試合で体力を使った私を気遣ってか、魔理沙が箒に乗せてくれた。だが真上から注がれる春の陽気は、夏の日差しのように暑かった。
「魔理沙〜日差し強いから帽子貸して〜」
「ん、いいぞ」
了承を得たところで帽子をもらって被った。すると、帽子から花のような甘い香りがした。その香りはどこか安心感があって心が安らいだ。
「この帽子、魔理沙のにおいがする」
「いや、私のなんだから当たり前だろ」
そんなことを話しているうちに霧の湖を通り過ぎ、紅魔館が見えてきた。一応地上に降りて門番に入場許可を貰おうと思ったが、案の定紅魔館の門番、紅美鈴は立ったまま居眠りをしていた。
「……このまま入ろっか」
「体感二割くらいだな、こいつが起きてるの」
私たちが呆れながら門の扉に触れようとしたとき、美鈴の周りに無数のテニスボールが出現し、彼女に襲いかかった。全弾命中し、美鈴は手荒な手段で叩き起こされた。こんな事ができる人間はただ一人だ。
「ようこそ紅魔館へ。うちの門番が失礼したわ」
「いつものことよ。それより、ナイフはやめたの?」
「血を拭き取るより後片付けが楽なのよ。ほら美鈴!さっさとボール拾う!」
「はっ、はい〜!」
「ね?」
そこら中に散らばったボールをせっせと拾う美鈴は、自業自得ではあるものの少し可哀想だった。
「にしても、あなた達二人が揃って来るなんて珍しいわね。どうかしたの?」
「私たちもテニスの大会に出ることにしたんだ。それで、霊夢が道具を持ってないから借りに来たってわけ」
「あなたに貸すとそのまま持っていかれそうなんだけど」
「そんなことないって。コイツにはしっかりと自分にあったラケットを買ってもらうつもりだ。それまで借りるだけだぜ?」
「嘘……魔理沙がちゃんと物を返そうとしてる!?」
「パチュリー様の本もそうやって返してくれたらいいのに」
「それとこれとは話が別だぜ」
咲夜はもはや取り繕うともしない魔理沙に呆れてため息をついた。
「まぁ、あなた達が出るって聞けばお嬢様も喜ぶでしょうし、道具は貸してあげる」
「よっ、瀟洒!完璧メイド!パッdムググ!」
「ん?今何か……」
「なんでもないわよ。早く取りに行って」
魔理沙の悪い口を塞ぎ、機嫌を損なわない内に咲夜に道具を取りに行くよう促す。少し気にかかっていたようだが、完璧なメイドは些細なことは気にせずにすぐ仕事に戻った。
「持って来たわよ」
そして、次の瞬間には道具一式が目の前に現れた。本当に便利な能力だなと思いつつ、道具を手に取ると、気を利かせて咲夜がテニスバッグを渡してくれた。
「おぉ、私たちにピッタリなカラーだな!」
魔理沙は白黒のテニスバッグを高く持ち上げて嬉しそうに笑っている。私も紅白のバッグを渡されたが、あんな子供みたいにはしゃいだりしない。
「色々ありがとね」
「いいわよ別に。でも、借りたからには大会でいい結果出しなさいよ」
はしゃぐ魔理沙を置いておいて咲夜に礼をすると、瀟洒な彼女は珍しく悪戯っぽく笑った。そんな彼女の言葉が聞こえていたのか、魔理沙がすぐに駆け寄ってきて私の方に寄りかかりながらこう言った。
「言われなくても、優勝は私たちがもらうぜ。な、霊夢」
「まぁ、やるからにはね」
「ふふっ、楽しみにしてるわ。そうそう、これ、大会のパンフレットよ。どうせ持ってないだろうからあげるわ」
渡されたパンフレットの表紙には凛々しい姿の依姫が写っていた。幻想郷の大会なのになぜ彼女が表紙なのか聞くと、前大会の優勝チームの主将だからと聞いて納得した。ぱらりとページを捲ると、大会のルールが書かれていた。
「なになに……試合は団体戦。ワンセットマッチでシングルス二試合、ダブルス一試合をして勝敗を争う。1チーム4〜5人……って全然足りないじゃない魔理沙!」
「まぁまぁ、今から集まるから安心しろって」
「どこに安心する要素があるのよ……」
私と魔理沙は顔が広い方だけど、紅魔館や永遠亭のようにまとまったグループに所属しているわけでは無い。つまり、チームを組むメンバーとしての優先順位が下がってしまうのだ。こんな行き当たりばったりでは、最悪あうんあたりを連れて行くことになるのではと不安になる。
「それじゃあ私は仕事に戻るから。頑張ってね」
頭を抱える私を放って、無情にも咲夜は仕事のために紅魔館へ戻っていった。それを追いかけてテニスボールを抱えた美鈴も紅魔館へ入っていった。
「……どこかアテはあるんでしょうね」
「おうよ。そりゃ、とっておきのやつがな」
自信満々にグーサインを出す魔理沙。このどこか楽観的で危なっかしいところが魔理沙の魅力ではあるのだが、巻き込まれるこっちからしたら少しは気遣って欲しいと思う。
大会まで三ヶ月。私たちはちゃんとチームを組むことができるのだろうか。
ちょこっとキャラ情報
十六夜 咲夜
紅魔館の瀟洒なメイドにして、チーム紅魔館のダブルスプレイヤー。相方はもちろん紅美鈴。最近の悩みは、練習で疲れるせいで美鈴の居眠りがさらに酷くなったことだそうだ。
一ヶ月近く空いてしまい申し訳ありませんでした。次はもうちょっとはやく投稿できると思います。