コードギアス~反逆のルルーシュ~ 過去(?)に戻りし魔王 作:ダラダラ@ジュデッカ
ルルーシュの目の前で行われている大量虐殺とも等しい行動。
鳴り止まない銃声。とても聞いていられないような人々の叫び。乱れ飛ぶ大量の血痕の数々。
強者が弱者を虐げるのは当然の行為。その考えの下、神聖ブリタニア帝国という国は中華連邦やEUと違って繁栄を続けてきた。
一時とはいえ、ルルーシュも皇帝となった身。その考えは十分に理解できている。
―――が、それでは駄目なのだ。
「フフ……フフフフ」
ルルーシュは目の前で起きている現状を他所に、気味悪く笑い始める。
あまりもの酷い光景に笑うしかないか、と言われればそうではない。
寧ろ、それよりも変わらない現状に怒りがどんどんと込み上げて来るのが自分でも分かった。
神聖ブリタニア帝国の全てを壊す―――あの頃のルルーシュは弱い立場にいた。だからこそ、虐げられる苦しみは十分に分かっている。
ナナリーや母の為ではなく、今度はこの世界の為に―――立ってみるのも悪くは無い。
その為の力が、ルルーシュにはある。
『ギアス』という名の、絶対の力が。
――己を破滅に導いた力であるが、一度捨てた命。世界が変わらないというのならば、もう一度自らの力で変革を起こすしかない。
「世界が変わらないというのならば……俺が変えてやる。そう、過去だろうが、何であろうが……!」
鋭い目付きで、ルルーシュは行動しているブリタニアのKMF(ナイトメアフレーム)を睨む。
何も分かっていない、愚かな者達を粛清する為に。
あの時叶わなかった、人々が再び穏やかな明日を迎えられる世界に―――
「もう一度、立ってやる……!また、あの時のようにな…!」
魔王が、再び世界に対して反逆を上げる――その決意を固めた瞬間であった。
■
“キリシマゲットー”の片隅で。
ブリタニア軍が包囲網を敷いたエリアよりも少し離れた場所に、その人物達はいた。
其処にいるのは、二人の人物。だが、両者共に表情を顰めており、その場には重々しい空気が流れている。
「……葉月は、まだあの包囲網の中か」
「そうです、父上。吉村が数人を率いて包囲網の中に侵入しましたが、未だに連絡はありません」
「……そうか」
黒髪の若い青年が、椅子に腰掛けている――およそ五十代くらいであろうか――男に淡々と、不気味なくらい冷静に報告する。
男は目を閉じたまま何も言わないが、その体は小さく震えている。
葉月という人物が内心で心配なのと、こうなる事は最初から容易に予想出来た事に対し、自分を諌められなかった怒りが両方込み上げてきている状態にあった。
若い青年は、男の様子を知ってはいるものの、彼自身が何も言う事は無い。ただ、恐らくは包囲網が敷いている方を向くだけである。
しばらくの沈黙。
そもそも、こんな事態になったのは、このレジスタンス—――通称『紅(くれない)グループ』の活動によるものが大きい。
彼らの今回の行動目的は、ブリタニア軍における重要データを奪取すること。
その為に仲間の一人を名誉ブリタニア人とし、軍部に潜入させる事で機密データの一部を持ち出すという作戦を敢行したのだ。
作戦の立案者は、紅グループのリーダー的存在である紅照月。このキリシマゲットーに本拠を構え、元日本解放戦線の一員でもある。
しかし、照月は現状の日本解放戦線では到底日本を解放できるはずなどないと見限り、自分でレジスタンスを組織した。
それが紅グループである。組織の規模こそ小さいのだが、照月にとっては十分の人材を集めたつもりだ。
もっとも、この作戦の裏には当然スポンサーがおり、その伝手で今回の作戦は決行されたともいえる。
スポンサーが望んだとあれば、無下には出来ない。が、流石にこれはまずい展開であろうが。
そして、照月に報告を行った青年が、紅黒月という。彼は照月の息子であり、この紅グループで№2の存在。
今回のブリタニアのデータ奪取については難色を示していたが、父である照月の方針、そしてスポンサーの意見を曲げるわけにもいかない。しかし、結果はこれだ。
「お前の言う事を、もう少し冷静に聞いていれば良かったのかもしれんな……」
