最弱と言われた彼女は   作:こたれん

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祝福の雨

控え室を出て廊下に出たとき、そのプレッシャーに思わず逃げ出したくなったのを覚えている。マスターからの最終の指示を受けて、レース場に立つ。完璧な調整、完璧な作戦、何も恐れることはなかった。それなのに、彼女に会った瞬間、今までに感じたことのないような感覚が、全身を駆け巡った。

「...あ、ブルボンさん、今日はよろしくお願いします。」

だから、そう話しかけられるまで、その人がライスさんだと私は気がつくことができなかった。明らかに、以前と違う。纏う空気が、目付きが、まるで、私を今にも食い殺すかのような威圧感を放っていて...あまりにも、恐ろしかった。

「私ね、あなたに勝つために、物凄い努力したの。」

ライスさんは私の方に近づきながら、そう続ける。

「あなたが羨ましかった。あなたのように私も輝きたい。いつかみんなに、祝福されるような、そんな走りをしてみたい。」

私は近づいてきた彼女から思わず後退りをしてしまう。それでも彼女はお構いなしに距離を詰めてきて

「だから、私、あなたに勝つね。」

目の前で、黒き獣はそう呟いた。

...何も、言えない、言葉が、出ない。

後退りを続ける私の背中に、何か温かいものが当たった。マスターだ。

「それ以上、ブルボンに近づくな。」

マスターの声が、ライスさんの前身を制した。それ以上ライスさんは来ることはなく、もう一度、今日はよろしくとだけ伝えて去っていった。

「...ブルボン」

マスターが、私の名前を呼ぶ。何も言わなくても、マスターの言いたいことは伝わった。

「...ええ、マスター、分かっています。彼女は、危険です。明らかに、以前とは違う。それは、きっと空気だけじゃない。」

きっと、彼女の走りは、以前とは比べ物にならないはずだ。あれほどまでの集中力をもったウマ娘と、私は今まで一度も渡り歩いたことがない。

「ブルボン、あいつの動きに惑わされるな。常にお前の走りを心がけろ。...もし、万が一の時があれば、ペースを乱してでもやつの動きを止めろ。」

そうしなければ、お前は負ける。そう口にしたマスターは、

今までにないほど緊張した様子だった。サングラスの奥の目が、それを物語っている。だから、私は

「はい、マスター。必ず、ライスシャワーを止めてみせます。...あなたの悲願を、私が必ず」

必ず、掴んでみせます。

そうマスターに言い残して、私はターフの上に立った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

やっとこの日が来た。トレーナーさんとウララちゃんの声を、

走る前に聞いておきたくて、控え室に呼び出した。

二人の声は、やっぱり私の高まる心を少しだけ落ち着かせてくれて、だからきちんと笑うことができた。

この頃、笑うことができなかった。何をするにしても、レースのことで頭がいっぱいで、ただ勝つことしか考えられなかった。だから、トレーナーの声を聞いたときに、ウララちゃんの声を聞いたときに、その張り詰めていた心が少し楽になったのを感じて、自然と笑みが溢れた。

だけど、ブルボンさんをそのあとに廊下で見て、すぐに心に火がともった。あぁ、この人に勝つために、私は死ぬ気であがいてきたんだ。

そう自覚すると、心も身体も、どうしようもないほどの熱を帯びてきて、高まる鼓動を抑えられなくて、思わず、声をかけてしまった。

私に、まるで怯えるかのように彼女は、後退りを繰り返す。

そんな彼女を不思議に思っていると、

彼女のトレーナーさんに近づくなとすら言われてしまった。

私はブルボンさんとまだお話ししたかったけど、もうレース場に出ることにした。たくさんの歓声が、上がっていた。ブルボンさんを応援する声ばかりが、私の耳に届いてくる。...羨ましかった。その声援を、独り占めしている彼女が、羨ましかった。でも、もう大丈夫、だって、ここで勝てば、全てが変わるんだから。

私はすぐにゲートの中に入った。あぁ、待ち遠しい。早く走りたい。

目の前の閉じたゲートをこじ開けたい思いを懸命に押さえ込んで、スタートの時をただ、静かに待った。歓声がやんだ。もうすぐだ、もうすぐ開く、開け、開け....開いた。

それを目が認識した瞬間に、私は駆け出した。周りが把握できる位置に素早く陣取る。ブルボンさんを視界に捉えた。これで、いつでも動ける。集団のペースは普通、ブルボンさんの逃げのペースは...少し速すぎる?なんとなく、そんな気がする。菊花賞は3000メートルだ。つまり、ターフを2周することになる。だから、一周目の入りはすごく重要だ。もし、後方に行きすぎてしまえば二周目の最後の直線、下り坂の残り800メートルを抑えることはできない。だから、常に私はブルボンさんの動きを、見つめた。

