コードギアス~反逆のルルーシュ~ 過去(?)に戻りし魔王 作:ダラダラ@ジュデッカ
すっかりと壊れ果てた廃墟の中。
薄汚れたその中で、最初に見たのは、何かに破壊されたように崩れている瓦礫ばかりだった。
廃墟の一部が壊れているのだろうか、一筋の太陽の光が廃墟の中に差し込んでいる。
差し込んだ光は不思議な事に、どう見ても廃墟の中――というより、このような場所には到底縁のないような容姿、格好をした青年にスポットライトを当てているかのように照らす。
日の光によるスポットライトとは中々しゃれているが、そんな事はどうでもよかった。
しかし、見方を変えてみれば、まるでその青年をその場が、そして世界が待ち望んでいるかのような―――光の差し込み具合から、そのようにも見て取れた。
神々しい何か―——それが青年のこれからを照らしているかのようでもあった。
「くっ……」
ぐったりとした様子でその場にうつぶせの状態で倒れていた青年が小さく唸る。
小さく唸った青年は、微かに指を動かし、自身が生きている事を確かめた。
そして、ゆっくりとした様子で青年は立ち上がると、じんじんと痛む頭に手をやり、顰め面を表面に出しながら呟いた。
「……一体何が起こった? 何故、俺はこんな場所にいる……?」
青年が眉間を険しく寄せながら呟く。
この青年―――神聖ブリタニア帝国第99代唯一皇帝“であった”ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの頭に浮かぶのは、自分自身を巻き込んだ赤く輝く不思議な壁のような物体。
原因である物体には、ギアスの紋章がくっきりと浮かんでいた。いきなりの発現にルルーシュ自身も全く理解できない状況でもあったが。
ギアスの暴走か、と問われればそれは違うと断言できる。少なくとも、あの魔女―――『C.C.』と呼んだ彼女は、そのように言い切るだろう。
元々、“ギアス”と呼ばれる力にはこのような力は存在しない。ああ、そうだ。そのような力があってたまるものか、とはルルーシュ自身もそう考えている。
しかし、いくらC.C.といえど、此度の例については予想外に違いない。
C.C.でも理解不能というのならば、ルルーシュが分からないのも当然なのだが。
「とりあえず、俺のギアスが発動しているわけではなさそうだ。何故か収まっている……」
特殊なカラーコンタクトを外したわけではないので、そもそもギアスが発動する筈が無い。いや、そう信じたい。
それが何故、あのような現象を巻き起こしたのか。予想外の事が多すぎて、思考が乱れる。
「……ともかく、今は周りの状況を確認しなければな。見たところ、どこかのゲットーのようだが……くそっ、頭がまともに動かん」
思考を巡らせても仕方が無いと判断し、ルルーシュは歩みを進める。
廃墟の様子からして、どこかのゲットーなのは間違いないだろう。この修復のされていなささと、何処か懐かしいと思わせられる光景。
黒の騎士団と学園生活という二つの顔を持っていた時に散々見た光景であったので、懐かしいと思ったのかもしれないが、それも所詮は過去の事。
今や、ブリタニア帝国の皇帝にまで上り詰め、世界を支配した男。その時の幻想を追い求めたところで、意味などない。
と、ここでルルーシュは急に立ち止まり、少しばかりおかしい事に気付く。
(……おかしい。確か、ゲットーについては優先的に復興作業を行わせていた筈だ。俺が皇帝になった……いや、ナナリーが総督になった時には既に…)
ルルーシュが不思議に思ったのは、この建物の損傷具合もそうだが、工事をしている割にはそんな音が聞こえてこない事だ。
ゲットーの修復は、妹であるナナリー・ヴィ・ブリタニアが優先して行わせていた案件でもある。
目が見えなくとも、ゲットーの惨状を聞き及んでいたナナリーが復興作業を行わせていたことを、ルルーシュは知っている。
工事が途中で中止されたという事はない。まあ、日本人とブリタニア人の確執は根深いものがあるが、それでも総督、あるいは皇帝の指示に逆らおうとするものなどいないに等しい。
ナナリーはともかく、相手は悪逆皇帝だ。逆らえば何をされるかという事ぐらい、頭の中にあるだろう。
(案外近くに飛ばされたと思っていたが……俺の見解違いか?)
