セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて 作:Misma
「なによ、次から次へと現れて!」
そう言い捨てたレイの口調はやや荒っぽかった。
ポポの牽引する荷車から降りた彼女たちの表情はどれも暗い。それも当然、彼女たちは事実上雪山から逃げ帰ってきたようなものだからだ。
「ま、まーまー!今回は単に知識不足というか運が悪かっただけよ!」
「そうだよ!次は絶対上手く行くって!」
美奈子とまことが雰囲気を明るくしようと努めたが、それでも場の空気は萎れたままだった。
ティガレックスとの戦いに乱入した謎の巨大なモンスター。それに、彼女たちは手も足も出ないうちに吹っ飛ばされたのである。
帰路を行く彼女たちに追い風が吹く。雪山そのものが、彼女たちに「諦めろ」と言っているようだった。
ポッケ村に着くと既に夕方だった。夕飯の支度で住民の姿は見えない。
明かりが灯り始めた中央広場を西に行き、彼女たちが雪の積もった坂を上がり切ったところで、聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「そりゃ無理な相談だな」
「そこをどうかお願い!この通り!」
「うるせぇな、ダメなもんはダメっつってんだろ」
ヘルブラザーズの貸家の前だった。
少女が必死に、大男2人に頭を下げている。そのたびにパタパタと金髪の束が上下していた。
「……うさぎちゃん」
彼女がはっと振り向き、これは違うの、と言いかけたところでまことが割り入る。
「離れて!」
「あんたたち、うさぎちゃんに何をしたの!?」
「まさか何か脅された!?」
「ち、違うわよ! あたしからお願いしてんの!」
うさぎの言葉の意味が理解できず、口々に心配していた仲間たちは問題の男たちを睨んだ。
いかにも迷惑そうな顔で、赤鬼が酒を並べた机に頬杖をついた。
「全くどういう風の吹き回しなんだか、大剣を教えてくれって言うんだよ。お前らも何とかしてくれ」
動揺が走った。
あのうさぎが、自分から鬼兄弟に弟子入りしたいというのだ。
レイの視線が鋭く彼女を刺した。まことは引き離すようにうさぎの腕を引っ張る。
「うさぎちゃん、こいつらの言いなりになるつもりかい!?」
「言いなりになるつもりなんかないよ。あたしはもっと、狩人としての腕を磨きたいの!」
「うさぎちゃん! こいつらの言うことなんて聞いてたら、脳味噌まで筋肉詰まった残忍、戦闘狂、サディスト、ナルシストの変態モリモリマッチョガールの一丁上がりよ!」
「美奈子ちゃん、流石に言い方ってものがあるわ」
美奈子の暴言に近い説得を亜美が諫めるが、
「と・に・か・く!!!!」
うさぎは無理やり流れを断ち切り、改めて仲間たちに呼び掛けた。
「このままじゃ、あたしたち何もできないままだよ。みんなも、今回のことで分かったでしょ?」
「……うさぎちゃん」
亜美は名前を呼んだきり立ち竦んでいた。
何も言えず、仲間たちは押し黙る。
「それで、こいつらに頼ろうってわけ?」
「うん!」
レイは言葉の棘を鋭くしたが、うさぎはそこから逃げず真っすぐ頷いた。
少女2人の間で視線がぶつかり、火花が散った。
「……勝手にしなさい、馬鹿うさぎ!」
レイは我慢できず踵を返して行ってしまった。仲間たちはうさぎを気にしながらも、急いで彼女を追いかけていく。
いつの間にか、住民たちが貸家の周りに集まっていた。先ほどの騒ぎを聞きつけたのだろう。
「はあ、面倒なことになっちまったな」
「全くよ」
赤鬼に視線を傾けられた黒鬼は、コップに入った安酒を一気に飲み干した。彼はふと、うさぎの掌が目に入った。
自身よりずっと細く白い少女の手には血豆が出来ていた。それも1つや2つでなく、大きなものがすべての指に付いていた。
「お前、そんなにティガレックスを狩りてぇのか?」
「ええ!」
「ふーん……」
黒鬼は赤鬼に目配せし、2人して品定めするように少女の腕、脚、全体を見回す。
