セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

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1週間のうちに、いつの間にか評価数が一気に増えててビビりました……。本編はかなり長くなってしまってますが、見て頂けてるというのは実にありがたいことです。少しでも更に面白い物語を描けるよう尽力します。本当にありがとうございます!


雷鳴り、泡踊る月下②

「なんであたしだけ武器なしなのよ!?」

 

 風に揺れるススキのどこからか鈴虫が鳴り、朧月夜が見える夜の渓流。

 そんな風流な場にあっても、荷物運搬用の荷車を引くうさぎの抗議は未だ収まらなかった。

 レイはため息を吐いて返した。

 

「狩猟参加人数の4人制限に触れないためよ。さっきも説明したでしょ?」

「それとは別の話!! あたしだってちゃんと狩ってきたのに──」

「そりゃあ、うさぎが上位ハンターになるの一番ドベだったからでしょ」

「うぐっ」

 

 ちびうさの思わぬ痛い横槍に、うさぎはドキリとして胸を押さえた。

 

「その大剣だって、散々亜美ちゃんたちに狩猟を手伝ってもらった結果だし……」

「うぐぐっ」

「そのウルク装備を作る時だって、散々ウルクススにうさぎダルマにされてたのを何度もレイちゃんに助けてもらってたの、あたし見てて覚えてるもん」

「大正解よ、ちびうさちゃん。美奈子ちゃんは狩技こそできないけど、ドジばっか踏んでるうさぎよりはずーっと……」

「あーもう言わないでー!!」

 

 うさぎは半泣きになって両耳を手で抑え込んだ。隣で一緒に荷車を引いている美奈子は気まずそうに視線をそらしていた。

 今回、うさぎとちびうさは荷物を回収する役目に徹する。武器を持っていないのは、レイが言ったように狩りに参加する者として()()()()()()()()()()()ため。まさに規則の隙をついた形である。そもそもこの規則自体も、モンスターの脅威度によっては破られることも少なくないため取り立てて厳格なものではないようだが。

 

「ほら、荷車止まってる! 急いで!」

「ぎゃうっ!?」

 

 ちびうさは発破をかけるように、荷車の取っ手を持つうさぎの膝の裏を叩いた。

 

「くぅー!! がきんちょの癖に、コンチキショ~ッ!!」

 

 乙女にあるまじき言葉を吐きながら、うさぎは泣く泣く歩を進める。

 

「さあ、言っている間に見えて来たわよ」

 

 亜美の声にうさぎが渋々前に向き直ると、見慣れた景色が広がった。

 エリア4。

 かつて人の住んだ証、打ち捨てられた廃屋が今は自然の一部として残る平原。

 月下に照らし出されるそれには、美しさと同時に侘しさも感じられる。

 

「ん? ねえねえ、もしかしてあれって……」

 

 荷車をうさぎと一緒に引いていた美奈子が、何かを見つけて指を差す。

 緑が主体の景色ではやたら目立つ、桜色の風呂敷に包まれた大きな箱。

 この状況においては、ほぼ間違いなくそれと断言できるそれを見て、少女たちの顔は一気に明るくなった。

 それまでの重々しさは何処へ行ったのか、うさぎは真っ先に荷車を引いていく。

 

「やったぁ、ラッキー!」

 

 狩猟地に来ていきなり発見とはとんだ儲けもの。モンスターのいない間に荷物を回収すれば、あとは仲間たちに狩猟を任せて帰ればよい。うさぎとちびうさは喜び勇んで荷物へ向かいかけたが──

 

「待って!」

 

 横からレイの手が伸び、廃屋の陰に連れ込まれた。

 

「な、何なのよレイちゃあん!?」

「静かにして。何かが来る!」

 

 しばらく待っていると、するするすると何かが草原の上を滑る音、そして何かがぽよん、と生まれてはパチンと弾けるような音も聞こえてきた。

 うさぎがこっそり片目だけ表に出してみると、北側から泡を纏ったしなやかな形状の生物がこちらに向かって地上を泳いできていた。

 