ギアスの発現といえど、所詮はその程度だと思っていたルルーシュに若干の狂いが生じ始める。
一体ギアスはルルーシュに何をさせたかったのか。
これから死のうと決めていた、いや、死ななければならなかった矢先にどこか途方もない場所へ飛ばしたのもそうだが―――この力の真意が見えない。
(守ろうとしたのか? この俺を? ……余計な事を)
もしもそうならば、ギアスに対して憤りを隠さずにはいられない。
憎しみの象徴であるルルーシュを討つ事で成就する『ゼロレクイエム』を失敗させただけではなく、ただ個人を守る為だけに摩訶不思議な力が発現する事実に。
ルルーシュが討たれた所で、所詮世の中は仮初の平和になるだけなのかもしれない。だが、それでも。少なくとも、暫くは安息の日々が生まれる筈だった。
ルルーシュという悪逆皇帝を反面に、誰もが安心して明日を迎えられる世界に―――そんな世界に、する筈であったのにも関わらず。
(そう……そんな世界に、俺は―—。だからこそ、俺は死ななければならなかった! 俺という害悪を消す事で、世界は!)
憤りを隠せず、ルルーシュは握りしめた拳を右横のコンクリートでできた壁に叩きつける。
ゼロレクイエムは、ルルーシュが死んで初めて成就するはずであったのに、それすらも適わないのか。
あのような台詞を吐き捨てて消えた以上、ルルーシュが消えたとしても恐怖というものは拭い去れない。それでは駄目なのだ。いつまでも、ルルーシュが何処かにいるという“恐怖”を植え付けては。
其処まで考えたところで、薄暗い建物を抜けたのか、ルルーシュの視界が開けて明るさを取り戻す。
視界が開けた事に気付いたルルーシュは、ふと考えを巡らせるのを止めて外の様子を眺めた。
だが、外の様子を見た瞬間―――ルルーシュの目は限界まで開かれ、驚愕したような表情で数歩後ろに下がった。
「な、何……? これはどういう、事だ…?」
ルルーシュの視界に映ったのは、全く整備されておらず、荒れ果てて朽ち果てたゲットーの様子だった。
その建物は高台に存在したのか、ゲットー内があらかた見渡せる位置に存在しており、ゲットーの様子をこれでもかというくらいに鮮明に映し出していた。
廃墟がずらりと並び、ボロボロの服を纏っている人々に、生気の無い目。
子供に至っても元気に走り回っている様子などなく、寒そうに毛布に包まっている姿が映る。
おまけに、その全員が日本人だった。少なくとも、ブリタニア人ではない事は見て分かる。
「……馬鹿な! 何なんだ、この現状は! 日本は開放され、復興作業は進んでいるはず…! だが、この現状はなんだ!? まるで……あの頃じゃないか!」
信じられない現状に、ルルーシュは叫ばずにはいられない。
傍から見れば、ルルーシュが不思議に見えるだろう。ルルーシュの傍には幸いな事に誰もいなかった為、その言葉が聞かれることはない。
だが、ルルーシュはまたも予想外の現状に困惑せざるを得ない。
少なくとも、こんな酷い状態は―――自分が反逆を決めた、あの頃とほぼ同等ではないか。
「何も進んでいなかったというのか? 俺が……俺達が目指した、世界は…」
だが、それはそれで不思議だ。
飛ばされて日数が経っていないのか? それとも復興作業など蔑ろにされているのか?
