レースの時系列とかは正直めちゃくちゃです。
ウマ娘、彼女らは走るために生まれてきた、遠い別世界、数多の伝説、感動を生み出した生命の名を受け継ぐことでその体に使命を、魂を宿すと言われている。
「なんておとぎ話の本、昔はよく読んでたなぁー」
始発の電車に乗りながら、暇つぶしに俺は昔の記憶に浸っていた。眠れない夜、ウマ娘達がどのように生まれたのか、なぜ彼女達は走るのか、それをまあ神々だの奇跡の力だので表現している絵本を、
母さんに読んでもらってはよく眠っていたものだ。
満員電車の中、痴漢に間違われないように、極力手を上の方にあげ俺はこのむさ苦しい空気の中を生還しなくてはならない。
「....次の駅は、トレセン学園前、トレセン学園前、まもなく到着いたします。」
車掌のアナウンスが聞こえ俺は慌てて電車の出口を目指す。
「あ、す、すいません、す、すいません!」
謝りながら思いっきり人の波をこじ開けていく。こうでもしないと駅におりれないのだ、田舎に帰りたい。
まあ、ウマ娘なら走って余裕で間に合う時間なのであろうが、いかんせん、俺は人間だ。絶対にここで降りなくてはならない。
出口を必死で目指し、なんとか電車を降りることができた。
駅の改札をでて、徒歩5分で、まるで中世の城を彷彿とさせる建物が見えてきた。これこそ、トレセン学園、俺がトレーナーとしてのスタートを切る始まりの地だ。
...ここからだな。
桜が咲く校庭を見ながら、密かに思いにふけた。
「おはようございます、失礼ですが、入園の際、人間の方にはトレーナーカードの提示をお願いしております。お手数ですが確認させてもらってもよろしいですか?」
学園に入ろうとするとまさに、緑色のキャビアテンダントのような見た目の服装の女性に、トレーナーカードの提示を求められた。
俺はトレーナーカードをだそうと財布を探す、探す、血眼になって、探した。カバン、ズボン、上着、そして気がついた、ああ、これはやっちゃったやつだと。
....さて、どうしましょう
緑色のキャビアテンダントさんの表情が人懐っこいものから段々とゴミを見るような目に変わっていく。
「あの、もしかして、トレーナーカードをお持ちでないのにこの学園に入ろうとしたのですか?...はぁ、貴方のような男性の方、たまにいるんですよ、トレーナーになりすましてこの学園に入ろうとする変態がね...」
やばい、この流れはまずい、登校してくる周りのウマ娘の生徒達の目が完全に不審者を見る目になっている。とにかく、事情を聞いてもらわなければ、
「ち、違うんです!財布落として!」
「財布を落とす?貴方、それ本気で言っているんですか?トレーナーともあろう方が、しかもこのトレセン学園の、トレーナーともあろう方が、トレーナーカードを無くす?自覚がないんじゃ無いんですか?そもそも」
こいつ...マジで殺したい。永遠と続く親の説教のようなものを始めたこいつを尻目に俺はどうすればいいかいまだにわからずにいた、ここから片道を戻って探そうにも、そもそも電車の中で落としていたら元も子もない、とすれば、
「おーい、たずなさーん!」
俺が思考の無限ループに入っているとき、
ひときわ元気な声がその思考を遮った。
「あら、ハルウララさん、おはようございます」
たずなとよばれたこの女は、先程俺に与えていた侮蔑の表情を、
すぐに愛する我が子を見るものに変え、桃色の髪の毛と目をしたウマ娘に挨拶を返した。ウマ娘にしては少し小さめな身長をした彼女、その頭にはウマ娘の耳と、お尻の方に尻尾もきちんと生えている。
「たずなさん!あのね!きいて!私ね、これ拾ったの!」