 一見桜花かと見紛う、頭部に生えたヒレ。狐に似た顔つきは月に照らされ、白く光っている。その後ろに続く、これまた花びらのごときヒレを背負う胴体。それを支えるしなやかな四肢は、今は役目を果たさずただ地面に添えるだけ。なのにその生物は蛇のごとく身体をうねらせ、地上を何の苦もなく滑ってみせる。

 それは胴体から尻尾にかけて下部を広く覆う、紅紫の毛が生み出した『泡』によるものだった。

 生物はうさぎたちから見て廃屋を挟んで向こうの平原に来ると、戯れるように一通りくるりと円を描き、髭のついた流麗な顔を持ち上げて大きな欠伸をした。

 周囲ではそれの生み出す泡が飛び、やがて視界にある月に被さるまでに高く上がった。

 亜美はハンターライフルを取り出しつつ、小さく呟く。

 

「あれは、タマミツネね」

「す、すごくきれ~……ん?」

 

 竜のあまりの可憐さに思わず見惚れていたうさぎだったが、あることが起こってしまったことに今更気づいた。

 あろうことかタマミツネは荷物のすぐ隣で丸まり、眠り始めてしまったのだ。

 

「ちょっとなんでそこで寝るのおおおおぉぉぉぉぉ!?!?」

「仕方ない、うさぎちゃん。バックアップはキチンとするから、どうか頑張って!」

 

 小声で必死に物申すうさぎに、まことは静かにウォーハンマーを両手に構えてみせた。

 それだけでなく、ちびうさも変身アイテムであるピンクムーンスティックを見せてきた。

 

「大丈夫よ、うさぎ。あたしも手伝ったげる」

「うぅ~……りょーかーい」

 

 渋々ながらうさぎはちびうさ改めちびムーンの協力を得、共にそろそろと荷車を引いていく。

 幸い、タマミツネは元の温厚な性格も手伝いすっかり落ち着いた様子。そのすぐ背後の荷物に、確実に向かっていく。

 

「……じゃあ、失礼しま~す……」

 

 荷車の後方を開け放ち、2人でそっと大人の背くらいの高さはある巨大な箱に手を伸ばす。

 その時だった。

 うさぎたちの隣に浮いていた泡がパチンと弾ける。

 一筋飛んできた、小さな光によって。

 

「……え?」

「クルルォォォォ……」

 

 うさぎが奇妙な光景に驚いているうちに、眠たげな声が聞こえた。

 

「うさぎ、後ろ見て後ろ!!」

 

 ちびムーンの焦る声を聞いて振り返ると、そこにはタマミツネの顔が。

 切れ長の瞳は一体お前はそこで何をしている、と問いたげな感情を露わにしていた。

 

「ひゃあああああ!! すみませんすみませんすみませんすみませんすみません」

 

 武器を持たないせいか、うさぎは荷物に縋りついて泣き喚く。

 だが、ちびムーンは他のことに気づいていた。

 

「『蛍』……こんなに多かったっけ」

 

 それらは、タマミツネが来た方とは真逆、南方から飛んできていた。

 

「いだっ!」

 

 偶然ちびムーンの鼻先に当たった『蛍』は、電気の火花を発して逃げていった。

 

「違う! これ、蛍じゃない!!」

 

 今にもタマミツネの前に飛び出しそうになっていた仲間たちも、異変に気付く。

 タマミツネは目の前の人間たちから目線をずらし、光の飛んでくる方を眺めた。

 

「これ……雷光虫!?」

「こんなに大量にいるってことは……まさか!!」

 

 亜美たちは南方にある谷間の道へと視界を切り替える。

 雷光虫の源が、ゆっくりと歩みを進めていた。

 

 タマミツネとは正反対に、それは四肢で堂々と大地を踏みしめていた。

 狼と似た蒼い顔に鋭い角を生やし、猛々しく鋭い目つきは歴戦の侍を思わせる。

 胴体は刺々しい黄色の甲殻が折り重なるようにして胸、背中、そして尻尾へと続き、それを白いふさふさとした体毛が飾っている。

 

「アオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!」

 

