セーラームーン×モンスターハンター 月の兎は狩人となりて   作:Misma

99 / 189
今回はかなり長めです。


雷鳴り、泡踊る月下③

 人の倍以上はある高さのススキが、月下にそよそよと揺れている。

 どこからかゆったりと浮いてくる、泡の群れ。

 虹色の光が向こうにある月明かりを写し、幻のようにたゆとうて。

 それを、桜色の竜のしなやかな身体が割って宙を回り舞う。

 一振りの太刀が空中の彼を焔を引きながら追いすがったが、遂に刃は触れることすら敵わず虚しく空を斬る。

 

「レイちゃん、焦らないで!」

「……ええ、分かってるわ」

 

 レイはユクモの木の繊維で編まれた笠を抑えつつ、再び太刀を構え直した。

 タマミツネを相手取る亜美とレイは、単純に言えば長期戦を強いられていた。

 それは何よりも──タマミツネの独特な戦法に理由があった。

 

 彼はさっそく、遠めの間合いから泡を数個吐き出してくる。それは弾幕のように張り巡らされ、こちらに向けて飛んでくる。

 この泡に当たると防具が滑液で塗れ、足で滑ったり手元が狂ったりと、こちらはまるで隙だらけになる。

 タマミツネは、そこを目ざとく突いて獲物を狩るのだ。

 

 レイは灼炎のルーガーを振りかざす。

 彼女は泡を切り裂きつつ獲物に斬り込むという大胆な方法を取った。

 だが、タマミツネはそれを見越したように小さく一拍置いて跳び下がる。

 

「くっ!」

 

 レイが顔を歪めて横に身体を反らすと、すぐ隣を紅紫の毛が生え揃う尻尾が打ち上げた。

 亜美は麻痺弾を込め狙いをつけてハンターライフルの引き金を引くが、タマミツネは弾道を見切って横に滑ることで躱す。

 それどころか、逆に彼は弧を描いて亜美のすぐ隣に距離を縮め。

 蛇のように大きく裂けた口を開けてきた。

 

「……っ!」

 

 素早い噛みつきを間一髪で転がり込んで避ける。

 まるで手の内を読んだようなタマミツネの行動に、亜美は冷や汗をかいていた。

 

 元々亜美とレイがタマミツネを相手を選んだのは、相性を考えてのことだった。レイは水場に生息するタマミツネが苦手とする火属性の武器を持っているし、彼のトリッキーな動きに対応するには亜美のライトボウガンによるサポートが有効だと踏んだからだ。

 だが、それは机上の空論だった。

 実際には見事に相手の掌で転がされている。

 

 それでもどうにか、僅かな隙を縫うように攻撃を積み重ねていくと。

 

「ルオオオオオオオオオオォォォォォォォン!!!!」

 

 感情の高揚と興奮を表す、それでも優美さの抜け切らない咆哮と共に。

 タマミツネの桜花のような冠が、山なりの形状を描く背中のヒレが、椿のように鮮やかな紅へと変化する。

 

「これだけだったなら、綺麗でいいんだけどね……!」

 

 レイはそれを見て、太刀を構えながら小さくぼやく。

 タマミツネはその場で円を描き、自ら生み出した大量の泡の中に己を浸した。

 

 少しでもダメージを稼ぐために亜美は毒弾を装填、それをタマミツネの鱗に撃ちこむ。

 口元に紫の混じった泡が出てくることから、決して効いていないわけではない。しかし、相手はそれをさして気にも止めず相変わらずの優雅な動きで翻弄してくる。

 それが余計に、こちらの心象を焦らせて来るのだ。

 

 泡を全身に纏った泡狐竜はそれまでとは比較にならない速度で跳び、2人の視界から消えた。

 だが、この竜がこういう時に決まってやりたがることくらいは、彼女らもこの戦闘で把握しつつあった。

 

 レイは冷静に背後へと振り向く。

 そこには既に後ろ脚で立ち上がり、見得を切ったように前脚を振り上げた泡狐竜の姿。

 彼女は横に転がり、前脚による渾身の叩きつけを回避する。

 湖畔の地を薄く浸す水が飛び散り、レイのユクモノ装備を大きく濡らした。

 