ハルウララと呼ばれた彼女は見覚えのあるものを意気揚々とたずたさんに渡した。
「!?それ!それ俺の!ちょ、ほら!なか!ほら!」
俺はその財布を慌ててとり、中にあるトレーナーカードをたずなという人の形をした何かに見せつけた。
「....たしかに、トレーナーカードですね、はい、ICコードの確認も取れたので中にお入りください。」
...なんて一日の始まりだよ、内心苦笑しながら俺は学園の門をくぐった。
その後ろをぴょこぴょこついてくる気配がした。
振り返ってみるとさっきの桃色の彼女がいる。
思い返してみると、まだお礼を言っていなかったことに気がついたので
「ハルウララさん、であってるよね?ありがとうございます、ほんとに、マジで終わるところでした。」
そう言って俺は頭を下げて立ち去ろうとした。
しかし、彼女はなぜか凄い笑顔になり
「偉い!お礼が言えるなんて流石トレーナーさんだね!」
と、正直褒められてるのか煽られてるのか分からないことを目をキラキラさせながらいいつつ、俺の肩をたたいてきた。
...やけにスキンシップが激しい子だな。
この子が財布を拾ってくれた命の恩人には変わらないのだが、いかんせんこういうタイプは苦手な性分だ。早く距離を取りたいのだが、彼女はまだ俺についてくる
「ねねね!お兄さんトレーナーさんなんでしょ?私、どう?スカウトしてみたくならない?今日のね、模擬レースも私頑張るから、絶対見ててね!一着取ってみせるから!」
桃色の尻尾と頭に生えた耳をぴょんぴょん弾ませながら彼女は自信満々に俺に宣言してきた。しかし、俺の目的はあいにくこの子ではない、皇帝、シンドリルドルフ、かつて天皇杯、有馬記念、数々のレースで勝利し、無敗の三冠ウマ娘になった彼女の再来とも言われているトウカイテイオー、このウマ娘こそ、俺がこの学園でトレーナーをやると決意した理由だ。この子と契約すれば必ず日本ダービーはおろか、世界が狙える。もちろん、大金も手に入るだろう。まあ、契約金でかなり飛ぶとは思うが。この子には悪いが、適当にあしらうことにしよう。
「え、ええ、わかりました。ハルウララさんのレース、必ず見ますね。」
「ほんと!?約束だよ!約束!絶対見てね!」そう彼女はいい自分の教室へと小走りに向かっていった。....ウマ娘の小走りって鬼はえーのな。
俺もトレーナー室に入り、模擬レースを受けるまでの間、資料などの整理をすることにした。
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晴れ晴れとした空の下、トレセン学園の生徒会長であり、現役最強の馬娘と言われている皇帝、シンドリルドルフからの挨拶が行われていた。
「トレーナーの皆さん、本日は我々のスカウトのためにお集まりいただき誠にありがとうございます。本校はよりレベルの高いウマ娘を日本に、そして世界に輩出するため、優れた環境、トレーニング、食事、様々な面で一流ではなくてはなりません。そして、ここに集められたトレーナーの皆様も一流であります。皆様が契約してくださったウマ娘達は、その光栄な機会を手にしたことに強い感謝と忠義を誓うことでしょう!」
軍服のような服に身を包んだ彼女、その演説は
力強く、まさに皇帝の名に相応しい立ち振る舞いであった。そのあまりの貫禄、プレッシャーに思わず、鳥肌がたった。
「なんて凛々しいんだ」
「くそ。チームに加入してなけりゃ今頃俺が...」
周りから尊敬やシンボリルドルフを手にできなかったことに対しての後悔の声が漏れている。
まあ、過ぎたことはしゃーないよね。
俺は後悔こそあるがそこまでシンドリルドルフを手にできなかったことを悔いてはいない。なぜなら...