 蒼い鱗を持つ獣は月光にその身を更に蒼く照らし、遠吠えした。

 それはちょうど自身を照らす満月、そしてタマミツネとうさぎがいる方向に向かって。

 

「ジンオウガ!?」

 

 まことが呟き終わらないうちに、雷狼竜ジンオウガは地を蹴り出す。

 彼の前脚は筋骨逞しく、武者の籠手のように発達し、その先に生える鋭い爪も相まって前面からみた威圧感は伊達ではない。

 それが真っすぐ、うさぎの仲間たちが隠れていた廃屋に突っ込んでくる。

 

「避けて!」

 

 亜美の指示が飛ぶのとほぼ同時、彼女らは一斉に跳んだ。

 体当たりで廃屋を難なく木屑に帰し、ジンオウガはタマミツネへと迫る。

 

「あ、あれ、この箱すごくいい匂い……」

「んなもんどうでもいいから早くして!!」

「え……きゃああああああああああ!!」

 

 ちびムーンの叫びで、鼻をすんすんさせていたうさぎはやっとジンオウガの存在に気づいた。それは真っすぐ、猛然と四肢を宙へと躍らせ突っ込んでくる。

 

「ウオオオオオッッッ」

 

 ジンオウガは、前脚を高く振りかぶり、目の前にいる竜へと叩きつけた。

 だが、相対するその泡狐竜タマミツネは決して慌てなかった。

 彼は泡の上に自身を素早く滑らせて弧を描き、見事に初撃を回避する。

 

「グルルル……」

 

 悔し気に唸る雷狼竜。まるでそれをからかうように、タマミツネは周囲を泡の軌跡を作りながら歩む。

 

「今のうちよ!」

 

 火事場の馬鹿力とでも言うべきか、うさぎとちびムーンは恐ろしいほどの手際を発揮。10秒足らずで荷物を荷車へと運び終える。

 

「う……うさぎちゃんってあんなキビキビ動けたのね……」

「ボケっと突っ立ってる暇はないわ! うさぎたちを援護するわよ!」

 

 美奈子にレイは叱咤し、太刀、灼炎のルーガーを引き抜いた。

 仲間たちが駆けつけてくる間にはすでに、うさぎとちびムーンは荷車の取っ手を握っていた。

 

「行くわよ、ちびうさ!」

「ええ!」

 

 彼女らが牽引を始めた途端、ずっと睨み合いを続けていたモンスターたちに異変が起こる。

 

「……グルアアアッッ!!」

 

 ジンオウガが突然、うさぎたちに意識を向けて吠えてきたのだ。

 

「ええっ!?」

 

 彼は目標を変え、荷車目掛けて突進した。

 

「ひいいいいい!!」

 

 急いでうさぎとちびムーンは荷車を引っ張り、辛うじて攻撃を避ける。

 だが、それだけではない。タマミツネもそれに気づき、荷車目掛けて地面を滑ってきたのだ。

 

「ちょっ、ちょっとなんであたしたちを追ってくんの!?」

「知らないわよそんなこと!!」

 

 必死に逃げ回る人間目掛けて跳びかかろうとしたジンオウガだが、その前方をタマミツネが素早く通過する。

 できた泡の道に脚を取られ、ジンオウガは驚いて立ち止まる。

 

「グオオオオアアアアッッッ!!」

「ルオオオォォォ」

 

 吠えかかるジンオウガに対し、それは私の獲物だ、とでも言わんばかりにタマミツネは鳴く。

 少しの睨み合いの後、雷狼竜が宙返りして尻尾を叩きつけ。それを泡狐竜は横向きに跳んでかわす。

 ジンオウガを『剛』とするなら、タマミツネは『柔』。両者一歩も譲らず、乱戦が始まる。

 

「くそっ、いがみ合い始めやがった!」

 

 うさぎを助けようとしていたまことは、この状況に歯噛みする。モンスター同士の争いは、ハンターにとってはメリットデメリットの両方が存在する。今は、完全にデメリット。乱戦の間を逃げ惑ううさぎたちを救出するのはかなり難しい。

