「頼みがある……会長のダジャレ癖を何とかして欲しい」
「なんだって?」
いきなりだが用務員はトレセン学園生徒副会長のエアグルーヴに頭を下げられていた。
何故こうなったのか数時間前に遡る…。
「……生きているか?エアグルーヴ」
「…ええ、なんとか」
生徒会室にて、エアグルーヴは生徒会長のシンボリルドルフと共に瀕死一歩手前の状態に追い込まれていた。
勉学にトレーニング、生徒会業務に加えて春天感謝祭の実行準備。トドメと言わんばかりに、何者かによる警察への誤報による対処・後処理をする羽目となった。徹夜による徹夜で体力は底を突き、2人は意気消沈の姿を見せていたのだ。
ナリタブライアン?彼女なら巡回と言う建前で既に逃亡済である。
「…こんな情け無い姿、テイオーに見せられないな」
そんな彼女等であったが、シンボリルドルフは疲労の溜まった身体を無理やり動かす。
「会長、無理をするのは…」
「それはお互い様だろうエアグルーヴ。私達は
「会長…!」
シンボリルドルフの励ましに感激の涙を溢す。
「なに心配するな。私は常に生徒達の模範となる為、生徒会長として快調な姿を見せなければならないからな」
「………」
「生徒会長として…快調な姿を見せないとな」
「……その通りですね会長」
「ふふっ、テイオーにも見せないとな。
【エアグルーヴのやる気が下がった】↓↓
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「自重しろよおおおおおおおおおおッ!」
彼女はトレセン学園に存在する切株の
しかし勘弁して欲しかった。いつもギャグを呟く度にやる気が下がる自分の気持ちを汲み取って欲しい。仕事明けでクタクタの所に追い討ちを掛けるのは勘弁して欲しい。
「だがそれでも私の忠誠心は揺るがないいいいいいいい!けどその癖は直してくれええええええええええええッ!」
とにかくこのやるせない気持ちを慟哭として吐き出す事が今のエアグルーヴに出来る最大限の事だった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
死んでもこんな情け無い姿は誰にも見せられない。女帝と呼ばれし彼女は慟哭を上げながらそう考えていたが、後ろへの注意を怠ってしまった。
「そこの方」
「っ⁉︎(しまった!先までの言葉を聞かれていたかッ?)」
汗が頬を伝う。背後に居る人物に先程のまでの絶叫を聞かれた以上、噂が広まるのを避けなくてはならない。
そのような事態にエアグルーヴの頭にとある考えが浮かび上がった。
(こうなれば…口封じするかッ⁉︎)
結論から言ってエアグルーヴは疲れてた。正常な思考ではないのでポケットに忍ばせた
「見た所どうやら困っているようですね。私達で良ければ力になりましょう」
「何を言っ……て……」
そこに居たのは全身をこれでもかと黒でコーディネートした衣装を身に包んだ不審なウマ娘2人組だった。
そんな黒の組織的ファッションを前にしたエアグルーヴは言葉を失い、一歩後退りしてしまう。
(あ、怪し過ぎる…ッ!)
そう考えるのも無理もないだろう。名探偵を背後から襲い、子供へと変える薬を飲ませそうな輩がコチラに声を掛けて来たのだ。
誰だって警戒する、彼女も警戒する。
「おっと、この格好については気にしないでください」
「は、はい〜。この様相は占いの結果、本日は黒の服装が"吉"と出たので見た目はアレですが気にしないで貰えると助かります〜」
「さぁさぁ、貴女のお悩みは私の占いで見事解決に導いてみせましょう!」
そう言いながら手元に水晶を取り出す黒ずくめにエアグルーヴは訝しむ表情を露にする。
(ふん、何が占いだ馬鹿馬鹿しい)
そのような運だめしで私の悩みが解決出来るものか、と一蹴の意思を頭に浮かべる。
(貴様等のような怪しい輩に、この私が簡単に縋ると思うなよッ!)
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「それでは占ってみましょう……!」
(どうしてこうなった…!?)
