セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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砂漠に咲く真紅⑦

 魔女ミメットは1万人以上から懐疑と敵意を向けられ、すっかり憔悴していた。

 ぐぐ、と歯を食いしばると、彼女は独り叫ぶ。

 

「み、みんな!聞いてちょうだい!この小娘どもが本当の魔女なのよ!セーラー戦士って言ってね!さっきの光を放ったのも全部……」

「仮にその子たちが魔女だったら、おめーのやったことはチャラになるのか?」

「へ?」

 

 潜水服のような鎧を着こんだ男が舞台に上がる。

 

「よお。久しぶりだな、タヌキ女」

 

 次は、白い鎧の男が上がってくる。

 

「ずうっとお姫様ごっこできて楽しかったかい?あぁ、次は悲劇のヒロインごっこか?」

「だ……だれ?」

 

 リノプロ男とハイメタ男の後ろに、ぞろぞろと厳つい筋肉質の男女が集まってくる。

 ミメットの表情が恐怖に支配されていく。

 

「知らねえだろうよ。まあ、俺たちもあんときゃ血迷ったド阿呆だからよぉ、てめぇを恨むのは間違いかもしれんがな……」

 

 ハイメタ男は、ミメットを見下して鋭く睨んだ。

 

「てめぇが馬鹿にしたこの装備には、友と村のためにピッケル振った汗と涙がたっぷり沁み込んでんだよおっ!!」

「リノプロスなめんな!!あいつ、人が狩ってるときも構わず突っ込んできやがるんだぜええええええっ!!!!」

「ひ、ひー---っ!!」

 

 うさぎとちびうさ、そして猫2匹は円形の舞台へ下っていく。

 

「いよぉっ、我らが救世主!!みんな、拍手拍手ゥ~ッ!!」

 

 筆頭ルーキーが大声で快哉を叫び、自ら拍手して呼びかける。

 

「おい、あの金髪のお嬢ちゃんがやったのか!?」

「まだ子どもだというのに、よくぞあそこまで……」

 

 拍手の輪が、ルーキーから波紋のように伝わっていく。

 ミメットとは対照的に、人々は彼女たちを賞賛と感謝の声で出迎えた。

 その波は徐々に劇場に広がっていく。

 舞台に足を踏み入れたとき、拍手はより大きくなった。

 

「あ、あっはははは!どーも、どーもー」

 

 うさぎが戸惑い気味に頭をあちこちに下げつつやって来ると、仲間たちがばたばたと足を踏み鳴らして駆け寄る。

 

「お帰り、うさぎちゃん!」

「あんたと歌姫様が来るまでの時間稼ぎ、大変だったんだからね?」

 

 亜美、レイが声をかけると、うさぎは仲間たちを見回す。

 

「……うさこ」

 

 衛と顔を見合わせると、うさぎは胸当ての後ろに入っていた薔薇入りのブローチを取り出した。

 

「……まもちゃん。護ってくれてありがとう」

 

 彼が微笑むと彼女は頷いて振り向き、観客席に向かって叫んだ。

 

「みんな、ただいま!!」

 

 1万を超える拍手喝采が、劇場もその外も揺るがした。

 劇場の入り口には話を聞きつけた人々が殺到し、もはや収容人数をとうに超えている。

 美奈子が腕を組んで覇気を失ったミメットを見下ろす。

 

「さあ……こいつ、どうしようかしら?」

「またこういう悪さするかも知れないしなぁ。並大抵のことじゃあ反省しないよ」

 

 まことが魔女を鋭い眼光で睨んでいると、

 

「どいたどいたどいたぁーっ!!」

 

 男の大音声が劇場を揺るがす。

 中央通路の外へと繋がる出入口から守護兵たちが出てきて、人々に指示して道を作る。

 オレンジ色のハット、黄色の鎧、黒髪のポニーテールの3人が人々の海をかき分け、舞台に真っすぐ歩いてくる。

 うさぎは驚いて叫んだ。

 

「団長さん!」

 

 筆頭ランサーと筆頭ガンナーも一緒だった。

 筆頭ルーキーは驚いた顔で仲間を出迎える。

 

「ランサーさんに姐さんも、裏方に回ってるって聞いてたけど……」

「まぁ、こういうことさ」

「お疲れ様。後処理は私たちに任せて」

 

 ガンナーは微笑んで、ルーキーの肩をぽんと叩いてリーダーにも視線をやった。

 銀髪の男は黙って頷き、後ろに下がった。

 

「すまん、待たせた!ランサー、読み上げてくれ!」

 