「あたしの服に何すんの……よぉっ!!」

 

 仕返しとばかりに、レイは前に出て太刀でタマミツネの尻尾を切り結んだ。一部の鱗が剥がれ、新たな傷がつく。

 

「レイちゃん、くれぐれも深入りしてはダメよ!」

「今こうしてる間にも、ジンオウガが乱入するかも知れないわ! 少しでも弱らせておかないと!」

 

 亜美は、次第にレイの動きが雑になってきていることに気づいていた。

 集中力が切れかけている。この結果が一向に見えてこない長期戦では当然のことだった。

 振り向いたタマミツネは後方に跳び下がりつつ、大きな泡を吐き視界を塞ぐ。

 

「なっ……」

 

 レイは虚を突かれて立ち止まってしまった。まともに泡を食らって足を滑らせ、大きな隙を晒す。

 彼女の隙をタマミツネは見逃さない。

 泡で滑り急速に距離を詰め、尻尾をしならせて横向きに少女の身体を打ち据えた。

 

「きゃああぁっ!!」

 

 流れるような被弾。

 掬うように打ち上げられたレイは、重力に従って草原に叩きつけられる。

 

「レイちゃん!」

 

 助けに行こうとした亜美にレイはよろめきながらも立って手のひらを見せ、支援は必要ない意思を示した。

 回復薬を飲み、決して挫けようとはしない彼女の姿を亜美は不安げに見ていた。

 

 まったく相手の動きの先が読めない。

 これまで攻撃しようとするたび被弾し、今では傷を癒やすための回復薬も残り少ない。

 この状況を、打開する術は。

 

 亜美が狼狽した顔で柳を背景に立ちはだかるタマミツネの姿を見つめていると、その向こうにこちらに向かってやってくる誰かの姿を認めた。

 それは死にものぐるいで、何か大きい箱のようなものを引っ張っている──

 

「うさぎちゃん! ちびうさちゃん!」

「何ですって!?」

 

 レイも驚愕して、そちらの方角に振り向く。彼女らは全力疾走で下り坂を下ってきたが、タマミツネは早くもそちらに気づいた。

 

「あんた、もっと安全な道あったでしょ!?」

 

 レイが怒鳴るのに答えてうさぎは叫ぶ。

 

「岩で塞がれてたのよ! それよりも、一つだけ伝えたいことが……」

「ルオオオオオオオオオオォォォォォォォ!!」

 

 タマミツネは迷わず、泡を足下に生成。身体をうねらせ、真っ直ぐ荷車めがけて突進した。

 その一撃は、どうにか後ろにやり過ごす。

 ならばと相手は折り返し、2度目の突撃。

 

「つ、つ、伝えたいことがああああぁぁぁぁぁ……」

 

 叫びながら走るうさぎとちびムーンは涙目になっていた。

 目標を逃したと見たタマミツネは天を見上げたかと思うと、突如口内から勢いよく極細の激流を噴出。

 噴水のように打ち上がったそれを、彼は荷車目掛け真っ直ぐ振り下ろす。

 

「伝えたいことがああああああああぁぁぁぁぁ!?」

 

 体内の水を圧縮して放つ、超高水圧カッター。

 荷車の端に直撃したそれは難なく木材を吹っ飛ばしそのまま地面へと貫通、またたく間に土を液状化させた。

 それが終わるとさすがのタマミツネも身体を休めようと立ち止まる。

 

「たああああっ!!」

 

 僅かな隙にレイは残り少ない閃光玉を投げ、相手の視界を塞ぐ。

 

「ルゥアアアッッ……」

 

 さしものタマミツネも何度も目を瞬かせ、見当違いの方向に尻尾を振り回している。反撃こそ難しいが、時間稼ぎにはもってこいだった。

 その間に、レイと亜美はうさぎたちの近くに駆けていく。

 

「で、伝えたいことってなに!?」

「そ、そう! 美奈子ちゃんがね、ヘビィボウガン持ったまま戦士の技を出そうとしたらいきなりマシンガンになっちゃったの! スババババーンッて! レイちゃんたちもやってみたらいいんじゃない!?」

 