「今更後悔しても始まりませんよ、父上。それに、葉月……いえ、妹とてナイトメアについての操縦は此処の誰にも太刀打ちできない程の力量になっています。あいつを信じるしかありません」
「分かっている…。が、たった一機でどうにかなるものか…」
葉月というのは、照月の娘であり、当然黒月の妹だ。
軍部に潜入した仲間の迎え兼護衛という名目があり、スポンサーである“キョウト”からの支援で届いた無頼(ぶらい)をこの中では一番うまく扱えるほどの力量を兼ね備えている。
それこそ、当初は黒月が行く予定であったが、彼女が立候補した為に彼女に託した。
だが、ブリタニアも二個大隊が動いている現状、たった一機のナイトメアがあった所で、どうなるかは目に見えている。
「……奇跡でも起きれば、話は別だが」
「『奇跡の藤堂』、『不屈の三浦』などという偉人は過去におりますが、我々などにそのようなものが起きるとは限りません。
それに、奇跡などという曖昧なものに頼っていては……未来は見えませんよ、父上」
「現実主義だな、お前は……」
「そういう性格でして。それは父上も理解しているでしょう?」
「……そうだな」
そういって、黒月は照月から離れるようにして歩き始める。
照月は、そんな黒月の様子をただジッと見ている事しか出来なかった。それこそ、自分が動く事も。
「……だからこそ、貴方はここから上に這い上がる事すら出来ないんですよ…父上」
黒月は父の情けない様子に若干苛立ったように呟き、足を進めるのだった。
■
ルルーシュは、今まで着ていた皇族の服を隠し、ブリタニアの歩兵が装着する服装を身につけていた。
これは、ブリタニアの歩兵―――そのほとんどが名誉ブリタニア人、つまりは日本人で構成されているが―――の一人からギアスを使い、頂戴したものだった。
服を奪った名誉ブリタニア人を証拠隠滅の為とはいえ、始末してもよかったが、あえてそうはしなかった。
ただ、服を寄越してここから離れろと命令した。ギアスにかかったその名誉ブリタニア人は、勿論反論する事無く、迷うことなく服を脱ぎ棄て、その場を立ち去った。
驚くほど冷静に、一切の迷いすら見せない。それが、ルルーシュに与えられし絶対遵守の力。
『思い通りにならない世界を思い通りにしたい』という願いが具現化した、悪魔の力。
(やはりさっきのは……甘かったか?)
今頃、彼がどうなっているのかは分からない。
ただ、ギアスにかかったとはいえ、戦場でパンツ一丁の男がうろついているのは随分と滑稽な光景だろう。
しかし、彼は奇しくも日本人。情けない格好で本隊に合流しようものならば、既に始末されている可能性は高かった。
(だが、こうするしか方法はない。嘗ての俺ならば、遠慮なしに死ねと命令していたような気もするが)
過去の自分を振り返り、ギアスに掛かった者の末路を決めていた自分を笑う。
随分と甘くなったな、とC.C.が見ていたら笑っていただろう。
実際、ルルーシュとしても、自分がこうも甘くなった事に対し、内心で驚きを見せている。それを決して表面に出さないのは、自分でも理解しているからであろう。
(しかし……酷い光景だな)
死体が至る所に転がっており、死んでいった者の中には何が起こったのかさえ分からなかった者も数多くいただろう。
いきなり現れ、いきなり命を奪われた。この作戦でどれほどの命が失われたのだろうか。
(……考えている暇はないか。さて、まずは…)
現在、ルルーシュが目指しているのはナイトメアの奪取であった。
シンジュク事変の時もそうであったが、ナイトメアを奪取する事で敵の情報や位置が正確に分かる。後は反抗勢力にさえ連絡を取れれば、勝機は得たも同然。
その為には、まず敵機の位置を知れる物……それこそナイトメアが必要となる。
出来れば高性能の―――グラスゴーではなく、サザーランドクラスの機体が欲しいところだ。
(前はヴィレッタから奪ったが、シンジュクとは地形が違う。別の場所と捉えた方がいいか)
ここがシンジュクでない事ぐらいは、既にルルーシュも理解していた。
シンジュクならば、ルルーシュもある程度の地理は頭に入っている。が、ここは全く別の地形をしており、その可能性は限りなく低くなった。