 団長が叫ぶと、ランサーは巻物を取り出した。

 彼がそれを縦に広げ観客に見せると、右下に赤い印が押してある。

 

「これは、『我らの団』団長の所属する王立学術院からの意見書だ。それに、いま上空にいるギルドマスターが印を押された」

 

 ランサーは、ミメットに一瞥を寄越した。

 

「彼女がミメット君で間違いないね?」

 

 少女たちが頷いたのを確認すると、ランサーはミメットに向かい合い、文書に目を通しながら叫んだ。

 

「君は、バルバレから永久追放されるとギルドで決定された」

 

 ミメットの顔が蒼白になった。

 次にランサーがもう一枚取り出して掲げたのは、セーラー戦士たちの姿を描いたイラストであった。

 

「君たち『魔女』の偽の姿に惑わされぬよう、今を以て、この図像、及びその特徴を使った一切の活動を禁止する。更に、ここにいる彼女たちを中傷する行為は今後一切認められない」

 

 すなわち、セーラー戦士を危険な存在として流布することは出来なくなったということだ。

 ミメットは愕然とした表情で大地を見つめる。

 

「だがひとつ、交換条件がある」

 

 団長の言葉に、ミメットは顔を上げた。

 壮年の男の瞳には野性的な好奇心が見え隠れしていた。

 

「せっかくの機会だ。あんたたちが何を企んで何をしようとしてるか、妖魔ウイルスとは、『金の竜』とは何かを知りたい。全部正直に話して二度と悪いことしないって約束してくれれば、ここでお前さんの命を保障しよう」

 

 団長が放った言葉の一つに、彼女は明らかに狼狽した。

 

「『金の竜』!?なんであんたたちがそのことを……」

「ミメット」

 

 うさぎが魔女の前に膝をつき、目線の高さを合わせる。

 

「貴女はもう、こんなに敵を作っちゃったのよ?これ以上恨まれなくったっていいじゃない」

 

 彼女の手を取り、観客たちを見やる。

 

「完全にとは言えないかも知れないけれど、改心して協力さえしてくれれば、ここにいるみんなも……」

 

 ミメットは感激したように涙を流し、それを指で拭った。

 

「そ……そうね!あんなくっっだらない悪の組織なんか抜けて、新しい人生を始めれば……」

 

「勘違いしてるかも知れないけれど、二度と女王様にはなれないわよ?」

 

「え?」

 

 手を取りかけたミメットに、ガンナーが冷たい声で言い放った。

 

「こちらからすれば、貴女が何を考え何をしでかすかまるで予想がつかないのよ?誰にも会えず何もできないように処置するのは当たり前と思わない?」

「じゃ……じゃあ……あたしの天下一のアイドルになってピチピチのイケメンに囲まれる夢は!?」

「貴様っ!!流石の温厚な吾輩も怒ったぞ!!」

 

 ミメットに詰め寄った元教官を始めとして、いよいよ同志たちの怒りは最高潮に達していく。

 

「あんた、まだそんなこと言ってんの!?」

「てめぇ、魔女だからって俺たちを舐めてんのか!!」

「こいつ街中引きずり回さなきゃ、気がすまんぜ!!」

 

 ミメットがうずくまり、悲鳴を上げかけた時だった。

 

「お願い、やめて!」

 

 うさぎだけがミメットを庇い両手を広げた。

 

「みんなの暴力を振るう姿を、どうかあたしに見せないで!」

 

 しばらく舞台も観客席も驚いた顔が並んでいたが、ハイメタ男が口火を切った。

 

「お嬢ちゃんは悔しくないのか!こいつは散々、お嬢ちゃんたちをきたねぇ罠に嵌めようとしてきたんだぞ!」

 

 そうだ、その通りだ、と同志たちから声が飛ぶ。

 

「あたし知ってるよ。バルバレのみんなは、辛いことがあっても優しい心を失わない素敵な人たちだって」

 

 うさぎは穏やかな微笑みを目の前の人々にもたらす。

 

「確かにミメットのやったことは許せないわ。でもだからって、その場の気持ちに振り回されるのはみんなのためにならないし、あたしもそんなみんなを見たくない」

 

 悲しげに笑みを歪めると、いきり立っていた者たちも勢いを削がれていく。

 

「彼女の言う通りだ」

 

 筆頭リーダーが、声を張り上げる。

 視線が一気にそちらに傾く。

 

「今、この場には歌姫様がおられる。今夜、血の流れた地であの御方に唄を歌わせるつもりか?私は正しいとは思えない」

 

 リーダーが見上げた先、歌姫がじっと劇場を見下ろして事の運びを見守っている。

 場はしんと静まり返った。

 