『さぁ!快調に飛ばしていくミホノブルボン!先頭は変わりませんそのまま一周目を迎えました!各ウマ娘次々とコーナーを抜けて行きます!2番手には...』

一周目は何の動きもなく終えて、二周目に入った。ブルボンさんは未だこのペースのまま。流石に速い。でも、全然追いつける。皐月賞の時はもうすでに顎が上がっていたと思う。だけど、一日中走り込んで、スタミナとパワーは十分につけてる。...これなら、どこまででも!第三コーナーの上り坂を抜けるときに、僅かに集団のスピードと、先頭のブルボンさんのスピードが遅れた気がした。私は、その瞬間を逃さなかった。

「...しっ!」

『おっと!大外から来るライスシャワー!ここから仕掛けるか!ミホノブルボンに並ぼうと後続から飛び出した!』

「は、は、は...」

私は集団の外からブルボンさん目掛けて1段階加速させた。集団のペースはあっという間に崩れて、もう先頭以外、敵ではなくなった。

『さあ先頭と2馬身ほど離れてライスシャワー!ミホノブルボンかわしきれるか!そのまま最後の下り坂に入った!』

「は、ぁぁあ!」

ブルボンさんが、仕掛けた。きっと、前の私ならここで足を使い切っていたと思う。だけど、今の私は違う。違うんだよ、ブルボンさん。

...そんな加速じゃ、私から逃げれないよ。

私は地面を思いっきり蹴り込んで、二段階目の加速に入った。下り坂は私の背中を押すようにその加速にさらに速度を乗せて、もうブルボンさんは目と鼻の先だった。

ブルボンさんに並んだ。彼女は、どんな顔をしているのだろう。驚いているのかな、怒っているのかな、わからない。そんなことを考えれるほどに、この結末を体が、頭が、理解していた。

『ライスシャワー追い縋る!追い縋る!無敗の三冠を取ろうとミホノブルボンも譲らない!両者譲らない!.,いや、ライスシャワーだ!ライスシャワー抜けた!ミホノブルボン追いつけるか!?追いつけるか!」

3段目の加速。残り400、ブルボンさんを、捉えて、そして、抜いた。

初めてたった先頭は、周りに何もなくて、穏やかで、静かな場所だった。

『ライスシャワーだ!今年の菊花賞を制したのはライスシャワーだ!ミホノブルボン三冠達成ならず!』

ゴールした。勝った。..勝てたんだ。あのブルボンさんに、私は、勝てた。...これで、みんなにたくさん褒めてもらえる!ブルボンさんみたいに、キラキラ輝ける!

私は、そんな期待を込めて、観客席に手を振ろうとして、やめた。

ざわめきの中から、徐々に増えていく言葉達に、体を動かせなかった。

「ミホノブルボンの三冠を見に来てたのによ!」

「そーだよ、邪魔すんなよなー。」

「しらけるわ。」「なにこれー」

勝てたよ、ねえ、みんな待って、ライス、勝ったんだよ!褒めてよ!なんで...なんでそんなこと言うの、ライス、頑張ったのに...

私を称える声は、褒めてくれる優しい声は、どこにもなかった。

私は、なんのために走ってたんだろう。ブルボンさんに勝ちたくて、勝てたらキラキラできるんじゃないかって、そう思って、頑張って、頑張って...なのに、

ふと、トレーナーさんと契約をしたときの言葉を思い出した。

想いだけで掴める何か。それを見たくて、わたしはトレーナーさんと契約したんだ。...ねぇ、トレーナーさん。

その掴める何かって、これなの?

みんなにブーイングされて、罵倒されて、これが私が掴んだ物なの?

...そんなの、あんまりだよ。

『勝ったウマ娘達のウィニングライブが行われます、上位3名のウマ娘の方々は準備に取り掛かかってください。』

アナウンスの声が聞こえた。そうだ、きっとウィニングライブにでたら、そうすればキラキラ輝けるはずなんだ。でよう、でて、みんなにたくさん褒めてもらうんだ。

...そんな思いで、淡い期待を抱いて、ステージに、上がった。

「ブルボン、惜しかったな!次は期待してるぞ!」

「タンホイザも頑張ったなぁー!」

なのに、私を褒める声なんて、最後まで響かなかった。

『最後に、ウマ娘の方々から一言ずつ、今後の目標を言っていただいてもらいましょう。』

ではまず、勝者のライスシャワーさんから

そう言われて、マイクを渡された。

「...なんだよ、三冠邪魔されたのに、聞くことなんかなんもねーよ、はやく終われよ。」

「そんなことよりブルボンにマイク渡せー、ブルボンに」

頑張って喋ろうとしても、喉から、音が出ない。誰も私に期待していない。誰も、私を見てくれていない。...誰も、私の勝利なんて、期待してなかったんだ。なんで、なんで、なんで...