「えーとぉー、みなさん初めまして!一応この先発会で選手代表として挨拶します、トウカイテイオーです!」
おもわず笑みが溢れた、そう、こいつの存在がいるからだ。
シンドリルドルフが出した有馬記念の2500メートルのレコード、そのタイムにこいつ、トウカイテイオーは既に1秒差までつめている。2分37秒。この劇的な速さ、まさに皇帝の再来だ。
「まぁー、皆さん僕狙いだと思うんですけど、僕の取り合いで喧嘩したらだめだからねぇー」
トウカイテイオーは周りの敵を本当に目には入らないというように吐き捨て、マイクをシンドリルドルフに戻した。
「...えぇー。品にかける言葉遣いを行ったこと、彼女の代わりに私が謝罪します。、誠に申し訳ございません。さて、トレーナーの皆様、まもなくレースが始まります。各々、観客席の方に移動してください。」
1番人気のトウカイテイオーは三番目のレース、4のゲートから出走するようだ。それまで各ウマ娘達がレースを行なっていたが、トウカイテイオウの走りを見にきたここにいるトレーナー達の目にはほぼ写っていないのと同じであった。
「まもなく、第3レースが始まります、各ウマ娘達はゲートにはいってください。」
アナウンスの声とともにトウカイテイオーと他のウマ娘達はゲートにはいった。
そして、レースが始まった。
その後のレース展開は圧倒的だった。トウカイテイオーは先頭から三番手の位置につき、第四コーナーを抜けるところで一気に先頭集団を引きさり、二着と三馬身もの距離をつけて1着をもぎ取った。いわゆる先行という戦法だ。しかし、ここまで見事な先行を俺は今まで一度も見たことがない。
「凄いとは分かっていたが、ここまでとは...」
あまりの強さに思わず声が出てしまった。そして、しばらく彼女の走りの余韻に浸っていた目の前を、見覚えのある桃色の髪をなびかせるウマ娘が、通り過ぎていった。
「あれは...」
今朝一着を取ると俺に豪語してきたウマ娘、ハルウララだ。まあ、初めから期待はしてなかったがまさかここまでとは....思わずため息が出る。先頭のトウカイテイオー以外のウマ娘もみんなゴールしているというのに、ハルウララはようやく第四コーナーを抜けたところだった。
「なんだあれ、ありゃーだめだな。」
「なんて惨めな走りだこと、よくトレセン学園に入学したわね。」
当然、あまりにも酷いレースを行なってる彼女に対しての罵声が周りで起こっていた。
...まあ、これが現実、だもんな
俺も別にその罵声を気に止めることはなかった。なぜならそれがレースというものだからだ。強いものは讃えられ、弱いものは蹴落とされ、地位も名誉も失う。それがレースだ。だから何も感じない。さらに言えば、トレセン学園とはトレーナーからすればより良い商品を育てる場、つまり、ウマ娘はトレーナーにとって商売の道具なのだ。彼女達が勝てなければ当然我々は食べていけない。金が稼げないウマ娘に優しさを与える、ましてや、そんなウマ娘がこの学園にいる、その事実になにも感じないような、ただ走る彼女達を支えたいという思いを持つ、そんな心優しいトレーナーなど、もうこの世界にいるわけがないのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ、」
もうレーンから出てレースを放棄してもいいのに、明らかに醜態を晒しているのに、彼女は懸命にもがき、全力で、走っていた。
そんな彼女をみて、俺は、なにも感じなかった。いや、なにも感じようとしなかったのだ。努力は才能には勝てないことを、無駄なあがきは醜態を晒すだけなのだと、痛いほど知っているから。
そして、努力して、頑張った人が、捨てられるのを知っているから。
「はぁ、はぁ、はぁ、うんぬぅううう!」
ようやくゴールした彼女はそのまま倒れ込むようにゴールし、
意識を失い、タンカーで運ばれていった。
トウカイテイオウのレースを見たトレーナーは、
もうみるものは見たと言わんばかりに観客席を後にしたり携帯をいじり出したり、各々好きなことをしていた。ハルウララのレースを嘲笑う声も当然聞こえてきた。
俺も他の馬娘には用は無いが、
一応レースは観戦しようと考えていた。しかし、俺の足は自然と医務室へと向かっていた。
少しアルコールの匂いがする廊下を抜け、ハルウララがいる部屋に案内してもらい、中に入った。そこにはベッドの上ですやすやと寝ているハルウララの姿があった。
「...よかった。」
思わず声が口に出てしまった。それほどまでに彼女を心配していた自分に驚いた。...財布を拾ってくれた恩を感じているせいだろうか。そうやって自分を誤魔化し、ハルウララの安否も確認できたから病室を出ようとすると
「あ!トレーナーさんじゃん!」
突然ハルウララの元気な声が耳元に届いた。