 興奮気味に身振り手振りを交えるうさぎの話を2人はしばらく聴いていたが、やがてレイははぁ?とでも言いたげな顔でため息をついた。

 

「……まさかこんな時にしょーもないホラを吹くなんてね。きっとあんた、走りすぎて頭おかしくなってんのよ」

「えっ!? 本当なのに……」

「じゃあ、ただの見間違い。とにかくこちとら真剣なんだから、横から口出さないで! ほら、さっさと荷物持ってく!」

 

 背中をバシンと叩かれたうさぎは、不服そうな顔で荷車を引っ張っていった。

 

「ちょっとレイちゃん、いくら何でも冷たすぎるんじゃ……」

「本当だろうが嘘だろうが、武器持ってない自分の安全くらい考えろって話よ」

 

 レイはそう呟きつつタマミツネに振り向いたが。

 いない。

 先ほどまでそこで暴れていた竜の姿はなかった。

 

「く……」

 

 数秒目を離した隙にタマミツネは視界を取り戻し、既に2人の背後に回り込んでいた。

 しかし、彼我の距離は遠い。

 ここからやってくる行動は主に3つ。

 1つは突進。もう1つは超高水圧ブレス。

 そして最後の1つは── 

 

「あいつ、大技をしてくる気よ!」

 

 タマミツネは、レイが叫んだ時には準備を始めていた。

 2回跳ね、泡を生み出しながら位置と方向を調整する。

 そこから大きく飛び跳ね、今度は空中から身体を捻り、回転させて。

 少女たちへ渦巻き落ちる、泡狐竜の細やかな肢体。

 急いで少女たちは武器を背中にしまい、その場から両手両足を放り出すように跳んだ。

 

 直後、水場が飛沫となって散り爆ぜる。

 

 泡狐竜自身の高速回旋が渦を生み、水と泡の旋風が起こった。

 それは渓流に一瞬だけ咲いた、一輪の華。

 

「ぐうっ……」

 

 何とか、間一髪で躱し切った。

 地面に伏せていた状態から立ち上がろうとするとき、亜美は自身の手についた泡をしばらく見ていた。

 視線を上げると、ちょうどタマミツネが再び泡の絨毯から跳躍するところだった。

 軽々と宙を滑る竜を見上げた彼女の目は、何かを思いついたように丸くなった。

 

「うさぎちゃんの見たものが、間違いでないとしたら……」

 

 瞳に月光が差し込む。

 だがそれも一瞬だけだった。

 亜美はあることに気づくと、すぐに相手から視線を落として呟いた。

 

「いえ、出来たとしても……彼には多分、通用しない」

 

──

 

 美奈子が『新技』を披露したのちも、怒りに任せたジンオウガの攻撃は熾烈を極めた。

 身体を横向きにしてからの電撃を這わせた体当たりを、まことは斜め前に転がって躱す。

 

「たりゃあああああ、アンタなんかぁこれで蜂の巣よおおおおぉぉぉぉ!!」

 

 美奈子は情け容赦なくクレッセントビームを弾倉にまたしても送り込み、もはや女子中学生とは思えない覚悟の決まり切った形相で通常弾を連射する。

 

「すごいな美奈子ちゃん……猛者の軍人みたいだ」

 

 だが、ジンオウガもこの攻撃への対処に慣れてきていた。超帯電状態の彼の動きは素早く、走って追ってくる弾を避けつつあるところで振り返り、踏み切る。

 そして、2人に向かって強靭な脚によって高く、跳躍。

 

「……だあああっ!!」

 

 これには両者ともさすがに危機を覚え、飛びのく。

 

 直後、渓流に雷光。轟音。震動。

 

 ジンオウガは、雷迸る背中で2人を圧し潰そうとしたのだった。

 凄まじい電流が周囲のせせらぎに伝わり、一部の水が蒸発した。

 美奈子は起き上がると、雨となった飛沫を頭から被りながら、未だ意志の籠った瞳で調合した通常弾を弾倉に込め始めた。

 それを起き上がったジンオウガに向けようとして、まことに手で制される。

 

「美奈子ちゃん、もう無駄撃ちしちゃダメだ! 弾だって無限じゃないだろ!?」

「じゃあ、これ以外になんかあるっていうの!?」

「おかげ様でさっき思いつきかけたよ」

 

