所謂日常的な物語 作:亀はん
1幕
001
ぼくには幼なじみがいる。といっても、マンガやアニメみたいにかわいい女の子というわけではなく至って普通の、いや普通より少し下の男の子だ。
「なぁ、その説明少し悪意がないか?」
その男は人間強度が下がるから友人はいらないなどと言っておきながらちゃっかり彼女を作る男の敵であり、背が少し低い奴だ。
「悪意がある!」
だがまぁ、長い付き合いがあるのでそれくらいのことでぼくは怒らないし貶したりもしない。かわいい彼女がいるのは幼なじみとかそういうものを抜きにして、男として許せないだけだ。
なんて心の中で思っていたら目の前にいる幼なじみが呆れたような顔つきでこちらを見ていた。
「お前……全部声に出してたよ」
失礼、噛みました。
「全然噛んでない!」
失礼、かみまみた。
「わざとじゃない!?」
とまぁ、本人がいないのにお馴染みのネタを早々にやったところで。今日は何の相談なんだい? 阿良々木くん。
「いやまぁ、相談っつーか……」
ポリポリと頬をかきながら
カップルならば一度は直面するであろう至って普通の悩みだ。彼には彼女がいて、一般的ではない彼女にプレゼントを贈りたいが生憎そんな経験がないため何を贈ろう迷っている。そんな所。
ようするにリア充爆発しろ! という事だ。はい解散!
「待て待て! お前だけが頼りなんだ!」
そんな腰にしがみつけられて泣きそうな声を出されても、君にはジャイアンに一人立ち向かったのび太くんのような勇ましさは感じられないよ。
「帰ってきたドラえもんの話を今の短い文章でわかる奴がいるのか!?」
君が分かってるならそれでいいじゃないか。
「……とにかく、助けてくれ!」
阿良々木暦には友達が少ない。いるとしてもほぼ全てが異性である。
異性にプレゼントするなら異性に聞けばいいじゃないか。それこそなんでも知ってるような人がいるし。
「僕もそう思って羽川には真っ先に相談した。でも、やんわりと断られた」
なんと、あの心優しい女神のような
「
なんと、あの阿良々木暦の彼女である
「頼むぅぅぅぅ助けてくれぇぇぇぇぇ!」
ピーーーーー………カシャ。
ふむ。
「おい待て、何で写真を撮った!? その手に持った写ルンですをこっちに渡せ!」
よく写ルンですを知っていたな暦は。少し前に流行ったけど。情けない表情と姿の写真は貸し一つの契約書として預かっておこう。
「くっ……殺せ!」
凌辱される女騎士のような事を言い出す暦を尻目にぼくは改めて彼の彼女である戦場ヶ原ひたぎの事を思い浮かべる。
彼女を属性で言い表すならば、ツンドラだろう。そこにデレはない。いや、最近はあるのか? ともかく、ツンの割合が9割だろう。
そんな彼女が喜びそうなプレゼント……。
「何か思いついたか?」
この写真にしよう。
「ふざけんなっ!」
多分喜んでくれるだろう。そう思って提案したが速攻で却下された。
ふぅやれやれ。今日は一段とわがままだな。口には出さないがぼくはそう思った。
「その『ふぅやれやれ。今日は一段とわがままだな』と言いたげな表情はやめろ」
付き合いが長い故に完全に表情でバレてしまった。
「お前、真面目に考える気はあるのか?」
いや、ないね。
「そうか」
阿良々木は拳を握りしめた。
おいおい、その拳は今からどこに向かうんだい?
「目の前にいる奴へ、だな」
今時暴力ヒロインは流行らないぜ? いや、暦は男だったか。なら暴力ヒーロー? もっとダメじゃないか。暴力はやめよう!
