でも何とかできたので投稿しました…
綾小路side
それは偶然だった。
オレはその日、冷蔵庫に保存していた飲み物を切らしている事に気づき、寮の外にある自販機に水を取りに行こうとしていた。
自販機の前まで移動してボタンを押し、無料の水を手にして戻ろうとした時、寮の出入り口から女子が出て来たのを見た。
ツーサイドアップにした髪に可愛らしいフリルのついた服装、そして何より女子生徒の容姿が優れているこの学校でも目を引くような顔立ちをしている。恐らくは同級生の女子だろうが、オレは今まで見たことがない。故に他クラスの生徒なのかと思ったが、それよりも今は少女の表情に意識を向けていた。
何故ならその表情は怯えた子犬のように弱々しかったからだ。まるで今から恐ろしい事が起きると確信しているようで憂鬱さと恐怖が入り混じった雰囲気を出していたのだ。
そんな彼女の姿を見て、俺はハッと目を見開く。
「……佐倉、か?」
普通ならあり得ない発想だった。パッと見ればあの地味な印象しかなかった佐倉と目の前の美少女を結び付けなかっただろう。しかしあの少女の暗い顔が、何処となく普段の自己主張をしない佐倉に似ている気がしたのだ。それによくみれば髪色や瞳の色も同一なものだと判断でき、オレは少女が佐倉であると確信した。
そこまで考えたオレはふとある疑問が頭に浮かぶ。何故佐倉は目立つ容姿に変えてまで外出するのか。もちろんプライベートだから学校とは違う自分でいたいと思う線もなくはないが、暗い表情を見る限り何やら事情がありそうだった。
「……まさか、今から村上に会おうとしているのか?」
オレはそう言葉をもらす。確証はなかったが、数日前佐倉は村上と一緒に下校して話し合いをしたようだった。その中で佐倉の容姿に気づき無理矢理あの格好をさせているとしたら合点がいく。もしそうだとしたら前に考えていた村上の動向を探る機会として好都合だと判断した。
オレは自販機で手にした水を手にしながら、佐倉と思われる少女と一定の距離を保ち、尾行する事にしたのであった。
◇◇◇
佐倉が訪れた先は学生への娯楽施設として利用されるケヤキモールだった。オレはそれまで気づかれる事なく佐倉の後をつけていき今は物陰にいる。もし気づかれればストーカーのレッテルを貼られる可能性があるが背に腹は変えられなかった。
そんなことを思いながらこっそりと物陰から顔を出してエントランスホームに目線を向けるとそこには案の定村上の姿があった。やはりあの美少女は佐倉でありあの格好も無理矢理させているのだと分かった。
合流した二人はその場で軽い会話をすると、ケヤキモールの奥へと歩き始めた。それを見たオレは一旦物陰から出て丁度歩いていた一般客と同じ方向に着いていく。
以前堀北との一件で村上は背後にいたオレの気配に気づいた事があった。となれば下手に隠れ様子を伺うのは悪手と言える。ここは密集地帯であることを利用した溶け込みが最適であると判断した。
村上達への視認は最小限にとどめ、同じ方向に歩く一般客の移動に次々と対象を変えて着いていく。そうする事で気づかれずに尾行できていた。
しばらくそんな感覚で移動していると村上達はエレベーターの前で歩みを止めた。それを見たオレはすぐさま一般客と分離して近くにあった大きな柱に寄りかかる。
「(エレベーターか。ならここで少し待って階層を確認するか)」
そう思いながらオレはここでも一般客に溶け込むよう手にしていた水を開けて、柱の側面に移動しながら飲もうとする。
「それでね。その時夢ちゃんがーーキャッ!」
「おっと…!?」
オレはエレベーターに注意を向けていたことで視線を前から外していた。それにより柱の影から出てきた人物に気づかずぶつかってしまう。その拍子で持っていた水のペットボトルを手から放してしまい盛大にかけてしまった。
「うわあっ!? ほ、帆波ちゃん大丈夫!」
「大丈夫だよ〜て、ありゃりゃ。上着びちゃびちゃになっちゃった…」
そこにいたのは服が濡れている綺麗なストロベリーブランドの少女とハンカチを取り出し拭いていたボーイッシュな顔立ちの少女だった。
するとボーイッシュの少女がこちらを睨んでくる。ぶつかった事に怒りを覚えているらしい。オレはすぐに謝罪した。
「悪かった。よそ見してて人がいる事に気づかなかったんだ」
「うんうん。こちらこそだよ。私達も話に夢中で前を見てなかったのが悪いし」