 美奈子はまことが自分のボウガンに視線を送り、そして意味ありげにこちらと視線を合わせてきたことでその意図するところを知る。

 だが、それはすぐ疑念に変わった。

 

「でも、ジンオウガもまこちゃんと同じ……」

「そう。このまま技を放っても、こいつ相手に効果は薄い。だからこの先、どうするかが問題」

 

 頷いたまことは、なおも健在の雷狼竜を前に唇を噛んだ。

 折しも亜美とまことは同時刻、全く同じことを考えていた。

 相手と自分の扱う属性が同じせいで、美奈子と同じことをしたとしても効果を期待できないのだ。

 

 その頃、うさぎたちは一周回ってエリア6、廃屋のある平原を歩いていた。

 今度は狙ってくる邪魔者はいない。安心してゆっくり任務を実行できるというわけだ。

 

「あー、やっと安心して帰れる!」

「みんな、大丈夫かなぁ……」

 

 不安な表情のうさぎに、ちびうさは励ますように呼び掛ける。

 

「大丈夫よ! うさぎが仲間を信じてあげなくてどうすんのよ!」

「でも今回のモンスターは2頭とも下位で戦ったことない子たちだし、見た限りじゃ苦戦してたし……」

 

 その言葉を否定はしきれず、ちびうさは「ん~~……」と唸り始めた。

 

「せめて、亜美ちゃんがジンオウガ相手ならちょうど噛み合いそうなんだけどな。タマミツネみたいに賢く立ち回りそうだし」

 

 2人の少女は、とぼとぼと歩いていく。

 そのまま、静かにエリアの中央辺りへ至った時。

 

「……それだーーーーーーっ!!!!」

「わーーーっっ!! 何よいきなり!? 心臓止まるかと思ったわ!」

 

 うさぎに、ちびうさは溌剌とした顔で提案する。

 

「いいこと思いついたの!」

 

 その内容を聞いた途端、うさぎの顔も明るく輝き始めた。

 それは、極々単純な発想だった。

 だが、一つ問題がある。

 

「なるほどなるほど! ……で、どうやってすんのそれ?」

「…………」

 

 奇妙な間があったことで、期待に満ちていたうさぎの表情は一気に裏返った。

 

「何よ、考えてないじゃないの!」

 

 指摘されると、ちびうさは「むぅ」と不機嫌な顔で口を尖がらせた。

 背後からそよ風が吹いてきた。緑豊かな匂いを運んでくる、穏やかな風である。

 

「ん?」

 

 その時、うさぎの意識が他のところに引き付けられた。

 

「……やっぱり、何か匂うわ……」

 

 小さく呟くと、うさぎの視線は後ろにある箱へと向けられる。

 彼女は荷車に跳び乗るとすんすんと鼻を鳴らし、間近で荷物の匂いを嗅ぎ始めた。

 突然の行動に、ちびうさはドン引きした様子だった。

 

「……うさぎ、何やってんの。それ人様の荷物よ」

「それ、もしかしたら出来るかもよ!」

「え?」

 

 うさぎの声色はどうも、確信に満ちた様子だった。

 

「結構な覚悟と根性が必要そうだけど!」

 

──

 

 うさぎたちはもう一度引き返し、亜美とレイの下にやってきた。

 死闘を繰り広げていた彼女たちは、その再会に驚きを隠せないでいた。

 

「ちょっと何戻ってきてんの!?」

「いいこと思いついたの!」

 

 うさぎとちびうさは、上手くタマミツネの泡を利用して滑りながら叫んだ。

 

「きっと、この子たちはこの荷物の匂いに引かれてたのよ! だからずっとあたしたちを追ってきてたのよ!!」

 

 それを聞いた亜美とレイの表情に、閃きが瞬いた。

 

「なるほど、だから最初、これを奪い合って争いを……!」

「でも、戻ってきてどうするつもりなのよ!?」

「それは坂を上る途中で説明するわ!」

 

 タマミツネはうさぎたちを逃すまいと突進を仕掛けるが、彼自身の泡を利用し彼女らはスケートの要領で荷車ごと回転、ギリギリで泡狐竜から荷車を逸らせる。

 