しかし、やる事に変わりは無い。ブリタニアは現在、慢心に満ちている筈だ。
実際、ナイトメアに乗っているパイロットとて、殆どはG-1ベースに待機しており、稼動しているのは十機にも満たない。
後は、歩兵や装甲車で十分。些細な抵抗しか出来ないレジスタンスはまだしも、他は名誉ブリタニア人にもなれない一般のイレヴン達。始末するのに問題などある筈が無い。
だが、その慢心こそが形勢を逆転する大きな要因となる。
「さて、丁度いい所に……」
ルルーシュの目に、一機のサザーランドが映る。
戦局を見ているだけなのか、それとも最新鋭機がこの程度の戦場――いや、もはや見るに堪えない惨状と化しているが――にて、このサザーランドがまず動く事は無い様子。
この時代において、最新鋭機でもあるサザーランドが出る幕でもないという現われでもあるのだろう。
「あれを手に入れれば、後はシンジュクの時と同じだろう。……いや、反抗している人間がいればの話だろうが……さて、どうかな」
それに、移動手段が手に入る事も大きい。イレヴンの追撃のふりをして護送用の貨物列車に近づく。
列車線路が存在していたのをルルーシュは既に確認しているし、ナイトメア輸送用の列車が運行しているのも確認している。
自分が最初に位置していたあの高台は、その点において非常に有効だった。
これ以上、ナイトメアが必要な事態にはならないだろうと踏んでいる筈のブリタニア軍にギアスをかけるなど造作も無い。
ルルーシュは、そんな思考を巡らせながらも待機中のサザーランドに近づき、先の歩兵が持っていた通信機器でサザーランドのパイロットと連絡を行う。
『何だ、貴様は』
「番号54897867です。至急お伝えしたい事がありまして、連絡をいたしました」
『連絡だと? 其処からすればよかろう』
「それが……直接申し上げたい事でして」
『……チッ、分かった』
盛大に舌打ちをするのが聞こえたが、ルルーシュにとってはそんなものなどどうでもいい。
すぐにサザーランドのコックピットブロックのハッチが開き、パイロットの象徴でもあるパイロットスーツを着たブリタニア人がサザーランドの中から出てくる。
ルルーシュは彼に顔が見えないように少しばかり俯いたまま彼に近づいていく。
「それで、私に報告とは何だ? 手短に済ませ。私は忙しいのだからな」
「ええ……それは……」
「なんだ、さっさと話せ」
妙に口篭るルルーシュに対し、パイロットは苛立ちを表すかのように強い口調で話す。
ルルーシュは、望み通りと顔をあげ、ギアスを発動する為に彼の瞳を見た。
「では……ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる! 貴様のサザーランド、俺に寄越してもらおうか」
「なっ―——」
パイロットの目を見ながら、ルルーシュはギアスを封印していたカラーコンタクトを瞬時に取る。
その目に浮かぶのは、ギアスの紋章。指示するのは、サザーランドを譲る事。
瞬間―――。
「ああ、分かった。これがサザーランドのキーだ」
そういって、パイロットは何の躊躇いもなくルルーシュにサザーランドの稼動キーを差し出す。
ルルーシュは黙って稼動キーを受け取ると、パイロットが降りてきた時に使っていたワイヤーを使ってサザーランドのコックピットへと乗り込む。
そして、稼動キーを差し込み、サザーランドを再び稼動させる。動力であるエナジーフィラーが高速で回転し、サザーランドが稼動できる状態にまでなった事を確認する。
「さて……第一段階はクリア。次は……」
操縦桿を握り締め、ルルーシュはサザーランドを自在に駆りだす。
向かうは貨物列車方面。狙いは輸送されている筈のナイトメアの奪取。
「……あ、あれ?」
ルルーシュがサザーランドで列車の方に向かってから少し立った時、ようやくサザーランドのパイロットだった男は覚醒する。
確か、連絡があると言われて降りた後――彼には全くといっていいほど、記憶がなかった。
「な、何なんだ、一体……? わ、私のサザーランドがない!?」
事態が飲み込めないパイロットにとって、これは当然混乱する事であった。
