拝啓 シロちゃんへ。 結婚してください──。   作:瑠威

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シロちゃんが中々出てきてくれないので、フラグが立っちゃったよ


第14話

 

「なあ、浮竹。お前…死ぬならどう死にたい」

「おお…随分とまた、突拍子もないことを言い始めたな」

 

 

 雨乾堂にて。今日は起き上がれるほど調子がいいのか、浮竹は起き上がって私を悩ませている手元を見た。勝手に机を引っ張り出して、浮竹の隣に居座っている私はいつものことだし、浮竹がそれを一度でも咎めたことはなかった。

 

 

「ああ…遺書か」

「うん。そりゃあ、三席時代にも書いたことだよ。席官という職を与えられると、それだけ危険も隣り合わせになってくる。あの時はスラスラとかけていたが…こうも歳を取ると、死ひとつですら哲学を探してしまう」

「はっはっは!! 彼岸が哲学とはまた、随分と縁がない言葉を使うものだ! あれほど先生に怒られても書物ひとつ手に取るのを嫌がっていたと言うのに。…本当に歳を取ったのだな俺たちは」

 

 

 …むう、別に本を読まなくたって生きていける。それに、前世の頃は確かに本は読んでいたが、殆ど漫画本に限るだったし、尸魂界の書物は難しい言い回しなものばかりで全く内容が頭に入ってこないんだ。漢字だって難しいし、手書きで書かれた書物は読めたものじゃない。繋ぎ書きが酷くてなんて書いてあるのか私には到底理解できないのだ。浮竹はスラスラと読んでいるので、彼は普通じゃない。

 

 死神で席次を持っている者達は必ず遺書を書かせられる。席官になっての初仕事だ。理由は単純明快で、平の死神よりも死ぬ確率がぐんと上がるから。それは隊長格も同じで、必ず書かなくてはならない。二番隊隊長に就任した私も、昔三席という席次をおっていたが、例外に漏れることはなかった。

 

 

「書いたのが随分と昔であろう。良い機会だ書き直せ、だなんて。100年前ぐらいから言っておいて欲しかった…」

「流石の元柳斎先生もそこまで万能ではないだろうよ。それこそ未来予知の類いを持っていないと出来ないからな」

「決して自分が死なないと、そう言いきれるほどの自信を持ち合わせるほど馬鹿になったつもりもないが、いざこう…お前は死ぬんだぞと現実を見せられると怖くなるんだ」

「遺書か…俺は100年経てば書き直すようにしているが、そこまで深くは考えていなかったな」

 

 

 死ぬのが怖いとそう恐怖するのは誰しもある事だ。強者ほど、自分も相手も恐怖というものを隠すのが上手い傾向にある。

 別に死ぬのが嫌な訳では無い。ただ、自分がいつか死ぬという現実が、近いのかもしれないと思ってしまうだけだ。何時私は死ぬのだろう。何処で死ぬのだろう。誰に?どうやって? 言い出したらきりのない問答が私の頭の中を占拠して、そして最後に言うのだ。「お前がいない方が良かったのに」と。私の被害妄想だと分かっている。誰かが私に面と向かってそう言ったことは一度もない。

 

 

「…そう言えば、平子達がいなくなってから彼岸は一度も泣いていないらしいな」

「…ん? ああ、そうだね」

 

 

 隊長格がああ何人も急に居なくなられると、後始末が大変だ。このように、浮竹はずっと万全の状態でいられる訳では無いし、非常に残念なことに尸魂界では位が上がるにつれ、仕事が嫌いだと断言するような馬鹿が非常に多い。一概には言えないが、私も仕事は嫌いな質なので文句も言えまい。

 

 隊長なんてなれないものを押し付けられ、やることは仕事仕事仕事。二番隊の仕事すらまだよくわかっていないのに、7番隊の仕事が回ってくる始末。おかげで眠る前にすら仕事のことを考えてしまって、マコ達のことを考える暇がない。…いや、どちらかと言うと有難いのだ。こうして仕事に没頭出来ているお陰で、現実を見なくて済むことが。

 

 

「大前田副隊長が心配しておられた」

「…大丈夫という訳では無いが、案外──」

「本当にか?」

 

 

 「彼岸」と、そう芯のある声で浮竹は私の名を呼んだ。

 

 

「俺の方を見ろ。視線を合わせなさい。…彼岸、お前は一体、今誰と言葉を交わしている? 俺だろう。そう思うのなら、俺を見なさい」

 

 

 浮竹は私の顎を掴むと、グイッと浮竹の方へと向けた。こういう場面でなかったのなら、うわわわ、これって顎クイ!? 少女漫画やん!!と喜んでいたであろうが、残念ながらそんな雰囲気では無い。それに浮竹の顔というのは見すぎてていて、キュンとするよりかはおお…みたいな感じだ。分かりにくいとは思うが、わかって欲しいこの気持ち…。

