ウマ娘の専門医は、全員から好かれている。   作:室星奏

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設定書きなおしてた時点で思ったけど、完全に時系列ミスってしまったなーと思った今日この頃。
まあでもこのままやってみます!


02 待ち伏せは基本 [セイウンスカイ]

 早朝の5時、俺は早くに家を出て病院に向かう。診察時間は9時とまだ時間はあるのだが、その為の準備とやらで忙しくなる事は目に見えていた。

 家から病院までは早くて40分程で到着する。故に1時間前くらいに家を出れば、ちょうどいい位の時間にはなる。

 

 最も家をすぐ出るのには、また別の理由があるのだが。それは――

 

「あ、先生。今日も早いね~?」

「……それはこっちのセリフだ」

 

 やはり、か。車を停め扉を開くと、定位置の壁にもたれかかりながら俺の到着を待つ影が一つあった。昨日も捻挫を理由に診察を受けに来たセイウンスカイだ。

 片手で学園支給の鞄を担いでいる姿から見るに、相当速くから待ち伏せしていたようだ。早く寝るという事を知らないのだろうか?

 時刻は6:12。少し渋滞があったとはいえ、それでも早い到着なのには変わりなかった。それなのに、こいつと来たら。

 

「定期診察は後3時間、外診開始には後2時間程あるが?」

「知ってるよ。でも先生、いつも早く来るじゃん。だから待ち伏せしてみたんだ~」

「どこかの誰かさんが待ち伏せするからな」

「え~? じゃあ私のせいってこと?」

 

 不機嫌そうな顔をして彼女は文句っぽい言葉を垂れ流す。が、その顔はいたずらっ子のようにニヤニヤしていた。ああそうだ、コイツはそんな奴だった。

 降りた車の方へ指をさし、送ってやるから帰るんだと指示するが、それでも彼女は首を横に振る。どうやら意地でも帰る気はないらしい。

 

「私はね、待たされるのが嫌いなんだ~」

「たった3時間じゃないか」

 

 表情は変えず、淡々と言葉だけを紡ぐ。昨日のスズカと言い、今日のスカイと言い、何なんだ一体。さっきから鳥肌が止まらない。

 普段ならここで文句を並べる彼女を背に一人で病室に戻るのがお約束なのだが、さすがにこの時間早くに野ざらしにしてしまっては、風邪を引くかもしれないし、誰かに見つかって怪しまれるかもしれない。

 はあ、どうしてこんな事になったのやら。

 

 

 

 

「……誰にも言うなよ」

「分かってる分かってる~。というかこの時間に診察しちゃえばいいのに……」

「さすがに外診時間外はタブーだ」

 

 気づいたら、彼女を俺の診察室に招き入れていた。彼女は椅子の背後にある診察ベッドに腰を下ろして、渡したお菓子をポリポリと齧る。

 その間に俺は資料を数点整理するのだが、その様子を彼女はジーっと見つめてくる。

 

「俺の顔に何かついてるか?」

「ん? いや何も?」

「じゃあ何で見てくるんだよ」

「ひみつ~」

 

 まんざらでもなさそうに彼女は言い返す。その度に耳をヒクヒクと振るわせながら笑う。何かいいことでもあったのだろうか?

 セイウンスカイはこれまで様々なGⅢやGⅡレースを軒並み優勝していき、その知名度を着々と上げてきたウマ娘だ。そんな子に降りかかる良い事と言ったら――。

 

「……GⅠ出場でも決まったか?」

「ぉ? 何で分かったの?」

「顔に出てるからな。誰だって分かる」

「嘘、顔に出てたの!?」

 

 アハハと喜びながらも、恥ずかしそうに顔を手で覆いながら足をバタバタさせる。音が響くのでやめてほしい。

 

「で、何のレースだ?」

「東京優駿だよ。皐月賞は怪我の都合で出れなかったから、いきなりこっち」

 

 セイウンスカイは皐月賞に向けて走った弥生賞にて、ゴール寸前に足を捻らせ怪我を負った。逃げウマ娘としての宿命ともいうべきだろうか? 逃げは常に足を行使するために怪我も多く、俺を訪ねてくる回数は他のウマ娘たちよりも比較的多い。

 故に本来は皐月賞→東京優駿という流れが理想なのだが、それが崩れ去ったが為の初GⅠ東京優駿という訳らしい。まあ彼女の脚ならば、東京優駿を走れるくらいの力はあるだろう。

 

「でも、先生もまだまだだな~」

「? 何がだ?」

「私、初めてのGⅠだからね~。じゃじゃーんっ!」

 

