ブライト博士が神浜で二度としてはいけないことの公式リスト 作:ryanzi
少女: 誰だっ?!
ピエトロ: あ… あなたには見覚えがある。その、首飾りに。
(沈黙。少女は呻き、パイプを落とす。)
少女: ああ、クソ。私を殺すために派遣されたか? だったら暫くここで立ち往生だな。
ピエトロ: いや、わ… 私は… 逃げ延びた。あなたも逃げたのか?
(少女は前のめりになり、ピエトロの顔を見て目を細める。)
少女: ジーザス。酷い顔してるぞ、君。いつ最後に眠った?
ピエトロ: このスーツは… その、これを着てると寝る必要が無いんだ。
少女: 寝る必要はあるね。その顔、まるで… マジで物凄いザマだ。見ない方が良い。
(沈黙。)
ピエトロ: 一緒していいかな?
(少女は後ろに下がり、片手で芝居がかった身振りをしつつ店内を指す。)
少女: 勿論だとも。割れたガラスならこの通り山ほどある!
(ピエトロはよろめきながら店内に入り、床に座り込む。ガラスの砕ける音が聞こえる。)
(沈黙。)
少女: 今のはジョークだから。椅子を持って来ていいぞ。
ピエトロ: 大丈夫。このスーツは頑丈だ。
少女: (肩をすくめる)
(少女は反対側に座る。)
少女: 随分と素敵な小道具を手に入れたね。 (身振りで首飾りを指す) 交換しない?
ピエトロ: (笑う、続けて咳) まさか! あのファイルは読んだよ。
少女: 一応言ってみないとな。笑ったのは久しぶりだろ、え?
ピエトロ: それほど笑える事が無かった。
少女: 困らせルボットの奴がテレビに出演した時も?
(沈黙。)
ピエトロ: (含み笑い) オーケイ、あれは確かに少し面白かった。
(沈黙。)
少女: じゃあ、君も逃げたのか。いやその、私はとりあえず君が財団職員であり、この人生を通してイライラさせまくった大勢のうち1人が復讐に来たんではないと仮定しているけれども。
ピエトロ: その2つは同じでは?
少女: (笑う) なかなか言うじゃないか!
ピエトロ: ああ、私は財団職員だ。つまり、財団職員だった。騒動が始まった時、運良くこのスーツを着て脱出できた。君は?
(沈黙。)
少女: 私は上級スタッフだったからね - 誰よりも先に計画を聞かされたはずだが、生憎さっぱり思い出せない。多分2番目のファイルがマズかったんだと思う。
ピエトロ: 2番目のファイル? それを見たのか? (立ち上がる) 中身は何だった?!
少女: おおっと、一先ず落ち着きたまえよ。時間ならたっぷりある。ファイルは沢山の画像だけだった - 卵、木々、宗教的なあれこれ。それら自体は私にとって何の意味も無かったが、きっと何かが符号化されていたんだろう。私は想定通りの効果を受けられなかった - (首飾りを指で叩く) - 恐らくこいつのせいだ。
ピエトロ: (座る) じゃあ、やっぱりミームエージェントの仕業か…
少女: (眉をひそめる) それは分からない。私はこの身に起こり得るほぼ全ての出来事を、あー、実際に受けてきた。ミームエージェントを喰らうとどんな感じがするかは知っている。そういう感じではなかった - 何かを強制されるというより、むしろもっとこう、何かから解放されるような感覚だった。
ピエトロ: そ… そうか。つまり、あなたも何が起こっているかよく分かっていない?
(沈黙。)
少女: まぁね。
ピエトロ: 畜生… 畜生。
(沈黙。少女はポケットから小さなビール瓶を取り出して一口呷る。)
少女: (溜息) で、君は何処か行く当てがあるのかい。それとも落ち込んだ気分で彷徨い歩いてるだけかな?
ピエトロ: 579に向かっている。
少女: (笑う) 自殺願望があるなら、もっと簡単な方法が幾らでもあるぞ!
ピエトロ: 579が何なのか知っているのか?
少女: さっぱり - だからこそ懸念してるんだよ、私みたいな大物でさえ知らないんだ。
(沈黙。)
ピエトロ: 構わない。私はそこに行かなきゃならない。
少女: どうして?
ピエトロ: ただ行くだけだ。あなたは何処を目指している?
