勢いに任せて3話目です。
ついに変身します。
郁人は体の正面からそれを押しあてると、
電子音声とともに銀色のベルト状接続バンド、《ヒデンリンカー》が生成され、腰部を一周するように巻きつく。
「!?」
瞬間、郁人は意識を失った。
「…ん…?」
郁人はふたたび目を覚ますと、またしても現実離れした光景が飛び込んできた。
いままで自分たちがいたエキゾチックな世界とはまた違った、
見渡すかぎり真っ白な世界。
そして郁人を囲むようにいくつかの看板のようなものが浮かんでいる。
SF映画さながらの空間に投影された《TUTORIAL MODE》の文字。
異様だが、さきほどとは違い不思議と恐怖感はない。
『ここは、通信衛星ゼアの思考回路。』
「へ?!」
背後から聞こえてきた機械的な、しかし女性的な声に驚き、振り返るとそこには人形のように整った顔立ちをした少女が佇んでいた。
「誰?!」
『私はイズ。通信衛星ゼアより、郁人様及びゼロワンのサポートをさせていただきます。』
「は、はぁ。」
状況が飲み込めていない郁人に構わずイズは続ける。
『郁人様の脳は今、衛星に無線接続しています。』
「脳?衛星?」
『つまり、人工知能と同じ思考速度を持った状態、ということです。』
『そして、このままでは郁人様は五秒後に死亡します。』
「はぁ?!」
淡々ととんでもないことを告げるイズに驚愕する郁人。
何もない空間に突如表示されたモニターは、こちらを見て攻撃を準備しているようなバーテックスを映し出した。
周りの風景から、映像の視点が自分の腰、つまりこのドライバーであることを理解する。
それは同時に、一緒にいる友奈たちにも照準が合わせられていることを意味し、
「どうしたらいいんだよ?!これじゃあの子たちまで!」
自分のことよりも、一緒にいた少女たちのことを優先した郁人は、鬼気迫る表情でイズに詰め寄る。
『ですので、それまでにマニュアルをラーニングしていただきます。』
すると、空間に浮かんでいた看板のひとつが光りだし、《unlocked》の文字が浮かぶ。
『まずは、《ゼロワンドライバー》と《プログライズキー》の取り扱いからです。』
「使い方を学べってことか。」
これでも公務員で教員の郁人は、優先順位を間違えない。
「やるしかないんだよな。」
今は他にできることがないため、少しでも彼女らを助けられる可能性がある方法には全力を尽くす。
覚悟を決めた郁人は解錠されたらしき表示の前につくと、イズに促されるまま一つ目の項目に手をかざした。
「…先生?」
謎の機械を腰につけた瞬間、電源が切れたように動かなくなった郁人を心配し、友奈が声をかける。
しかし、立ったまま気を失っている郁人は反応がない。
その時、美森はバーテックスの主砲がこちらを向いていることに気づいた。
「友奈ちゃん…!」
怯えたような声をあげる美森の視線に誘導されるまま友奈もそちらに目を向けると、なにやら莫大なエネルギーを集めている様子のバーテックスと目が合った、気がした。
風の説明で使い方を知った特殊なアプリによれば、ヤツはバーテックスの中でも【
あんなのが直撃したら生身の自分たちはひとたまりもないことは明白であるため、なんとか郁人を運んでその場を離れようとする友奈。
しかし、二本足で立っているだけなのに杭を打たれたかのように動かない郁人。
「先生!逃げないと!」
一向に動かない郁人を揺すりながら、焦りを見せる友奈は声を荒げる。
「友奈ちゃんっ!!」
友奈を呼び起こすように、美森二度目の喚起。それは、郁人を置いて二人だけでも逃れようという意思があったのかもしれない。
しかし、友奈は郁人を諦めない。
それは、彼女らが大切にしている部訓、《勇者部五箇条》がひとつ、『なるべく諦めない』を諦めようとしない姿であった。
しかし、今の状況はもはやなるべく、などと言えるものではなく、逃げねば確実に死が待っている、蛮勇であった。
ここで諦めても誰も責められない。