「感覚に慣れればこっちのもんよ!」

 

 泡を踏むと慣性がかなり緩くなり制動が効きにくくなるが、その分だけスピードは上がる。それを扱い、先ほどは下ってきた坂を今度は上がっていく。体力の消耗も、泡と仲間が手伝ってくれるお陰で最小限で済んだ。

 タマミツネから、余裕をもって距離を保つ。追ってくる彼は荷物に夢中になるがあまり泡の補給を忘れ、いつもの高速移動は出来なくなっていた。

 これ幸いに、うさぎたちは作戦を仲間たちに一通り説明した。

 

「なるほどね。実はあたしもさっきの言葉をヒントにして、似たことを考えていたの。流石はちびうさちゃんね」

「えへへへ~」

「あたしもちょっとは褒めてよー……」

 

 亜美に褒められたちびうさを見て、うさぎは拗ねかけていた。隣のレイは、背中の太刀越しに這って来る竜の影を睨んだ。

 

「もうこうなったら、うさぎの勘違いだろうと関係なしね! ここで決着をつけてやる!」

 

 坂を上がってくると、

 

「ウオオオオオオオォォォォォン……」

 

 視界が開けた途端、あの恐ろしき雷狼竜の姿が見えた。

 思わず、彼の視線はそこに縫い付けられる。

 それを見た瞬間、うさぎは荷車を引きつつ思いっきり叫んだ。

 

「まこちゃん!! 『入れ替わって』!!」

 

 まことは瞬時にその意図を理解し、苦笑する。

 

「なるほど、結構な無茶したね!」

 

 ジンオウガを後目に、まことは駆けだす。

 そして向かい側からは亜美の姿。

 

「どうやら、同じことを考えてたみたいね」

「うん、全く」

 

 2人の少女はすれ違う時、そう互いに囁きかけた。

 

 まことが次に尻目に見たのは、戸惑うジンオウガの姿。

 

「……あんたの攻撃、参考にさせてもらうよ!」

 

 向かうのはタマミツネ。

 彼女は、手元に雷を宿らせた。

 それは柄を伝い、ウォーハンマーの鎚頭へ。

 

「シュープリーム・スピニングメテオ!!」

 

 その一撃は真っ直ぐ、獲物の頭へ。

 衝撃波を起こすほどの震動と共に、巨大な雷が脳天へ直撃した。

 

「ルオオオオオッ……」

 

 タマミツネはたまらず、意識が混濁した状態でその場に倒れ伏す。

 

 それを見届けた亜美は、ジンオウガの目の前に黙って佇む。

 竜は新たな相手に一瞬戸惑うも、自身には無双の雷の力が今宿っている。

 彼は即座に前脚を振り上げた。この愚かな人間を一撃のうちに沈めんと。

 

「シャボン・フリージング・ゲイザー!」

 

 彼女の手から泡が生まれる。それは弩を伝い、弾丸型地雷の内部へ。

 少女はそれを、地面に発射。

 そして彼女自身は手から泡を放出し、後方に跳ぶことで離脱。

 電力の漲った前脚は地雷をまともに踏みつけ──

 

「ウォオオンッ!?」

 

 爆発。

 封じ込められた過冷却水が大量に噴出、ジンオウガに電力を与える雷光虫を死滅させ、それだけでなく彼自体の動きすら凍らせ鈍らせる。

 

「レイちゃんっ! 美奈子ちゃん!!」

「ええ! 一発勝負よ!!」

 

 2体の間を通過したうさぎが叫ぶのに、レイが答える。

 舞台は整った。

 

 レイは太刀、灼炎のルーガーを引き抜き、焔の軌跡を弧の形に描く。

 そこに更に守護星の力を送り込むと、太刀は燃え盛る炎そのものと化す。

 まさしく灼熱の刃を持つモンスターのように、自身を軸として振り回し。

 

 目指すは、倒れたタマミツネ。

 

「炎華気刃斬り!!」

 

 美奈子はヘビィボウガン、バイトブラスターを構え、通常弾を全弾装填。

 何度目の連射か、これで必ず決着をつけると覚悟決め。

 その場にしゃがみ、蒼い瞳目掛けて。

 