……とまぁ、おふざけはここまでにしといて、ぼくのかんがえたさいきょうのプレゼントを教えよう。
「その平仮名表記の時点で全く信用性が無いのだが」
暦が怪訝な表情で此方を見ている。心の広いぼくはそんな彼を気にすることなく、その内容を彼に教えた。
「……なるほど」
暦がらしくない頭の良さそうなポーズを取ってそう言った。
「らしくないは余計だ」
言ったことは何処かの受け売りで捻りのない事だ。『君の選んだものが一番喜ぶ』と。ぼくの巧みな話術に騙された暦はそれに納得し、自分なりに頑張って選ぶことを決意した。
002
暦からメールがあった。
『喜んでくれたみたいだ。助かった』
男同士のメール故にかわいい絵文字とか顔文字は無い。あったらあったで何こいつキモ! と思ってしまいそうだ。
『あと、お前あの時の写真戦場ヶ原に渡しただろ! 次あったら覚えとけ!』
ぼくがガハラさんの家のポストに入れた写真はちゃんと利用してくれた用だ。しょうもないカップル話にもオチがついただろう。良かった良かった。
「あ」
あ?
マナー悪く歩きながら携帯電話を見ていると、背後から声が聞こえたので思わず立ち止まった。反射的にメンチを切る様な言葉を放ってしまったが許してほしい。
そこにいたのは暦の妹の一人である
「もう、歩きながらの携帯電話は事故に繋がるからダメなんだよ?」
ファイヤーシスターズの参謀担当である彼女は今日も街を見回っているらしい。参謀担当とは?
しかし、いつも一緒に行動している実戦担当の
「もう、私たちだってたまには別行動したりするよ! 今日みたいに」
確かに、四六時中一緒だと肩が凝りそうだ。ぼくはそんなの耐えられそうにないや。
「でも、むーくんだってよくお兄ちゃんと一緒にいるじゃん」
あれは友達の少ない暦がぼくに引っ付いてただけさ。最近はガハラさんの方に居ることが多いよ。
「ふふっ、もしかして寂しかったりする?」
阿良々木月火はからかいのネタを見つけたと言わんばかりにそう言った。
は? べ、別に寂しくないし? ぼくも彼女速攻で作ればいいだけだし? 作ろうと思えば候補なんていっぱいいるし? あー! 言ってないだけで居たわー彼女ー!
嘘である。本当は長年付き合ってきた友人が彼女にうつつを抜かして少しばかり寂しさを感じていたのは事実だ。
「彼女? むーくん彼女できたの?」
月火は目を見開いた後、とてもいい笑顔になりながらぼくへとゆっくり歩を進めてくる。
一歩。
「誰どす?」
一歩。
「もしかして、同級生?」
一歩。
「知りたいなぁ……」
ジリジリと向かってくる彼女を見て感じたのは圧倒的恐怖ッッ! 歳下の、中学生の女子相手に恐怖してしまったッ!
……じ、冗談だよ。ぼくには彼女なんて居ないし、出来るなら嬉しいなーって言う願望も
……込めてですね……。
姉妹である火憐と比較すると大人しそうに見える月火だが、実はとても攻撃的で、短気である。暦曰く容姿はたれぱんだ。性格はたれてないぱんだ……つまりは熊だ。
彼女がキレたときのヤバさは姉妹である火憐も、兄である暦も恐れ、中学生界隈でも知れ渡る位かなりのモノだ。そして当人がその性格を理解していないと言うのがタチの悪い。……それでも人気があるというのがファイヤーシスターズの凄いところだ。やはり容姿が全てなのだろうか。
「なーんだっ、びっくりさせないでよ、もうっ」
ぽん、と両手を合わせて月火は言った。ほんの少しの冗談でぼくは核兵器を起爆するところだったらしい。笑顔の彼女の手にはいつのまにか30cm程の定規が握られていた。どこにそんな凶器を、というか文房具を武器にするのはガハラさんでお腹いっぱいだ。
久々に心臓がバクバクしている。100m走を全力で走ったかの様に汗もかいている。
「あ、私用事あるんだった! またね、むーくん」
うん……またね、月火ちゃん。
浴衣姿で駆けていく核兵器中学生の背を見つめながらぼくはホッとため息を溢した。
『勝手に彼女とか作らないでね♡』
彼女の背が曲がり角に消えた直後、ぼくの携帯にはそんなメールが届いた。
ぼくは無言で画面を閉じた。