涙が、出そうになる。もうこれ以上、ここに立っていたくはなかった。

震える声を出そうとして、でも何も出なくて、もう、限界だった。

そんな時に、彼女の声が聞こえた。

「...マイク、お借りしてもいいですか?」

あのときのように、お人形さんみたいな彼女はそう言うと、私からマイクを優しく取った。

『あの、ミホノブルボンさん?今はライスシャワーさんの...』

「まずは、皆さんの期待に応えられなかったこと、心からお詫びいたします。」

司会の人の言葉を遮って、ブルボンさんは頭を下げた。そして

「...ですが、それでも今は、彼女を称えるべきです。」

そう、続けた。

「敗者である私に本来、こんなことを言う資格はありません。開き直っているようにも聞こえるでしょう、ですが、これだけは言わせていただきたいのです。」

そう言うと彼女はそれまで観客席に向けていた目を私に向けて、

「...ライスシャワーさん、貴方の走りは、どのウマ娘達よりも速くて、力強くて...そして、誰よりも輝いていました。」

ブルボンさんは続ける。

「貴方が、初めてだったんです。私に、背中を見せてくれた人は。ずっと孤独だった私に、追いついてきてくれた人は。だから...ライスさん、

私は、もう一度、貴方と走りたい。」

そう言うと彼女はマイクをステージの床に置いて、私に拍手を送った。タンホイザさんも、優しく微笑みながら、拍手をしてくれている。

その拍手は広がっていって、気がつけば、会場が拍手の海に埋もれていた。

「お、俺はライスシャワーが勝って嬉しかったからな!」

「俺も俺も!皐月賞から応援してたんだ!」

「私も!今日の走り感動した!」

「また!見せてくれ!ミホノブルボンとの激闘を!」

そんな声が、聞こえだした。たくさんの罵声の中に埋もれていた、小さな歓声。ブルボンさんの言葉で、生まれた声援。それが、こんなにも暖かいなんて、知らなかった。

「ライスー!感動したぞぉおおおおおお!」

「ライスちゃーーーん!おーーーい!!すーーーごく!カッコよかったよぉおおおおお!」

あの二人の声も、聞こえた。ガサガサな声だった。きっと、あのブーイングの中、二人はずっと叫んでくれていたんだ。そう思うと、涙が、止まらなかった。でも、さっきみたいな嫌な涙じゃなくて、この涙は、なんだか、我慢したくはなかった。

「...もう、大丈夫です。」

ブルボンさんはそう言って、震える私を抱きしめてくれた。人形のようだと思っていた彼女は暖かくて、優しい香りがした。

世界中が私を憎んでるんだと思った。誰にも祝福されないんだと思った。きっと、私が走ったせいで、みんながまた不幸になるんだって、そう思った。...でも、違った。

ここにいる、みんなが私を認めてくれるわけじゃない。でも、こんなにも多くの人に祝福されている。こんなにも、暖かい気持ちで溢れてる。...こんなにも、キラキラしている。

「...ありがとう。」

やっと、声が出た。ブルボンさんはその言葉に何も言わずに、ただ黙って私を抱きしめ続けてくれた。それが嬉しくて、優しくて、私は

周りの目なんて気にせずに、そのライブが終わるまで、泣き続けた。

拍手が広がる会場を、ブルボンさんと見ながら思った。

私が掴みたかった景色、それはきっとこれなんだと。

涙でよく見えないけど、それでも、私は精一杯の笑顔で、その拍手に

「ありがとうございました!」

そう、力強く応えた。

ーーーーーーーーーーーーーー

 

我慢の限界だった。あれほどの走りをした彼女を、なぜ誰も称えることができない。なぜそんな声を浴びせられる。俺は、隣で罵声を浴びせる観客を殴るのを堪えるので必死だった。どんなブーイングの中でも、俺とウララは声の出る限り声援を送った。よくやった、感動した。けれど、彼女には、その声が届かなかった。

今すぐにでも、ライブを中止させよう。そう考えもした。けれど、それが原因で彼女達の今後のレース活動に影響がでては困る。でも、それでも、もう、あんな苦しそうな彼女を見るのは辛かった。