―――いや、考えてみれば無理もない。世界中がルルーシュを敵視していた以上、悪逆皇帝の命に誰が従うものか。
それに、元々いがみ合っていたブリタニア人がゲットーの修復を喜んでやる筈がない。先ほどはああ考えていたが、影ではそのようにしていたのかと。
理由を合理化し、ルルーシュはくくっと声を出して笑った。何を今更。ブリタニア人と日本人の根はそう簡単に修復できないほどに深いというのに、驚いてしまった自分が恥ずかしい。
「……ふっ、そういう事か。考えてみればどうとういう事はない。そういう事か……」
歯痒さのあまり、ギリッと歯を強く噛み締める。
何も変わっていない。あの頃―――反逆を決意した、あの頃と。
結局は自分達が良ければ、何でもいいのか。こんな世界で何がいいのか。
(結局……俺が立たねばならないという事なのか…? あの頃のように……いや、あの頃とは違う。全てが―——)
今のルルーシュには母も、ましてや最愛の妹すらいない。
全ては皆が安心して明日を迎えられる為に。また、再び反逆の狼煙を上げねばならないという事なのか―――
(だが、俺の事は世界中の皆に知られている。誰が悪逆皇帝などに手を貸すものか。悪逆皇帝が正義を名乗ったところで、誰がついてくるものか……)
今になって、己の過去を呪う。
それならば、今もこうして外に出ているのは危険でもある。皆が、いや世界中がルルーシュという存在を憎んでいる以上、下手に表に出るのは愚の骨頂。
「隠れる事しか出来ないのか、俺は……!」
悔しさのあまり、拳をグッと握り締めたその直後。
「に、逃げろぉぉぉぉぉぉ!!!」
恐ろしく甲高い声がルルーシュの耳にまで聞こえてきた。
その声にルルーシュは意識を覚醒させ、その声がした方に目線を向ける。
すると、其処には少人数の日本人が走っている姿と、それを追う茶色に染められたKMF(ナイトメアフレーム)の姿。
そのKMF(ナイトメアフレーム)は、既に旧式と化している筈であるグラスゴーが、日本人達を追っている姿だった。
「あれは……グラスゴーだと!?」
ルルーシュが驚くのも無理はない。
KMF(ナイトメアフレーム)の初期量産期でもある第四世代に相当するグラスゴー。
もはやルルーシュ達にとっては旧式に過ぎない機体であるが、それが目の前で堂々と使用されている。
別にグラスゴー自体が全て消えたわけではないが、日本に至っては全て最新型KMFに配備している筈だ。
残っていても、精々サザーランドクラスが精一杯で、グラスゴーはもはや生産もしていないKMFシリーズの一つである。
ここが日本だと決まったわけではないが、ルルーシュにはここは日本の土地だという勘に似たような物を感じていたのだ。だからこそ、グラスゴーの存在に驚いた。
グラスゴーは脚部に装備したランドスピナーと呼ばれる車輪のような物を駆使し、すぐさま逃げまとう日本人達に接近する。
その手にはアサルトライフルが握られており、その銃口は一直線に必死で逃げる日本人達に向けられている。
「やめろ―――!」
ルルーシュの声など、グラスゴーのパイロットに届く筈が無い。
グラスゴーのアサルトライフルから銃弾が勢いよく飛び出し、その銃弾が日本人達を貫く。
少しの間だけ彼らの断末魔が聞こえ、すぐに静かになる。
グラスゴーはその場にいた全員を始末したのを確認すると、再びランドスピナーを駆使してゲットーの中へと消えてゆく。
気がつけば、ゲットー中のあちらこちらでKMF(ナイトメアフレーム)が右往左往し、虱潰しをするかのように日本人を掃討していた。
「これは、シンジュク事変……? 馬鹿な、そんな事が……」
思い出すのは、ギアスという力に出会った最初の事件の事。
あの時、ルルーシュは力を授かり、知恵を駆使してクロヴィスを殺したあの時。
そして、ゼロとして立つことになる最初のきっかけ―――今目の前で起こっている惨状は、あの時の事件にそっくりだった。
「まさか……」
