ようこそ異世界帰還者がいる教室へ   作:END

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三週間更新を止めたので早めに投稿しました。と言っても試験説明だから容量を稼げただけなんですけどね。できるならこれで巻き返しをしたい。


無人島試験と仮設トイレ

『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、是非デッキにお集まり下さい。間もなく島が見えて参ります。暫くの間、非常に意義ある景色をご覧頂けるでしょう』

 

 

「……来たか」

 

 

俺は客船に流れた妙なアナウンスを聞き、そう言葉を漏らす。意義ある景色なんて深みのある言い方は明らかに不自然だ。おそらく俺の考えが当たっていたという事だろう。

 

ベッドから起きた俺はすぐさま船のデッキに向かう。すると目の前に島があるのを確認できた。他の生徒は歓喜したように騒ぎ始め何をして遊ぶか話し合っている。能天気な奴らだ。

 

 

すると船は浅橋につけるかと思いきや島全体を回り始めた。どうやら生徒達に島の全体を見せているらしい。

 

 

「(成程、あの妙なアナウンスにあった意義ある景色ってのはこういう事か。この周回中に何かを見つけるのがポイントなのかね。どれどれ……)」

 

 

意図を察した俺は【視覚拡大】を使い無人島をくまなく観察する。島の面積はざっと見て約0・5㎢、最高標高230m程。生徒達が過ごすには大きい島だと言える。

 

そこで俺はあるものを数個見つけた。何かの台座のような電気機器でパネルのようなものがある。普通の人間では肉眼で把握出来ないほど小さなものだったがスキルを用いた俺には把握できていた。

 

 

「あの場違いな装置……あれがポイントになってくるのかね」

 

 

 

『これより、当学校が所有する孤島に上陸いたします。生徒たちは30分後、全員ジャージに着替え、所定の鞄と荷物をしっかりと確認した後、携帯を忘れず持ちデッキに集合してください。それ以外の私物は全て部屋に置いてくるようお願いします』

 

 

そんな発見をしていると新たにアナウンスが流れた。どうやらタイムリミットらしい。とはいえ関係のありそうな装置を見つけたのは良かっただろう。俺は十分に満足すると指示通りに準備する為部屋に戻るのであった。

 

 

ジャージに着替え荷物を持って部屋から出ると生徒達が集合している場に到着する。すると待機していた教師が前に出てくる。

 

 

「ではこれより、Aクラスの生徒から順番に降りてもらう。それから島への携帯の持ち込みは禁止だ。担任の先生に各自提出し、下船するように」

 

 

生徒達はこの日差しが強い中でやるのかと不満の声をあげたが、その指示に従うように携帯を預け、荷物確認を始めていった。

 

そして全クラスの確認が終わると、Aクラス担任兼英語教師である真嶋が用意された白い壇上に上がり拡張器を持った。

 

 

「今日、この場所に無事につけたことを、まずは嬉しく思う。しかしその一方で1名ではあるが、病欠で参加できなかった者がいることは残念でならない。ではこれより──本年度最初の特別試験を行いたいと思う」

 

 

やはりというべきか、俺の読み通り今回のバカンスは学校側の嘘であった。それに気づけなかった生徒達は困惑の声を上げている。

 

 

「期間はこれより一週間、君たちにはこの無人島で集団生活して過ごしてもらう。それが今回の試験内容だ」

 

「無人島で生活って……船じゃなくて、この島で寝泊まりするってことですか?」

 

「そうだ。この試験中の乗船は正当な理由がない限り許されない。眠る場所はもちろん、食料や飲料水といったもの全てを自分たちで考える必要がある。試験開始時点で、各クラスにテント2つ、懐中電灯2つ、マッチを一箱支給する。また、歯ブラシに関しては各生徒に1セットずつ。日焼け止めと女子用の生理用品は無制限で支給する。各クラスの担任に願い出るように。以上だ」

 

「はああ!? マジの無人島サバイバルかよ!? そんなの聞いたことないっすよ! 非現実にも程がーー」

 

「黙れ池。耳障りだ」

 

 

俺は池の言葉を遮るように圧を込めて黙らせた。瞬間池をはじめとしてザワザワしていた周囲も静かになり俺に目線が集中する。

 

 

「テメェの反論なんざ知るか。そもそもこの学校に常識を求めている時点で履き違えてんだよ。生徒同士をポイントで競わせてる場に現実もクソもあるか。いい加減自分のいる環境を把握しろ。分かったらその間抜けな思考をやめたらどうだ?」

 