 うさぎたちからすると、あっちを向けばモンスター、こっちを向いてもモンスター。しかもひっきりなしに攻撃が飛んでくる。

 

「ひいいいいいい!!」

 

 もはや半分、パニック状態で走り回っていると、何かぬるりとしたものを踏んづける。

 タマミツネの残した泡だった。

 

「ぎゃああああああぁぁああぁぁあぁぁ……」

 

 そのままうさぎたちは転びかけのスケートのように草原をつるつる滑り、本来行くべき道とは見当違いの方向へ。西側に広がる森林めがけて叫びながら突っ込んでいった。

 

「う、うさぎちゃん!」

 

 彼女らを目に留めていたのは、亜美や仲間たちだけでない。

 

「ウオオオオオオオオンッ」

 

 ジンオウガもまた、うさぎたちのに吠えて森林へと真っすぐ駆けて行った。

 タマミツネもそれを追おうとしたが、その首元に刃が飛んだ。

 

「待ちなさい。あんたの相手は、このあたしたちよ」

 

 泡狐竜が振り向くと、そこには2人の人間の姿。1人は太刀、もう1人はライトボウガンを構えている。

 

「レイちゃん! タマミツネは曲線的な動きでこちらを惑わすというわ! 気を付けて!」

「見て分かるわ。亜美ちゃんもあちらに負けずずる賢くね!」

 

 まことと美奈子は、うさぎたちとジンオウガを追って森林へと走っていった。

 いよいよ、本格的な狩猟が始まろうとしている。

 

──

 

「しつこいわよあのワンコ!!」

「うさぎ! まさかあんた、最近太って美味しく見えてんじゃないでしょうね!?」

「んなわけないでしょうがああああぁぁぁぁ!!」

 

 うさぎとちびムーンは口喧嘩しながら仲良く荷車を引っ張り、森林の中を逃げ回っていた。

 それを追うジンオウガは軽々と木々を薙ぎ倒し、確実に少女たちに迫って来る。

 振り向くと、そこにはうさぎの身長の2、3倍の高さからこちらを睥睨する野生の狩人の視線。

 

「あ……ああ……あああああ……」

 

 言うまでもなく、人と獣の力の差は歴然。

 タマミツネの妨害もなく、ジンオウガは確実にうさぎたちに迫って来る。

 

「未来のお姫様に手ぇ出すんじゃないわよ、あんたーっ!!」

 

 白い体毛に覆われた背中で弾が炸裂する。

 ジンオウガは不愉快そうに顔を歪め、追いついてきた2人の少女に振り向いた。

 

「まこちゃん、美奈子ちゃん!!」

 

 うさぎたちは顔を輝かせた。まことはウォーハンマーを、美奈子はバイトブラスターを背負って駆けつけてくる。

 

「うさぎちゃんは隙を見て、どこでもいいから逃げて!」

 

 まことは叫びながら、ジンオウガが跳びかかって来るのを横に転がって避ける。

 

「さっそく叩き込んでやる! スピニングメテオ!!」

 

 彼女は相手が突っ込んできたのをいいことに、縦にハンマーを振り回す。

 そして相手の後ろ脚に炸裂する、地割れを起こすほどの強烈な振り下ろし。

 

「グルルル……」

 

 むろんそれほどの攻撃でも、ジンオウガの身体はびくともしない。

 

「背中ががら空きよっ!」

 

 美奈子が数発麻痺弾を撃ちこむと、ジンオウガは身体を痙攣させて一時的に動きを止めた。

 

「チャンスだっ!」

 

 まことはウォーハンマーを振り回し、ジンオウガの頭を殴りまくる。

 叩きつけ、振り上げ、振り下ろし。

 幾つかの攻撃で一部の甲殻や鱗がひしゃげ、砕け、潰れた。

 麻痺の解けたジンオウガはまことの怪力を脅威と判断し、真っ先に噛みつきにかかる。

 そこを美奈子のバイトブラスターによる通常弾射撃が襲い、確実に相手の身体にダメージを蓄積させていく。

 

