河童が巨費をかけて建造したスタジアムに歓声が響き渡る。その中心で、テニスラケットを握りしめて向かい合う少女が四人。片方のコートで八雲紫の式、八雲藍が滝のように汗を流しており、ネット前では、橙が息を切らし膝をついている。もう片方のコートでは、稀神サグメが真剣な眼差しで正面を見つめ、ドレミー・スイートが後方で守備に徹していた。
会場は大いに盛り上がっており、各陣営にエールが送られている。その盛り上がりが最高潮に達した時、サグメの打ったスマッシュが二人の式の間を抜けた。
「ゲームセット!ウォンバイ、サグメドレミーペア、6-3!」
そのコールとともに、スタジアムは本日最高の歓声に包まれた。
「決まったーッ!第一回全幻想郷テニス大会の優勝は、チーム月の都だーッ!」
歓声をかき消すほどの大音量で、実況の射命丸文が優勝チームの名を叫んだ。試合の終わった両ペアは、各々のチームメイトのいるベンチに戻っていく。二人の式の足取りは重かった。
「申し訳ありません。紫様にまわすことができませんでした」
「ごめんなさい、ゆかりしゃま……」
「いいのよ二人とも。よく頑張ったわ」
責任を感じて落ち込む二人の頭を、紫はそっと撫でた。その聖母のごとき手の温かみが二人を包み込む。
「次は……、次は絶対に勝って見せます」
「そうね、その意気よ」
わんわんと泣く橙と、グッと涙を堪えて体を震わせる藍。その二人を優しく見守る紫。そんなセンチな雰囲気が漂ったその時だった。
「ちょっとちょっと紫!私が負けた時はそんなの無かったじゃない!」
式神二人を羨ましがってか、幽々子が紫に後ろから抱きついて抗議した。彼女はシングルス2で豊姫と戦い、タイブレークまで持ち込んだものの、10-12で惜敗していたのだ。
「あの時はまだ負けが決まってなかったから気を抜けなかったの」
「じゃあ今やって」
「はぁ、しょうがないわね」
呆れる紫に撫でられた幽々子は、満足気に微笑んだ。負けたのに呑気だなあと、式神達は思った。そんな二人の目からは、すでに涙が引っ込み、笑顔が戻っていた。
「私って、チーム月の都って名乗っていいのかねぇ」
『今更そんなこと気にしない』
「サグメ様の言う通りです。私たちはもう仲間なんですから、元の所属なぞ何の問題にもなりません」
ドレミーのふとした疑問にサグメが筆談で答え、依姫が補足した。
「よっちゃんいいこと言うわねぇ。でも、よっちゃんだけ試合できなかったのは残念ね」
「そんなことないですよお姉様。私たちはチームで戦っているのですから、これでいいのです」
「まぁ!ほんとよっちゃんはいい子ね!」
「わっ、そんなにじゃれつかれると少し恥ずかしいです……あと、よっちゃんって言わないでください」
よくできた妹を、シスコ……妹思いの姉がぎゅっと抱きしめた。不意に抱きつかれた妹は少し驚いたが、すぐに微笑み返した。仲良きことは素晴らしきかな。サグメとドレミーはそんなことを思いながら仲良し姉妹を眺めていた。
試合後の余韻に浸った後、両チームがコートに整列した。向かい合った八人は、それぞれ正面にいる相手と握手をした。
「いい試合……とは言えないかしらね。結局あなた達のストレート勝ちですもの」
「ここまでセットを取られたのは初めてですよ。特にお姉様と幽々子さんとの試合は、私も焦りました。しかし、私もあなたと戦えなかったのは少し心残りです」
「なら、次に戦う時はお互いに一番手で出ましょうか」
「次、ですか。いつになるかわかりませんが楽しみにしておきます」
「あぁ、その心配はないわ。半年後に第二回を行うつもりだから」
「この規模の大会をまたそんなすぐにですか!?」
「この大会の影響でテニスが流行してね。競技人口がすごい勢いで増えてるの。それで、妖怪の山の河童と山童がビジネスの匂いを嗅ぎつけて申し出てきたの。この流行が下火になる前にやりたいってね」
「なるほど。そんなに流行っているのですね」
「私もこれほどになるとは思ってなかったわ。ともあれ、再戦の目処は立ってるわ。首を洗って待ってなさい」
「ふっ、望むところです」
お互いが不敵な笑みを浮かべ、再戦の約束をした。こうして、第一回全幻想郷テニス大会はチーム月の都の優勝で終わりを告げた。
そして、次の日から河童と山童は次の大会の準備に奔走し、出場選手達は自らを磨きはじめた。
そんな中、我らが主人公博麗の巫女はテニスのことなど露知らず、神社の掃除をしていた。