「……っ。わ、わかったよ……」

 

 

池は俺が怖くて強く出れないことに加え、言葉にぐうの音も出ない為に大人しくなる。それを尻目に俺は壇上に立つ真嶋に「話を続けろ」という視線を送る。本人はそれに眉を顰めたが話を始めた。

 

 

「……君らに不平不満があるのは認めよう。しかし特別試験といっても重く捉える必要はない。なぜなら今回の試験のテーマは『自由』だからだ」

 

 

特別試験なのに『自由』……その相反する言葉に生徒達はさらに疑問を募らせた。

 

 

「君たち全クラスには前提として300ポイント支給される。このポイントを消費する事で今から配布するマニュアルに載っているモノを購入することが可能だ。食料や水のみならず、無数の遊び道具なども取り揃えている。これを使いバーベキューをするもよし、キャンプファイアーをして友人同士語り合っても構わない」

 

「つまり、何でもしていいって事なのか? でも特別試験て言ってるしなんか難しいんじゃ……」

 

 

何処からかそんな声が聞こえてきたが、真嶋は首を横に振り否定した。

 

 

「いや。難しいものは何もない。この試験でどうしようと2学期以降への悪影響は何もない。勿論生活する上でのルールは存在するが問題さえ起きなければいい話だ。それは保障しよう」

 

 

その言葉に生徒達は安堵した表情になった。しかし俺はそんなリスクもなさそうな話を信じる程愚かじゃない。

 

案の定、真嶋は最後に重大な発言をした。

 

 

「この特別試験終了時には、各クラスに残ったポイントをそのままクラスポイントに加算し、夏休み明け以降に反映する」

 

 

その言葉に、生徒全員に衝撃が走った。

 

 

◇◇◇

 

 

真嶋の説明が終わり解散宣言が出されると号令がかかり、俺達は各クラスごとに集まった。

 

 

「この試験を乗り越えれば、マイナスが消えて毎月2万、毎月2万……やるぞぉ!!」

 

 

池をはじめとした男子生徒は真島が口にしたポイントの情報に歓喜し、女子達も手に入れたポイントで何を買おうか話し合っている。

 

 

「(まだポイントが手に入った訳でもねえのに、お気楽な奴らだな……)」

 

 

俺はそんな冷めた感情を持ちながらクラスの輪から離れた場所でそんな事を考える。目先のポイントばかりに目がいき無人島で生活するという事実を忘れているようで馬鹿馬鹿しく思えてくる。

 

そんな中で担任である茶柱が補足説明を始めた。

 

 

「今からお前たち全員に腕時計を配布する。これは試験終了まで外さず身につけておくように。許可無く外した場合にはペナルティが課せられる。これは時刻表示だけで無く体温や脈拍、人の動きを探知するセンサー、GPSも搭載されている。また万一に備え非常事態が発生した場合に連絡する手段だ。緊急時には迷わずそれを押せ」

 

「身につけたままって、海とかにつけても大丈夫なんすか?」

 

「問題ない。完全防水だ。それに故障した場合試験管理者が代替品と交換する手筈となっている」

 

 

それについて説明が終わると、今度は支給されたマニュアルを見るよう促される。そこには今回の試験にあるいくつかのペナルティが載っているらしい。具体的には……

 

・著しく体調を崩したり、大怪我で続行が難しいと判断された者はリタイア及びマイナス30ポイント。

・環境を汚染する行為を発見した場合。マイナス20ポイント

・毎日午前8時、午後8時に行う点呼に不在の場合。一人につきマイナス5ポイント

・他クラスへの暴力行為、略奪行為、器物破損などを行った場合、生徒の所属するクラスは即失格とし、対象者のプライベートポイントの全没収

 

と言ったものだ。それによりAクラスは一人病欠で休みの為270ポイントからスタートになっている。後、今回のポイントはマイナスは存在しないらしい。

 

 

 

……成る程、このルールでマイナスにできるのか。

 

 

 

俺は不敵な笑みを浮かべる。

 

本来はこれで妨害行為の抑止力や生徒達の蛮行を防ごうとしているのだろう。だが俺にとってはこんなもの障害にはならない。

 

 

何故ならこの無人島は学校とは違い監視カメラで記録が残ることはない。言わば自然が作り出した閉鎖空間。

 

つまり俺は己の力を解禁された状態なのだ。

 

今まで使用出来なかった魔法・スキルをはじめ《眼》を使えるとなれば自身のみがルールを変え潜りそれを利用する事だって可能だ。

 