驚いて振り返るとそこにはさっきまで寝ていたのが嘘かのようにはっきりと目を覚ました彼女がいた。
「え、ハルウララさんは寝てたんじゃ...」
「えへへー、寝てるふりしてたんだぁー!暇だしすることないもん!でも、トレーナーさんが来てくれたからもう暇じゃないね!やったぁ!」
さあ遊ぼーっと言いながら鼻歌を嬉しそうに歌う彼女はベッドから立ちあがろうとして
「あ、あれ、足に力が...」
「!?あっぶない!」
思わず転びそうになったところをなんとか防ぐことができた。
「...おお!トレーナーさん!ナイスキャッチ!」
彼女は危うくこけそうになっていたにもかかわらず、元気な口調ではしゃいでいる。
ひとまずハルウララをベッドに座らせ、俺も少し間隔を空けて横に座らせてもらった。
彼女を支えたとき、感じたことがある。ああ、この子はとても小さいんだな、と。
そして今横に座り彼女を改めてみるとやはりそうだと確信に変わる。この子はウマ娘でありながらレース上でたたかえる体ではない。ウマ娘達が行うレースの速度は、時速70キロを超える速度である。その中で、激しい位置どりが起きるのだ。つまり、時速70キロで走りながら体のぶつけ合いを、せいすることができる骨格が必要なのだ。そして、骨格は生まれつきのものである。小柄に生まれてしまえば、当然いくら努力しても小柄なのだ。ハルウララは、致命的に骨格が小さい。筋肉量も足りない。つまり、走る才能が
「ねね!トレーナーさん!」
俺が思考にふけているところを遮るように彼女は近づいてきた。俺はその近付かれた距離分離れて座り直し、努めて冷静に「なんですか?」と聞き返した。
「私のレース見ててくれたんでしょ!ありがとね!どうだった?私頑張ったよ!」
純粋な目で、惨敗したことに対してまるでなにも感じてないかのようなその目で、彼女は俺に自分の走りがどうだったかを問いただしてくる。
「いやー、みんな早いよね、うん、私もいっぱい練習したんだけど、全然だめだったや」
あはははは、そう元気に笑う彼女は頭をかきながら、でも、と続ける。
「でもね、すっごく楽しかった。」
それは当たり前のことだと言わんばかりに真っ直ぐな声で、日常の挨拶するかのように彼女の口からさらりと出てきた。だからこそ、
その言葉に、俺は衝撃を覚えた。怒りを覚えた。そして思わず、口をついてしまった。
「楽しい?あの惨敗が?あそこまでこけにされ、嘲笑れたことが?楽しい?なにを言っているんだ君は!悔しくないのか!?普通は嫌だろう!君も聞いていたはずだ!トレーナー達の言葉を!罵声を!なのに、楽しい?意味がわからない、全くもって、大体、君の体は」
しかし、俺の言葉は、彼女のその強い眼差しで、強い言葉で、続かなかった。
「私ね、走るのが好きなの。」
それは。今までの元気な少女だった彼女がみせた、初めての表情だった。まるで、最愛の人に愛をつたえるかのような、そんな声で、彼女は走るのが好きだと、もう一度言った。
「どんなに笑われても、情けない姿でも、私は走るのが楽しい。楽しくて楽しくて仕方ないの。それに、商店街のおじちゃんとか、おばちゃんとか、お母さんとか、みんなね、私がレースに出てたら喜ぶんだよ、ウララちゃんの走る姿を見ると元気が出るーって、だからね、私もただでさえ走るのが好きなのにもっと走ることが好きになるの。」
彼女はそこで言葉を区切り、こう続けた。
「だから、私は、いつか勝ちたいんだ。
きっとね、レースで走って、ドベになってる私を見てみんな元気になるんだったら、私が1番になったらもっと元気になってくれると思うの。だから、私はね...」
それまで自分の手元を見て話していた彼女は俺の目を見て、真っ直ぐに、こう続けた。
「何度だって諦めないんだ!」
そう言ってまたいつものようににっこりと笑い、そっと開けた分の距離を縮めてきた。
「ありがとね!トレーナー!私の走りを見てくれて!」
そう元気に微笑む彼女に、俺は...
「ハルウララさん。」
もしも、好きという気持ちで掴めるものがあるのなら
「?なぁーにぃー?あ、ゲームしたくなったの?いいよぉー、私ねー、二人で遊べるオリジナルのゲームを考えたんだー!凄いでしょ!えっとねぇー」
感情の高鳴りを感じる。あー、なんて希望的な観測を俺はしているんだ、馬鹿だやめたほうがいい。そんなことは、わかっている。でも、もう望んでしまったんだ。
好きという感情で掴めるものがあるのなら、
努力だけで掴めるものがあるのなら、
才能を持たないものが救われるそんな、夢物語な未来があるのなら
俺は、それを見せれなかった自分自身に
「ねー!トレーナーさん!聞いてる?ルール説明してるんだけど!」
何よりも、ただ真っ直ぐなこの子自身に、
「俺と、レースで、勝利をめざさないか?」
「...へ?」
その掴める何かを、見せてみたい。
コメントとかしてくれると嬉しいです!