その視線に気づいたうさぎは思わず自身を手で庇った。
「お、女の子の身体見回すんじゃないわよ!」
「1ヵ月」
反論を無視して赤鬼はそれだけ呟いた。
「1ヶ月が期限だ。そこまでは訓練に付き合ってやる。期限内にあのティガレックスを狩ってみせろ。そしたらお手柄はお前らのもんだ」
「だがしかし。もしティガレックスを狩れなければ、それは俺たちの獲物。そん時は何の文句も受け付けねぇぜ」
「えっ、じゃあ……」
黒鬼はぞんざいに顎をしゃくった。
「よ……よ……よ、よろしくお願いしまぁーーすっ!!」
まさかこんなあっさり、という気持ちのまま、うさぎは焦って2人に詰め寄り頭を下げた。
距離を見誤り、酒の置かれた机に額が直撃した。
少女たち4人はうさぎの恋人である衛の所に直行した。
野外の丸太椅子に座る彼に、レイから軽蔑の眼差しが降りかかっている。
「見損なったわ、衛さん。あたしたちはあくまで戦士なのよ。なんであんな奴らにうさぎを任せるなんてことしたの?」
「うさこは、新しい世界を見たいと言っていた」
「新しい世界?」
亜美の問いに、衛は自身の背負う武器の柄を叩いた。
プリンセスレイピア。緑の女王の素材を用いた華麗なる細剣。
「俺にこの片手剣を託し、大剣に持ち替えた時の話だ。きっといろいろ考えたんだと思う。もうその時からうさこは変わっていたんだよ」
「……だから、受け入れるんですか?」
「ああ。それにだ。今から考えると、あの兄弟は本当に狩りが好きなだけだ。うさこを洗脳しようとか、そんなこと考えもしない。拳で戦いを挑んだ時、彼らはただ純粋に戦いを楽しんでいた」
まことに頷いてかつての戦いを思い出す衛の姿は、どこか喧嘩で生まれた友情に浸る男子学生のよう。
美奈子は思わず馬鹿馬鹿しくなって皮肉っぽく口走った。
「ほんっと男の人ってそういうの好きよね。彼氏として心配しないのこういう状況!?」
「大丈夫だよ。俺も訓練に付き合うから」
「あぁ、それならまだ……って、え?」
美奈子は3人と顔を見合わせる。
それからもう一度、衛の顔を見た。
彼は無言で頷いた。
「ええ!?」
──
うさぎの訓練が決まった夜、村人たちが少女たちを労って宴会を催してくれた。
場所は集会所。中央広場の北西にある小さな施設だ。
通常ここはハンター向けにクエストを紹介するギルド関連の施設なのだが、今日は村人向けに解放されている。
巨大な暖炉が設置されている室内は、極寒の外とは裏腹に非常に暖かい。
「いやぁ~お疲れ様!」
「こちらはポッケ村特産のポポノタンシチューです」
「お茶飲んでみないか? 雪山草を濾してるから、滋養たっぷりだよ~」
中央にあるテーブルに座った少女たちを中心に、村人たちが次々に食べ物飲み物を勧める。
テーブルの上には火にかけられた鍋があり、茶色いルーにポポの肉と野菜が煮込まれぐつぐつ湯気を立てていた。特にほろほろに溶けた肉が何とも言えないほど絶品。ティガレックスが好むのも納得の美味しさだ。
食いしん坊のうさぎはあらゆるものを手当たり次第口に詰め込んで、雪国の味を堪能していた。お世辞にもその食いっぷりは上品とは言い難いが、住民たちはどこまでも美味そうに食べてくれる彼女の反応にどこか嬉しそうだ。
「ほふほふ、うま~~……」
彼女とたまたま目が合ったレイは、ふんっと顔を背けた。
2人の間を埋めるのは何とも気まずい空気。
レイの隣にいる亜美はその肩を叩く。
「まだ意地張ってるの?」
レイは不機嫌な顔でお茶を啜る。
そこへ、次々に温かい料理を盛った皿が押し付けられた。
「大変だったね、ティガレックスとガムート、両方に出くわすなんて!」
「たまにはそういうときもありますよ!ほら、たくさん食べて精気を養って下さい!」
「……あの、すみませんけどあたしそんなにいらな……」
「「そんなこと言わず!」」
村人たちは、彼女たちがてっきりガムートの乱入による失敗で落ち込んだものと思っているらしい。
勢いに押されるがまま、彼女の前のスペースはどんどん皿で埋まっていく。