「世界中から人々が集まるここでリンチなどすれば、ハンターは思慮もモラルもなしに暴力ですべてを解決する集団と思われる。妖魔化の被害よりずっと大きな損害を被るだろうな」

 

 観客席では、あらゆる身分の人々が怯えた視線を舞台に送っている。それが見ているのはミメットではなく、人の背丈に迫りあるいは超える武器を背負った集団であった。

 仲間たちは、冷静になった顔でミメットから引き下がっていく。

 リンチの集団に入りかけていたルーキーを、リーダーは念を押すように見つめた。

 ルーキーは、反省したようにうつむいた。

 

「ハンターズギルドの原則。我々が刃と銃口を向けていいのはモンスターだけだ。そこだけはせめて護ろう」

 

 一息をつくと、リーダーは仁王立ちでミメットを見下ろした。

 

「魔女よ。お前たちの企みは分からずじまいになってしまいそうだが、一つだけ言っておく」

 

 うさぎたちも、観客たちも黙ってそれを見守る。

 

「お前や仲間たちが思っているほど、この天地に流れる理は甘くない。相応のことをすればこの大自然はそれに見合った変化をもたらす」

 

 リーダーは、鋭い目線でミメットを指さした。

 はっとして彼女はその指先に注目した。

 

「予言しておこう。お前の行く先には闇しかない。そこでお前はここで我々に引きずり回されるよりもっと恐ろしいことでもがき苦しむのだ」

 

 ミメットは何も言えずごくりと唾を呑みこむだけだった。

 

「さて、魔女さん。我々とご同行願えるかしら?」

 

 ガンナーがギルドナイトを連れてミメットの前に出る。

 

「ど……どこに行くの?」

「さあ?せっかくの申し出も受け入れられないようだし……まずは、牢に入ってから考えましょうか?」

 

 ガンナーの微笑の奥に、冷徹な光が確かに宿っていた。

 

「それから、ゆうっくりと……ね」

「きょ……きょーじゅーっ!!!!」

 

 泣き喚いたミメットは黒い星のはめこまれた杖を掲げ、一瞬でその姿を消した。

 うわあっと劇場中がどよめく。

 

「き、消えたぞ!」

 

 ガンナーはうさぎの横で呟いた。

 

「最初から逃げられることは分かりきってたからね。あれでいいのよ」

 

 彼女はうさぎを諭すように見つめた。

 

「重要なのは、この先私たちに関わるのは恐ろしいことだって身の髄まで沁み込ませること。きっと、よーく分かってくれたはずよ」

 

 一方、同志たちは一斉に拳を振り上げて歓声を上げた。

 

「魔女どもめ、見たか!これが地に根張って生きる俺たちの力だってんだ!!」

 

 観客席からも、壮大な芝居が終わったがごとく拍手が鳴り続ける。

 立ち上がって叫ぶものまでいて、今がまさに興奮のピークであった。

 

「……すごいわね……」

 

 ルナが壮観な光景を見回す。

 少女たちや仲間たちも晴れ晴れとした表情で、並ぶ人々の笑顔を見上げた。

 

「やっとあたし、みんなの役に立てた気がする」

「おいおい、何言ってんだ!」

 

 声の主はリノプロ男であった。

 

「お嬢ちゃんたちは歴とした『英雄』だろう!?何よりもここにいる世界中から集まった人々を……そしてこのバルバレを、身ぃ張って魔女から救ってくれたじゃねえか!」

「そうだ、そうだ!もっと胸張って威張り散らしてやれ!!今なら城が欲しいって言ったって受け付けてくれるだろうぜ!!」

 

 ハイメタ男までも口を出してきて、うさぎは思わず噴き出した。

 その時、人の海から受付嬢ソフィアがやっと顔を出し、達人ビールを両手に叫んだ。

 

「皆さん!今日は我らの女神に祝杯を挙げますよ!!」

 

 場はより一層盛り上がった。

 

────

 

 静かながら暖かい太鼓の音で演奏が始まる。

 篝火のなか、垂れ幕とギルドの紋章を背に女性がただ一人照らし出される。

 

「あれが本当の歌姫……」

 

 うさぎの隣に座るちびうさが小さく呟く。

 白く透き通る衣に身を包む歌姫。

 その表情に威厳と柔らかさが同居する。

 

 曲目は『魂を宿す唄』。

 

 沈んだ陽が真っ赤な線を地平に残し、月と星が光り始めている。

 風がそよぎ、火が揺れる。

 