水をかけてしまった方の少女は怒った様子はなくむしろ自分たちが悪かったと謝罪してくる。何とも性格が良い……だが、片方の少女はそうは思っていないようで睨みを止める気配がなかった。
「いや、オレはぶつかった上に服を濡らしてしまった。こちらの方に非がある、本当にすまない」
「にゃはは。本当に大丈夫だって……取り敢えず、ここだと人が多くて迷惑だし何処か別の場所に移動しない? 謝罪をするかはともかくさ」
「あ、ああ。そうだな……」
オレは話の流れで頷く。正直言えば今は村上達の動向が知りたかったので軽く済ませたかっただが、この状況で相手の提案を断る事が出来ずつい了承してしまった。
「決まりだね〜。じゃあ行こっか、ほら千尋ちゃんも」
「う、うん帆波ちゃん……(ジロ)」
一之瀬の言葉に千尋と呼ばれた少女は残念そうな声で返すとまたオレに睨みをきかせる。そこに少し疑問を持ったが指摘するのも逆効果だと考え流すことにした。
ふとエレベーターの方を見たが既に村上達の姿はなく、エレベーターの階層を示すパネルも今オレがいる階層を示していて後を追えない。完全に見失う結果となってしまった。
「(……仕方ない。今回は諦めるか)」
オレは多少残念に思いながらも、一之瀬達についていくのであった。
◇◇◇
「私、Bクラスの一之瀬帆波て言うの。こっちは、その……同じクラスの白波千尋ちゃん」
「ど、どうも……」
「Dクラスの綾小路だ」
現在オレは一之瀬と白波にケヤキモール内にあるカフェに足を運び、オープンテラスにある席に座っていた。あの後一之瀬は丁度買い物をした後だったようで購入したばかりの上着に着替えている。
「改めて、今回は済まなかった。完全に不注意だった」
「もうその事は大丈夫だって。なんかこうして話し合いの場を設けちゃったけど、別に謝罪を強要してるわけじゃないし。今回のことはチャラって事で明言しといたほうがいいでしょ? ただでさえこの学校は特殊だし」
一之瀬の言葉にオレも内心同意する。この学校はクラス間でポイントを競い合う制度がある為生徒同士のいざこざも影響させる。別に今回の件でポイントが増減する事はないだろうが互いに何かあったなら溝ができない内に解決しておいた方がいい。一之瀬はそれを見越してこの場を設けたのだろう。彼女の人柄がより良いものなのだと実感できた。
「……わかった。そう言ってもらえるならありがたい」
「うん! 千尋ちゃんも、もう綾小路くんに強くあたらないでね」
「帆波ちゃんがそういうなら……」
一之瀬の言葉に白波も納得したようでようやく睨みつけもなくなる。しかしまだ若干顔を顰めているのを見るとまだ思う所があるようだった。
後、先程オレの自己紹介から一之瀬は引っかかったような表情を浮かべている。一体どうしたのだろうか?
「……ねえ綾小路くん。ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな」
「何だ?」
「Dクラスって事は村上光太くんと同じクラスなんだよね? 彼ってどんな人なのかな?」
ふと一之瀬から意外な人物の名前が出てくる。なぜ彼女が他クラスの、それも村上のことを聞いて来たのかが気になり、オレはそれに質問で返した。
「村上と知り合いなのか?」
「うんうん。中間テストの時にちょっと話した事があるくらいかな。でも、村上くんの事は他クラスでも有名だから」
「……退学者の件か?」
確信をついた言葉に、一之瀬はより真剣な表情になる。
「須藤健くん、だっけ。バスケ部で上級生顔負けの実力を発揮しててレギュラーの噂もあった生徒。でも村上くんはそんな彼の点数を下げて退学させた。担任の星之宮先生から聞いたけど一点を下げる権利に必要なポイントは50万。この時期に正規に、しかも単独で手に入れるのは不可能。それに前に口論してたCクラスの山脇くんが退学になった件も村上くんがやったんじゃないかって私は思ってる。正直にいえば、警戒してるんだよね」
どうやら一之瀬はクラスの状況を性格に把握しようとしているらしい。今言った権利を購入したこともDクラスが漏らした愚痴などを聞いて知ったのだろう。情報収集に抜かりがないのを見るに彼女が優秀であるということがよく分かる。
故にオレは、一之瀬の話を繋げることにした。
「正直言って、同じクラスの奴らもあいつには困ってる。あいつは自分の想いに忠実でその気になれば実力行使もしてくるからな。気分ひとつ変えただけで自分が退学になるかもしれない」