 彼女は持参していた鞄から、一着の衣装を取り出した。白を基調に緑が所々にあしらわれた可愛らしいデザインの代物。

 突然の事で反応が数秒ほど遅れてしまったが、咄嗟にそれが何なのかを理解した。

 

「勝負服、もうできてたのか。驚いたな」

「私も昨日渡されてビックリしたよ。それと同時に嬉しい気持ちもこみ上げてきたけどね!」

「成程、すぐ気づけなかったのが悔しいな」

 

 医者とはいえ、専門医としてウマ娘の世界に足を踏み入れている自分が気づけなかったのはさすがに恥ずかしい。ファンが知ったら、かなり怒るだろうな。

 『勝った』と言わんばかりに彼女はニヤッと不敵な笑みを浮かべて立ち上がる。そして所謂ジト目で笑いながら、その衣装をフリフリと揺らす。

 

「ところで~。着てるとこ、見てみたい? 見てみたくない?」

「そりゃ見てみたくはあるが、やはり最初は大勢の観客かトレーナーに見せてやってくれ」

「それは嫌だな~。私は先生に初披露したいんだけど?」

 

 何故だ? 何故俺なんだ?

 昨日のスズカといい、何故皆最初に俺を選ぶんだ? 確かに定期診察や治療で何度も顔合わせをしてはいるが、そこまでの関係に至れる程の器じゃないぞ俺は。これもあれも全て仕事で、当たり前の事な筈なのに。

 

「俺も嫌さ。勝負服は晴れ舞台で見てこそ、だからな――」

「じゃ、そこの更衣室借りるね~?」

「ぁ、おい!」

 

 俺のセリフを遮ってまで、自分の意思を貫き通した。今の表情はまるで、レース中の際に表れる彼女の表情そのものだった。

 あんな顔されたら、誰であっても止める事は至難の業だろう。深くため息をつき、俺は潔く諦める。すまないファンの皆、これは俺のせいではないからな。

 

 

「どう? にあってるかなー?」

「似合わない訳ないだろう? 勝負服は持ち主を表すって言うんだからな。その服は、お前にしか着こなせないさ」

「えー? じゃあさじゃあさ、他の勝負服とどっちが可愛い?」

「それは――難しい質問だな」

 

 質問する際の声が何故低いのかは分からないが、そう簡単に応えられる質問ではないのは確実である。

 勝負服というのは皆違って皆いいの言葉が似合う代物だ。どれも似合っているし、可愛らしいし、その中から一つ選べというのはなかなか難しい問題だ。どのファンに聞いても、そう返ってくる筈だ。

 頬をポリポリと書いて、どう答えるか悩む仕草をしていると、突然力が抜けたかのように、彼女の両手がダランと垂れる。

 

「ん、どうした? 怪我が痛むか?」

「そんなに悩む事、なの?」

「え?」

 

 突然の言葉に静寂。彼女の顔も機嫌が悪いのか、少し暗いものへと変貌していた。

 一瞬何故機嫌が悪くなるのか分からなかったが、まあ女子とかによくある『私の服の方が可愛いんだ―』等と同じ意味あいなのだろうか、だとしたら納得が行く。

 

「悪い、見惚れてしまっただけだ。おう、俺は一番だと思うぞー」

「本当?」

「……ああ、本当だ」

「良かった~。そりゃそうだよね、アハハ」

 

 機嫌が直ったのか、彼女の表情が太陽の如く明るくなる。良し、何とか機嫌は直ったようだ。

 全く、女子というものは本当に分かりにくい。それともウマ娘の感情についての知識に疎いだけなのか? 心理学ももう少し勉強しておくべきだったか。

 

「長く話し込んじまったか。そろそろ他の奴らも出勤してくる頃だし、裏口からバレないようにさっさと出るぞ」

「えぇ~? 良いじゃんバレても。私達の仲なんだし」

「どういう仲だよ。患者と医者って関係だろ? 早く服着替えなおして来な」

「……はぁい」

 

 気づけば1時間も一緒に話していたようだ、看護師たちの出勤もだいたいこのくらいなので、そろそろセイウンスカイを外へ移動させる。

 どこかまた不機嫌な表情をしつつも彼女は渋々了承し、急いで服を戻す。

 

 ウマ娘と専門医が夜一緒に過ごしているとバレたら、その時点で俺の医者活動は断たれる事だろう。それだけは避けなければならない、きっと彼女も、それを悟ったのだろう。

 だがしかし、この時の俺は知る由もなかった。既にこの時点で俺は地雷を何度も踏みあらしていた事に。

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