セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて 作:Misma
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新しい世界に誘われて①
眩しいほど白く塗られた自家用クルーザーが1つ。水しぶきを上げ、波紋を広げて海上を行く。
遠ざかる東京の街を背にして、2人の人物が運転席に乗っていた。
「風が静かだ」
淡い金髪の麗人がハンドルでクルーザーを操り、ガラス越しに晴天を見上げていた。
背は高く精悍な顔つきに空色の瞳、青いタンクトップに白のショートパンツという出で立ち。一目でその人が女性であり、しかも高校生であると分かる者は少ないだろう。
「海も、何も言わないわ」
一方、その人物の背後にあるソファーで静かに脚を組む美女がいた。
波打つ青緑色のウェーブヘアーは今征く海を再現するかのように透明感を帯び、その身にはワンピース型の黒水着、その上に白シャツを羽織る。隣の人物とは裏腹に、女性的で優雅な雰囲気があった。
助手席に座る彼女は、穏やかな海面を前に微笑む。
「これから魑魅魍魎の跋扈する世界に行くだなんて信じられないくらいね」
「あちらの世界はこちらから観測できない。せつなの言う通りだな」
黒水着の美女の隣には着替え、化粧品、食料、サバイバルキットなどを詰めたトランクケースが置かれている。室内は磨かれたように輝いて、一見クルージングにでも来ているような風景だ。
「最低限は用意したけれど、これじゃまるで旅行だな。そう思わないか、みちる?」
「あら。平和ボケかしら、はるかさん?」
「……してるつもりは、ないんだけどな」
はるかと呼ばれた女性は、運転席上部から差し込んだ陽に眉間を寄せた。
裕福な家庭に生まれ育ったお嬢様たちとしては、あまりに過酷な使命に生きてきた。
その使命とは、地球を狙う外部からの侵略者を排除すること。
将来この地を統治するプリンセス、月野うさぎとその守護戦士が失踪してから1週間が経った日。2人は遂に異世界への潜入及び彼女らの救出を決行した。本来の使命からは外れる形になるが、そもそも護る対象が喪われれば意味がないからだ。現在は他の仲間に元の役割を任せ、異世界に繋がる扉の出現予測地点に向かって航行中である。
みちるは、懐からマリンブルーの円盤と三日月が飾られた杖──変身リップロッドを取り出した。
「私たちはこれから、使命を果たしに行くのよ。これを手に取った瞬間から課せられた、残酷な使命に」
はるかのシャツの胸ポケットにも、紺色の2つの円盤が付いた球が光るリップロッドが入れられていた。先ほどは皮肉げに笑ってぼやいた彼女も、既に戦士らしく鋭い、そして暗みを帯びた色を瞳に覗かせていた。
「ああ。必ずプリンセスを取り戻し、侵略者を討つ……。僕たちのやるべきことは、ただそれだけだ」
航行は続く。
街も水平線に消えかかった頃、どこからともなく霧が這い出してくる。5分も経たないうちに視界は真っ白になり、遠近感も分からなくなってしまった。
「……せつなの予測通り、霧が濃くなってきたな」
緊張の沈黙のなか、クルーザーはエンジンから排気音を吐き出し続ける。
みちるは無言で、自身の右手をはるかの運転席後方に投げ出された右手に絡ませる。
次に、彼女は頭をそっとヘッドレストに預けた。
それを挟んで前方にいる、はるかの体温を感じようとするかのように。
「なんだ、怖いかい? 何か出てきそうで」
「何が出てこようと怖くないわ。怖いのは、貴女と離れ離れになること」
「大丈夫さ。ただ本能だけで生きる獣に、後れを取る僕たちじゃない」
「ふぅん。夜は獣になる癖に?」
「こほん!」
みちるの口から飛び出た言葉を、はるかは咳払いで打ち消した。思わずハンドルを握る手ももたついてしまった。
それを見逃さず、みちるは身をはるかの隣まで乗り出しその肩を叩いた。
「ほら、ちゃんと運転してくれないと元の方向に戻ってしまうわ」
「はは、みちるは手厳しいな……」
その時、はるかは違和感を感じた。
船の軌道が明らかに曲がっている。ハンドルは真っすぐに握っているのにだ。
それだけではない。
霧も、少し話していた間に完全に晴れていた。
みちるはすぐさまソファーから飛び出し、窓際に寄った。
