東方庭球録   作:東方好きのSEN

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genius1 博麗の巫女現る

今日も今日とて私の博麗神社では閑古鳥が鳴いている。自慢じゃないけど、これほど美しい桜が満開なのにも拘らず、ここにいるのは悪戯好きの三馬鹿とあうんだけ。落ちている桜の花弁を拾い上げ、ため息を一つつく。退屈がここまで続くと私でも辛い。宴会でも開いてやろうかと思いつつ竹箒を倉庫に片付けると、空から見慣れた白黒の魔法使いが、箒に乗って綺麗な金髪をなびかせて飛んできた。

 

「あら、魔理沙じゃない。どうかしたの?」

「おう霊夢!ここにやって来たのは他でもない。大事な用事を頼むためだ」

「大事な用事?」

「私のテニスのチームに入ってくれ!」

「てにす?なにそれ、弾幕ごっこの新しいルール?」

 

私が聞き慣れない言葉に首を傾げると、魔理沙は信じられないものを見るような目をし、手で口を塞いで驚いていた。何、私今変なこと言った?

 

「お前……そりゃやばくねぇか」

「失礼ね。知らないもんは知らないの」

「あー、わかったよ」

 

魔理沙は箒に引っ掛けていた縦長の大きなカバンから、棒の先が大きな楕円形になっていて、その穴に網目状に硬そうな糸が張っているという珍妙な道具を取り出した。

 

「テニスってのはな、簡単に言うとこれ……テニスラケットを使ってボールを打ち合うスポーツだ」

「ボールは?」

「そのくらいお前のとこにあると思ってたから無い」

 

そんな事を言う魔理沙は、ずっとラケットをブンブン振り回している。

 

「結構前から流行ってるんだけどなー」

「そんなこと言われても知らないわよ。ほら、初心者はチームに入らないでしょ。帰った帰った」

「いや、むしろ丁度いい。私も昨日から始めたばかりの初心者だからな!」

「そんなんで私を誘いに来たのね……」

 

魔理沙は百点満点の笑顔でグーサインをした。私にあれこれ言っといてこれだ。魔理沙らしいと言えばそうなのだが。今度はこっちが呆れる。

 

「最近までずっと魔法の研究で引きこもってたからな。霊夢はどうなんだ?」

「ここ半年くらいずっと暇してたわ」

「うっわ、すっげぇ人生無駄にしてる」

「私の人生なんだからいいでしょ。でも、いきなり誰も来なくなったのは少し不思議ね」

「参拝客が来ないのはいつものことだろ?」

「いや、賽銭も入れずに入り浸ってる連中のことよ。レミリアとか萃香とか。いつの間にかピースもどっか行っちゃってるし」

 

そういえば半年くらいまともに人と話していない。流石にそれはどうなんだと思ったが、過ぎてしまったものは仕方ないと考えることにした。

 

「まぁそれは置いとくとして、私はてにすとかいうのをやる気はないから。体動かすのは面倒なのよ」

「えー、やろうぜ。暇なんだろ?三ヶ月後には大会も開かれるんだぜ!」

「だーかーら、そう言うのが面倒だって言ってるのよ」

 

自分の自堕落な生活は直そうと思うが、スポーツとかの面倒事は勘弁だ。そういうのは求めていない。そもそも、金にもならないのに体を動かすなんて、アホらしい。

 

「あーあ、優勝したら賞金もでるのになー」

 

後頭部に手を当てて、魔理沙はわざとらしくそう言った。……話は変わるが、最近の私は全然体を動かしていない気がする。それは幻想郷の守り手である博麗の巫女としてだらしないのではないか。もし異変が起こったとして、果たしてこの鈍った体で解決できるのだろうか。いや、できない。

 

つまり、この鈍った体をどうにかするのが巫女としての急務。魔理沙の言う「テニス」とやらをやるのが最適というわけだ。決して金に目が眩んだとかそういうのではない。

 

急いで魔理沙の肩を掴むと、こうなることが分かっていたかのように憎たらしい笑顔でこちらに振り返った。こいつの掌の上で踊っているような気分になるが、致し方ない。

 

「気分が変わったわ」

「ほほぅ、賞金の話をした途端どうしたのかなー?」

「そんなんじゃないわよ。少し体を動かさないとダメだと思っただけ」

「へぇー……。まぁやるんならいいや。じゃあ道具持ってないだろうしレミリアのとこ行くか」

 

魔理沙が箒にまたがり、私が飛ぶ体勢になったその瞬間だった。

 

「待ちなさい」

 

聞き慣れた、寺子屋の先生のような語気が強く説教くさい声。面倒臭そうなので振り返りたくないが、無視したらしたでまた面倒臭いであろう。仕方なくゆっくり振り返ると、予想通り人物がいた。

 

「華扇、何か用?」

 