 

 

「あまり溜め込み過ぎると壊れてしまう。…彼岸は周りの友が居なくなるのが初めてなのだろう? そう、一人で向き合おうとするな。かえって心配になっちゃうだろ」

「…浮竹」

「悲しい時は俺が半分分けてもらおう。それでもって、楽しい時は彼岸と俺で倍にしよう。辛い時は遠慮なく頼りなさい。もう何年来の付き合いだと思ってるんだ」

 

 

 浮竹は慈愛に満ちた顔をしていた。優しくて幸せそうで、そして子供を諭すような、そんな顔。そんな優しい顔を見て、何故だか涙が溢れてきた。悲しいわけじゃない。何れマコ達が居なくなることは知っていたし、死んでいないことも理解している。助けられなかった後悔も全て、ギンと話したあの日、一番隊舎に置いてきた。

 

 

「…泣く、資格がないと…思っていた」

「資格? そんなの誰が決めた。京楽か?それとも元柳斎先生か?」

「だれも、誰もそんなことは言っていないけれど…」

「じゃあ泣けばいい。彼岸が泣いても、戸惑うことはあれど誰も咎めはしないよ」

「でもでも、本当はマコたちの代わりに私が居なくなれば──」

「それ以上先を言ったら俺は怒るぞ」

 

 

 浮竹の硝子玉のような澄み切った瞳に情けない私の姿が映った。怒るぞ、と言った浮竹の顔は先程と対して変わっておらず、相変わらず諭すような顔をしていた。

 

 

「今彼岸が話しているのが俺でよかった。猿柿と話していたらきっと殺されていただろうし、平子と話していれば怒鳴られていただろう。彼岸、俺は何があってもお前が居なくなればいいとは絶対に思わないよ。彼岸を救うために俺が死んでしまっても、彼岸に騙されて俺が死んでしまっても。感謝こそすれど、恨むことは絶対にない」

 

 

 浮竹は人がいい。尸魂界だから、こうして気前のいい人で済んでいるのだろうけど、前世だったら絶対に高い壺でも買わされている。しかも、それが悪徳商法だと気づかずに何度も同じ過ちを繰り返すのだろう。

 でもそう思うと同時に、こんな浮竹だから十三番隊の皆は浮竹について行くんだと思う。清らかな浮竹と共にいれば、自分も聖人になったような気分になれる。もっとやろうと自分を鼓舞するし、なんでもできるような気がする。そんな不思議な力を浮竹は持っている。

 

 

「俺は彼岸が好きだよ。大好きだ。…彼岸が何を知っていて、何を背負っているのかは分からない。けれど俺は一緒に悩むことも出来るし、道を切り拓くことだって出来る。1人では無理でも、2人や3人なら絶望も希望には変えられるだろう」

「……」

「彼岸は十分に働いたさ。お疲れ様。今は…休みなさい」

「うっ、うわあああ」

 

 

 私は浮竹に縋るように泣いた。堰き止めていた何かが壊れて、溢れ出てきた。今はもう居ないと分かっているのに、朝起きたら当然のように五番隊に足を運ぶ自分がいる。今日の財布は潤ってるかな、といつものように財布を盗る算段をつけている自分がいる。足腰が重かったら、六番隊に行って白哉坊と夜一に稽古でもつけてやろうかと思ってしまう自分がいる。道すがら十二番隊にでも寄って見ようか…ひよりにバレたら面倒だからやめよう、まだ私の中で彼らは居座っている。居ないと分かっている筈なのに、理想に目を向け、現実に目を向けていないのだ。

 

 

「いなくなった、いなく…なっちゃったよ……」

 

 

 でも、これだけは間違っていない。彼らは確かに尸魂界から姿を消したが、死んでは居ない。会おうと思えば、また会えるのだ。まだまだそれは少し遠い未来ではあるけれど。

 

 その未来のためにも、こんなところでへこたれている訳には行かないのだ。

 前へ、進まないと。

 

 

 ***

 

「海燕副隊長」

「んあ? おい…俺は浮竹隊長に書類渡して来いっつったよな。誰が惚けた顔して帰ってこいって言ったよ」

「…紅山隊長と浮竹隊長はお付き合いされているのでしょうか」

「彼岸さんと浮竹隊長が? プライベートな話は知らねぇが…あそこの2人は同期っつうこともあって仲はいいよな」

 

 

 「まあ、同期の括りで言ったら京楽隊長もだけどよ」の言葉は隊士には届いて居ない。カチンと固まって動かなくなってしまった隊士を見て、異変を悟った海燕が声を荒らげる。

 

 

「おい!急に固まってどうした!」

「…言ってたんです。浮竹隊長が、紅山隊長のことを大好きだと。愛しているとお叫びになっておられたのです…!!」

「う、浮竹隊長が!?」

 

 

