所謂日常的な物語   作:亀はん

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8幕

 

018

 

 

 

 

冷や汗が出る時はどのような状態か。

 

いつの日か、それを羽川さんに聞いた事がある。

 

「冷や汗?」

 

ほら、漫画とか、小説とかでたまにキャラクターの頬とかに汗が流れてるシーン、あるじゃない?

 

あれの原因ってなんなんだろうか。そう問いかけてみた。

 

「んー冷や汗は、主に緊張や危険を感じた時。ざっくり言うと精神的な刺激が原因だね。手に汗握る、って言う言葉も冷や汗が出る、と表現するもの似ているね」

 

成程。スポーツとか見てる時に実況の人がよく言っているのを聞いた事がある。

 

「あれ? 長壁くんってスポーツに興味がある人だっけ?」

 

いや、全然ないよ。

 

 

回想オワリ

 

 

「────ねえ」

 

目の前の少女はにこやかな笑みを浮かべて此方を見ていた。いま、ぼくに冷や汗が流れているとしたら、後者の方だろう。

 

「言ったでしょ、私レベルになるとむーくんの事結構分かるって」

 

女は怖い。とよく言われる事があるが、ぼくは逆だと思っている。女は怖いのではなく、怖いから女なのだと。

 

い、いや……クラスメイトの話だよ。

 

まだぼくは逃げられると頭の隅の方で思ってしまっていた為に、このような言葉が出た。

 

「ふーーーーーーん」

 

それは阿良々木月火という少女、ファイヤーシスターズの参謀担当を舐めていることに他ならぬ。月火ちゃんは腕を組みながらジト目でぼくを見つめる。

 

「あのね、むーくん。私は怒ってるんじゃないよ?」

 

その割には腕を掴む力が強かった気がする。とは口にしなかった。

 

「考えても見なよ? 私たち姉妹が如何にもな髪色をして如何にもな容姿の男の人から告白されて、受けるか前向きに検討してるんだけど、どう思う? なんて相談したとするでしょ? むーくんはどうする?」

 

それは……止めるかも。

 

大切な妹分がその様な如何にもな男と付き合い出したらと思うと、確かに月火ちゃんの気持ちも分かる気がする。

 

「でしょ? 私が言いたいのはとどのつまり、そういう事だよ」

 

言わんとする事はわかった。つまり、変なヒトに引っかからないで欲しいという心配をしている、と。

 

「そう! だから誰から告白されたか教えて?」

 

ぼくが告白されていると確信した物言いに、もはや言い訳すらする事が哀れに思えるほどだ。

 

……この前、この家に来てた人だよ。

 

忘れてて欲しい。僅かながらに期待を込めつつ名前を出さなかった。

 

「あ、あの人か」

 

ぽん。

 

月火ちゃんは小さく手を叩き、ふむふむと何やら思案する。

 

ぽく、ぽく、ぽく、ちーん。

 

「集合!」

 

某引っこ抜かれてあなただけについていくあのゲームのように何処からか取り出した笛を吹く月火ちゃん。

 

「了解!」

 

その直後、背後から聞き覚えのある声と共にぼくの背中が踏みつけられた。

 

痛った!

 

「火憐だぜ!」

 

「月火だよ!」

 

「「二人揃って──」」

 

名乗らなくても知ってるよ、ファイヤーシスターズ──

 

「「炎炎ノ姉妹団(ファイヤーシスターズ)!!」」

 

読み方は合ってるけど変な当て字が!?

 

ぼくは踏まれた背中の痛みを忘れ、思わずツッコんでしまった。

 

「いやー、中々いい漢字だろ? むーくん」

 

いや、ダメだろ。

 

色々と。そもそも団と呼べるほど人いないだろ。

 

「えー……せっかくいい感じのヤツ考えたのに〜」

 

「むーくんには寛容さが足りないかもね」

 

素直に栂の木二中のファイヤーシスターズで我慢しておきなさい。

 

「ちぇ〜」

 

火憐は残念そうに言う。

 

というかそもそも! 火憐、お前は何処に隠れてたんだ?

 

サイドテールな中学生に聞くと、不思議そうな顔で見つめてくる。

 

「いや、普通に窓から来たけど」

 

何を言ってるんだこの人は? とでも言っている顔で当然のように言い放った火憐の言葉にぼくは急いで窓から外を見る。

 

おまえ……マジか。

 

よく見ると阿良々木亭の窓がひとつ空いていた。そして、カーテンがヒラヒラとそよ風で靡いている。

 

フィジカルお化けかよ。というか危ないからやめなさい。スゴイよりも心配が勝っちゃうよ。

 

「むーくん。危ないからやっちゃダメなんて言わないでくれよ。もし、むーくんの家が地震雷火事親父に遭った場合、あたしが助けられるなら躊躇なく同じことをするぜ」

 

三つ目までは災害だが、親父は違う。

 

「じゃあさ、ドラえもんのカミナリ親父は何なのさ」

 

あれは怒る時の声がカミナリが落ちるみたいだから表現として言われているのであって……って話を逸らすな。とにかく、非常時以外では窓から飛び移ってくる事は禁止だ。

 

「しょうがないなあ」

 

火憐は渋々了承したが、この返事の仕方はまた同じことをやるだろうな、とぼくの勘が囁いてい。

 

「んじゃあ、あたしもアイス食べていい?」

 

別にいいよ……。

 

どうせ火憐も食べるだろうなって思って買って置いてあるものがあるし。

 

「火憐ちゃん! アイスを食べる前に大切な会議があります!」

 

「ハッ! そうだった!」

 

「むーくんは出ていって!」  

 

え?