もう一度言おう、エアグルーヴは疲れていた(2回目)
度重なる業務により疲労が溜まっていた彼女だが、気付けば占いを受ける事となっていた。
目の前にいるウマ娘が
「出ましたッ!」
「な、何がだ⁉︎」
「貴女の運勢、それはズバリ……"凶"ですッ!」
「な!?」
無慈悲に告げられたその言葉に女帝は呆気に取られ、腑抜けた声を漏らす。きっと今の自分は無様な姿なのだろう。やる気は地の底へと落ちに落ち、このような占いに縋った結果がこれだ。
「す、救いは無いのですか?」
悔やむエアグルーヴを哀れと思ったのか、助手らしきウマ娘がそう呟く。
「問題ありません。シラオキ様の言うがまま運勢を吉へと招くモノをお告げしましょう!」
「吉へ招く…?」
「そうです、貴方のラッキーアイテムは───」
「ありがとうございました〜」
そのような言葉を口にしながら黒いウマ娘…もとい、メイショウドトウは立ち去るエアグルーヴを見送る。
「今日もまた1人、困っている方を救えましたね先生……先生?」
振り返ると先生と呼ばれたウマ娘はわなわなと震えていた。先までの方に感激の意を抱いたのだろうか?と考えると、それを一蹴するように大きな悲鳴に近い声が響く。
「うにゃあああああああ!代金頂くの忘れてましたぁああああああああ!新しい招き猫がああああああああ!」
「あぁ、確かに。そう言えば頂いていませんでしたね〜」
「うううう〜、新しい水晶玉ぁぁぁぁぁぁぁ……」
占いと言ってもそれを継続するのに資金は必要不可欠。占いに夢中となりそこを疎かにしていた事を黒い衣装で身を包んだマチカネフクキタルは嘆いた。
「まぁまぁ、困っている方を助けられた。それで良いでは無いですか先生」
「……そ、そうですね。逆にこれを吉と考えましょう!副会長のお悩みを見事解決!そのような噂が広まればお客さんがドンドン来ると言うモノです!この黒い衣装もシラオキ様の導きの通りです!福を招き入れたのでしょう!」
「まぁ〜、ただ怪しい格好をしていた訳ではないのですね〜」
本日のラッキーカラーは黒一色。なので全身真っ黒スタイルで占い業務に勤しむ彼女達の元に新たな者が現れる。
「少しいいか?」
「おおっ、噂をすれば千客万来(?)です!いらっしゃいませー!恋愛相談ですな?人生相談ですか?はたまた今日の運勢をだったりしますかッ?」
そんなマチカネフクキタルが振り返った先には先のエアグルーヴ同様、生徒会メンバーであるナリタブライアンが居た。
そんな彼女は仁王立ちをしながら2人に告げる。
「ここらに道路交通法に違反した物件を無許可で設置しているウマ娘が居ると言われてな。少し話を……あ、おい待て!逃げるな‼︎」
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「………」
エアグルーヴは庭園の花々に水やりを行いながら先のマチカネフクキタルの言葉を頭の中で反芻していた。
『貴方のラッキーアイテムはズバリ!芝刈り機ですッ!』
「まったく馬鹿馬鹿しい…何がラッキーアイテムだ。そんな物を持ち歩くような輩に私の悩みを解決出来るなどあってたまるか」
ギュィィィィィィ
そう呟きながら女帝は先の言葉を一蹴する。そもそもの話、そのような悩みは神頼みでは無く己の手で解決しなければならない。
(このような情けない姿、テイオーに見られたら笑われてしまうな)
ギュィィィィイイイ!
そんな己を嘲笑うかのように耳には
ギュィィィィイイイ!!