 目指すは、己を見下すジンオウガ。

 

「クレッセント・ショット!!」

 

 燃え盛る刃が。とめどない弾の嵐が。

 両者の眉間を、深く貫いた。

 

──

 

「皆様、本当にありがとうございました。これで姉様も起きてくださいます……!」

 

 帰ってきた先のユクモ村で、ミノトは深々と頭を下げてきた。

 

「いえいえそれほどでも~」

「めっちゃ顔にやけてるわよ」

 

 うさぎはいかにも謙遜そうに手を振るが、ちびうさが指摘する通りその顔はデレデレである。

 

「何とか荷物は無事だったわね……あんなこと二度と御免だわ」

 

 先の作戦は一歩間違えれば荷物を危険に晒しかねないものだっただけに、レイが見せる気疲れは大きいものだった。

 

「ほんとにあれ、何が入ってるのかしら?」

「やったらいい匂いがしたけど」

 

 一方、美奈子とまことは人の背くらいの高さはある箱の中身に興味津々だった。

 ミノトが風呂敷を広げ巨大な木箱を開けると、その中には更に多くの箱が。

 彼女がそれを開けると生ものの保存に使われる氷結晶が姿を見せ、取り出すとその下にはおにぎりにも使われる筍の皮の包み。

 

「え……なにあれ?」

 

 戦士たちの目線が怪訝なものに変わる。

 3つ折りに畳まれた筍の皮を開けて出てきたのは──

 

 二股に分かれた串が刺された、上から桃、緑、黄のもちっとした球体。

 ゴマを散らして作られた、丸く可愛らしいお顔がてっぺんに付いていた。

 おまけに串の先が2つ頭上から突き出たその様は、まるで耳の生えたウサギのようだ。

 

「団……子……?」

 

 ミノトはそれを、眠っているヒノエの手にそっと持たせる。

 その瞬間、異変は起こった。

 

「この……かぐわしい……匂い……」

「そうですよ、姉様! いま姉様の手にありますよ、この……」

「うさ団子ぉっ!!」

 

 いつの間にか、物凄い勢いで起き上がったヒノエの口に団子が咥えられていた。

 串を引っ張ると、団子は3つ一緒にきゅぽん、と彼女の唇に吸い込まれ、咀嚼も程々にそのまま喉へと滑り落ちていく。

 ヒノエは、恍惚とした顔で至福に浸るように頬を片手で覆った。

 

「ああ、この至福のとろける味わい……生き返る心地ですぅ……」

 

 理解が追いつかないうさぎは、幸せそうなヒノエとそれを見て満足そうにしているミノトを見比べて、

 

「え……なにこれ?」

「うさ団子です」

「うさ団子?」

「カムラの里名物、栄養満点のお団子です。これを1日に最低50本食べるのが姉様の日課なのです」

「「5()0()()!?!?」」

 

 いろいろとツッコミたいところはあるのだが、その本数に思わず意識が向かってしまった。

 

「えっ、じゃあ病弱ってわけじゃ……」

「身体ではありません、精神の問題です」

「精神の問題!? むしろ、そんな量食べてる方がいろいろとマズいんじゃ……」

 

 常時は落ち着いている亜美ですら、狼狽を隠し切れない。

 だが、すっかり顔色の戻ったヒノエは太陽のような微笑みを以てうさぎたちを眺める。

 

「本当に貴女方は素晴らしい御方です。そう、このうさ団子のように慈悲に富み、しかも粘り強さを持っていて……」

「あたしたちを団子に例えるとか、どんだけ好きなんだよ」

 

 まことは呆れ気味にそう言ったが、ミノトはまたしても深々と頭を下げた。姉と比べると感情の薄めな彼女の目も、今は潤んでいるようだった。

 

「貴女たちには改めて、本当に心から感謝致します。私のたった1人の姉様をこうして救ってくださったのですから」

「ま、まあ悪い気はしないか……」

 

 ちびうさはそう言って無理やり自分たちを納得させる。

 自分たちは団子を命がけで護り、団子に振り回され、団子に助けられたのだ。

 ヒノエは腰を落ち着けると、そういえば、と言うようにぽんと掌同士をくっつけた。

 