いつもオドオドしていて、それでも健気で、真面目で、一直線で、そんな彼女がいま、言葉の暴力で苦しみ、泣いている。

「...なんでみんな、こんなこと言うの。」

ウララが、ふとそう呟いた。

「ウィニングライブは、とっても気持ちいい場所なんだよ。明るくてキラキラしてて、笑顔になれる、場所なんだよ...だから、こんなのおかしいよ。」

ウィニングライブに立つ喜びは、ウララもよく知っている。勝つ回数が少ないからこそ、よりそのライブの価値を理解している。

誰もが憧れる場所、誰もが認められる場所、笑顔になれる場所、そこに彼女は立っているはずなのに、彼女はまだ一度も笑っていなかった。

「わたし、止めてくる。」

「ウララ!待て!」

ウララがそう言って最前列から飛び出そうとしたとき、彼女の声が聞こえた。

会場が、静まり返った。俺もウララも、その突然の出来事に、動けなかった。

三冠を逃したことを謝る彼女。彼女は続けた。

今は、ライスを称えるべきだと。そして、ライスに振り向き、貴方の走りは素晴らしいと、そう伝えていた。

その言葉ひとつ一つがまるで自分に言われているようで、俺は思わず泣きそうになるのを懸命に堪えた。けど、無理だった。

「もう一度、貴方と走りたい。」

そう言い終えた彼女はマイクを置き、ライスに拍手をおくる。その拍手は自然と広がっていって、罵声の中に埋もれていた声援が、会場を包み込んだ。

俺も、ウララも、もう一度、張り裂けんぐらいに声を張り声援を送った。もう喉がガラガラで、痛かった。けれど、そんなの関係ない。この想いを、感動を、きちんとライスに伝えなければならない。そして何よりも、それを彼女は、ミホノブルボンは望んでいるのだ。

ミホノブルボンにとって、この会場の空気は敗者としての自分を、優しく包み込んでくれているはずだった。それなのに彼女は、ライスを称えるべきだと、そう自らの言葉で口にして、拍手を送った。

なんて強いウマ娘なんだと思う。心も体も、その全てが力強い。

ありがとう。その言葉で、俺の胸はいっぱいだった。

ライスを、救ってくれてありがとう。俺を救ってくれてありがとう。...ライスを、笑顔にしてくれてありがとう。

ウィナーズサークルで精一杯、涙でぐちゃぐちゃになった顔で微笑む彼女は、その日、誰よりも輝いていた。

ーーーーーーーーーーー

ウィニングライブが終わり、俺はウララにライスを頼むと伝え、ミホノブルボンの控え室に向かった。

ドアをノックして、中に彼女がいないかを確認した。

「.,.あいつなら、今着替え中だよ。」

すると、横から聞き覚えのある声が聞こえた。

そこには、あの日と同じようにベンチに腰掛けている黒沼さんがいた。

俺はそうですかと返事をし、黒沼さんの隣に腰をかけた。

「お前さんが言ってた通りだ。」

黒沼さんはそう言うと普段付けているサングラスを静かにとった。

優しい、目だった。

「想いの力ってのは、相当なもんらしい。」

右手が差し出された。分厚く、すこし傷がある右手。

「おめでとう。見事だった。」

俺はその手を静かに握った。ゴツゴツとしたその右手は、とても暖かくて、外の空気でかじかんだ手が少しずつ溶け出していく。

つめてーなと黒沼さんは笑いながら握手した手をそっと離して、

外したサングラスを付け直した。やはりその姿がしっくりくると、

改めて感じる。

「...ブルボンに礼を言うつもりなら、そんなもんはいらん。」

黒沼さんは先程とは違い、少し強い口調で続けた。

「あれは、あいつなりに感じて、考えてやったことだ。感謝されるようなことでも、褒められるようなことでもない。」

黒沼さんはそこで言葉を区切り、少し悔しそうに

「...ブルボンは敗者だ。」

そう呟いた。そして、

「レースにおいて、勝者は絶対だ。それをあいつは、今日までの無敗の中で学んだ。...だからこそ、その勝者が称えられない、そんな現実が、あいつは誰よりも許せなかったんだろう。」

そう言い終えた彼の横顔は、少しだけ、悲しそうに微笑んでいた。

控え室のドアが開いた。ミホノブルボンは俺に気がつくと一礼をして黒沼さんの元に向かった。黒沼さんは、いくぞ、とミホノブルボンと共に出口に向かっていった。

去り際に、だから礼なんてするな、そう言い残して。

「...それでも、俺は感謝してるんです。」

去りゆく背中に、小さく語りかけた。

ライスの勝利を、あそこで祝福してくれたこと。

優しく彼女を、包み込んでくれたこと。

俺には、どうにもできなかったから、本当に、感謝してるんだ。

2人の背中を見ながら、届いてるかどうかもわからない感謝を、俺は口にするのだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