「……あ゛ーーーッ!誰だこんな時に騒音を撒き散らしているのはッッ!」
癒しのひと時である水やりタイムを邪魔する不届き者を成敗する為、辺りを見渡す。すると男女二人組が何やら話し込んでいるのをエアグルーヴは視界に捉えた。
「なぁなぁ!頼むから俺にもそれ使わせてくれよ!一度でいいからそんなイカした回転ノコギリ使ってみたかったんだ!」
「いや駄目だから。中等部の娘に危険物使わせるなんて事したら理事長にドヤされるから」
「……へへっ、危険だと分かって尚使うのってカッケーよな」
「ほーう、理解してるんだね。うん尚更ダメ」
「……アレは…」
そこに居たのはトレセン学園用務員とウオッカだった。何やら立て込んでいる様子の彼等を前にしたエアグルーヴは溜息を吐きながら不承不承ながらも2人の元へと歩み寄って行った。
「おい」
「「ん?」」
「ちょっと話をしたいんだが良いか?」
戯れている2人がエアグルーヴに気付き、数秒後。用務員はその場にて土下座をかました。
「すみませんでしたッ!」
「!?」
「用務員サン!?」
「あ、ごめん。あまりの迫力でつい…」
彼がそのような行為に出るのも無理もない。現在のエアグルーヴは絶不調を維持している為か、顔色が優れず表情も硬い為にいつも以上の怖さを醸し出しているのだ。
「いやこちらも話し方が悪かった…ただウオッカに注意しようとしたのだが…」
「う、…すみませんした……えっと、大丈夫ッスかエアグルーヴ先輩?なんかスゲー疲れてる顔してますけど」
「ん?ああ…突如として押し寄せて来た警察への対応で休んでなくてな…全く、何処のたわけが悪戯電話をしたのか…!」
直後、ウオッカもまた土下座をかました。
「すいませんでしたッ!!」
「!?」
「ウオッカ!?」
「あ…や、やべ。あまりの迫力でつい謝っちまった。なんでもねーっすエアグルーヴ先輩」
嘘である。その警察の対応の原因がウオッカ自身であり、もし此処で白状すれば不機嫌であるエアグルーヴに何をされるか分からない。そんなウオッカは黙り込む事に決めた。
「全く、変な奴等だ……ん?おい、それはなんだ?」
「え?」
用務員が持つ棒の先端に機械が付いたソレについてエアグルーヴが問い掛ける。
「あー、もしかしてこの刈り取る伐採用回転鋸(軽量タイプ)のこと?」
「伐採……電動刈り機⁉︎」
『貴方のラッキーアイテムはズバリ!芝刈り機ですッ!』
まさか運の巡り合わせと言うのは本当にあったのか⁉︎と彼女の中で頓悟とした意識が生まれる。
確か彼は休日にて心肺停止となったウマ娘に対し適切な処置でその命を救ったと噂されている用務員。教員や生徒達との間でも中々の働きぶりだと良い評判ばかりを聞く。
神頼みも捨てたものではないと、エアグルーヴは笑みを浮かべる。
ありがとう、怪しい占いウマ娘……。
それはそれとして後で会長に報告しておく。
意を決した彼女は目の前の男に向けて己が心中に溜めていた感情をぶつけた。
「頼みがある……会長のダジャレ癖を何とかして欲しい」
「なんだって?」
▼▼▼
「とりあえず話は分かった。その上で言うけど頭大丈夫?」
「うるさい!自分でも頭がおかしいと言うのは十分承知してるッ!」
とりあえず用務員室にて茶菓子を出し、エアグルーヴから概ねの話を聞いた。
そっかー、会長のダジャレかー、黒ずくめの占い師からのアドバイスかー……どこからツッコめば良いのだろうか?