 未だに都に好意を抱いている海燕が告白すらまともに出来ていないというのに、隊長はいとも容易く告白をしたようではないか。流石隊長と尊敬を思うと同時に、勝手にプライベートな話を聞いてしまった自己嫌悪、そしてこの手の話に慣れていない羞恥が海燕を襲った。

 

 

「俺も、俺も大好きなんです…!」

「浮竹隊長がか? そりゃ俺も好きだけどよ。あまり大きな声で言いふらすモンじゃ…」

 

 

 浮竹の恋路を大声で暴露するものだから、何事かとワラワラと隊士達が集まりつつある。上手くくっついたのなら、問題はないものの、そうではなかった場合、この話が広がるのは浮竹にとっていい話では無いだろう。何とか隊士を黙らせようと奮起する海燕だが、余程興奮しているのか、変な動作が多く、中々止めるに至らない。

 

 

「絶対に、絶対っっ…俺の方が紅山隊長を愛しているのにぃぃぃ!!!」

「いや、そっちかよ!!」

 

 

 まさか、彼岸に向かっての愛の告白だった。この隊士が彼岸に好意を抱いていたことすら知らなかった海燕は「お、おう」と虚無の顔になる。同期であり、同じ総隊長の弟子という浮竹のアドバンテージは強すぎる。きっと名前も知られていないだろうこの隊士とでは天と地の差があるだろう。

 

 

「…なんか、うん。ありがと」

 

 

 ズズズと鼻を赤くした彼岸がいつの間にか副官室に姿を現していた。追いかけるようにして「ちょっと早いぞ〜」と浮竹の声も聞こえる。

 

 

「ん? なんでこんなにも人が集まってるんだ? まさか…海燕が何かやらかしでもしたのか!」

「それはしてません!! いや、これは…あの、ちょっと……」

 

 

 「兎に角、散れ!!」ブンブンと両手を振り、海燕はワラワラと集まってきた隊士達を分散させる。この場の状況が理解出来たのか、察しのいい隊士達はぞろぞろと持ち場に戻って行った。残ったのは、思わぬ告白をしてしまった隊士と巻き込まれた海燕。そして隊士の告白相手である彼岸と彼岸の彼氏であろう浮竹。最悪な状況じゃねぇか…と海燕は気が重い。

 

 

「ん、どうした? 海燕の顔色が悪いようだが…」

「…いつもこんな顔です」

「そうか? いつもこんな幸薄そうな顔をしていたかな」

「幸薄そうは余計ですよ隊長!」

「はっはっは!! それは済まない」

 

 

 唯一有難いのは浮竹がこの状況を理解していないということ。雨乾堂にいたはずの浮竹と彼岸が何故この場にいるのかは置いといて、ひとまずはこの場を収めるのが先決だと海燕は思った。

 

 

「浮竹隊長達はどうしてここに? お身体は大丈夫なのですか!!」

「ああ。彼岸が隣にいてくれるとどうも身体の調子がいいんだ。これは昔からのことなんだが、いつも不思議に思うよ」

「(…もしかして既に彼岸さんと浮竹隊長は恋仲だった…!?)」

 

 

 そう言えば、彼岸はいつも浮竹がいる雨乾堂に通いつめていたし、彼岸が出来る仕事を掻っ攫ったりもしていた。それによく見れば泣いた跡がある。予測を立てるのなら、既に彼岸と浮竹は恋仲の関係にあり、何かしらの危機があったものの、何とか2人でそれを乗り越えた。そして、浮竹からの愛の叫びを聞き、彼岸は涙を…。

 

 

「「(あ、終わった)」」

 

 

 隊士も同じことを予測したのか、全てが終わった顔をしていた。あの…あれだ。どんまいとしか言いようがなかった。

 

 

「……末永くお幸せに」

「え? うん、ありがとう」

「あ、ちょっ、おい!!」

 

 

 ドタドタドタと足音を立てて去っていく隊士を追いかけようとした海燕だったが、追いかけてもどう声をかければいいのか分からない。隊士の背中を掴もうとした手は空を切り、何もなかったかのように戻される。

 

 そして、浮竹と彼岸が恋仲の関係であることが瞬く間に瀞霊廷内に広まり、彼岸達は総隊長が主催の祝宴に呼ばれることになる。

 そして隊士は「どんまい」で知られるようになったとさ。

 

 

「いや、私と浮竹付き合ってねーし」




『遺書
 これを見たということは私は死んでしまったのでしょう。


尸魂界は今、平和ですか?
→平和じゃなかったら2頁目へ

平和ですか?
→平和だったら3頁目へ』


「…これはなんだ?」
「遺書だけど」
「元柳斎先生よりも長生きしような」
「いや、元々からそのつもりよ? 急にどうした?」


 ※尚、この遺書は彼岸が徹夜で仕上げ、1000頁を超える遺書になったという。

オチある方がいい?それともない方?

  • 有(シロちゃんじゃない可能性もある)
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