控え室に向かう前に、私はブルボンさんにきちんと話をしたくて、前を歩く彼女に声をかけようとした。

「..勘違いしないでください。私は貴方を助けたわけではありません。」

けれど、ブルボンさんのその一言で、私の言葉は詰まった。

「ただ、納得がいかなかっただけです。レースでの絶対的支配者は勝者であり、称えられるべきは勝ったものだけです。それが起こらないレースなど、あってはならない。」

それに、とブルボンさんは続けた。

「...私に勝った貴方が、祝福されなくては、私の立場がないですから。」

前を歩きながら話す彼女の表情は、見えない。けれど、彼女は笑ってる、そんな気がした。

「ブルボンさんは、優しいんだね。」

そんな彼女に、私はそう語りかける。

ブルボンさんは何も言わずに、失礼しますと言い残して速足にその場をさっていってしまった。控え室の廊下で、その背中を見ながら、私は続けた。

「私の勝利を祝福してくれてありがとう。」

「また走りたいって言ってくれてありがとう。」

「...私に、大丈夫だよって言ってくれて、ありがとう。」

たくさんのありがとうが、あふれて、止まらなかった。

 

控え室の前に来るとウララちゃんが笑顔で私を迎え入れてくれた。

レースのあそこがすごかった、ここがカッコよかった。控え室の中で、

さっきの嫌なことを忘れさせてくれるかのように、ウララちゃんは元気に私に語り続けてくれた。

「...本当に、ライスは助けられてばかりだな。」

思った言葉が、ふと口をついた。

「いつもいつも、みんなに助けてもらって、私はみんなに何もできてない。本当に、ライスは」

「ライスちゃんは、いつも私に勇気をくれるんだ。」

ダメな子だ、いつものようにそう口にしようとした時、ウララちゃんの言葉がそれを遮った。

「今日だけじゃないよ。練習中もね、ライスちゃんを見てると負けないぞ!って気持ちになって走れるの。勿論、今日も凄い走りで、こんな風になりたいなって、勇気をもらえた。....私はね、ライスちゃんと一緒にいると楽しい。他の子となら嫌なことかもしれないけど、ライスちゃんとならいいって思えること、たくさんあるの....これまでの全部、全部、楽しくて....私の宝物なの。」

ウララちゃんは、いつも私といると起こる不幸なことを、楽しく捉えてくれていた。その度に私は救われて、その度に笑顔になれた。

「...だからね、ライスちゃん。私の友達でいてくれて、ありがと。」

ウララちゃんは優しく微笑んで、そう言った。

ああ、本当に、私はどうしようもないほど幸せ者なんだ。

ダメな子だ、そう口にして、嫌な自分を否定して、勝手にいろんなことをわかったつもりでいた、でも、何もわかってなかった。

私は、こんなにも幸せ者だった。レースで勝てなくても、幸せだったんだ。...だから今は、その幸せがもっともっと大きくなる。

自然と、また涙があふれてきた。ああ、今日は良く泣いちゃう日だな。

そんな私の涙を、ウララちゃんは優しく指で拭い取ってくれる。

だから私も、精一杯の笑顔で、応えるのだ。

「うん!ライスも、ウララちゃんと友達でいれて、嬉しい!」

レースに勝って、見えたものがある。たくさんの輝きが、私を包んでくれた。たくさんの言葉を受けて、見えたものがある。たくさん傷ついたけど、だからこそ、私はずっと幸せ者だったんだって気が付けた。

ねぇ、トレーナーさん、あのね、ライスわかったの。トレーナーさんの言ってたこと。

走ることで掴める何か、それはきっと、今日この日に見えた全てなんだって、わかったよ。

だからね、ライス、これからも走り続ける。

走って走って、今日みたいなたくさんの幸せに包まれて、

そして、いつか、みんなにその幸せを返したい。

着替えを終えて控え室を出るとトレーナーさんが待っててくれて、それを見たウララちゃんが飛びつきにいって、私はそれを見て笑顔になる。

「..おめでとう。ライス。」

トレーナーさんはそう言って、私の頭を撫でてくれた。尻尾が、たくさん動いてしまう。それを少し恥ずかしくおもい、私は誤魔化すように

「うん!ありがとう!トレーナーさん!」

その手の暖かさを感じながら、笑うのだった。

 

 

 

 

 




誤字脱字あったらごめんなさい!
感想お待ちしてます!あと、セリフとかでキャラ崩壊してたらごめんなさい!
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