「うん。まぁ無理だね」
「ぐ、即答か……ッ!」
いや個人的に生徒の助けになれるならなりたいよ?いやホントマジで。
「別に手伝ってやってもいいだろ用務員サン。副会長の頼みなんだから」
「そうしたいのは山々だけど純粋に忙しいから手伝えないんだよ。この後、水道管の修理しなきゃいけないし」
全く誰だよ水道の蛇口からジュースが出るような改造を施したのは(半ギレ) どうせゴルシ辺りなんだろ分かってんだぞ。
そんな愚痴を零しながら言葉を続ける。
「まぁ無理だろうけど、生徒会の権限で俺に休みをくれるって言うなら俺も何とかするけd「よかろう。生徒会の協力を要請して休みを取れるように計らってやる」
「生徒の悩み即ち俺の悩み。用務員である俺に任せて欲しい!」
エアグルーヴと互いの手を取り合った。
結論から言ってこの時の俺と彼女は疲れていた。疲労により正常な判断が出来てないので、いとも容易く約束を交わしてしまったのである。
まぁでも利害は一致してるし問題無いよね。
「で、協力するのは良いけど用務員サン。なんか考えでもあるのかよ?」
「もちろん。こう言うのは純粋に行くのが解決への最短ルート!」
俺は立ち上がりながら口を開く。
「こう言う時こそ正面からガツンと『お前のダジャレつまらないから辞めてくれ』って言えば速攻解決だ!」
「おお、シンプルでカッケーじゃないッスか!それなら俺も同行します!プラカードも付けましょう!」
「やめんかたわけ共ッ!」
瞬間、俺の背中にエアグルーヴのドロップキックが炸裂し…背中痛ぁ!?
「グワーーーッ!?」
「よ、用務員サンーーーーーっ!?」
「…あ!す、すまん。ストレスが溜まってる所為かつい……」
ハハッ、大丈夫大丈夫。腰に来たけど湿布貼っておけばその内治るから。
そんな俺の非ステロイド性抗炎症薬配合の張り薬に対する信頼感を他所にウオッカはエアグルーヴに尋ねる。
「ちなみに先輩は何か考えあるんですか?」
「…恥ずかしい話だが感謝祭、トラブル対処、トレーニング、生徒会活動に追われている私には考えている暇が……」
「……あぁ(察し)」
頭を動かすよりも目の前の物事を解決する方が先決って事か成る程。取り敢えずさ、休みなよ。リギルのトレーナーには俺が伝えとくから…ね?(慈悲の籠った眼差し)
「や、やめろォ!そんな可哀想なモノを見るような視線を送るのは!」
「で?どうするんだよ用務員サン。何か作戦はあるのか?」
「作戦…と、言ってもなぁ。こう言うのは専門的な意見を聞いてみないと分からないし」
「専門?と言うと…ダジャレに関してのか?」
「そうなるね」
「ダジャレ?そんな事に詳しい者がこの学園に居るのか?」
彼女の言葉を俺は思わず唸る。
ダジャレに詳しい…って、そんな限定的な情報でこの1000人以上の在籍生徒の中から選出するなんて不可能に近いと思うんだけど。
「……あ、いや待った。1人だけ心当たりがある」
「「居るのか!?」」
2人が揃って声を上げた瞬間、窓の外にチラッと小さな人影が過ぎる。
…なんだアレ?まぁ、いいか。
「と言っても多分2人も知ってると思うよ? ほら、常にレースじゃ良い成績収めて頼りになって、意外と家庭的な…」
「……あー、あの人か!確かに、結構ギャグ的なのに詳しいよな!」
「加えてライバルに負けてもめげないあの姿勢…彼女ならば力になってくれる事だろう」
2人の言葉に呼応するかのように窓がガタガタと揺れる。
強い風でも吹いてるのか?……まぁいいや、とにかく早速連絡を取る為に俺はスマホを取り出した。
えっと番号を入力して…と。
「……あ、繋がった。もしもし南坂さん?そっちナイスネイチャ居ますk「そこはウチやろがーーーーい!!」
「ウォァーーーーーーーーッ!?」
直後、何者かが窓の外から大声張り上げて用務員室に入り込んで来た。なに?何事!?
「そ!こ!は!普通ウチやろがい!」
「タ、タマモクロス先輩!?」
ウオッカの言う通り、現れたのは学園屈指の実力を誇るタマモクロスだった。え?なんで君がこんな所に居るの?
