達人ビールとな!!!!」

 

 舞台に腕を組んでずかずかと乗り込んできたのは、日焼けした肌に白髪の男。

 

「き、貴様は!」

「教祖様!一体なぜ……」

 

 団員たちからの戸惑った声を聞きながら、元教官は愉快そうに諸手を広げた。

 

「っはーーーー!ずっと言いたかった、この言葉!おかげさまで教官、ここに大・復・活!!」

「貴様……裏切ってたのね!!」

「ヌフフフフ、顔だけ立派な若造ばかり集めて見ていたのが仇になったな!それもこれも、超弩級天才スーパーエリートな吾輩を無視した報いというものだーーーー!!」

「どこの女があんたみたいなオッサンを傍に付けようって思うのよ!?」

 

 ミメットの反駁を聞いた瞬間に教官は精神的ダメージを負ったらしく、悪いものに当たったような顔で崩れ落ちた。

 

「ぐふうっ!今のは中々効いたぞ……だが魔女ミメットよ!聞くがいい!!」

「な、なによ!?」

「じゃーんっ!!」

 

 元教官は札束を取り出した。

 そのまま、ミメットの額に片手で札束をぺしんと押し付けた。

 団員だけでなく、少女や筆頭ハンターでさえ唖然としていた。

 

「達人ビールが売れた礼に小遣いをやろう。貴様くらいの歳の子どもは、駄菓子でも買って舐めてるのがお似合いだぞ!ヌーーハハハハハハハハハハハハーー!!!!」

 

 笑いこけながら額をぺしぺしと叩き続けられていたミメットの中で何かがはちきれた。

 

「いらんわーーーーっ!!」

「どおっ!?」

 

 元教官を突き飛ばすと、ミメットは観客に向かって涙目で叫んだ。

 

「みんな、この人たちこそあたしを嵌めて歌姫様に近づこうとする、魔女の眷属なのよ!お願い、あたしを信じて!」

 

 白い集団がミメットを護りに入る。

 劇場の周囲にも一斉に列を形成し、少女たちの逃げ場をなくした。

 観客もそのほとんどがこの状況に理解が付いていけておらず、呆然と舞台上のやり取りを眺めるだけだった。

 

「やはり、決め手に欠けるか……」

 

 筆頭リーダーは歯噛みし、衛は後ろ手に縛られながら昼下がりの晴天を見上げ、祈った。

 

「……どうか……」

 

──

 

「うさぎ……ルナ……遅いな」

 

 ちびうさは気絶して倒れ伏した白い集団の男を踏み台にして、やぐらから双眼鏡で砂海の地平線を眺めていた。

 その先には何も変わったものは見えない。

 彼女はうさぎの乗った砂上船を見つけた際に大銅鑼を鳴らすことになっていた。

 足元にいる白猫アルテミスが、悔いるような表情で呟いた。

 

「やっぱり、ルナと2人っきりで行かせたのは……」

「間違いじゃない!」

 

 アルテミスは、はっとしてちびうさの意志の籠った瞳を見つめ上げた。

 彼女は双眼鏡を下ろしながら、強く握り締めた。

 

「わがままになった時のうさぎは、誰にだって止められないんだから!」

 

 何も言えずアルテミスがうつむいた瞬間、やぐらに何かがぶつかって揺れた。

 ちびうさはバランスを崩し、足場にしていた男から脚を踏み外して床に尻もちをついた。

 

「きゃあっ!」

「な、なんだ!?」

 

 アルテミスが叫んだ直後、やぐらの下に伸びる梯子に何かが飛びつき、登ってくる音がする。

 

「……まさか、モンスターじゃ」

 

 ちびうさたちは、緊張の面持ちで銅鑼を叩くバチを構える。

 しばらく待つ。

 やがて、ひょこっと金色のお団子が覗いた。

 それから、金髪のツインテールの少女が上半身を持ち上げて姿を現した。

 

「うさぎ!!」

 

 こちらの姿を認めると、その少女も叫んだ。

 

「ちびうさ!!」

 