それに困り顔をしているレイの横で、まことも村人から歓待を受けていた。
「ガムートって一体どういうモンスターなんですか?」
「別名、不動の山神。ティガレックスの牙も通さない、下手すりゃ並の飛竜より恐ろしい牙獣だよ」
加工屋の男の言葉を受け、まことは吹っ飛ばされる直前、わずかにある記憶を引っ張り出す。
四肢を地につけ、湾曲した巨大な牙を持つ象のような身体つきはどこかポポと似ていた。だが、その威圧感はとても比較にはならない。
「厄介だなぁ。あんなのを同時に2頭相手取るのは流石にきつい」
「んなこと言ってらんないわ。また作戦を練り直して、今度こそは成功させないと!」
美奈子でさえも、今回の失敗には責任を感じていた。
彼女たちにとっては、敵を野放しにするなど言語道断。人々の平和が脅かされるリスクが消えないことになるのだから。
「焦らんでもいい。いざとなれば、他の者に任せる」
そう話に割入ったのは、蓑を着た小さき老婆。
村長である彼女の傍には酒の入った徳利が置いてあった。
「え?」と言ったきり少女たちは戸惑っていたが、亜美が聞いてみる。
「……他の者って、ヘルブラザーズのことですか?」
「そうじゃ。お前さんらが出来ないなら他の者に頼むだけのことじゃ」
老婆は迷いもせず頷いた。レイは眉をひそめて、
「村長。そちらの判断をあれこれ言うつもりはないですけど、あいつらはこの村のことなんて考えてません。他のモンスターの噂を聞きつけたらすぐ貴方たちを見捨てたっておかしくない……そんな奴らにここを任せるなんて、怖くないんですか?」
彼女の真剣な問いを聞いても、村長は黙ってニコニコしているだけだった。
「まぁま、せっかくの宴の席なんだから機嫌よくやりな。そこで伸びてるお嬢ちゃんを見習ってさ」
横から呼びかける声があった。振り向くと、村人の1人が気遣った表情で湯呑を差し出していた。
仲間たちも、気持ちは分かるけどここは抑えて、と言いたげな面持ち。
レイは湯呑を渋々受け取りつつ、言葉の末尾に意識が向いた。
「……そこで伸びてるお嬢ちゃん?」
「う゛~~~、ぐる゛じ~~~」
いつの間にか、うさぎは食べ過ぎで席から少し離れた床に寝っ転がり呻いていた。ちびうさがそれを蟻のようにしゃがんで観察している。
「あ、あんたホント空気読まないわね……」
「仕方ないわよ。隙あらば食べ物を腹に溜める。これがうさぎの生態だもの」
「あ゛だじを゛げも゛の゛み゛た゛い゛に゛い゛う゛な゛~」
「さあさあ、お嬢ちゃんたちが喜ぶもの、持ってきたよ~」
「あ、デザートの氷結晶イチゴよ! ちびうさちゃんも食べる?」
「食べまーす!」
ちびうさは美奈子からの呼びかけに応じ、無情にもさっさと去っていく。
その背にうさぎは手を伸ばすが重くなった身体は動かない。
「あ、あたしのデザートォォォォォォォ……」
彼女ががくりと肩を落としたところ、ポンチョを着たアイルーが隣に歩いてくる。
気づいたうさぎは何事かと上体を持ち上げ、視線を投げかけた。
ギルドの使者ネコートはしゃりん、と首に付けた鈴を鳴らしつつ、うさぎが見るのと同じものを見て。
「好きかね、この光景が」
「……えっ?」
彼女の突然の問いにうさぎは驚いたものの、村人と仲間たちの団らんを眺め。
やがて、自然に笑顔が浮かんだ。
「はい! みんな幸せそうで、楽しそうで」
元来、この少女は他人と触れ合い、話し合うことが好きだった。今も、ポッケ村の人々は暖かい笑顔で仲間たちを受け入れている。
そこにあるのは、元の世界で見たのとさほど変わらない日常の光景だ。それは確かに好ましいものに違いなかった。
だが一方でネコートの瞳に宿る光は、どこか彼らとの距離を感じさせた。
「なら君は、もう一つの事実に気づく必要がある」
「へ?」
そう言ったきり、ネコートはどこかに立ち去ってしまった。
うさぎには、彼女の言葉の意味はよくわからなかった。
今回は村が中心の回。ポッケ村の集会所のBGM好き。
サンブレイク、イヴェルカーナの脚防具のヤケクソ具合で草しか生えなかった。