見渡す限り一面が海であるため、一見ここが異世界なのかも分からない。
だが、よく目を凝らしてみれば。
「渦潮……!」
クルーザーのすぐ脇の海面が荒ぶり、螺旋を描き始めていた。
激しい水飛沫のなか、先の見えない奈落が中心に覗く。
間もなく船体そのものも傾き始めた。
「まずいっ」
はるかは急いでハンドルを回し始めたが、既に船は巨大な海流に呑まれ始めていた。
高性能のマリンエンジンも意味を成さず、渦はクルーザーを地獄の底へと引き込んでいく。
「時空が歪んでるせいかしら……」
みちるの予想を裏切るように船底を横切った、1つの巨影。
全長、約25m。
流線型の身体から伸びる滑らかな四肢が、海水を魚のごとく優雅に掻く。海に溶けるような色の鱗が背を覆い、そこから伸びる石灰質の突起が海面から突きだし、白泡の尾を引き。謎の存在は身体をくねらすとあっという間にクルーザーを突き放し、渦に沿うように廻り出す。
先の光景に2人は見とれていたが、はるかはすぐスロットルを全開にする。
「まさかあれが、海流を作り出しているというのか!?」
「まるで神獣リヴァイアサンだわ!」
今回の敵が、魔力ではなく肉体のみによって戦うことは分かっていたが。
これまで人間に近い大きさの怪物と戦ってきたはるかたちにとっては衝撃であった。
ますます渦の勢いは強まり、はるかの握るハンドルは重くなった。抵抗虚しく、渦に船体は弄ばれ円を描きながら中心へと吸い込まれていく。
次に見えたのは、渦の奥で光る青白い光。
「みちる!」
「ええ、分かってるわ!」
2人は変身リップロッドを取り出し掲げる。
「ウラヌス・プラネットパワー、メイク・アップ!!」
「ネプチューン・プラネットパワー、メイク・アップ!!」
直後、海から空へ、雷が落ちた。
それはクルーザーのエンジンに引火し、大爆発を起こす。
海面に落ちる破片。雷撃によって蒸発した水分があぶくとなって一帯を覆う。
乱れ暴れる海面から海水を滴らせ現れたのは、淡い紅の角を冠に戴く蒼い竜。
背に翼は無いが代わりに2列、赤みを帯びた突起がほのかに電流を帯びている。
「グゥゥゥウウウウゥゥゥ……」
兜を被ったような形状の頭部、ワニに似る顎の内側にずらりと並ぶ鋭い歯。頂点捕食者を体現する容貌は、人間や海の生き物たちを恐れ慄かせるには十分であろう。
だが、その細く流麗な横顔に影が紛れ込む。
竜は、晴天を背に自身より上に舞い上がる2人の人間を見た。
1人は淡い金色の髪。
濃紺の襟とスカートに白いレオタードを包ませ、胸に1つ黄色のリボンが映えている。
「新たな風に誘われて、セーラーウラヌス、華麗に活躍」
もう1人は優美な海色の髪。
相方と同じ白い生地に深緑の襟とスカート、胸には紺のリボン。
「新たな時代に誘われて、セーラーネプチューン、優雅に活躍」
2人のセーラー戦士は転覆した船体の一部に降り立ち、眼前に座す海の王者を睨んだ。
「グァオオオオオオオオオオオオ!!!!」
竜は咆哮し、長い首をしならせて噛みつこうとした。
ウラヌスが握りしめた右手が光に染まる。
彼女が右手を開くと、そこには金色の光球が眩く光っていた。
「ワールド・シェイキング!!」
拳を打ち下ろすと、衝撃波と共に光球が撃ちだされ真っすぐ飛んでゆく。
着弾。爆発。
頭を丸ごと包み込むほどの閃光のなか、横顔の鱗の一部が弾け飛ぶ。
「グオオオッ……」
自分より遥かに小さい者に見合わぬ激しい反撃に、竜は大いに驚き仰け反る。
息もつかせず、ネプチューンが両手を頭上に掲げる。彼女は自らを新たな激流で包み込み、掌からウラヌスのものとは異なる蒼く光る光球を生み出した。
「ディープ・サブマージ!!」
一つだけで津波にも匹敵する超水圧のエネルギー。
それが竜の巨大な身体をも押し返す。
そのまま竜は悲鳴を上げる間もなく吹っ飛ばされ、水飛沫と共に海面下に沈む。
間もなくして海面が光り、盛り上がった。
「グワアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
再び現れた竜は全身を怒りの雷に染め上げ、青白く光らせた口を以て叫ぶ。
それに答えるように、セーラーウラヌスも勇敢に狭い足場の上を進み出た。
「そっちがその気なら、こちらも本気で行かせてもらう!」