「やっぱりそうなんだ。なら私……私達Bクラスに何かできる事はないかな? 何かあれば協力できるかもしれないよ」
「何で他クラスの事情にまで首を突っ込むんだ? 敵に塩を送った所でメリットなんてないだろう」
「もちろん、100%善意ってわけじゃないよ。村上くんの問題が解決できれば今後Dクラスだけじゃなくて他のクラスの人が無理矢理退学させられるような事はない。そうなればみんな嬉しいでしょ?」
確かに一之瀬の言う通りだろう。Bクラスの生徒にどのような奴がいるか知らないが、村上は好かれるような人間じゃない。身勝手な行動を見て不快に思う生徒が現れるかもしれないし、それで陰口を言う生徒が現れる可能性もある。そうなれば村上の怒りを買い、何をさせるか分からない。
それに村上はオレを嫌っていると公言しているので、退学させる対象になっているかもしれない。そうなると村上の対処に協力者がいるとなれば心強いだろう。
そうしてしばらく考えた後、オレは一之瀬の提案に応える事にした。
「クラスとしての協力は確約できないし、協力してもらう事があるか分からないが、オレ個人として知っている事は話そう。村上のことを解決できればこちらも嬉しいからな」
「ありがとう! そう言ってくれると嬉しいよ!!」
一之瀬はオレの手を取って感謝するように笑顔になった。女子に手を握られ内心ドキリとしたが白波の目線がキツくなり始めたので話を続ける事にした。
「村上は学力・身体能力ともに優秀な生徒だ。成績がつく際には確実に結果を残している。腕っ節もあって退学した須藤を軽くあしらえる実力はあるな。村上が保有する大量のポイントもそれを使って上級生から巻き上げているんじゃないか?」
「うん。それは私も調べてよく知ってるよ。後は、村上くん自身を馬鹿にするような発言が嫌いなんだよね?」
「そうだ。それで須藤と山脇は退学した。だから特別関わることがなければ退学になる心配はないだろう。後はそうだな…村上は青春てやつを謳歌したいと言っていた」
「青春か〜結構意外だね。クラスの人と仲良くしてないみたいだからあんまりそう言った事は気にしないタイプだと思ってたけど」
「それはDクラスの生徒を毛嫌いしているからだろう。あいつはクラスの奴らを見放してるらしいからな。後はそうだな……恋愛もしたいんじゃないか? 同じクラスの奴は不良品で嫌らしいが可愛くて尽くすなら考えるとも言っていた」
「そ、それは……」
「何ですかその人。信じられない……」
一之瀬は苦笑いを浮かべ、白波は辛辣な言葉を吐く。とは言ってもそれは正しい反応だろう。村上の発言は男尊女卑なものであり異性を蔑ろにしている。そんな奴に好感を持つなど普通では考えられない。
「だが奴と話す機会をつけるならそこが狙い目だろう。一之瀬の容姿なら村上も話を聞いてくれるかもしれない」
「えっと、色仕掛けってことかな? それは……」
「だ、駄目です! そんなこと絶対にさせません!!」
すると突然白波が必死そうな顔で勢いよく席から立ち上がり声を上げる。一之瀬もバツの悪そうな表情をしていてオレは疑問に思ったが、少し考えオレの中に一つの結論が浮かび上がった。
「……もしかして二人は、付き合ってるのか?」
「え、あ……」
「そうですよ! 私と帆波ちゃんは付き合ってるんです!……何か言いたいことでも?」
「い、いや……深い意味はない。ただ同性同士で付き合う奴は産まれて初めて見るから驚いたんだ」
オレの言葉に理解はしているようで、白波は気持ちを落ち着かせると席に座り直した。
「まあ、そう思うのも無理はないですね。帆波ちゃんも同じらしいので今はお試し期間みたいなものです。今日はお互いを知る為のデートでした」
「そ、そうだったのか……」
呆気にとられながらもおれは頷く。ここまで来ればオレに対する白波の態度にも合点がいった。要はデートの邪魔をされて遠回しに「お前は邪魔だ」と言いたかったのだろう。
と、ここで一之瀬が場の空気を元に戻そうと話を元に戻そうとして来た。
「ま、まあ色仕掛けってのも深読みしすぎたかな。女子に興味があるなら私が普通に話しかけても問題ないって事だよね」
「あ、ああ。その通りだ」
「となると、どうやって機会をつくるかだよね。いきなり話しかけても警戒されるだけだと思うし、あくまでも自然の方がいいと思う。誰か彼と普通に会話できる人がいればーー」
「離せぇええええええっ! 僕は、あいつをぶっ殺すんだぁああああ!!」
