ブライト博士が神浜で二度としてはいけないことの公式リスト   作:ryanzi

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リスト外:ジャック・ブライト博士の華麗なる一日

ジャック・ブライト博士の一日は早い。

まず、棺桶の蓋をゆっくりと開けて、背伸びする。

 

「うーん、いい朝だ」

 

彼の現在の住居は調整屋である。

意外と住み心地がいい。

彼はゆっくりと起き上がると、コーヒーを淹れる。

おっと、もちろん同居人の分も。

 

「あら、おはよう」

 

「おはよう、みたま」

 

朝食を作る前に、博士専用郵便受けに向かう。

そこには今日も色々な手紙が詰まっている。

ブライト博士は理系なのでそういった質問の手紙が多い。

あと、普段の奇行さえなければ立派なので、そういった手紙も一枚か二枚はある。

だが、もっと多いのが呪詛に満ちた手紙の数々だ。

今日の極めつけは、カミソリの刃がぎっしりと詰まった手紙だ。

 

「ぎゃあああああ!」

 

「ど、どうした・・・の、よ」

 

みたまは表情を無にした。

彼女が見たのは、両手を真っ赤にしたブライト博士だった。

 

「おいおい、せっかくの美貌が台無しだぞ?」

 

「・・・そういう冗談を言ってる場合じゃないわよ!」

 

彼女は急いでガーゼを持ってきて止血した。

 

「すまんな、今日は仕事に行けそうにない」

 

「・・・」

 

「冗談だって」

 

「・・・朝食は交代してあげるわ」

 

そこに、十咎ももこがたまたまやってくる。

 

「ちょっ!何があったんだよ!」

 

ブライト博士が簡潔に伝える。

 

「手紙、カミソリの刃」

 

「・・・差出人は誰だよ」

 

「どうせ書いてないさ」

 

「そうだよなあ・・・朝食はアタシが作ってやるよ」

 

そういうわけで、危機は間一髪のところで回避された。

ももこの作ってくれた朝食を食べて、仕事にでかける。

みたまから早く帰るようにと言われる。

まあ、もちろん、彼女もそれが無駄だというのはわかっているが。

いつもブライト博士は仕事を終えると遊び回るのだから。

さて、大学での彼も優秀な問題児である。

 

「二葉教授!造反有理だ!」

 

「は?」

 

今日も医学部の二葉教授のところに突入した

厳格で完璧主義者な彼とブライトの仲は最悪であるのだ。

ヘルメット、口を覆うタオル、ゲバ棒といった装備で。

 

「授業は邪魔してないぞ!研究室にカチコミしているだけだからな!」

 

「なに言ってるかわかんないけど、俺たちもお供します!」

 

他の学生たちもゲバ棒を持って突入した。

二葉教授は生徒から不人気であった。ブライトはその反対だ。

二葉教授は数分も経たないうちに打ちのめされてしまった。

 

「ふむ、これが世界の選択か・・・よし、他の授業をしてない教授のところにも行くぞ!

これは・・・承認に対する挑戦なのである!立ち上がれ、生徒たちよ!」

 

「おー!わけがわからないけど!」

 

だが、そこにやちよが現れた。

彼女はブライトの首根っこを掴み、引きずっていった。

自然と生徒も解散していった。

 

「・・・そういうわけで、このたんこぶはやちよのせいなんだよ」

 

「自業自得だと思います。はい」

 

神浜市立大付属学校の屋上で弁当をれんと一緒に食べる。

 

「そもそも、どうしてここにいるんですか?」

 

ブライト博士は理不尽(本人談)にも教育機関に立ち入りを禁止されている。

唯一の例外は、神浜市立大学だけなのである。

 

「そりゃ・・・ここが大学の一部だからさ」

 

「そういわれると・・・そうですね、はい」

 

ブライト博士は包み袋をそっと渡した。

 

「これは私と一緒に弁当を食べてくれたお礼だ。

この中には、君の助けになるものが入っている」

 

「えっ、いいんですか・・・?」

 

後にれんは後悔した。やっぱりだめだったと。

仕事を終えたブライト博士は神浜市のあちこちで出没が報告される。

今日は栄区でウィンドウショッピングを楽しんでいた。

 

「・・・アナタ、ドクター・ブライトだヨネ?」

 

「そういう君は・・・バナナの妖精?」

 