そのままの勢いで戦いに突入するかと思いきや、竜は2人のセーラー戦士が再び掌を光らせたのを見て噛みつこうとするのを止めた。
「……グルルルル……」
意外にも自ら矛を収めた竜は彼女たちを睨みつけたあと、背を向けて海に自身の身体を埋める。
そのまま波しぶきを立てながら、彼は海面下を去っていった。
しばらく再び襲ってこないことを確認してから、ウラヌスとネプチューンは光らせていた手を下げた。
「どうも僕たちは、あいつのおやつには向かなかったらしいな」
「でもあの子、賢いわ。あれだけのやり取りで不利を悟り、引き際を見極めるなんて。ただの獣と見ない方がいいかもね」
ネプチューンは長く整ったまつ毛の下から、ウラヌスの瞳と視線を合わせた。
再び元の姿に戻ると、はるかは肩の力を抜きつつ苦笑した。
「何だよみちる。僕への当てつけかい?」
「あら。意外に気にしてたのね」
真意は明らかにせず微笑んだみちるは、そのまま後ろに振り返る。
「さて……まずはあの島に行きましょうか」
視線の先にあるのは大きい島だった。
どこを見渡しても蒼い海と空が支配するなか一際豊かに緑を咲かせるそれは、まさに『孤島』。
クルーザーの残骸から即席のいかだを作り、海原を渡って2人は何とか海岸に辿り着いた。
足元を海水に濡らしながら、彼女たちは初めてこの世界の陸地を歩む。
「どっちにしろ荷物はお釈迦になってしまった。ここからは本格的なサバイバルだな」
「貴女とはいろんなところに旅行したけれど、こんなシチュエーションは初めてね」
常人ならば絶望してもおかしくない状況を前に、みちるはくすりと笑う。
そんな彼女の腰に、はるかは細い指をそっと這わせる。
「ああ。でもこうやってずっと2人きりでいられると思えば、やぶさかではないさ」
そう言った男装の麗人はいたずらっぽい目つきで指に力を込めたが、みちるは身を翻し簡単にその拘束から逃れてしまった。女性の瞳は、挑発的な色に変化していた。
「油断はしない方がよろしくってよ。あの竜のような生き物が、いつどこで出てくるか分からないのだから」
手中から抜け出された挙句お説教まで食らったはるかは、あぁ残念、とでも言いたげに肩を竦めた。
彼女たちはセーラー戦士としての使命に忠実に従い、幾つもの死線を切り抜けて来た。死にかけたことがある者にとって、この程度の遭難など何の問題にもならなかった。
彼女らの前には崖によって作られた道が、海から来た訪問者を迎え入れる廊下として奥へ続いていた。
そのまま道なりに進むと狭い通路に通じ、そこを更に抜けると周りを森や崖に囲まれた大きな広場に繋がる。
どうやらここが陸の領域と海の領域の境目に当たるらしく、右手の奥には巨大森林や高い渓谷が見える。地上を見ただけでも蜂の巣やキノコの繁茂する地帯など、この地が恵まれていることは十分伺えた。
水辺のせせらぎ。森林のざわめき。青空のそよぎ。
ここにあるすべてが、はるかとみちるの心を満たしてくれる。
その目の前には、森へ続く道と水の流れてくる道の2つがあった。
「さて、どちらに行くのがいいかな。食料を取れそうな森か、水を早く確保できそうな水辺か」
はるかはまだ乾ききっていない自身の髪を撫でながら呟いた。
まずやるべきは真水探しである。海水は飲み水には適さないし、このままでは塩分で髪も痛むから一刻も早く見つけたいところだ。
「そうね。森には危険が多そうだし、奥の方に行きましょうか」
みちるの返答にはるかが頷き、そのまま歩を進めようとしたところ──
「ブギャーーーッ!! こっちに来るなッチャーーー!!」
森の方から、風に混じる音が一つ。
それはまるで子どもの悲鳴のような。
みちるは、弾かれたようにはるかへ振り向いた。
「はるか!」
「ああ、聞こえた!」
彼女たちは翻って森の方へ駆け出した。行くにつれ周りを崖が覆うようになる。その先にあったのは崖の間にできた狭い空間で、一部陽の当たったところにしか目ぼしい植物は見つからない。
5頭、背を紫、腹を紅に染めた肉食竜がいる。そのうち2頭ははるかたちの背丈と同じくらいの体高で、もう3頭はそれらより一回り大きい。
続いてはるかたちの目に飛び込んだのは、彼らに囲まれ泣き喚く別の生き物。