 2人のお団子頭は駆け寄ると、固く抱擁を交わした。

 アルテミスは、その姿を見てようやく安心したように頬を緩めた。

 

「……ありがとう」

「なんでお礼言うのよ、うさぎ」

「あたしを信じて、護ってくれたからよ」

 

 彼女は微笑んですっくと立ちあがると、ポーチに入っていた変身コンパクトを胸に付け直した。

 

「さあ、お仕置きの時間ね!!」

 

 コンパクトを開くと、銀水晶の輝きが姿を現す。

 

「ムーンコズミックパワー、メイク・アップ!!」

 

 光に包まれて神秘の戦士となったセーラームーンは、確かに胸の中に宿る力を感じた。

 

「理由はわからないけど……今ならできる気がする!」

 

 天上に聖杯を掲げる。

 妖魔グラビモスの時には開かなかった、より強力な力を解放する聖杯。

 それは、果たして──

 

「クライシス・メイク・アップ!!」

 

 開いた。

 虹色の光が蝶を形成し、セーラームーンを新たな姿へと生まれ変わらせる。

 頭と肩には羽。スカートは緑と青のグラデーション。腰にはシルクのように滑らかなリボン。

 この世界での初二段階変身に、アルテミスが顔を輝かせた。

 

「やった、できたぞ!!」

「スーパーセーラームーン、今こそ必殺技よ!!」

 

 ちびうさの言葉を聞き届け、美少女戦士はスパイラルハートムーンロッドを光らせる。

 ロッドをバトンのように回し、天に掲げる。

 彼女の身体はバレリーナのように回転し、そして。

 

「レインボー・ムーン・ハート・エイク!!!!」

 

 ハートが渦を描き、リボン状の光線となって劇場全体だけでなくバルバレそのものを包み込んだ。

 

「「ラブ、ラブ、リーーーーーーーーーーーー!!!!」」

 

 観客は驚愕した。

 閃光が劇場を覆ったかと思うと一斉に白い集団が光って奇声を発し、その場に倒れ伏したのだから。

 しばらくすると彼らは何事もなかったかのように起き上がり、自分たちの着た白い衣を不思議そうに見つめた。

 

「あれ、我々は何を……」

 

 他地域から来た観客たちも、状況を素直に呑み込み始めた。

 

「あの女が本当に操ってたのか……?」

「今の変な光が、この人たちを元の姿に戻したのかしら?」

 

 ばしぃぃぃぃぃぃん、と大銅鑼が響いた。

 それが三回も続けて鳴った。

 

「歌姫様、ご到着でぇーーーーーーーすっ!!!!」

 

 快活な声が階段の上から木霊する。

 舞台の上の人々も、観客も、皆が声の源を見上げた。

 やぐらにぶつかったままの砂上船を背後に、力車と2人の娘、2匹の猫が劇場を見下ろしていた。

 太陽までも背にしているので顔が見えないが、身長が高い娘の頭からは長すぎるくらいのツインテールが風にたなびいている。

 

「うさぎ!!」「うさぎちゃん!」「間に合ったのね!」「あぁ、よかった!!」

 

 仲間たちが口々に喜ぶ中、衛はほろりと涙を浮かべた。

 

「……うさこ……」

「彼女を信じた甲斐があったな」

 

 筆頭ハンターの言葉に、衛は何度も頷きながら縄を解かれた。

 力車から1人の女性が降りた。

 おおっとどよめきが劇場を駆け巡る。

 

「……な、なんで?」

 

 誰一人味方のいなくなったミメットは、膝から崩れ落ちる。

 

 歌姫は太陽の下、慎ましくも凛と背筋を伸ばして立っている。守護兵たちが急遽駆けつけて彼女を護衛した。

 

「伝言っ!!!!」

 

 うさぎは大声で叫んだあと、すぅ、と息を吸った。

 ミメットは、顔をひきつらせた。

 

「や、やめ……」

 

 

「歌姫様、見習いなんか、まったく取った覚えないってぇぇーーーーーーーーーーーっ!!!!」

 

 

 腹の底から出した声は、劇場の隅々まで届いた。

 ミメットに一斉に視線が集中した。

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