オレたちが村上について話している最中、ケヤキモールの奥から叫び声があがり会話を中断してしまう。
「随分と物騒なセリフだな」
「そ、そうだね。何かあったのかな?」
声の鳴る方に視線を向けると警備員らしき人物二人が一人の店員を連行していた。
「このっ、暴れるな!」
「いい加減大人しくなれ! これ以上暴れても損するだけだぞ!!」
「黙れ黙れっ!! 佐倉は僕のものだ!! 僕を邪魔するなら、こうだぁっ!!」
「ぐはっ!?」
連行されていた店員は警備員の一人の顔面に頭突きをした。それが丁度鼻にクリーンヒットしたようで鼻血を出しながら体制を崩してしまう。もう片方の警備員も意識をそちらに向けてしまい手の力を抜いてしまった。その隙に店員は警備員二人の拘束から逃れ、その場から駆け出した。
「どけえええええッ!!」
店員は声を上げながら一般客に威嚇して退路を確保する。偶然にもそれはオレたちの方に向かっていた。
「不味いな。一度ここから離れよう」
「う、うんそうだね! 千尋ちゃんもはやく!」
「ま、待って帆波ちゃ、きゃっ!」
一之瀬の言葉と向かってくる店員に動揺したのか、白波は慌てて席を立って走り出そうとして片脚をつまずき、地面に身を放り出す。そしてそれは運悪く、発狂する店員の退路上に転んでしまった。
「ああああああああああああ!!!」
「きゃああっ!!」
「千尋ちゃん!?」
一之瀬が白波の名前をいった刹那、オレは瞬時にその場から駆け出す。そしてすぐさま白波の前に立ち、向かってくる店員と対峙した。
店員は臆する事なくこちらに向かってきたが、オレは冷静に片脚を後ろに置き、両腕を前に出す。そして店員の服を掴みそのまま背負い投げの要領で地面に叩きつけた。
「ギュッーー」
店員は一瞬蛙が潰された時のような声を出したが、受け身を取っていなかった為すぐに意識が刈り取られ動かなくなった。オレは店員が動かないことを確認すると、倒れている白波に顔を向けた。
「白波、大丈夫か?」
「は、はい。ありがとう、ございました……」
「千尋ちゃんっ!!」
一之瀬はすぐさま白波のそばに寄り添いそのまま勢いよく抱きつく。それに安心したのか白波はその場で泣き出してしまい、一之瀬は頭を撫でて優しい言葉をかける。
しばらくそれを倒れ伏した店員を拘束しながら見ていると、一ノ瀬から声がかかった。
「それにしても綾小路くん、今のすごかったね。柔道か何かやってたの?」
「たまたま身体が動いただけだ。自慢じゃないが習い事はピアノと書道ぐらいしかない」
「ふ〜ん……もしかして綾小路くんも、村上くんと同類さんなのかな?」
「勘弁してくれ。オレは自分勝手に暴力は振るわない。それにさっきのもまぐれみたいなものだ」
「……にゃはは。じゃあ今日は、そう言う事にしてあげるよ」
返答に一之瀬は一瞬目を細めたが、これ以上の詮索にあまり意味がないと判断したようで質問をやめた。
その後、追加で来た警備員の人に軽い自重聴取を受けることになった。とは言っても質問を2、3個応えるだけだったのですぐに終わり、白波は少し怖い想いをしたせいで受け答えに時間がかかっているようだった。
それを心配そうに見ている一之瀬が口を開く。
「……なんか、話し合いをする空気じゃなくなったね。今日はここまでにして、またの機会に話せないかな?」
「ああ、わかった。なら連絡先を交換しておくか」
「そうだねっ!……はい、登録完了っと。それじゃあ、またね。綾小路くん」
一之瀬はそのまま警備員と話している白波の元に向かおうとするが、オレはそれを静止する。
「いや、最後にこっちもお節介を言わせてくれ。一之瀬、傷つけたくない気持ちは理解できるが、自分を押し殺しすぎるのはよくないと思うぞ」
「っ!?……やっぱり分かる? 私が無理してること」
「何となくだけどな。今のままだと結局お互いに傷つく事になると思う。例え相手が悲しむ事になるなら、きちんと選択することも大事なんじゃないのか?」
「……そうだね、うん。忠告ありがとう。千尋ちゃんの事は後で解決するよ」
そういうと一之瀬はこちらに目線を向けてくる。
「綾小路くんに借りができちゃったね」
つきものが晴れたかのような一之瀬の笑顔に、オレはつい胸をドキリとさせてしまった。
一之瀬と白波の告白イベントはこの作品では出来なかった為、こうした流れにしました。これで何とか綾小路と一之瀬のつながりを持てた感じですね。