「ンなもん。窓の外でスタンバっとったわ!常にレースじゃ良い成績収めて、頼りになる。んでもって家庭的でオグリに負けても屈しないと言えば普通は白い稲妻こと
「あー分かった!分かったから落ち着け!」
興奮する彼女を宥める事、数分後。ようやく落ち着きを取り戻して来たタマモクロス。
そんな彼女はエアグルーヴに向かい合う。
「さて、話は全部聞かせてもろたで。会長のダジャレ癖に困っとるちゅー訳やな?」
「ま、まぁそうなりますが…」
「ほーん? 成る程なぁ、確かに会長のダジャレは難敵や。オグリの天然さに劣らずの厄介さを持っとる」
そう言いながらバリバリと煎餅を齧るタマ。あーあ、取って置いた煎餅が胃袋にどんどん吸い込まれていく……。
「でや、そもそもの話なんでエアグルーヴはそんな会長のギャグに熱心になってんねや?正直言うてそこまで深く考える事あらへんやろ」
「……確かにその通りですね」
「お?」
「元々会長のギャグ自体、私自身も気にしてはなかった。寧ろそうやって理想へ近づこうとするあの人の姿は尊敬すべきだった」
「理想…ってーと、どう言う事か分かるか用務員サン?」
ウオッカにそう問われ、今までのルドルフ会長の姿を思い返す。そう言えばあの人がギャグを口にするのって元は他の生徒達と打ち解けられるように考えたからなんだっけか。
「へぇ、会長が熱心にそう言う本を読んでる所をたまに見るけど、そう言う理由が…」
「……その努力が結果に伴っているかはノーコメントだけど」
「あぁ…(察し)」
「だが次第に会長のジョークは高度かつ高頻度なモノへと化して行き、少しでも間違ったリアクションを取ると、悲哀の表情を浮かべるんだ…ッ!」
「そないな事が…」
「だから私は自身に出来ることをして来た…だが、本当にこれで良いのか分からない。分からないんだ…ッ!この選択で良かったのか、これが会長の為になるのかどうか!理解しようと思えば思う程、意味が分からなくなって来たッ!理想を体現とされる会長を私は理解できなくなってしまった……ッ!」
ポタポタと彼女の双眼から大粒の涙が溢れ、机を濡らす。エアグルーヴは苦しんでいたんだ。理想とする会長と自身のエゴに挟まれ踠き、苦悩して来たのだ。
「今の私は会長を理解する事が出来なくなってしまったんだ…ッ!私はこれからどうすれば…うっ、うう……ッ!」
「先輩…」
「エアグルーヴ…」
………どうしよう。
これシリアス風に言ってるけど結局は会長のギャグに行き着くんだよね。エアグルーヴがガチ泣きしてるけど何これ?こんな時俺どんな顔をすれば良いの?
「……簡単な事や」
ふと、タマモクロスがそう呟いた。
「今までは自分勝手な理想像を会長に押し付けようとしとった…なら今度は足や。自分の足
「同じ…所……?」
「せや。自分1人で勝手に悩んでしょーがないやろ…けどな!今はウチが居る!エアグルーヴ!お前は虎や!ダジャレの虎になるんや!」
「「ダジャレの虎…⁉︎」」
ダジャレの虎ってなんだよ(哲学)
そんな俺の疑問を他所にタマモクロスはエアグルーヴに向かって仁王立ちを見せる。
「これからお前にウチの漫才魂を一から叩き込んだるッ! 目には目を!歯には歯を!ダジャレにはダジャレや!ウチの教えは厳しいで?覚悟はええか!」
「…分かりましたタマモ先輩。貴女の信念確かに受け取りましたッ!こちらも全力で臨ませて頂きますッ!」
そんな燃える2人を前にウオッカはその表情を歪ませる。
「──っ!やべぇなこりゃ。波乱の嵐が吹き荒れるぜ…!」
「何言ってるのウオッカ?」
「へへ、面白くなって来た。俺も腕が鳴るぜ…ッ!」
「それは何に対するコメントなの???」
こうしてタマモクロスによる特訓が始まった!女帝はダジャレの虎へとなる為、白い稲妻の下で走るのだ…!