「どこを見てそう思った?・・・噂には聞いてたけど、やっぱりエキセントリック」

 

「噂を聞いてるというと・・・君もやっぱり」

 

「ウン、そうだよ。アリナ・グレイっていうんだ」

 

彼女はまじまじとブライト博士を見つめた。

まるで、何かアートの題材を見るかのように。

 

「フーン、ドクターは死なないって聞いたけど」

 

「そりゃ私はハイパーすごい人造人間だからね」

 

「それってさ・・・死ねないってことだヨネ?それなら普段の奇行も納得がいくケド」

 

お前のことは全て知ってる、と言ってるかのような不気味な笑みだった。

 

「うっせえ、そのバナナ引っこ抜くぞ」

 

「・・・いつまでその余裕を保てるか、楽しみ」

 

なお、この様子を遠くから見ていた御園かりんの頭の中には緊急警報が鳴り響いていた。

それは、たまたま近くにいた白羽根、黒羽根も同様であった。

よりにもよって、あの二人が邂逅してしまったのだから。

どのくらい最悪なことかというと、「神の怒り」というBGMが合うくらいだ。

事実、かりんの頭の中に響いていた緊急警報もそれだった。

気分を悪くしたブライトはとりあえず参京区に向かった。

 

「こんな危ない怪物を集めておいて

だいぶやらかしてくれ・・・・」

 

最後まで言い切る前に、緑光のレーザーがブライトを包んだ。

 

「・・・お疲れ様です。どうぞお帰りください」

 

「かこ、客に向かって酷いじゃないか。本を手に入れに来たのに」

 

「ちゃんとお金で買ってください。ブックハンターは強盗と変わらないんですから。

というか、今絶対に私のことをアンジェラ扱いしていましたよね?」

 

「さあ、何のことやら・・・とりあえず、予約していた本を頼むよ。招待状も持ってきたし」

 

「ここは図書館じゃありませんよ???」

 

かこは携帯を取り出した。

 

「もしもし、ななかさん。ブライト博士が違反しました」

 

次の瞬間、ブライト博士の姿は消えていた。

代わりに、段ボール箱が残されていた。

 

「かこさん、ブライト博士はどこに?」

 

かこは段ボールを指さした。

 

「段ボールを残して、どこかに消えちゃったんです」

 

「なるほど、これは調査する必要がありますね」

 

ななかは日本刀を刺し込んだ。すると、悲鳴が上がった。

ゆっくりと抜くと、血が滴り落ちた。

 

「かこさん、これは間違いなく危険物です。

今からゆっくりと時間をかけて解体するので離れてください」

 

ゆっくりとななかは段ボールを斬っていった。

のこぎりでやるかのように、実にゆっくりと。

段ボールからは血がドバドバと流れていた。

 

「みたま、ただいま」

 

「おかえりって・・・朝よりも悪化してるじゃないの⁉」

 

みたまと夕食を一緒に食べた後、お風呂に入る。

明日の仕事の準備をして、そして就寝する。

ブライト博士は棺桶に入り、蓋を閉めた。

その蓋には、こう書かれていた。

 

ジャック・ブライト、漸く憩う

 

「・・・いつか本当におやすみって言えたらいいわね」

 

みたまも自分の寝室に向かおうとした。

すると、囁き声がなぜか棺桶から聞こえてきた。

 

「・・・いろはさん、それは大変だな。

もしかすると、何か君にとって大事なモノが消えてしまってるかもしれない。

私のいた世界では、再構築や過去改変は日常茶飯事だったからな」

 

『そ、そんな・・・』

 

「もしかすると、君が最近見ている夢と関係があるかもしれない。

神浜市に来てほしい、といいたいが・・・君との接近を禁止されてるんだよな。

そうだ、カルメンという人物から手紙をもらったというカバーストーリーでどうだ?

それで何人かの魔法少女は何かを察してくれて、協力してくれるだろうから」

 

『あっ、ありがとうございます!』

 

通話が終わったと同時に、みたまは蓋を開ける。

 

「これはどういうことかしら?」

 

「私は会ったわけじゃないぞ。電話してただけだ」

 

「ふーん・・・いつから連絡を取り合ってたの?」

 

「・・・」

 

こうしてブライト博士の一日は幕を閉じた。

これでも今日は大人しかった部類に入る。

やちよ以外のリーダー格魔法少女たちはしばし胃を休めることができた。


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