背丈は彼女らの半分以下。緑色の身体に藁の履物をしている。どんぐりを逆さにしたような被りものをし、目を表すような渦模様が二つ描かれている。
何とも奇妙な小さい生き物はその手に持った杖を精一杯ぶん回し、肉食竜たちを遠ざけていた。
その光景を、はるかたちは近くにあった岩に隠れ覗き見た。
「あれは……子ども?」
「どうしましょう、はるか」
「関わると面倒なことになりそうだが……」
奇声に近い子どもの叫びが意味するところは分からない。が、少なくとも彼が絶体絶命の状況にあることは間違いないようだ。
肉食竜は子どもの被るどんぐり状の被り物に噛りつくと、好き放題振り回す。
「オ、オ、オタスケーーーーッ!!」
「そこまでにしてもらおうか」
凛々しい声に肉食竜たちが振り返ろうとする前に、3頭がまとめてふっ飛ばされた。
解放された子どもが見ると、そこには髪をなびかせ堂々と立つ女性が2人。
残りの小さい方の2頭がいきり立って噛みついてくるが、はるかはその軌道を見切り強烈な肘鉄、ハイキックを食らわせる。
肉食竜が怯んだ隙を見計らい、みちるは子どもを抱えて離れたところへ退避させる。
「大丈夫、怪我はない?」
言語は通じないと分かりつつ、みちるはそう呼びかけたのだが──
「オマエたち、武器も持たないのにスゲーッチャ!!」
子どもは見事にピンピンしていた。
被り物の口を模した空洞をパカパカさせて口々に叫ぶが、みちるには何を言っているかさっぱり理解できない。だが、言語は分からずとも両腕をばたつかせての興奮具合は笑えるほど伝わってきた。
「どうやら杞憂みたいね」
「さて。あいにく僕たちはこの子に恩を売るつもりなんだ。ここは大人しく……」
そこで肉食竜たちが突如、踵を返した。
言葉が伝わるわけはなくはるかが眉を顰めていると。
岩壁に空いた一際大きな横穴から、はるかたちが見上げるほど大きな影が這い出てきた。
全長は約9m。先ほどの相手より体つきががっしりとしており、扇状の襟巻が立派な肉食竜だった。
はるかたちに蹴散らされた肉食竜たちは、頼むように彼の凛々しい顔を見上げる。どうも彼らはこの竜の眷属のようだ。
「ド、ドスジャギィっチャ!」
子どもはブルリと震えあがる一方、異世界から来た2人の表情は余裕に満ちていた。
「あらまぁ、次から次へと」
「群れの長までご登場か。ご丁寧な対応、感謝しなくっちゃな」
流石に徒手空拳でどうにかなる相手ではなさそうだ。まさしく獣脚類の風貌をしたそれは、天を見上げ咆える。
「アーーーーッ、オッオッオッオッオッ……」
犬の遠吠えに似た鳴き声を聞いた途端、眷属たちは流れるような動きで瞬時に陣形を整えた。小さい方は跳びまわって退路を塞ぎ、大きい方は真っすぐはるかたちに向かってくる。
「さあ、まずはお逃げなさい!」
みちるがその腕から子どもを解放すると、彼はすぐ地面に穴を掘り姿を消す。
「よし、良い子だ。これで好き放題暴れられる」
はるかは呟きながらリップロッドを取り出す。みちるも当然それに続く。
「ァオオオオオオオオオオーーーーーーッ!!」
族長は大きく咆える。
はるかたちの手は、ロッドを真っ直ぐ頭上へ。
「ウラヌス・プラネットパワー・メイクアップ!!」
「ネプチューン・プラネットパワー・メイクアップ!!」
風と波が彼女らを包み込み、一瞬にして戦乙女へと生まれ変わらせる。
「ワールド・シェイキング!!」
天王星を守護星に持つウラヌスは拳で大地を砕き、肉食竜たちを手当たり次第に衝撃波で吹き飛ばし。
「ディープ・サブマージ!!」
海王星を守護星に持つネプチューンは、水一つない空間に顕現させた大海を以て圧し潰す。
肉食竜たちからすれば、族長の命令を受けて数秒の出来事である。
「キャウンッ」
当の群れの長も直撃を受け、悲鳴を上げ仰向けにひっくり返る。
眷属はすべてその2発だけで気絶し、戦う意志を挫かれていた。
族長だけは立ち上がり、負けじと噛みつきにかかるが。
「出でよ、
宙に舞ったウラヌスが顕現させたのは、色とりどりの宝石が散りばめられた宝剣。
「スペース・ソード・ブラスター!!」
彼女がその柄を取りその湾曲した刃を振るうと、金色に発光したそれは未知のエネルギーを斬撃の形で飛ばす。
それは族長の象徴ともいえる襟巻を一発で破壊しただけでなく、その身体を一文字に切り裂いた。