辺りを見渡すが、自分の愛機であるサザーランドも、報告に来た歩兵も既にいない。
「………? くそ、一体何が起こったのだ……?」
ただ、呆然と立ち尽くす事しか出来なかった。
さて、そんなパイロットなど尻目に、ルルーシュはゲットーの地下に潜り、サザーランドを引き続き駆っていた。
地上では次々と破壊行動を取っている中、ルルーシュはそうはいかない。
別に助ける義理などない。だが、自分の目的の為には、人員がいる。第二段階はそれからだった。
地下にも広大なトンネルがあり、ナイトメアも十分移動できる。ルルーシュはそんなトンネルの内部を頭に叩き込んでいく。これも、後々に必要となる知識であるから。
と、貨物列車待機場所の近くでルルーシュはサザーランドを地上へと動かす。
サザーランドが地上へ出ると、視認出来るのは装甲車三台とナイトメア輸送用の貨物列車。
貨物列車は二台あり、凡そ六機ほどのナイトメアがあると分かる。
ルルーシュはフッと口元を動かした。
「ん? サザーランド?」
「どうして一体こんな所に……? おい、持ち場はどうしたんだ!」
サザーランドが急に目の前に現れた事により、不思議がる輸送部隊。
そんな会話など他所に、コックピットハッチが開かれ、中からパイロットが出てくる。だが、その容姿はどう見ても歩兵であり、ナイトメアパイロットではない。
これはおかしいと思い、二人の軍人が歩兵―――ルルーシュに接近する。
それに感づいたルルーシュも彼らに対して近づくが、その瞳は既にギアスの紋章が浮かび上がっているのだった。
「貴様、何故サザーランドに…「黙って貨物列車をP-04へ移送しろ」
「「イエス、マイ・ロード!」」
ギアスを発動させる事が出来れば、後は造作でもない。
二人の軍人はルルーシュに対して敬礼を行うと、走って貨物列車を指定場所に動かしに掛かる。
そして、今度はそれを守っている装甲車の方に近づく。
(これも使えるな……)
内心で笑みを浮かべ、ルルーシュはゆっくりと装甲車の方に近づく。
全ては下準備。始まりはここからだ。
(見ていろ。俺は再び動く。全てを……世界を、もう一度変える為に)
―――再び動き出す。
己が贖罪を果たす為に。己の罪の清算の為に。
そうしなければ―——ルルーシュ自身が持ちそうになかったから。
■
キリシマゲットー内で、唯一ブリタニアの所属ではないKMF(ナイトメアフレーム)がゲットー内を疾走する。
そのナイトメアとは、真紅よりも少しばかり薄いような赤色のカラーリングを施した――日本がブリタニアのグラスゴーをコピーした機体である――無頼だった。
それを追うのは、二機のV-TOL機。ナイトメアは飛行できない陸戦兵器な為、制空権を握られているも同然だった。
『葉月、そっちはどうだ!?』
「二機の戦闘機につけられてる! でも、問題ないからっ!」
スピーカーから聞こえてくる仲間―――データを盗み出した人物である田代だ――にそう鋭い声で言い放つ。
V‐TOL機は、そんな二人の会話などお構いなしに攻勢を緩める事はない。
しかし、無頼にデータが積んであると思っているのか、今のところは機関銃で牽制している状態にあったのは幸いだが。
銃弾の雨が降り敷ける中、無頼のパイロット――紅葉月は、建物を上手に利用しながら無頼を動かす。
ランドスピナーを駆使しながら滑らかにゲットー内を疾駆する無頼。無頼の動きに、V-TOL機のパイロットは苦虫を潰したような表情に変わる。
『おのれ、ちょこまかと!』
イレヴンにとって、ゲットー内は慣れ親しんだ場所だ。当然、このような地形も日々目にしており、ナイトメアを器用に動かすのも造作ではない。
もっとも、この葉月という少女に限っては、天性の才能があるかのように感じられたが。
『くそっ、こうなったら!』
『待て! 破壊すれば、データごと吹き飛ぶかもしれないぞ! あれだけは無傷で取り戻せとの指示だ!』
『っ…! だが、このまま機銃を撃ち続けたところで、撃墜するには難しいぞ!』
『我慢しろ。それに、もうすぐ増援も来る。それまで、我々はあのナイトメアを追撃するぞ』
『くっ……』