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「準備は良えみたいやな?」
「ええ、今までありがとうございました先輩」
「おう。たーんと感謝せや?…後はお前次第や。ほな頑張りぃや」
女帝は走り切った。白い稲妻の元で修行を重ねに重ね、遂に虎の如き力を身に付けた。
エアグルーヴをタマモクロスに感謝の一礼を送る。全てはこの日の為に、彼女は生徒会室へと脚を運んで行った…。
「…どうやら俺達の出番は要らねぇみたいだな」
「だな、後は彼女次第だ。裏舞台の俺達が出しゃばる必要は無いのさ」
その様子を俺とウオッカは見守る。
ここからはエアグルーヴの戦い、故に俺達が手出しする事は許されないのだ。
「いいや甘い、甘いよ君達。その程度で満足して貰っては困るよ」
そんな彼女達の動向を見守る俺達の背後よりやって来るウマ娘が居た。そこへ目を配ると立っていたのは覇王の名を冠するウマ娘だった。
そんなテイエムオペラオーは語り部の如く、こちらに向けて言葉を送って来た。
「ウオッカ君!そこは『空に散る星のように君達と言う名の一等星は輝きを喪う事は無いだろう』と付け加えるべきだッ!」
「た、確かに!勉強になります!」
「うーんこの」
世紀末覇王ことテイエムオペラオー監修の元で行われた哀愁漂わせながら後方師匠面ごっこ。なんで俺が付き合う必要があるんです?
……まぁそんな事はさて置きだ。エアグルーヴには頑張って欲しいけど、何か嫌な予感がするんだよなぁ。
▼▼▼
生徒会室にて。
「…む?」
書記活動を行なっていたシンボリルドルフ。しかしデスクの上に置いてあった筈の筆記用具が見当たらない。
何処かへ行ったのだろうか?と探していると、副会長であるエアグルーヴが声を掛けて来る。
「探し物はこちらにあります会長」
「ああ、助かるよエアグルーヴ。まさか鉛筆が…」
「ええ、鉛筆が何処にも見えんぴつでしたね」
「……え?」
瞬間、ルドルフは己の耳を疑った。とてもエアグルーヴの口からは出される事の無い言葉に己の聴器官がイカれたのかと錯覚した。
「……え?(2回目)」
「いかがしました会長?」
「い、いや…な何でもない」
恐らく自分は疲れているのだろう。先程のは幻聴に違いないと己に言い聞かせ業務に戻る。
「ところで会長。こちらの書類作成の件について伺いたい事が」
「ああ、任せて欲しい(きっと疲れが溜まっているんだろう。私もまだまだだな…)」
手渡された資料に目を通すルドルフ。そんな彼女の頭中に(いつもの)閃きが起こる。
「書類。しょるい…しょう…る、い……この書類だが」
「こちらの書類に関しては私が担当しましょう。類似したモノと揃えておきます」
「───ッ!?(私より先に…⁉︎)」
シンボリルドルフは確信する。以前のエアグルーヴとは一線を画す程に成長を遂げている。その脳内処理能力、ダジャレへの言語化能力、より高度な笑いへと導く力。
全てに於いてこのシンボリルドルフと同等…否、それ以上だ。
「エ、エアグルーヴ…君に一体何が…!」
問い掛けようとしたその時、その場の空気を砕かんばかりに生徒会室に勢い良く入って来る者が現れた。
「やっほー!会長遊びに来たよー!」
「テイオー!?」
そこに居たのはトウカイテイオー。彼女は尾っぽを揺らしながらシンボリルドルフが佇むデスクの前へ移動して来た。
「ねぇねぇどうしたの会長!僕が来て嬉しくないの?」
「やめろテイオー今は執務中だ。戯れるのは後にしろ」
「えー、別にいいじゃん!会長だって僕が来て嬉しそうだったし!…ね?カイチョー!」