 哀愁漂う伴奏と共に、伸びやかながら芯のある声が唄を紡ぎ始める。

 ここにいる誰かでない、もっと大きな何かに宛てたような調べ。

 それはまるで、山頂や平野に独り佇んだ時のもの寂しさにも似る。

 唄に合わせ、歌姫は袖を広げ、閉じ、揺らし、声を届けていく。

 

 ある者はゆっくりと身体を揺らし、ある者は目を閉じて聞き入る。

 身分も、性別も、職業も関係なかった。

 ここにいる誰もが、唄の前にはすべて同じヒトでしかなかった。

 美奈子は肘をつきながらうっとりと目を細めた。

 

「最初思ってたのと違うけど……いい曲だわ」

「寂しい感じも……暖かい感じも、あるんだよね」

「わかる!なんだか不思議な感じよね!」

 

 うさぎの一言にちびうさが頷く。

 世界の広大さを感じさせる旋律に、聴く者に寄り添うかのような暖かさ。

 いま、ここにいる人々は孤独であり、一体であった。

 

 ある一点に来た直後──

 歌姫は両手を広げ、解放されたように高らかに力強く歌った。

 夜空にどこまでも響いてゆく歌。

 

 少女たちは皆、訳もなく涙を頬に伝わらせていた。

 

 歌詞は分からない。歌姫がどんな想いで歌っているのかも分からない。

 それでも、その歌に秘められた何かが少女たちの琴線に触れた。

 

 長いようで短い唄が終わると、少しずつ音の数は減っていき──

 消えた。

 拍手が鳴る。

 歌姫は腕で谷を作り、ゆっくり深々と頭を下げた。

 

────

 

「あたし、武器変えよっかな」

 

 うさぎがそう言いだしたのは夜遅く、家に帰る帰り道だった。

 周囲にはキャラバンのテントが敷き詰めるように設置されている。

 内部からぼんやりと見える明かりも、今の時間帯では数少なくなっていた。

 レイが怪訝な顔をして聞いた。

 

「え?今更何に変えるのよ」

 

 うさぎは振り返らず後ろ手に組んだまま答えた。

 

「んーとね、大剣!!」

 

 仲間たちは目を見開いた。

 

「た、大剣!?マジで言ってる!?」

「どうしたの?この前まであんなに片手剣の訓練してたのに」

「流石にうさぎちゃんのイメージと違いすぎじゃなぁい?」

 

 彼女たちが立ち止まって口々に言うと、うさぎは振り返って笑った。

 

「今まで悩んでた自分をズバッって断ち切りたくなってさ!」

 

 しばらく呆気に取られていた仲間たちだったが、ちびうさがぷっと小さく噴き出した。

 

「うさぎにしてはちょーっと上手いかってレベルね」

「『しては』はいらないでしょ『しては』はっ!」

 

 うさぎはちびうさを睨むとそのお団子を掴まえる。

 ぎゃあああ、と叫んで藻掻き暴れるちびうさを見て、仲間たちは苦笑いを浮かべていた。

 

──

 

 1週間後、うさぎは衛の前に正座していた。

 彼女の背後から陽光が差し込んでいる。

 彼との間に、プリンセスレイピアが鎮座して置かれてある。

 

「じゃあこの子のことはお願いね、まもちゃん」

「……いいのか?ずっと大切に使ってたのに」

「うん」

 

 うさぎは頷くと、はっきりと衛の瞳を見ながら言った。

 

「ココット村で想ったことを忘れるわけじゃないよ。ただ、あたしは今まで怖くて見れなかったものも見ていきたい」

 

 うさぎが少しだけ後ろに視線を寄越すと、衛の視線も自然に引っ張られた。

 

「あの人と同じ武器を持ったら、今までとは違う景色が見えるのかなって」

 

 入口から、彼らを導くように光の筋が斜めから降り注いでいる。

 

「……分かった」

 

 それを聞いて、衛も覚悟が固まった表情で頷いた。

 彼は、大地の女王の力が宿った茨の細剣を左手に取った。

 ずっしりとした重みを感じながらゆっくりと背に納めた。

 

「それなら、俺にもこれから見せてくれ。うさこが見る新しい景色を」

 

 うさぎは頷くと立ち上がってテントの入り口に向かい、立てかけられていた大剣を背負った。

 

 剣の名は『アギト』。

 

 剣というにはあまりに無骨な、竜の顎をそのまま切り出したような代物であった。




うさぎちゃんの武器種変更で取り敢えずバルバレ編は一区切り。次からは次章への繋ぎ的なお話となります。
ミメットもバルバレから追い出したところで、ひとまず今年の更新は終了します。たくさんのお気に入り登録、評価、感想ありがとうございました!来年からも何卒宜しくお願い致します!
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