セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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征く黒蝕③

 

「そうか。君たちが、か」

 

 夕暮れに浮かぶ飛行船で、少女たちから話を聞いた筆頭リーダーは静かに頷いた。

 それにうさぎは虚を突かれたように突っ立っていた。

 

「い、意外に驚かないんですね……」

 

 そのどこか落ち着いた反応は、あとの筆頭ハンターも例外ではなかった。

 

「実は前からちょっと考えてはいたのよ。魔女もどうも一枚岩ではないんじゃないか、とね」

「それってどのくらい前からです?」

「沼地に行った頃からね」

「あら結構前……」

 

 ガンナーに美奈子が聞いてみたところ、かなり前から真実に迫られていたという新事実が判明した。

 こんなことならさっさと正体を明かしておけば良かった……と、事実を話した時の緊張が馬鹿らしくなるような雰囲気であった。

 

「じゃあ、あたしたちのことは……」

「今更どうともしないよ。君たちがバルバレの英雄であることには変わらないからね」

 

 念のために問いかけた亜美を安心させるようにランサーは微笑んだ。厳つい顔の彼が優しい表情をしたことで、全体的な場の空気もやっと落ち着き始めた。

 そこにオレンジ髪のお調子者、筆頭ルーキーがずいと身体を乗り出す。

 

「その代わり、君たちの世界とやらについて詳しく話してくれないっスか!?俺、めっちゃ興味あるっス!!」

 

 彼の瞳はキラキラしていて純粋な好奇心に満ちている。それに自然と背中を押されたように、机を囲む少女たちは互いに頷いた。

 

 うさぎたちはこれまであったこと、知ったことを余すことなく語った。

 この世界に迷い込んだきっかけ。ココット村での成り行き。新たに判明した妖魔ウイルスの性質。それらを余すことなく伝える。

 そして、何千年前の前世を超え月の王国の一族として自分たちが持つ使命も、自分たちの世界で繰り広げた戦いのことも──。

 

 時刻は夜半を過ぎた。

 月下の光景に岩地や砂地が混じってくる。乾燥地帯に入り、バルバレに近付いている証拠である。

 やはりと言うべきか、ルーキーは何時間聞いても子どものように目を輝かせていた。

 

「四角い建物に電気で彩られた街、昔から続く使命、そして月の王国!なんかカッケー!」

「まるでおとぎ話を聞いた気分だな……」

 

 胸に包帯を巻いたリーダーは、考え込むように腕を組みながら呟いた。

 あちら側からすれば彼の反応が普通である。文明も文化も世界の仕組みも、あらゆるところが根本的に別物なのだから。

 

「私は信じるよ」

「こちらも同じく。実際、目の前に()()がいるものね」

 

 一方、ランサーとガンナーは柔軟な反応を見せていた。

 

「さて、今回のゴア・マガラの件だけど。私はミメットの下に何者かが乱入したという線を取るわ」

 

 理由が気になる周囲の視線に答えるように、ガンナーは真剣な表情になった。

 

「彼らは貴女たちに1回やられてるのだから、今回こそはと躍起になってるはずよ。そんな中で、肝心の最終兵器の調整に失敗するなんてあり得る?」

 

 反論はできない。流石に前回の戦いと同じようにいかないであろうことは戦士たちには容易に予想がつくところである。しかし、ならばその乱入者とは誰なのか?

 うさぎはうーんと首を捻った。

 

「でも、妖魔の大群に勝てるほど強い生き物って……」

「……『金の竜』」

 

 一言呟いた亜美に注目が集まる。

 確かにある。ちょうど良い、このパズルにはまるピースが。

 

「デス・バスターズの計画に深く関わるというけれど、必ずしもそれがあちらにとっての味方とは限らない。そうでしたよね?」

 

 亜美がガンナーに確認すると、彼女はこくりと頷いた。

 

「てなると、場合によってはこちらの味方になるって可能性もあるんじゃ!」

 

 まことからは楽観的とも言える発言が飛び出すまでになったが、一方筆頭ルーキー……青年エイデンはさっきとは打って変わり真剣な様子で椅子に座っている。

 

「でも……それとは別に、妖魔化したゴア・マガラの存在が確定したってのは中々マズいっス」

「どういうことですか?」

「みんなは『古龍』って知ってる?」

 

 その単語を聞き、亜美の肩がぴくんと動いた。

 

「そういえば、ソフィアさんがシャガルマガラの話をした時も似たような単語が」

「長寿で超常的な力を持った未解明生物をそう総称するんスけど……ゴア・マガラが成長した姿であるシャガルマガラはそこに分類されるんス」

 