「それで、狩猟の方はいかがでしたか? 3頭もいれば、かなりの激戦だったでしょう」

「え? ジンオウガとタマミツネの2頭でしたけど……」

 

 3頭も狩った覚えなどどこにもない。レイが答えると、今度はヒノエが首を傾げる。

 

「あら、おかしいですね。もう1頭モンスターはいませんでしたか? 金色の鱗を持って空を飛びまわる飛竜が……」

 

 その言葉を聞いた途端、少女たちの間の空気が一変した。

 

「『金の竜』……!!」

 

 デス・バスターズとゴア・マガラに続く、一つだけの手がかり。

 それらに敵対してくれるやもしれぬ、一つの存在。

 下位ハンターから上位へとのし上がり、強豪たちを相手取れるようになるほど長い月日をかけても見つからなかったものが今、その尻尾を出した。

 

「あの……近くに魔女の姿はありませんでしたか? 妖魔によって何かしようとしてたとか」

「『魔女』……『妖魔』? すみません、世間には疎いものでして……」

 

 亜美の問いに、ヒノエは相変わらずのおっとりとした口調で答える。

 

「私は、里長(さとおさ)からそういう噂が流れていると聞いたことだけはあります。何でも、怪しげな力でモンスターをも思いのままに操るのだとか」

「あら、それならこちらの里でも教官が似たようなことを開発して……」

 

 そう言いかけたヒノエの口を、ミノトは慌てて封じる。

 

「ちょっと姉様、今はまだ機密情報ですよ!」

 

 うさぎたちにその会話の意味は完全には理解できなかったが、その口ぶりからしてウツシ教官が開発している技術のことらしい。

 

「……時々思うけど、この世界の人たちの技術も大概とち狂ってるわよね」

「うん……正直デス・バスターズも顔負けだよな……」

 

 美奈子とまことがそう耳打ちしあっていたところ。

 

「やぁやぁ、『月の猟団』の諸君!!」

 

 噂をすれば何とやら。

 いつの間にか家屋の屋根に上っていた青年、ウツシ教官は忍者のごとく颯爽と飛び降りてきた。

 

「君たちが追っているという金色の飛竜についてだけれど、今、ユクモ村ギルドから最新の情報がもたらされた。どうもその竜は遥か南方のタンジア、モガ村方面に向かったらしい」

「あ、ありがとうございます!」

「となれば、出立ももうすぐでしょうか」

 

 うさぎたちが礼を言っていると、聞き慣れた声が聞こえてきた。

 ユクモ村村長だ。

 先ほどギルドでの用事を済ませてきたのか、彼女は集会場に続く石段から姿を現していた。

 

「ええ、恐らくは。長い間、お世話になりました」

「はぁ~、もうちょっといたかったけどな~」

 

 亜美は頭を下げる一方、うさぎは心残りな様子。

 上品な足取りで歩いてきた村長は、いつも変わらぬ穏やかな笑みを向ける。

 

「この村の門は、いつでも開いておりますよ。ふと立ち寄りたくなった時、好きな時にお越し下さい。そしてカムラの里は人も景色も誠によいところですから、時間が出来た時にでも、是非」

 

 彼女はそう言ってヒノエたちに視線を寄越す。

 

「あらあら、村長さんったら言葉がお上手で……」

 

 ヒノエは朗らかに笑って謙遜する。

 その和んだ雰囲気に、うさぎたちも目を細める。

 

 出来ればカムラの里を見てみたいという気持ちも彼女たちの間で浮かびつつあった。

 だが、目的地が決まった以上は仕方がない。

 この人たちの今の笑顔、生きる場所を護るためにも、今は南方に向かうと彼女たちは決めたのだった。




というわけで、狩技回でした。
シュープリーム・スピニングメテオ→シュープリームサンダー+スピニングメテオ
シャボン・フリージング・ゲイザー→シャボンスプレーフリージング+バレットゲイザー
炎華気刃斬り→ファイアーソウル+桜花気刃斬
クレッセントショット→クレッセントビーム+ブレイヴスタイルのボルテージショット
となっております。

これにてユクモとカムラの人たちの出番は短いですが終わりとなります。
次回は、再びモガ村に舞台が移ります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。