よほど大事なデータなのか、パイロットが諌めるように言葉を放つ。
怒りに任せてミサイルを発射し、建物ごと押し潰そうとしていたもう一機のパイロットだったが、軽く舌打ちをしただけでそれを受け入れる。
が、このままでは状況が好転する事はない。と、パイロットがそう思ったとき、陸戦兵器である筈のナイトメア、無頼が急に自機の前に躍り出た。
『何!? ナイトメアが空を!?』
驚くパイロットを他所に、無頼の胸部からワイヤー式のアンカーであるスラッシュハーケンが射出される。
V-TOL機のパイロットが驚愕の表情を浮かべる中、スラッシュハーケンがV-TOL機に突き刺さり、推進部が破壊されたのか、爆音と共に砕け散る。
『やられた!? くそっ、イレヴン如きに!』
それを見ていたもう一機のパイロットは、無頼を撃墜しようと機関銃の照準を合わせようとするが、それよりも先に無頼は地に着地し、もう一度スラッシュハーケンを放つ事で、撃墜する。
『おのれ、イレヴンめぇ…!』
動揺していた為、照準がうまく合わせられなかったのが敗因か。
いや、そもそも建造物をうまく使って飛び上がるなど、普通のパイロットならばそうは出来ない行動なのだが。
パイロットにそんな考えがあったのかは定かではないが、二機のV-TOL機は立場が逆転されたように撃墜されていった。
二機を撃墜した葉月だったが、戦果を顧みる事はない。今は逃げる事が優先と考え、着地した場所である線路沿いに無頼のランドスピナーを稼動させる。
『やったな、葉月!』
「喜んでる場合じゃないよ! もう次が来る!」
スピーカーから聞こえてくる今にも飛び上がりそうな声にそう返し、葉月はモニターを見る。
画面には自機の周りに敵機を示す赤い光点が広がっており、自分を包囲し追い詰めようとしているのがよく分かる。
「部隊の展開が早いっ…!」
追撃部隊が出てくるのは予想していたが、これほどまでに迅速に行動してくるのは予想外だった。
眉を寄せる葉月だったが、幸いな事に追ってくるのは先と同様のV-TOL機のみ。数こそ多いが、質は此方の方が上だ。
「やれるものなら……やってみなさいよ!」
無頼を駆使しながら、葉月は敵機に向かって叫んだ。
■
「敵のナイトメアを発見したようだな」
指揮している指揮官が図面上に映っている識別信号の違う光点をトントンと指で軽く叩く。
すると、その隣で状況を見ていた緑髪の男で、その指揮官の副官を務めるグリムズが指揮官に対して進言する。
「では、ナイトメアにはナイトメアを。空挺部隊でグラスゴーを輸送し、一気にケリをつけるのが望ましいかと思われますが」
「うむ。空挺部隊の用意は出来ているか?」
「はっ、問題ありません。ただちに出撃させます」
「任せる」
問うと、今度は別の人物が答える。
指揮官は口元を軽く吊り上げると、頷く事で部隊の出撃の指示を出す。
指示を受けた者は、空挺部隊の出撃を指示するべく、モニターの傍から離れた。
「しかし、思ったより苦戦しているな」
「そうでなければ此方側からしてみても面白みはないですから、寧ろこの方がいいのかもしれませんが。
ですが、ナイトメアを当てられれば今までのようにはいきませんでしょう」
「そうだな。それには同感だ」
グリムズの言葉を聞き、指揮官は満足そうに頷く。
だが、グリムズとしては指揮官である上官の態度がどうにも解せない。
(機密データを盗まれたというのに、随分と悠長に事を進めているが……果たして、足元を掬われぬよう、気をつける事ですね……)
ようやくナイトメアの出撃命令が出たとはいえ、それまでの爆撃機による追跡。
いくら包囲網が万全とはいえ、現状のままでは無駄な被害を増やすだけだ。
ナイトメアにも稼働時間があるが、それではV-TOL機のパイロットが無駄に死にゆくだけになる。
(しかし、奪われたデータですか……。一体中身に何が入っているのでしょうかね…)
グリムズにはデータの詳細は分からなかったが、何やら重要なデータが入っているに違いなかった。
外部に漏れれば、間違いなく毒なる――それこそ、猛毒になるデータに違いはない。
(……まあ、そのデータとやらは置いておきましょう。問題は―――)