 お調子者のルーキーが、彼らしくもなく怯えた目をしている。

 

「……そんなにヤバいんですか?」

「ヤバいなんてもんじゃない。正真正銘の()()()()()()()()

 

 レイの言葉に対してコップを強く握り締めているところからも、彼の焦り具合は尋常ではなかった。それはまさしく、この世界における古龍と呼ばれる生物に対する態度そのものだった。

 

「もしさ、あいつらがそれを手懐けたとしたらどうなる?」

 

 本来シャガルマガラは、狂竜ウイルスを撒き散らしあらゆる生命を狂わせる。

 デス・バスターズがそんな天災の化身を思うがまま、妖魔として悪用したら。

 うさぎは居ても立っても居られず立ち上がった。

 

「早く追いかけないと!」

 

 もはやバルバレに留まる理由などなかった。

 デス・バスターズはこの世界を妖魔ウイルスによって混乱させ、うさぎたちの旅路を邪魔してくる。その先にあるのは恐らく、元の世界へのリベンジ。目的のためなら、彼らはどんな手も厭わないだろう。

 次の度への決意を固めつつあったところへ、筆頭リーダーが前に進み出た。

 

「改めて確認だが……我々はこれから先、同行しなくてよいのだな」

 

 戦士たちは深く頷き、中でも彼との思い出が一際深いであろうまことと美奈子が前に出てくる。

 だが、彼女らの表情は至って穏やかだ。

 

「正直、寂しくて後悔するかもですけど。迷惑かけて後悔する、よりはマシですから」

「本当にありがとうございました、リーダーさん」

 

 意志を確かめると、リーダーは2人と固い握手を交わした。

 それから、少女たちの澄んだ瞳を見渡して。

 

「我々は別地方へ調査に行くが、向こうでもこの魔女事変を解決するため全力を尽くす。君たちの旅路に幸運あらんことを祈っている」

「はい、こちらこそ!」

 

 うさぎも筆頭たちの前に立って、差し出された手を握った。

 

──

 

「おかえり、バルバレの英雄たちよ」

 

 明朝に集会酒場に帰ってきた少女たちを出迎えたのは、ギルドマスターのその一言だった。

 竜頭船の船内、甲板の間から斜めに差し込む朝日のもと、髭を垂らす老人はパイプを吹かしてにこやかな笑顔を彼女らに送っている。

 

「此度のゴア・マガラ撃退、見事だったよ。特に君たち『月の猟団』の近頃の活躍は特筆すべきだね。私の立場からも、賞賛と感謝の意を伝えさせてもらうよ。……そして今回、客人がいる」

 

 ギルドマスターが顎をしゃくると白い制服を着た女性が巨大な槌を振りかぶり、大銅鑼に思いっきり叩きつけた。

 集会酒場の入り口の外から、ぞろぞろと厳つい武器を背負った狩人たちが波のように押し寄せてくる。

 先頭に立つ『我らの団』団長が手を挙げた。隣には受付嬢ソフィアの姿もある。

 

「ゴア・マガラの撃退、おつかれさん!」

「どうでした!?我がメモ帳と瓜二つのキュートな姿でしたよね!?」

 

 リノプロ男とハイメタ男の2人組、そしてかつて共に戦った同志たちもいる。

 

「お帰り、お嬢ちゃんたち!またしてもバルバレを救ってくれたようだなぁ!?」

「みんな!」

「ヌオオオオオ!!遂にワガハイを再び貧困から救う救世主が舞い戻ってきたのか!」

 

 襤褸切れのような姿になった元教官は感激のあまり涙を流している。

 彼は祭の後散々豪遊して散財した挙句、また貧困生活に戻ったらしい。

 うさぎたちは瞳を潤ませ、自分たちを後押ししてくれた彼らに向かって一斉に頭を下げた。

 

「「ありがとうございますっ!!」」

 

 ギルドマスターは空気を入れ替えるように手を叩く。

 

「さて、確か君たちは魔女と霧……そして金の竜を追っているんだったね。どうもそれらしき最新の情報があるんだが、聞くかい?」

 

 当然、うさぎたちは頷く。

 

「いま最も怪しいのはフラヒヤ山脈。そこに向かって妖魔が原因と見られる被害が()()()()()()()出ている。ちょうどいい。その真実を確かめるチャンスかもしれないよ」

 

 ギルドマスターの言ったことはまさに、これから旅立つ彼女たちを導く道だった。 

 彼の言葉を受け、うさぎたちは数日後にフラヒヤ山脈に向かうことを決定した。

 

──

 