要するにこのルールでAクラスのポイントを如何様にもできるわけである。

 

 

「さて、どうAクラスを陥れるかね……」

 

 

 

 

「む、無理に決まってます! 絶対無理!」

 

「トイレくらいそれで我慢しようぜ篠原」

 

「ふざけないで! 段ボールのトイレとか絶対無理だから」

 

 

俺がルールのペナルティで考え事をしていると、そんな喧嘩の声が聞こえてきた。どうやら仮設トイレを設置したい篠原率いる女子とポイントを残したい池率いる男子が揉めているらしい。くだらない事でよくもまあ喧嘩できるものだ。

 

内心呆れていると茶柱は最後に追加ルールの説明に入った。

 

 

「島の各所にはスポットという場所が存在している。そこには占有権が存在し、占有したクラスにのみ使用権が与えられる。一度占有するごとに1ボーナスポイントが与えられるが、このポイントは試験中に使用できず、試験終了時にポイントとして加算される」

 

 

その言葉を聞いて俺は先程客船のデッキで見た場違いな装置を思い出した。恐らくあれがスポットなのだろう。つまりはあの妙なアナウンスはスポットを見つける為のヒントだったというわけだ。

 

この時点で俺は誰よりも優勢である事を知った。

 

 

「占有権の効力は8時間、それが過ぎると自動的に権利は取り消され、他クラスにも占有の権利が復活する。占有の宣言をできるのは、クラスのリーダーだけだ」

 

「リーダー、ですか?」

 

「そうだ。スポット占有に必要なキーカードが与えられる。なお、正当な理由なくリーダーの変更はできない。さらに、試験終了直前に点呼のタイミングで他クラスのリーダー当てをする機会が与えられている。そこで見事的中すれば一クラスにつき50ボーナスポイントが与えられる。ただし、失敗すれば50クラスポイントが引かれるハイリスクハイリターンなものだがな」

 

 

その言葉にクラスはさらに色めき立つ。これだけポイントが増える機会が与えられればそう反応しても無理はないが、こいつ等にそれができるとは思えない。自クラスのリーダーを隠すだけでも精一杯なんじゃないのか?

 

因みに他が占有しているスポットを許可無く使用した場合も50ポイントのペナルティを受けるようだ。成る程、このルールもAクラス潰しに使えそうだ。

 

 

リーダーは決まったら報告しろとだけ伝えると、茶柱は説明を終えた。するとまた篠原と池が騒ぎだす。

 

 

「とにかくトイレよ。絶対に仮設トイレを購入するんだから!」

 

「待てよ! 20ポイントもかかるんだぜ? たかがトイレにそんなに使えるかよ!」

 

「あんたに賛同なんか求めてないから。てか馬鹿は黙って来んない?」

 

「はあ!? ふざけんなよ!!」

 

 

売り言葉に買い言葉で言い合いはヒートアップし、収拾がつかない状況になっていた。普段ならここで平田が止めに入るだろうが、先程からマニュアルを読み込んでいて仲裁に入る様子はない。須藤が退学して統率すらできなくなったのだろうか。

 

とはいえこれ以上間抜けなクラスメイトに関わるのは俺にとって面倒だった。故にクラスを放置して一人無人島の森へ歩き出す。

 

 

「待ちなさい。何を勝手に行こうとしてるの?」

 

 

するとそれに気づいた堀北が声を出して俺を静止させる。クラスメイトもその言葉で言い合いを辞めこちらを向いた。チッ、面倒なことしやがる。

 

 

「別に、俺はただ島の探索をしようとしてるだけだ。それの何が問題なんだ?」

 

「無計画で森に入るのは非効率よ。この試験では個人の勝手が通用する場ではないわ。単独行動は控えなさい」

 

「はあ? それをお前がいうのかよ。その言葉、そっくりそのまま返してやる。テメェこそ集団で活動できるほど協調性があるのか? 他人に指図する前にまずは自分から治せよ」

 

「少なくとも先に輪を乱しているのはあなたよ。それに身勝手な行動は見過ごせないわ」

 

「そんな悠長なこと言ってていいのか? お前らがくだらない事で喧嘩になってる間に、他のクラスは森に入ってるぞ?」

 

 

俺は他クラスがいた方へ指を指す。クラスメイトは一斉に振り返ると既に方針を決め森へ入っていた。あまりの速さにDクラスの生徒は驚く。

 

 

「これで分かっただろ? お前ら不良品の見苦しい争いを傍観するつもりはない。他のスポットを探しに行った方が生産的だ」

 