 

「そうだそうだ!」

 

いや、ここぼくの家でぼくの部屋──

 

ポイっ、バタン。ガチャ。

 

ぼくは何故か自分の家なのに追い出されるという理不尽な出来事に遭った。

 

 

 

 

019

 

 

 

 

 

羽川さんの件から数日前。ぼくはあまり乗り気では無かったが忍野メメのお礼として暦はちょっとした仕事を受け入れ、神原と暇していたぼくを引き連れ、その神社に向かった。

その時、ぼくと暦はある少女と再会していた。

 

千石撫子(せんごくなでこ)

 

月火ちゃんと同学年の中学生で、ぼくの周りにあまりいないタイプの人見知りで内向的な少女。まあ顔馴染みという奴だ。彼女の学校では「おまじない」が流行っており、それは所謂、呪いと呼ばれるものであり、彼女はそれに巻き込まれて怪異に取り憑かれた。

 

呪いに遭ってしまった経緯はこうだ。千石撫子はある日。クラスの男の子に告白された。だが、千石撫子はそれを断った。するとその男の子のことが好きだった女の子にその呪いをかけられたという。本来なら素人が扱える呪いでなく発動さえしないものだが、撫子の対処が悪く、良くないものが集まる北白蛇神社で呪いを解こうとしたところ蛇切縄が本当に発動してしまった……。

 

結果的に、忍野の助言を得て千石撫子は助かっている。呪いはかけていた本人たちのもとへ還り、その後は知る由もない。まぁ、自業自得というやつかも知れない。人を呪わば穴二つ、と言うのかな。

 

そして、今話した千石撫子がぼくの目の前にいた。にっこりと、年相応の笑顔を見せながら。

 

「こんにちは」

 

帽子と前髪で隠された目は見えなかったが、口元は笑っていた。

 

久しぶり……というには早いかな。

 

「うん、大体一週間だね」

 

成程。

 

クスクスと、撫子ちゃんは笑う。

 

(むじな)お兄ちゃんはこんな所で何をしているの?」

 

……知り合いの妹たちに自分の家から追い出されたとは言えなかった。彼女はぼくと暦の事をお兄ちゃんと呼ぶが、決してぼくらが呼ばせているわけではない。そう、一人っ子の撫子ちゃんが兄に憧れているとか、そんな感じではなかろうか。

 

あぁ、ぼくはほら、天気が良いから散歩だよ。

 

「……? 今日は曇ってるよ?」

 

ドンヨリと くもが流れる 今日この頃。

 

撫子ちゃんの頭からハテナマークが浮かぶのが見える気がする。

 

……撫子ちゃんは何してたの?

 

ぼくは露骨に話を逸らした。

 

「撫子はね、本屋さんに行ってたの」

 

そういえば、撫子ちゃんは本を好んでいたような、そんな記憶がある。

 

へぇ、何か買ったの?

 

ぼくは撫子ちゃんの抱えるモノを見ながら問いかける。

 

「今日は何も買ってないよ?」

 

本屋の紙袋を抱えていたからそう思ってしまったが違っていたらしい。では、この袋の中身はなんだろうか? とぼくが考えていると、その袋が目の前に差し出された。

 

ん?

 

「え?」

 

シバシチンモク

 

えーっと……これ、なに?

 

ぼくは撫子ちゃんに紙袋を指差しながら聞いた。

 

「何って……これ、貉お兄ちゃんが貸してくれたパーカーだよ?」

 

……それを聞いてようやく思い出した。撫子ちゃんの怪異の件で、なんやかんやあって(旧スク水に身を包む少女を見て)これはよくないと思ってその日羽織っていたパーカーを貸したんだった。貸し出した時、後ろの二人が「えーっ」という顔付きになっていたのでデコピンをしておいた。

 

「あ! 大丈夫。ちゃんと洗濯したから綺麗になってると思うよ?」

 

別に、こんなの捨ててくれてもよかったのに。

 

ぼくは手渡された紙袋を抱えながらそう言った。撫子ちゃんはぼくと紙袋を交互に見やり、首を傾げた。

 

……? どうしたんだい、撫子ちゃん。

 

「暦お兄ちゃんに水着を返した時、喜んで居たから貉お兄ちゃんも喜ぶものかと思って」

 

暦。あぁ暦。あなたはなんて罪な男なのでしょう。こんな無垢な中学生女子に数秒で偏見を植え付けてしまうなんて……あとで戦場ヶ原にチクるか。

 

うん、まぁモノがちゃんと返ってくることは良いことだね。

 

「うーん……?」

 

にっこりと、好青年らしく笑顔で言ったのだが、反応が著しくない。

暦はいったいどれたけ喜んだんだ。中学生女子に水着を返されただけで。いや、だからこそ喜んだのか。そりゃあ変な偏見持たれても仕方がない。

 

そうだ、撫子ちゃん。今、時間あるかな?

 

「うん、大丈夫だけど」

 

ちょっと付き合ってくれないかな──

 

「え!?」

 

時間潰しに。そう言い切るよりも早く撫子ちゃんは何故か驚いていた。

 

実は、(ファイヤーシスターズに家を追い出されたから)時間を潰さなきゃいけなくてね。それに少しだけ付き合って欲しいんだ。

 

「そ、そうだよね、時間潰しに、だよね! うん、撫子はだいじょぶだよ!」

 

少し頬を赤らめた撫子ちゃんに疑問を持ちつつも、ぼくらは近くの喫茶店へと向かうことにした。

 

後々考えればこれ、高校生が中学生ナンパしてデートしてるようなものじゃん。と気づいた。

 

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