 バルバレには、砂上船の港とは別に高速飛行船の発着場も存在する。

 こちらも港と同じく集会所のクエスト出発口の向こう側にあり、巨大な建物が間隔を開けて砂漠の上に並ぶ。

 そのうちの一つ、北方地域行きの飛行船の乗降口の前にうさぎたちは装備を身につけ並んでいた。

 時は早朝。

 少しばかり宵闇を残した砂漠から、肌寒い風がまだ横から弱く吹きついてくる。

 既に彼女らの乗るべき飛行船は低くも浮いており、ロープに繋がれて出発の時を待っている。

 バルバレ中の人々が見送りに来る前、我らの団と筆頭ハンターたちだけがうさぎたちの前に立っていた。

 

「灯台下暗し、とはよく言ったもんだが」

 

 団長は感慨深げに、顎の白みがかった無精ひげを撫でる。

 彼は、まだ幼さの残る少女たちの顔を見回した。

 

「俺の探し求めたものが、こんなすぐ近くにあったとは知らなかった!」

「正直ちょっと残念でした?謎に満ちた魔女の正体が、こんなフツーな女の子で」

 

 美奈子が冗談交じりに肩を突き出してみせると、団長は笑顔のまま首を振った。

 

「いいやぁ、とても素晴らしいことだと思ってる。旅の醍醐味は自分が見知らぬモノと出会うこと!俺の目的の一つは既に達成されたようなもんさ」

 

 団長は、地平線まで続く大砂海を遠い目で眺めた。

 無数に波打つ砂山に、赤い光と黒い影がはっきりと境界を成し始めている。

 雲は一つもない。今日は一日中快晴であろう。

 

「……いつかは我らの団みんなで出会えたらいいなぁ」

「ハンターさんは共同調査中って知ってますけど、加工担当さんとそのお弟子さん、今どこにいるんですか?」

 

 まことが黒い影になっている団長の背中に語り掛けると、彼は眩しそうに目を細めながら光る顔を振り向けた。

 

「ここからかなーり遠くであちらの加工技術を学んでる。特に娘ッコは出会ったら喜ぶぞ、『こんなカッコいいお姉さんがいるなんて夢みたい!』なぁんてな」

「団長さん、昔のイメージで語り過ぎですよ。女の子は精神的成長が早いんですから」

「えぇ、そういうもんかぁ?」

 

 受付嬢ソフィアの指摘にやや間の抜けた声で答える団長に、少女たちはぷっと噴き出した。 

 緑の服を着たその女性は、分厚い書籍を胸に抱えて微笑んでいた。

 

「でも正直、私も内心喜びで胸が高鳴ってます。私の知識や経験が、あちらの世界を救うために役立てられると分かりましたから!!」

 

 彼女はふと笑みを怪しげなものにすり替え、それを顔の横に持ち上げた。

 

「……というわけで貴女たちに頼まれた『超☆メモ帳(全6版)』の全写本、必ずお贈りしますからね!そしてこのモンスター沼に貴女たちも……」

「最後までブレないなー、ソフィアさんも!」

 

 ちびうさは笑って亜美と顔を見合わせた。

 

「さて、普通ならここらでまずはさようならというところだが……」

 

 団長は、後ろにいる筆頭ハンターたちに視線を寄越した。

 彼らは砂上を進み出ると、しばらくは穏やかな顔でこちらを見つめてくるだけだった。

 リーダーは団長と無言で頷き合い、少女たちを見渡した。

 

「……別れの言葉は言わないでおこう」

 

 少女たちもその意味を理解して、真っすぐにその言葉を聞いている。

 ランサーも静かに同意する。

 

「そうだな。これからの決意は既に述べたところだからね」

「俺たちも、全力投球で頑張るっスよ!妖魔も魔女も、ドンとかかってこいやーっ!!」

「投げっぱなしでもそれはそれで困るけどね」

 

 ガンナーがルーキーに冷静に指摘すると、彼らの中でクスクスと笑いが起こった。

 

「我が友たちよ、今までありがとう。そして、これからもよろしく」

 

 筆頭リーダー、ジュリアスは、少女たちに見送りの言葉をかける。うさぎたちもそれに答えようとした、その時であった。

 

「おいおい、ズルいぞ!あんたらだけ先駆けなんてよ」

 

 地平線から上がった朝日が全員の顔を横から照らした。

 床に水差しを倒したように、人々がクエスト出発口から漏れ出して歩いてくる。

 瞬く間にその数は増え、喧しさが一気に増す。

 先頭で最初に声をかけてきたのは、かつてうさぎが飢餓から救い、ミメットに対抗する同志たちとなったリノプロ男であった。その横には彼の友たるハイメタ男、更に隣に元教官が泣きそうな顔で走ってきている。