「み、見苦しい争いって、あんたもトイレは我慢しろって言いたいの!?」

 

「……誰もそんなこと言ってないだろう。お前、頭大丈夫か?」

 

「っ! ふざけーー」

 

 

「ーー落ち着いて、篠原さん」

 

 

篠原が俺に詰み寄ろうとした瞬間、今まで反応を示さなかった平田が静止した。突然のことで篠原もビクッと驚き言葉を中断して平田の方に顔を向いた。

 

 

「篠原さんが怒るのも無理は無いと思う。でも今は怒らないで僕の話を聞いてくれないかな」

 

「ひ、平田くん………わかった」

 

「ありがとう。みんなも一度聞いてほしい。確かに他クラスが既に動いているから焦る気持ちはあると思う。でも試験は一週間もあるんだ。今遅れてしまっても大きな差は生まれない筈だよ」

 

 

平田の言葉に生徒達は冷静になっていく。先程までの険悪な雰囲気が嘘のように生徒等が平田の声に耳を傾けていた。

 

 

「でも、今ここで言い争いになってたら差が生まれるかもしれないのは事実だ。だからトイレの件は早急に決めよう。僕の意見としては、20ポイントを使って仮設トイレを購入するべきだと思う」

 

「はあ!?」

 

「平田くんっ! ありがとう!」

 

 

平田の言葉に池は大声をあげ、篠原をはじめとした女子は賛同してくれた事に喜びだす。するとトイレ購入否定派の一人でクラスでトップクラスの秀才である幸村という生徒が異議を唱えた。

 

 

「ちょっと待ってくれ平田。勝手に決めるのはどうなんだ。反対の意見があるんだぞ」

 

「僕だって何も考えなしに言ってることではないんだ。仮に仮設トイレを購入しなかった場合、30人以上いるクラスで不慣れな簡易トイレ一つを使うことになる。これをトラブルなく回し切れると思うかい?」

 

「それは……上手く使うんだ」

 

「具体案は浮かばないって事だね。そう、はっきりいうとそれは現実的じゃないんだ。この事から推察できるのは支給された300ポイントはある程度使用する方が効率がいいという事。幸村くんなら分かるはずだ」

 

「……全て、お前の憶測だ」

 

「その通りだね。でもその憶測がゼロなわけじゃない。加えて僕らは無人島サバイバルっていう人生で初めての経験をするんだ。生理的なトイレを我慢するとなると余計なストレスを溜めたり不安を煽ることになるし、衛生面も心配になる。最悪、島を汚染してペナルティが発生したり、体調不良でリタイアが出てしまう。そうなれば仮設トイレ一つ以上のマイナスだ」

 

『………』

 

 

平田の言った言葉に全員が黙り込む。今説明されたものはただの憶測だと一蹴する事ができない内容。何より平田が話すことで謎の信憑性が増しトイレの必要性を生徒達に痛感させた。

 

 

「以上の事から僕はトイレを一つ以上用意するべきだと思う。勿論この案がおかしかったら反論してくれていい。そう思う人がいれば怖がらず発言して欲しい」

 

「いや……平田の言う通りだ。トイレは設置するべきだろう」

 

「そ、そうだな。確かに我慢し過ぎるのはよくねえよ」

 

 

幸村と池が漏らした発言に、トイレ購入否定派は反論を取り下げ納得した。この話し合いの時間、僅か数分。先程までの論争は見る影もなく終結してしまった。

 

 

「(これは驚いた……今までにないくらい平田が統率してる)」

 

 

今までの平田は平和主義で波風を立てる事なく意見をまとめるタイプだった。だが今は生徒の不安を煽るという強硬手段で全員を納得させた。『みんなの味方』である前提は崩れてはいないが確実に平田は変わっているのが分かる。

 

そんな事を考えていると平田の口が開く。

 

 

「他にも見積もりはあるけど……これは拠点ができた時に話そう。仮設トイレを設置することも必要だしね……村上」

 

「……なんだ?」

 

 

平田が俺の名前を読んだことでクラスに緊張が走る。須藤が退学になって以降俺たちが険悪だったからだ。また喧嘩になるのかとこの場にいた殆どの生徒は息をのむ。

 

 

 

しかし発せられた言葉はその予測を裏切った。

 

 

「探索に行くのは構わない。好きにするといい。僕らはこの後移動するから自力で見つけてくれ」

 

「……オーケーオーケー。構わねえよ。なあに、すぐに見つけられるさ」

 

 

俺はそれだけ告げると、その場から走りだすと森の中へ消えていくのであった。

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