 そして彼女らがジンオウガを引き付けている間に、うさぎたちは荷車を引いてやってきた方向そのまま、西へ森林を抜けようとしていた。

 というのも、元来た道を戻ればタマミツネとぶつかってしまう可能性が大だからである。一番安全な帰り道としては、このまま以前にアオアシラを狩った小川流れる『エリア6』を南東に抜け、渓谷の高所にある岩棚をそのまま東に抜けるルートが最適だった。

 

「ひ……ひぃ……今頃思ったけど、この荷物やたらと重くない?」

「ほんと……一体何が入ってんのよ!」

 

 先ほど散々走り回ったせいか、疲労の蓄積が激しい。この森林を抜けるには、その間にも、ジンオウガとまこと、美奈子は死闘を繰り広げている。

 ジンオウガはふと、うさぎたちがいつの間にか自身から遠く離れていることに気づいた。

 だが、追いかければ追いかけようとするほど、まことと美奈子がしつこく妨害を行う。

 牙竜の瞳が、苛立たしげに歪められた。

 

 雷狼竜は自身に2人が近づいてきたことを見計らうと、いきなり身を斜め後ろに反らせるように構えた。

 

「グオオオンッッッ」

 

 前脚を軸にし、身体を捻らせながら飛び上がる。

 尻尾が螺旋を描き、周囲をほぼ360度薙ぎ払う。

 巨体に見合わぬ俊敏さで繰り出された一撃は周囲の木々を一掃し、まことと美奈子にも直撃した。

 

「わっ」「きゃあっ」

 

 撥ね飛ばされた2人はあまりの衝撃にしばらくその場に動けずにいる。

 それを見下したあとジンオウガは息を吸い込み、虚空に向かって雄叫びを上げる。

 

「アオオオオオオオオォォォォォォォ……」

 

 どこからか現れた雷光虫が無数の群れとなって竜の背中に集まってゆく。

 そのうちに、背中に電流が走り始めた。

 

 ここまでジンオウガは別名にあるはずの『雷』を今まで一度も見せていなかった。

 彼はまさに今、少女たちを必ず打倒すべき敵と認識しつつあるのだ。

 その異変は、必死に逃げるうさぎたちにもひしひしと伝わっていた。

 

「あの子、ビリビリしてきてる……ヤバいわ!!」

「は、早く逃げないと……あちっ、あちっ!!」

 

 渓流中の雷光虫がジンオウガ1頭に引き寄せられ、そのうち数匹がちびうさの顔を直撃した。

 ジンオウガは、単体の力では雷を操ることができない。

 そこで重要となるのが、自身に集まっている雷光虫。この電流を発する昆虫と共生し、力を借りることでこの竜は真価を発揮する。

 

 何とか立ち直ったまことと美奈子は武器を構え直したが、ジンオウガはほぼ相手にせず、雷光虫を呼ぶことを優先した。

 

「こいつ、あの状態になる気よ!」

「くそっ、せめて妨害を……」

 

 まことがそう言って駆けだそうとしたとき。

 

 晴天の夜空に、落雷が起こる。

 ジンオウガの身体が、鮮烈なる蒼光に包まれた。

 雷鳴が森林の夜空に轟き、近くにあった木々が発火して倒れた。

 全身の毛が、甲殻が逆立ち、高圧電流があらゆる箇所にくまなく迸る。

 

「これが噂に聞く……!!」

 

 まことは手で目を覆い、青白い光に包まれた威風堂々たる獣の姿を認める。

 

 『超帯電状態』。

 

 これぞ、無双の狩人の真の姿。

 攻撃力と俊敏性、そして放電能力を最大に出力する最強形態である。

 もはや神々しいとまで言えるまでに眩く光るその獣は、うさぎたちの背を視界に捉え高く鳴いた。

 

「ひいっ!」

「ウオ゛オオッッ」

 

 ジンオウガがその身を宙で翻すと、その身から放たれた雷光虫が青白い光を放ち、弧を描いて飛ぶ。 

 それは電流を帯びた弾として急速にうさぎたちに迫って来る。

 

「あぶなっ!!」

 