それでも友奈は逃げなかった。
戦うことを拒否してしまった自分も、せめて目の前の先生だけでも助けようと意地を張ったのだ。
準備が整ったヴァルゴが、目の前の下等生物を排除しようとした。
その時だった、
「!」
郁人が突如として目を覚ます。
時間においてはほんの数秒間であったが、一秒を争う圧倒的脅威を前にして完全な沈黙状態に陥っていたのだ。
もう間に合わない。
死は目の前に迫っている。
しかし、その目付きはさっきまでのそれではなかった。
危機的な状況であるにも関わらず、焦る素振りを見せない郁人。
意識がなかった数秒間でいったい何があったのか、見当がつかない友奈たちは呆気にとられてその様子を見つめる。
この世の終わりかのような表情で逃げ回っていた、ベルトを巻く数秒前までとは人が変わったように、冷静さを欠かさず、どこか機械的に言葉を紡いだ。
「ラーニング完了。」
まっすぐに敵を見据えながら呟くと、手にしていた《ライジングホッパープログライズキー》の起動スイッチ、《ライズスターター》を押し込む。
電子音声が響く。
読み上げられたその
そしてそのまま郁人はドライバー右側に備えられた認証装置《オーソライザー》にキーをかざす。
ゼロワンドライバーの使用許可が降り、プログライズキーのロックが外れる。
と同時だった。ヴァルゴからエネルギー弾が発射された。
友奈たちは覚醒した郁人に希望を見いだし、悠長に眺めていたことを後悔した。
恐ろしい速さで迫るそれに着弾を覚悟した友奈と美森は目をつむる。
直撃、爆発。
しかし、地面に三つの死体が転がることはなかった。
爆風こそあったものの目立つ外傷はなく、痛みもない。
「…え?」
友奈と美森は恐る恐る目を開くと、目の前には体高2メートルを超えるほどの巨大なバッタが現れていた。
ヴァルゴの攻撃が当たる直前、空から降ってきた巨大バッタ、正確にはデータの集合体であるライジングホッパーの《ライダモデル》が、攻撃を相殺したのである。
ただの人間には不可避の死であったはずの一撃を簡単に防がれたヴァルゴは、一瞬思考を停止させる。
対して郁人は、軽快な待機音が流れる中、余裕を見せるかのように脚を肩幅に開き、両腕を斜め下に広げた構えをとる。
そしてライダモデルは郁人たちを守るかのように周囲を跳びはね始める。
虫の類いが苦手な美森は悲鳴を上げているが、そんなことはお構い無しに郁人は両腕を動かす。
体に平行に下から上へと、線対称に弧を描くような軌道で腕を動かし、頭上まできたら手を交差して前方で合わせる。
右手にはプログライズキーを持ち、左手はアラビア数字の『1』を模した形を作る。
そして高らかに叫ぶ。
自らを戦う存在に変える
右手のプログライズキーをドライバー右側面の《ライズスロット》に装填する。
《ライズリベレーター》が展開し、《プログライズリアクター》が起動する。
ドライバーに備えられた照射成型機《ビームエクイッパー》によって生成されたパワードスーツ、《ライズアーキテクター》が郁人の体を包む。
ライダモデルが分解され、蛍光イエローのアーマーとして全身に装着される。
変身が完了した合図に、虫特有の複眼が赤く発光する。
「せ、先生…?」
友奈は目の前で蛍光イエローの怪人に変わってしまった副担任に震えた声で確認をとる。
怪人は友奈たちのほうを振り返り、安心させるように頷くと、再び外敵に向かい宣言する。
「ゼロワン、それが俺の名だ!」
その宣誓は、背後の少女たちへのアンサーであり、迫り来る敵への反撃の狼煙であり、
同時に、自らが背負った運命に対しての、覚悟の顕れであった。
お読みいただきありがとうございます。
とりあえず初変身まではいけました。
本来なら友奈ちゃんが変身する場面ではありますが、ここは大人かいるということでちょっと甘えちゃった結果、覚悟不充分ということで東郷さんと一緒にオーディエンスです。
よろしければ感想、誤字報告もよろしくお願いします。