少女: 1437。まずは他所の世界に小便を垂れてやれるかどうか調べる。次にこの首飾りを投げ込んで、何処で目を覚ますかは成り行きに任せる。
ピエトロ: (含み笑い) 立派な計画だと思うよ。幸運を祈る。
少女: (立ち上がる) こちらも君の幸運を祈るけれど、その見込みが無いのはお互い承知だ。もうすぐ夜が明ける - 私は出発するよ。
ピエトロ: オーケイ。
(少女は立ち上がり、正面ドアへ向かう。彼女は店舗の入口で一瞬立ち止まる。)
少女:せめて探してる物が見つかると良いな。
(少女は去る。)
ピエトロ: 私もそう願ってる。
ずいぶんとクソッタレで懐かしい夢を見た。
まだ、この世界に来てからそれほど経ってないにも関わらず懐かしく思えた。
だが、職業柄、会話でさえも記録方式になってしまったようだ。
「・・・それで、私を永遠にスリープ状態に置くんじゃなかったのかい?」
ブライト博士は人型実体・・・名無し人工知能のウワサに話しかけた。
数日前、マギウスの翼の構成員となっていた梓みふゆによって閉じ込められたのだ。
不死であるだけで、戦闘能力は魔法少女には及ばない博士はあっけなく無力化されてしまった。
最期の頼みとして、自分のスリープ場所を墓石みたいにしてもらったのだが・・・。
「・・・この子が目覚めさせてほしいと頼んだのです。
人間離れしたあなただったら、見えると思います」
ウワサが指さしたのは、緑髪の少女だった。
「そうか君か・・・私はブライト博士だ。君は?」
「・・・二葉さなです。その、話は父から聞いています・・・」
二葉、聞きたくもない名字だった。
それに、あれの娘でもあるとは!
だが、少女からはあれとはまったく違う優しい雰囲気が感じ取れた。
「・・・君は本当にあれの娘かい?
あれの娘だったら、もっとイヤミったらしいビッチだろうに」
「・・・母の再婚相手です」
「なるほど、合点がいった。その、今から君の気分を害するかもしれんが、聞いてくれるか?」
「・・・どうぞ」
「君は家族の中で仲間外れなんだろう?
母は君の出来の悪さを疎く思っていて、
再婚相手の父が連れ込んだガキも君のことを馬鹿にしている」
彼女は不快というよりかは、驚愕の表情になった。
「ど、どうして・・・」
「時間だけが私に降り積もったからな。そういったことは推測できるんだ。
それで・・・今は外に出たくないというわけか。
だが、私を目覚めさせたのはどういうことか聞きたいな」
「・・・仲間外れにはしたくなかったんです」
アリナは月光の下である絵画を書き上げていた。
真紅の首飾り・・・ブライト博士を見たとき、そのイメージが浮かんだのだ。
彼女は一目で、ブライト博士の苦しみを理解することができた。
彼は死なないのではない。死ねないのだ。
幾星霜の時間が、ブライトの精神をすっかり殺したのだ。
そうでなければ、あんな奇行に走ることはないだろう。
あれは死にたいのに死ねないという現実からの逃避にすぎないのだ。
「不死っていうのも、考えモノだヨネ?」
アリナは不気味な笑みを浮かべながら、絵画にキスをする。
だが、これはまだ設計図にすぎない。
ブライト博士の真の姿こそ、彼女の芸術の完成形であるからだ。
根拠はないが、この絵画に書かれた首飾りこそが彼の真の姿であると確信していた。
「・・・さすがに怪しいですね」
常盤ななかはブライトの不在を訝しんだ。
各地域のリーダー格魔法少女の表情に焦りがあるのだ。
彼女たちはこっそりと誰かを探しているようだった。
つまり・・・あれが野放しにされてしまったということかもしれない。
「これは葉月さんと話し合う必要があるかもしれません」
ブライト博士が消えたのと入れ替わりに、環いろはがやってきた。
多くの魔法少女はほっとした。今度はまともなのがやってきた。
だが、同時にぽっかりと心に穴が開いた気分にもなった。
調整屋の次にそのあおりを受けたのは、夏目書房だった。
もとの静かで落ち着いた空間に戻ったが、何かが欠けていた。
そんな空間で夏目かこはブライト博士の書いた信用できない自叙伝を読んでいた。
顔を上げる。そこには誰もいないのに、暴れているブライト博士を想像できた。
引き出しに本を戻す。そこには数日前まで時空の乱れが発生していたが、今は元通りだ。
(ブライト博士、あなたがいなくなったら、店ががらんとしちゃいました。
でも・・・すぐになれると思います。だから・・・帰ってこないでくださいブライト博士)