 急いでうさぎたちはその場に屈み、雷光虫を何とかやり過ごした。

 ジンオウガはまだ相手が倒れていないと見て、完全にまことと美奈子を無視して駆けだした。

 

「そこまでしてあの荷物が欲しいのかい!?」

「待ちなさいよっ!」

 

 2人は武器を背中にしまい、ジンオウガの後を追う。

 大急ぎでエリア6に来たうさぎたちに、またしても災難が降りかかる。

 なんと、元の南側ルートに続く道が落石や落木で塞がれていたのだ。

 

「ちょっと今回、さすがに運悪すぎない……?」

 

 そううさぎがぼやいた直後にジンオウガが遂に追いついてきた。残るは北側を通るルートのみだが、彼はそれすらも許さない迫力でうさぎたちを睨んだ。

 

「こ……今度こそ終わり!?」

「いいや、終わらせないよ!」

 

 ちびうさが呟いたのを追いついたまことが打ち消し、ウォーハンマーによる一撃を後ろ脚に食らわせた。

 超帯電状態のジンオウガは、攻撃面では恐ろしく強化されるものの防御面は反対に弱体化される。甲殻が電流によって解放されるため、傷を受けるとより深くなりやすいのだ。

 攻撃は鱗に真っすぐ突き刺さり、ジンオウガは痛みに堪えかねてかまことに真っすぐ振り返った。

 

「……来る!」

 

 雷狼竜はいきなり滑るようにして間合いを詰め、前脚を大きく振りかぶった。

 それは、最初タマミツネに行ったのと同じ動き。

 まことが直感に従って振り上げたのと反対側の脚の方向に転がり込むと、背後でばしぃん、と大地が落雷に穿たれる。

 

 まだ、来る。

 

 もう一度必死に懐に潜るようにして転がり、間一髪で続いての叩きつけを回避。

 だがそこでまことはまずいミスを犯した。

 流石にこれで攻撃は終わるかと、一瞬迷って顔を上げてしまったのだ。

 その時には既に、3回目の前脚が彼女の頭上から迫っていた。

 

「ぐあああああっ!」

 

 咄嗟に飛びのいたことで直撃は避けられたが、余波の電撃を食らう。

 白い帯電毛をすべて逆立て、地上に雷光を突き立てる姿はまさしく雷神。

 

「まこちゃんっ!」

 

 煙を上げて転がったまことに、思わずうさぎは引いていた荷車をおっぽり出して駆け寄った。

 

「大丈……夫、あたしの防具、雷への耐性は高いし、あたし自身雷使う……からっ……けほっ」

 

 確かに落雷に匹敵する電流を食らったにしてはきちんと話せるが、だからといって決して無傷ではなさそうだ。

 

「同じ雷使いでパワータイプ……相性悪いかもな、あたしたち」

 

 うさぎの隣で、まことはそう悔しげに呟いた。

 ジンオウガはなおも己への自信に満ちた雷の漲りを以て、いよいようさぎたちを圧し潰そうと上体を持ち上げた。

 

「いい加減こっち向きなさいよ、化け物ぉっ!!」

 

 その頭に、弾が直撃する。急いで前面に回った美奈子が放ったものだった。

 弱点にまともに攻撃を食らったジンオウガは怯み、攻撃を中断。美奈子はしてやったり、とこちらを睨む相手に不敵に笑ってみせたのだが──

 突然、空気に殺気が充満した。

 

「っ!?」

 

 その場にいる全員の背中に走ったのは寒気か静電気か、そのどちらか。

 全身を蒼くスパークさせ、ジンオウガは軽々と後ろにその身体を翻し、天に向かって咆えた。

 

「ウオオオオオオオオンッッッ!!!!」

 

 この森に棲む者すべてが畏怖する、狩人の叫び。

 最少年齢であるちびうさ……ちびムーンは当然この恐るべき竜に心底から恐怖したが、それでも表情を切り替えて振り返る。

 

「ねえ、美奈子ちゃん! さっきの麻痺弾でもう一度拘束を!」

「えっ、いや……何でもないです……さっきは調子乗ってすみません……」

「美奈子ちゃん!?」

 