瞬間―――。
ルルーシュの脳裏に、ある言葉が過ぎる。
非科学的だと内心では否定していた。そんな事があるはずが無いと、自分で結論付けていた。
だが、現状はそうではない。あの時の事が鮮明に思い出された。
とどめに至ってはこの何処かで見た事のある事態―――考えていた仮説で、もっとも否定したいものが、浮かび上がってきた。
「俺は……過去に戻ったというのか……?」
もっとも否定したい現象―――逆行。
神聖ブリタニア帝国第99代唯一皇帝であるルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは、過去…あるいは、過去と似たような世界に逆行した。
「馬鹿な……! あり得るか、そんな事が!」
その事実が、その衝撃が。ルルーシュの脳裏を高速で過ぎ去るのだった―――
■
ブリタニア帝国の指揮様陸戦艇G-1ベースの中で、ゲットーの様子を確認している二人の姿がある。
両者共に上級士官なのか、このG-1ベースの指揮を任される程のようであり、二人のうち、緑髪をしており、眼鏡をかけた若い方が広がっているゲットーの地図を指し、ぐるりと丸を描く。
「データを奪った“コソ泥”はこのキリシマゲットー3-28から7-35までのエリア内に潜伏していると予測されます。逃走コースを見てからも妥当な所でしょう」
「随分と広範囲なものだ。だが、もはや袋の鼠だな」
「姿を消したのが1350時ですから、このエリア内からは未だ抜けだせていないかと。
ゲットーへの包囲網は完全に敷きましたし、敵は指令の仰る通り標的は袋の鼠。虱潰しに探せば見つかるでしょう」
「しかし……名誉ブリタニア人の中に、テロリストが混じっていたとは。更に易々と進入を許した挙句、データまで奪われる結果になるとはな」
「ご苦労な事にIDまでもばれないように偽造しての侵入ですからね。ですが、後先を考えていない点は詰めが甘い所ではありますが」
顎に手をやった指揮官に対し、緑髪の男はかけている眼鏡をやや上げながら淡々と述べる
イレヴン―――日本人の呼び方だ―——に軽々とデータを奪われたのは、屈辱の文字以外ない。しかし、逃げ込む先は予想していたため、追撃は簡単だった。
更に―――今回の事情を利用してゲットー内の“汚物”をも粛清できる。テロリスト、更にはブリタニア人にとっての厄介者まで始末できるとは。
「二個大隊を動因してまでの追撃戦だ。逃げ切れる筈が無かろう」
「それはそうでしょう。ゲットーが彼らの庭とて、退路を絶てばどうにもなりません。必死の抵抗を見せるでしょうが、それも時間の問題かと」
「グリムズのいう通りだな。それに、ゲットーに潜伏しているテロリストを一網打尽にせよという命令も共にこなせる」
どうやら緑髪の男はグリムズという名前らしい。
グリムズは地図から目を離し、その視線をモニターの方に向ける。
順調に作戦は続行している様子が映し出されており、日本人達を無差別に攻撃する様子にグリムズは笑みさえ浮かべた。
「しかし、上には何と報告するおつもりで? あまり気にはしないとはいえ、それなりの理由を用意しておきませんと危ないですよ」
「分かっている。クロヴィス殿下には、ゲットーを使った大体的な軍事演習と報告すればよい。
まさか、イレヴンにデータを盗まれたなどと、不名誉な事は報告できまいからな。それに、あの御方は地方の事など興味すら持たないだろうが」
「それは確かに。武人でもない文化人が出張ってきても、何の意味もないというのに」
「―――口を慎め、グリムズ。だが、お前の言っている事も一理あるな、ハハハ」
グリムズの言葉に、指揮官は軽く笑いながら大きく頷く。
しかし、グリムズがモニターから目を離す事はない。映し出される映像を凝視するかのように見ているだけに止まった。
「さて、何事もなければいいのですがね……。本当に」
後ろに控えている指揮官を余所目に、グリムズはそう呟くのだった―――