テイオーの言葉は当たっていた。気まずい空気を振り払う意気衝天をその体で表す彼女が来てくれたのは僥倖。
マジありがとうテイオー。ヨシヨシしてあげよう、飴もあげよう(父性)
「ああ私もテイオーの顔を見れて嬉しいよ」
「本当⁉︎ へへ、ほらねエアグルーヴ。会長も嬉しいって」
「全く、
「「っァッ!?」」
2人は驚愕のあまり潰れたカエルのような断末魔を揃って上げてしまう。
まさか英語をも絡めた高等ランクのダジャレすらも扱う…だとッ⁉︎
シンボリルドルフは眼前の光景に目を疑う。あの応用力はちょっとやそっとの訓練では習得不可能なもの。それをエアグルーヴはいとも簡単に扱ってみせたのだ。
「な、なにさっきの!?」
「どうしたテイオー、そんなに慌てて」
「い…いやだって!さっき会長みたいにエアグルーヴがダジャレを…!」
「ダジャレを口にして悪いか?」
「え、い…いや、悪くは無いけど……はは、なんだかまるで会長が増えたみたいだね」
「!?」
「フン 私としてはいい迷惑だ…が、会長の手を煩わせる訳にもいかん。しばらくは相手をしてやらんこともない」
「!?」
何…この、なに?と、目の前で繰り広げられる光景に会長であるシンボリルドルフは固まる。
あのトウカイテイオーが、自分ではなくエアグルーヴに懐いている。しかも女帝である彼女自身も満更では無さそうな表情だ。
直後、ルドルフはハッと気付いてしまう。
(まさか…私の
十八番のダジャレを取られ、父性を取られ、更にはトウカイテイオーすらも獲られた生徒会長。
もはやそこに存在するのは、ただただ目の前にある書類を処理するだけの全自動業務全うするだけのマシーン。
「えへへ、それじゃあさ。僕と併走してよ!」
「今は無理だ大人しくして待っていろ」
「むー…しょうがないなぁー。でも折角来たんだから何かお菓子でも食べさせてよ」
「ッ!」
駄目だ。生徒の模範であり、徳高望重の自分が空気になってしまう。それだけは死守せねばならない。テイオーにお菓子をあげるのはこの私の役目だッ!
溢れる父性と焦燥感に駆られたルドルフは口を開く。
「テ、テイオー!そこで待っテイオ「テイオー、そこでステイだ。お菓子を持って行ってやる」っ!」
しかしそれを遮るようにエアグルーヴの口より放たれる言葉は皇帝に言葉を失わせた。
やばい、勝てない。これ絶対ダジャレを口に出来ないわ。
「それにしてもエアグルーヴがダジャレって…ぷぷっ、笑っちゃうよね」
「ふん、こんなの会長の足元にも及ばん」
「………」
テイオーが笑ってる……。
基本的に自分のギャグに対して愛想笑いで返して来るテイオーがああも笑っている事にルドルフは燃え尽きたような表情を浮かべていた。
敗者はただ黙るのみ、レースに負けても決して顔を下げない彼女だったが今回ばかりは地に向けて顔を向ける事となった。
……故に皇帝は己を一から鍛える事を決めた。
「(ありがとうタマモクロス先輩…特訓のおかげで会長と同じ景色が見える…!これが、皇帝が見ていたものかッ!)ところで会長、この書類の件ですが……会長?」
「どうしたのエアグルー……あれ?会長どこ? と言うか何この書き置き?」
振り向いた先にはシンボリルドルフの代わりに机の上に置かれた紙一枚。そこに書いてあったのは……。
『
「「会長!?」」
見た者に晴天霹靂な感情を与える一文だった。
「何が…何が駄目だったんだ…ッ!ちゃんと占いの言う通り
「え?」
「ん?」
「…俺、芝刈り機持ってないけど?」
「は?何を言っている。ウオッカと居たあの時、確かにお前は芝刈り機を……」
「草刈り機」
「は?」
「俺が使ってたの"芝"刈り機じゃなくて"草"刈り機だぞ?」
「 」
【エアグルーヴのやる気が下がった】↓↓