 彼女は完全に戦意を喪失していた。

 更に、まずいことが起こった。

 ジンオウガは、全身に電流を漲らせたまま闊歩し始めたのだ。

 それも、美奈子に向かって。

 

「い……え……?」

 

 すっかり相手の雰囲気に圧されてしまった美奈子は、精気を失った顔で意味不明な言葉を口走りながら地面に尻をつけたままずり下がった。

 仲間たちは必死に逃れるよう叫ぶが、彼女自身は混乱してわたわたするほかない。

 

 それでもなお、ゆっくりと距離を詰めるジンオウガ。

 まるで、先ほどコケにしてくれた獲物をたっぷりと精神的にいたぶるかのように。

 地を踏みしめるたび、雷光が浅瀬の水を蒸発させた。

 いよいよ大木を背後に追い詰められたとき、彼女自身の体内が追い打ちをかけた。

 

「うぎぐぅっ、今更お腹が!?」

「美奈子ちゃん、武器を捨てて早く逃げて!」

 

 激痛に見舞われた彼女は丸まって涙目で呻く。

 まことの声も届かず、錯乱状態は極みに達し──

 

「ひ、ひいいいいいいい、ク、ク、ク、ク……」

 

 ぐるぐる視線を回しながら、美奈子はバイトブラスターをジンオウガの頭部に向けた。

 

「クレッセントビィーーーーーーーーーームウウウウゥゥゥゥゥ!!」

 

 その時引き金を引く手が光ったと思うと、バイトブラスターの銃身が小刻みに震え始める。

 

「な……なにあれ」

 

 うさぎがそう言った直後、いきなり銃口が爆発を起こした。

 いや、正確には火花だ。偶然にも弾倉に伝播し逃げ場を失くした守護星のパワーが弾倉内を暴れ回った結果、この色鮮やかなヘビィボウガンはこれまでにない速度で通常弾を弾きだした。

 

「うわあああああああああああああ!!!!」

 

 数秒間、瞬く間に弾薬が消費されてゆく。

 それだけではない。うさぎたちが見る限り、その弾が撃ち出される速度は加速度的に上がっていくように感じられた。

 

「ワオオンッ!?」

 

 機関銃並みの連続射撃は、まともに正面にいたジンオウガの顔、胸に集中して突き刺さる。

 どうやら弾の速度だけではなく威力までも上がっているようで、次々に鱗や甲殻が吹っ飛んでいく様子がありありと分かった。

 想像以上の痛手にジンオウガはクゥン、クゥンと鳴きながら顔を前脚で拭う。

 

 すべての弾を撃ち切った美奈子は自身でも唖然として、何となしにバイトブラスターの銃口近くに右手を置いた。

 ぶしゅうう、と肉が焼ける音。腫れあがる右手の痛み。

 そこでやっと、銃口近くが尋常でない熱を持っていることに気づいた。

 

「あっつ、あっつぅっ!!」

 

 我に返って右手を振りまくる彼女を、少女たちは未だに呆気に取られて見つめていた。

 

「み、美奈子ちゃんすごっ……」 

「ほ、ほら、今のうちに逃げるわよ!」

 

 ちびうさはうさぎの袖を引っ張ってまことと頷き合い、北側に逃げるべく荷車へと走っていた。

 

 まだ、ジンオウガは痛みのあまり地面に顔を擦りつけている。

 まことは次の戦闘に向けて回復薬の瓶を呷り、美奈子の手元にあるヘビィボウガンを見つめながら呟いた。

 

「新しいものとは常に、異なるもの同士が掛け合わさることで生まれる……か……」

 

 他のメンバーより大人びていると呼ばれる顔立ちのポニーテールの少女は、その言葉の意味を考えつつ再びハンマーを手に取った。




実はしれっとタグを付け直し、セラムン側の設定はアニメ版に統一しました。一部漫画版要素というのがほぼ息をしていなかったためです。原作のファンにとっては誤解をもたらすことにしかならないからですね。念のためご了承ください。
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