その時点で彼は満身創痍。たまらず足を引きずり巣穴へと帰っていく。
「威力は手加減したわね?」
「ああ。あの程度、この世界の生物なら数日もすれば癒せるだろうさ」
ネプチューンと共に後姿を見送りながら、ウラヌスは手から土を払いはるかの姿へと戻る。
元の水着姿で外に出ると、助けた子どもが2人を待ち構えていた。それはまさに親を見つけた幼子とさほど変わらぬ懸命さで駆け寄ってくる。
「チャパーー!! まさかこの時間でドスジャギィを払い除けてきたッチャ!? オマエら絶対ハンターの才能あるッチャ! このオレチャマが言うんだから間違いないっチャー!!」
彼は2人の前で杖を掲げて振り回すわ、何度も飛び跳ねるわ、頭を軸にして逆立ちで回るわで喜びを全身で表していた。思わずみちるの顔から笑みが溢れる。
「どうやら私たち、気に入られたみたいね」
「さて、どんぐり君。君は僕らになにか恩返ししてくれるのかな?」
はるかが子どもの前に脚を折り、目線を合わせる。
これが彼女らの本来の目的。もし命の恩人として住処に案内してくれれば、まずは最低限の寝床を確保できるだろう。最も、そこから先は運に任せるしかないが。
「ブブーー、オマエら何語話してるっチャ……アッ! さてはオマエらその恰好、迷子になったっチャ!? 差し詰めガノトトスかラギアクルスに追われてきたとか、そんなクチッチャ!」
言葉が分からずとも、子どもの騒ぎようは何かを閃いたことが分かった。
「こっちに来るッチャ! その功を讃え、オレチャマのコブン第二号と第三号にしてやるッチャー!」
子どもは叫ぶと先に飛び出し、先ほどはるかたちが行こうとしていた水辺に繋がる道へと駆けていく。
「案内してくれるのかしら?」
「分からないぜ。新しい生贄が見つかったと喜んでたりして」
「はるか。そんなこと言ったら失礼よ」
先導されるがまま、はるかとみちるは孤島の大地を歩いていく。
灰色の草食竜がのんびりと群れになって草を食むのを、鹿に似た獣が地上を跳ねていななくのを、巨大な蟻がキノコを食べようと列を成すのを見た。
どこを見ても自然豊かな場所だ。視界が開けて大樹の傍で崖から流れ落ちる雄大な大滝を見た時、2人は思わず嘆息した。その滝が落ちる浅瀬で身を清め、彼女たちは丘の上へと続く登り坂を歩いていく。
背後から、風を切る音。
振り返ろうとした瞬間、周囲一帯が影に覆いつくされる。見上げると、そこには草食竜らしき生き物を掴まえ空を飛ぶ竜の姿。
「っ……!」
「あいつは何もしてこないから、さっさとついてくるッチャ~」
はるかたちは思わず身構えたが、子どもは動じずどんどん進んでいく。
どうも、彼やその一族にとってはあの竜も見慣れたものらしい。
彼女たちは青空にはためき遠くなる緑の翼を見送っていた。
「ヤッタ! 帰ってきたッチャ!!」
子どもが何か叫び喜ぶように飛び上がったとき、周囲には美しい風景が広がっていた。
悠久の時を経て削られたであろう岩礁の間を満たす、豊穣の海。その上を穏やかな風が満たし、それに乗ってカモメが遊ぶように舞う。
太陽はすべての生命ある者への贈り物として、雲間からこの地を満遍なく照らしていた。
「僕たちが街で戦った怪物たちも、この世界で生きていたのか……」
「やはり、今までの妖魔とは根本的に違う存在のようね」
人工的に作られた妖魔と違い、あの海の竜も肉食竜も、更には空を舞う竜も。
彼女たちの予想通り、この雄大で美しい自然から生み出された、れっきとした生物なのだ。
その事実を、改めてはるかとみちるはその目で認めた。
「ブ~~。オマエら、さっきから一々突っ立っては呟いてばっかッチャ! さっさとしないと置いてくッチャ~~!!」
子どもは不機嫌そうに口をパカパカさせて急かしてくる。奥の顔は見えないが、駄々をこねていることは傍目からでも分かる。
「ああ、ごめんな。癖なものでついね」
苦笑しながらはるかは再び歩みを進め、みちるも微笑みながらその後を追う。
丘を越えると、海上に浮かぶ小さい島のようなものが見えた。
放射状に建設され、細い陸に連なる木組みの施設。
どうやらそこが、次に彼女らが向かうべき場所らしい。
この人たちはほんとに気合入れてキチンと描きたい。
いきなり新キャラばかりですが、次回はきちんと主人公サイドが出てくる予定です!