 

「うおおおおおん、ワガハイの救世主がああああ!!分かっちゃいるけどやっぱつらいいいい!!」

「あんたはさっさと教官業に復帰しろよ!情けねぇなぁ」

 

 元教官をハイメタ男は羽交い絞めにして、四角形の兜の下からどやしつけた。

 蒼い顔で崩れ落ちそうになる彼を、かつての同志たちは総がかりで支えた。

 

「……もう、うさこが支えなくても大丈夫みたいだな」

 

 うさぎが誰も彼も関係なく困った人を救おうとするのを、最初は苦々しく見ていた衛。彼が救われた人々を見る目は既に穏やかだった。

 うさぎは、衛に振り向いて満面の笑みを浮かべた。

 

「ふふっ、そうだね!」

 

 後ろに振り返ってやや呆れ気味だったが、リノプロ男は楕円形の兜を誇らしげにこちらに向けた。

 

「ま、こっちはこっちで何とかやってくよ。お嬢ちゃんたちがせっかく護り抜いた太陽を沈ませないよう、俺たちがずっと火を灯していく」

 

 リノプロ男の背後、ぞっとするほどのテントの群れの中、最も背の高い竜頭船のやぐらが黄色にきらきら輝いている。

 朝日がいよいよ本格的に出て来たのだ。

 角笛が鳴る。

 

「さあ……そろそろ出立の時間だな」

 

 団長の帽子の鍔を上げての言葉に、うさぎたちは静かに頷いた。

 何百人に見送られる中、少女たちはありったけの荷物を積み込んだ飛行船に乗り込む。

 乗降用の梯子が外される。

 船を係留するロープが切られた。

 船上の篝火は気球内を熱し、大重量が飛行するに足る揚力をもたらす。

 飛行船は、目的地に向けていよいよその巨体を持ち上げる。

 

「さあ、行ってこい!お前さんたちは鳥だ!!どこまでも自由に飛んでいくがいい!!」

「また会おう、友よ!!」

「あっちでも、頑張れえええええっ!!」

「いつでも、寂しくなったら戻ってこいよおおおおっ!!」

「ヌハハハハハ!!やっぱ自立が一番、ドント・ギブ・アップ・フォー・ユー!!」

 

 遠ざかっていく天下の市場、バルバレ。

 異世界から迷い旅を続ける魔法少女たちは、彼らの姿が豆粒になってもなお希望を抱いた顔で手を振り続ける。

 そこに、かつてココット村を去る時に見せた涙はなかった。

 

──

 

 ここはどこかの地下空間。

 薄暗いなか1人の白衣を着た男が机に向かい、謎の液体が入った試験管を持って揺らしている。

 そこに1人の女性が盆に湯呑を乗せて歩いてきた。

 彼女も白衣姿であるが、身体の曲線がそっくりそのまま出ているところから、その下に何も纏っていないように見える。妖艶な雰囲気を醸し出す彼女は赤い髪を揺らしながら、湯呑を男の前に置く。

 女性の瞳は金色で、そのどこにも光は宿っていなかった。

 

「教授、お茶です」

 

 教授と呼ばれた男は試験管を置き、影に包まれた顔を彼女の方に向けた。

 伸び気味な白髪に奥が見通せない丸眼鏡。いかにも怪しい学者然とした姿である。

 

「どうかねカオリナイト君。ユージアル君とミメット君の活躍は?」

「ユージアルはココット村からセーラー戦士を追放したとの報告ですが、現地の状況を見ますと信憑性に欠けます」

 

 デス・バスターズの上位幹部を務めるカオリナイトは、手元にある資料に目に通した。そこには部下からの報告が書面でまとめられており、内容を手早く読む彼女の表情はあまり好ましいものではなかった。

 

「次にバルバレを狙ったミメットも失敗です。それだけではありません。どうもこの世界で、我々を指名手配する動きが活発化しております」

「ハンターズギルドの連中の仕業か」

「はい、恐らくバルバレで一部の有力者がセーラー戦士どもと通じたためと思われます。……ミメットの失敗は重大です、何らかの処分が必要かと」

「ふむ、そうだねぇ」

 

 教授は積まれた書類に目を通していく。

 その中、彼の直属の下位幹部であるユージアルが記した『第二改善案』に目を付けた。

 手に取り、ページをめくってじっくりと読んでいくうち、その口角がつり上がっていく。

 

「いや、今は暖かく見守ることにしよう。時には部下の成長に投資するのも上司の重要な役割だ」

「……はい、かしこまりました」

 