神社の屋根に仁王立ちし、鮮やかな薄桃色の髪を桜の花弁とともに風になびかせ、射抜くような眼差しを向ける姿は、仙人らしい威厳があった。私が言葉を返すと、ひょいと屋根から飛び降りて話を始めた。

 

「話は聞かせてもらったわ。あなた達も大会に参加するのね」

「そうだけど。あんたもチームに入りたいの?」

「先約があるから遠慮するわ。私は忠告に来たの。優勝を目指す気があるなら、賞金が欲しいなんて煩悩は捨てなさい」

「あー?いきなり現れて何なのよ」

「この大会はプライドをかけた真剣勝負。今の煩悩にまみれ、自堕落な生活を送っていたあなたでは絶対に勝てないわ」

 

いきなり現れて説教とはいったい何のつもりなのだろうか。私の話を聞かずに勝手に進めるし。ただ、私にだってプライドはある。「絶対に勝てない」なんて言葉は無視できない。

 

「ちょっと待ちなさい」

 

勝手に話を切り上げて帰ろうとする華扇を引き止める。

 

「好き勝手言って、このまま帰れると思ってるの?」

「じゃあ、何をする気ですか」

「勝負しなさい。テニスで!」

「えぇ!?」

「ほぉ……」

 

私が勝負を仕掛けると、慌てて魔理沙が前に出て来た。

 

「やめとけって!テニス初心者が勝てる相手じゃない!」

「あー?やってみなきゃわかんないでしょ」

「いいや分かる。だって、華扇のいるチームは前大会ベスト4に入ってるんだからな」

 

なるほど、そんなにすごい選手だったのか。それなら魔理沙の言い分もわかるが、このまま引き下がるわけにはいかない。

 

「で、あんたはこの勝負受けるの?」

「勿論受けるわ。しかし、私も鬼じゃない。試合の中で1ポイントでも取れたら、あなたの勝ちでいいわ」

(……あんたは鬼でしょ)

 

死ぬほど気が付きにくいギャグは放っておいて、正直1ポイントなら取れる気がする。魔理沙もその条件を聞くと、もしかしたらと思ったのか、強く引き留めなくなった。

 

その後、華扇に近場のテニスコートに案内された。どうやら、ここ最近河童やらが幻想郷中に設置しているらしい。「紅魔館」や「命蓮寺」などの勢力も、敷地内にコートを作るように依頼したらしい。

 

ここはある程度人間の里から離れてはいるが、人間が来られない程でもないという絶妙な位置にあるコートだ。そのせいか、普通の人間が何も知らないまま妖怪とテニスをするなんて珍事も起こるらしい。博麗神社から近いこともあって、妖怪が人を襲うこともないので、普通の人間にとっても安全と言えば安全だそうだ。

 

「おー、空いてるなぁ」

「これなら大丈夫そうね。私はコートの石とかどけとくから、魔理沙は霊夢にルールを教えてあげて」

 

魔理沙は私にテニスの大まかなルールを教えてくれた。意外と面倒な部分があったが、一度で覚えられない程じゃない。粗方ルールが理解できた頃に、華扇もコートの準備を終えた。

 

私は魔理沙からラケットを借り、華扇は自分のラケットを持ってコートに入る。審判は魔理沙に任せた。

 

「フィッチ」

「えーっと、ラフ」

 

私の返事を聞くと、華扇が立てているラケットをクルクルと回した。これはサーブ権を決める方法で、立てたラケットを回して倒れた時、ラケットの持ち手の「グリップ」と呼ばれる部分の先の「グリップエンド」に書いてあるマークの向きを当てた方がサーブかコートか選べるらしい。

 

正しい位置が「スムース」反対なら「ラフ」と言うらしい。伝わればいいので、表と裏とか、上と下でもいいのだが、こういうのは専門用語を使った方がカッコいいと魔理沙は言っていた。そんなことを考えているうちにラケットが倒れた。

 

「スムースね。じゃあ私がサーブを貰うわ」

「ご自由にどーぞ」

 

ネットから離れて華扇と向き合う。悔しいけど、華扇の構えは様になっていた。だが、1ポイントだけでも取ればいい。こっちが決めなくても、華扇が一回でもミスをすればこちらの勝ち。ちょろいものだ。

 

華扇がトスをあげる。さぁ、どこからでもかかって来いと構え、「来る」と思い、ラケットを振りかぶる。しかし、その時にはすでにボールはコートの壁にぶつかっていた。

 

「15-0!」

「なっ、速すぎでしょ……」

 

無慈悲なコールが鼓膜を揺らす。全く反応できなかったという事実が、私と華扇との間にある圧倒的戦力差を伝えて来た。もしかしたら、本当に1ポイントも取れないのではないかと一抹の不安を覚えたが、まだ始まったばかりだと思い直し、再びラケットを握って華扇と向かい合った。

 

 

 




投稿頻度はそんなにですが、見守っていただければ幸いです。
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