 カオリナイトは素直に頭を下げ辞去しようとするが、

 

「何か、不安なことでもあるのかね?」

 

 教授は一言で彼女を呼び止めた。カオリナイトはしばし答えるのを躊躇ったが、やがて振り返った。

 

「非常に申し上げにくいのですが、現時点の彼女らの作業進度では、『最終兵器』の完成までにかなり時間がかかります。しかも『金の竜』までも介入してきたとなっては……」

 

 それを聞いた教授は、丸眼鏡を手でかけ直した。

 

「では復習をしよう。奴らにはいずれ元の世界への鍵として、我らが『沈黙のメシア』にその身を捧げてもらわねばならん。だが、奴らがそう簡単に従うかね?」

 

 カオリナイトは緊張した顔で首を振った。

 

「……いいえ。奴らを無力化して封じ込めるための器がいります。それも、彼女が我らが偉大なる師90(ファラオナインティーン)を再臨させるだけの膨大なエナジーに満たされた器が」

 

 デス・バスターズにとって、セーラー戦士たちは邪魔な存在だ。中でもセーラームーンが持つ幻の銀水晶という宝石は非常に厄介で、それに秘められたパワーは強い愛と正義の意志によって何回でも蘇り、無限の浄化力を発揮する。

 

「そう、その器こそが我らの『最終兵器』だ。現時点で、それの有する妖魔ウイルスがセーラー戦士どもの魔力を抑えられることは証明されているだろう」

「はい」

「『最終兵器』はまだまだ成長段階。決して焦らず、沈黙のメシアの導きを信じ行動すればよいのだ」

 

 カオリナイトは教授の目の動きに従い、空間の奥に居座る影に視線を向けた。

 背よりもずっと長い黒髪と脚を完全に隠すドレスの裾を床に垂らした女性が目を閉じ、沈み込むように玉座に座っていた。氷のように冷たい印象を与える顔立ちだった。

 彼女の唇からすぅ、すぅと寝息が聞こえてくる。

 

 この世界における事の始まりは今でも判然としない。

 というのも、彼らはこの世界の人間に魂が憑依するという唐突な形で新たな生を得たからだ。

 当時の身分は学者、商人、踊り子とそれぞれだった。今の彼らの記憶はこの彼らが仕える巫女『沈黙のメシア』──またの名をミストレス9(ナイン)──による招集命令で始まり、現在はこうやって再び計画を進めている。

 その招集の内容とは、以下の内容である。

 

 我らの偉大なる師90はこの世界に眠っておられる。争いの運命に従い、この世界と星の戦士たちの光とを我に捧げよ。さすれば我と師は目覚め、飛び立ち、両世界を不滅の沈黙によって繋ぐだろう!

 

「不安なのは分かるよ。前回我々の計画が頓挫したことは事実だし、なんせこの世界は広い。邪魔な生物や原住民も山ほどいるようだ」

 

 教授は怪しげな笑みを浮かべたまま、カオリナイトの出したお茶を啜る。

 

「だが気にすることはない。我々はそれらをも凌駕し賢く利用できる知性を有している。現に、ユージアル君が提唱してくれたこの案がそれを歴然と証明しているのだ」

 

 彼は指の背で書類をトントンと叩き、カオリナイトに後ろ手で渡した。

 彼女がそれを読むと、ほぅ……と感嘆の声が上がる。

 

「なるほど……これは試してみる価値はありますわね」

「この世界にあるものはすべて使う。ユージアル君はどうやらそこをきちんと分かっているようだ」

 

 教授は歓喜を現すように横に手を広げ立ち上がった。

 

「これもすべて、師90の思し召しだ! うぁああはははははは! うぁあああああーーっははははははははははははは!!」

 

 カオリナイトは先ほどまでの不安も消え、確信に満ちた笑みを浮かべていた。

 この生命溢れる世界はいわば踏み台。最強の妖魔を生み出すための広大な培養地。

 狭く古びた臭いがする研究室から、その思想を体現する壮大な計画が始まろうとしていた。

 

 すべては彼らの長を復活させ、今度こそ世界を征服、支配するために。




最後に色々と出てきましたが、セーラームーンSの敵さんたちです。

教授……デス・バスターズの偉い人
カオリナイト……教授の秘書
ミストレス9……教授よりも偉い人。師90を呼ぶ巫女のような役割
師90……復活させたらヤバいやつ

転生してますが基本的に前回のこと反省してません。悪役of悪役そのものですね!

ここでバルバレ編は完全完結となります。次回はポッケ村編となり、次に繋がる6話くらいの短編となる予定です!お楽しみに~
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